博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか(Dr. Strangelove; or How I Learned to Stop Worrying and Love The Bomb)スタンリー・キューブリック監督、イギリス/アメリカ、1964年
この映画に描かれた不条理の度合いは極致そのもの。なぜなら、そこに示唆されるのは人類の滅亡だからである。名優ピーター・セラーズが三役をこなしている。
ある日、アメリカの戦略空軍基地のリッパー司令官(スターリング・ヘイドン)は突然正気を失って、異常な考えに憑かれ、ペルシャ湾から北極海に配備された空の警戒部隊であるB52編隊にソ連の核兵器基地への攻撃を命じる緊急戦闘計画「R作戦」の奇襲にでた。核兵器による攻撃は、大統領権限の範囲であるが、敵からの奇襲攻撃があった場合、下級指揮官が独断で核報復することができるというのが「R作戦の規定」でリッパーはこれを不当に行使した。R作戦では攻撃命令を受け取った爆撃機は、呼び戻し地点を越えると一般通信装置がCRMという特殊暗号装置に接続され、通信を受けつけなくなる。敵の謀略電波に撹乱されないようにするためである。装置を例外的に解除するには暗号が必要となった。リッパー付きのイギリス国の副官マンドレーク大佐(ピーター・セラーズ)は、司令官のとる作戦の危険性をいち早く察したが、外部との連絡がとれなくなり、作戦の撤回ができなかった。
事態を知った大統領(ピーター・セラーズ)は、ソ連のキソフ首相と直接電話で連絡をとり、打開策をさぐるが、この時点でソ連には自動的に作動する報復システムとしての人類に滅亡をもたらす「皆殺し」装置があることを知った。この装置は経済的に安上がりな軍事計画として開発されたもので、敵に攻撃されると自動的に作動して爆発し、死の灰を降らせ、十ヶ月であらゆる生物が死に絶える威力を持つ。ストレンジラブ博士(ピーター・セラーズ)によると、自動装置による爆発、すなわち爆発を機械にまかせるのは「人間的な失敗を排除するためである」。また、この装置は「地下に置かれるのでどんな大きな爆弾でも可能であり、それが完成すると巨大コンピュータにつながれ、爆発させる状況分析がプログラムに保存される」。
事態の深刻さを諭った大統領とタージドソン将軍(ジョージ・C・スコット)は国防総省作戦室でソ連大使もまじえ、対策の検討に入り、リッパー司令官のいる問題のパープルソン基地を接収し、行動中の爆撃機編隊に帰還命令を出すことにした。リッパー司令官は接収に来た軍隊と撃ち合うが、敗北を認めて自殺。一緒にいたマンドレーク大佐は暗号の読解に成功し、大統領と連絡をとり、編隊は呼び出しの暗号に対し、ソ連側に撃墜された爆撃機を除く全機から了解の応答があり作戦は中止となった。編隊の行動中止決定にもかかわらず、コング少佐を機長とする一機は敵のミサイルの暴発で通信不能状態に落ちいり、ソ連の目標基地に向かって飛び続けた。大統領はソ連首相に進入阻止と撃墜を依頼するが結局かなわず、機の爆弾倉ドア解除の修理にあたったコング少佐が爆弾とともに基地に落下し、閃光を発した核爆発が起こった。
作戦室ではストレンジラブ博士が人類の破滅と同時に、ひとにぎりのものが生残る僅かな手だてについて語っていた。生残りの対象は政府高官と軍人を優先し、他はコンピュータが生殖能力、知能などを基準として選別される。時すでに遅く、きのこ雲が地上を覆い、人類破滅の幕が引かれていた。きのこ雲で地球が覆われる場面が最後のシーン、背後に歌がながれる「また、逢いましょう。どこかも知らず、いつかも知らないけれどまた逢いましょう。いつか晴れたに日…」と。