池内紀『モーツァルトの息子-史実に埋もれた愛すべき人びと-』光文社、2008年
1998年に『姿の消し方』(集英社)として刊行されたものを改題して文庫化したものです。
著者は「読書の裏通りで出くわした人々で・・・ものものしい伝記を捧げられるタイプではなく,その種の伝記にチラリと姿を見せ,すぐまた消える。ただ,なぜか,その消え方が印象深い,そんな人たち」30人を集めたと書いています(p.281)。
モーツァルトやゲーテ,ナポレオンが活躍した時代から,第一次,第二次大戦が勃発した頃にかけてのヨーロッパを舞台に,一見,奇妙ではあるけれど,十分に個性的な人間像が描かれています。
・ヨーゼフ・キュゼラーク(ヨーロッパの奇人・変人グラフィティに欠かせない落書き署名の大家)
・フランツ・クサヴァー・ヴォルフガング(モーツァルトの息子)
・フリーデルケ・ケンプナー(あまり上手くないがその詩集が版を重ねた女性詩人)
・カエターノ・ブレンシー(国王の暗殺者)
・ヨーゼフ=ジュース・オッペンハイマー(18世紀の天才的財政官)
・エーリヒ・フォン・シュトロハイム(貴族の血をひく映画人)
・ペーター・キュルテン(ヂュッセル・ドルフの殺人鬼)
・ヨハーン・クリストフ・ザクセ(ゲーテの愛でし子)
・フランツ・クサヴァー・メッサーシュミット(奇妙な顔シリーズの彫刻家)
・マダム・レカミエ(富と美をかねそなえたもとベネディクト派の夫人)
・カール・シュピッツヴェーク(ミュンヘンに住んでいた並外れて小さな絵を描く変わり者)
・スザンヌ・ラングラン(1920年代一世を風靡した女子テニス選手)
・アレキサンダー・ブリオン・ジョンソン(アメリカの言語哲学者)
・クサビィエ・ド・メストル(室内旅行家)
・フィリッシュ・ロップス(永遠で生身の女性を描いた奇妙な画家)等々。
実在しながら記憶されることなく,歴史の闇に消えていったある種の大物たちです。