「芸者」とは「芸をもって人をもてなす人」(p.194)とのこと。
「芸者」の全盛期は、江戸では1750年代から約40年間に盛隆をみ、明治に入って華やかな展開があったそうですが、大正の初期には滅んでしまいました。
「芸者」の来歴を辿れば、女歌舞伎に始まり、芸も売り、色も売っていた遊女のなかの高級遊女(太夫)のうち歌舞音曲の芸のみを売るにいたったのが「芸者」で、やはり女歌舞伎の系譜からでた踊子の発展形態が「芸者」です。
「芸」を売ることを専らとする吉原芸者がこの伝統を引継ぎましたが、「町芸者」は裏芸として色も売ったそうです(p.181)。
吉原の芸者は「客とは寝ない」のが原則で、このため明治の「芸者」の全盛期には吉原が衰退し、そこから吉原芸者が柳橋、新橋、赤坂に流出しました(p.173)。
著者は、「日本文化を通低する基奏低音といったものは、芸と色ではないか」「であるならば、芸と色との二本立てで生きてきた芸者が、日本文化を象徴しても何もおかしくはない」という仮説を出しています(p.206)。
そこにあったのは伝統芸能の伝承だけではなく、「人間関係の洗練」にかかわる一連の文化で、「のんびり」とか「いき」といった美意識であったそうです(p.209)。
本書は第一部が「江戸の芸者とその歴史」、第二部が「明治の芸者 その栄華と終焉」となっていて、前者は文献考証的で叙述が硬いですが、後者は谷崎潤一郎、吉井勇、永井荷風などの具体的記述にたよって書かれていて生気があります。
芸者文化、花柳界での「社交」のあり方とその文化的な意味を明らかにした本書の功績は大きいのではないでしょうか。