【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

田辺聖子『嫌妻権(文庫)』筑摩書房、2002年

2008-08-26 00:47:00 | 小説
田辺聖子『嫌妻権(文庫)』筑摩書房、2002年

         嫌妻権 (ちくま文庫―田辺聖子ロマンス館)

 一蹴一喝女である妻から逃れたくなり、かくし部屋をもつにいたった男を描いた「嫌妻権について」、離婚後も前妻とつきあい一夫多妻を自認する男を題材にした「刺身はたまりで」、訳知りで、世話焼きで、おせっかいな妻の挙動を文章にすることでウサを晴らす男をテーマとした「おすすめ気晴らし」、ボケの兆候に慄き、幼馴染のバーの女に慰められる男についての話である「ボケの花」、うまく離婚したと思ってルンルンしていたのに、新家庭におしかけてくる天然女に狼狽する男を主人公とする「ルンルン離婚」、身内、兄弟ののことで妻とそりがあわない男の行状をとりあげた「たそがれの天神ひげ」、ワルイ女とつきあいながら悪いほうがたすかると思って溜飲をさげる男の話「たすかる関係」。

 両性具有、世代具有(「解説」藤田千恵子、p.255)の田辺聖子の真骨頂がでている作品群です。

BEETHOVEN TEMPEST;SCHUMANN FATASIE   

2008-08-25 00:50:02 | 音楽/CDの紹介
BEETHOVEN TEMPEST;SCHUMANN FATASIE   IRINA MEJOUEVA

             

 昨日のイリーナさんの演奏会でもとめたCDです。なぜこのCDを購入したかというと、次回の4回目の演奏会の曲目に「テンペスト」が入っていて、それがこのCDにおさめられているからです。

 「テンペスト」は若い頃によく聴きました。「テンペスト」という名称がついているのは、ベートーヴェンがこの曲を理解するにはシェークスピアの戯曲「テンペスト」を読みなさいと、弟子に言ったからだそうです。

 第一楽章:第一主題の神秘的な分散和音と激しい緩急のコントラストが魅力です。この主題がソナタ形式で繰り返され、幻想的かつドラマチックです。第二楽章:この楽章も分散和音が低音域から上向し、美しく夢幻の境地に聴き手を誘います。第三楽章は、楽想は一転して波のように変化します。美しい主題が豊かに変化していきます。

 シューマンはベェートーヴェンとは別のよさがあります。しかし、この曲はシューマンがベートヴェン没後10年の記念碑建立のために作曲されたとか。
 
ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調 作品31の2(テンペスト)
Ⅰ Largo. Allegro
Ⅱ Adajio
Ⅲ  Allegretto

シューマン 幻想曲 ハ長調 作品17
Ⅰ ハ長調 <完全に幻想的にそして情熱的に演奏すること>
Ⅱ 変ホ長調 <中庸に、全く精力的に>
Ⅲ ハ長調  <ゆっくりと奏し、全く静かに進める>

イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全曲演奏 第3回

2008-08-24 00:54:48 | 音楽/CDの紹介
イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全曲演奏 第3回

             メジューエワ/おとぎ話/忘れられた調べ~メトネル作品集

 今回の演奏曲目は、下記のとおりです。

 「ピアノ・ソナタ第9番」は3楽章からなっていますが、遅い楽章がありません。珍しいことです。多くは2楽章が Andante など遅くなりますが、この曲は違います。このメヌエット・スケルツォ風の第2楽章のテンポの解釈はいろいろで、バックハウスはかなりのスピードで弾くとか、それに対しリヒテルはゆっくりめだそうです。イリーナさんは、この2人の演奏家の真似をして部分演奏してくれました。

 「ピアノ・ソナタ第3番」は、スケールの大きい曲です。第1番、第2番とこの第3番で「弁証法」的というのがイリーナさんの説明です。すなわち第1番は内面的なのに対し(テーゼ)、第2番は明るく外向きの曲(アンチテーゼ)、それで第3番はそれを総合したようなブリリアントな曲だそうです(ゼンテーゼ)。

 また、この第3番はオクターブのトレモロ、分厚い和音、3度のトリルなど演奏テクニックが問われます。ここも部分演奏で説明してくれました。

  「ピアノ・ソナタ第11番」は、完成度の高い作品です。一楽章、二楽章がソナタ形式、三楽章が古典的メヌエット、四楽章がロンド・ソナタです。

 「ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調」は、「告別」という名称がついています。楽譜の出版社がつけたのだそうです。一楽章はその告別 [Das Lebewohl]、二楽章は不在 [Abwesenheit]、三楽章は再会 [Das Wiedersehen]です。

 イリーナさんは、今回、以前にもまして入魂の演奏でした。演奏中の表情がいいですね。ダイナミックなところ、微細なところ、緩急がありました。

  
  帰り際に Мне очень нравится ваш концерт. Средуюший рас! と.イリーナさんに話しかけたところ、彼女は Спасибо. と笑って応えてくれました。
 
ピアノ・ソナタ第9番 ホ長調 op.14-1
Ⅰ Allegro
Ⅱ Allegretto
Ⅲ Rondo. Allegro comodo

ピアノ・ソナタ第3番 ハ長調 op.2-3
Ⅰ Allegro con brio
Ⅱ Adagio
Ⅲ Scherzo. Allegro
Ⅳ Allegro assai

ピアノ・ソナタ第11番 変ロ長調 op.22
Ⅰ Allegro con brio
Ⅱ Adagio con molta espressione
Ⅲ Minuetto
Ⅳ Rondo Allegro 

ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調 op.81a
Ⅰ [Das Lebewohl] Adajio. Allegro 
Ⅱ [Abwesenheit] Andante  espressione
Ⅲ [Das Wiedersehen] Vivacissimamente

江國香織『ぬるい眠り』新潮文庫、2007年

2008-08-22 15:53:12 | 小説
江國香織『ぬるい眠り』新潮文庫、2007年

                ぬるい眠り / 江国香織/著

 「きらきらひかる」以降の作品です。「ラブ・ミー・テンダー」「ぬるい眠り」「放物線」「災難の顛末」「とろとろ」「夜と妻の洗剤」「清水夫妻」「ケイトウの赤、やなぎの緑」「奇妙な場所」。

 「ぬるい眠り」は身につまされました(笑)。「清水夫妻」は葬式に参列し、新鮮な気持ちになって、そのあと鰻をたべる清水夫妻と「私」との奇妙な関係、どういうわけか印象に残りました。「災難の顛末」はこの本を紹介してくれた人が気分が悪くなると言っていましたが、そうでもありません。妙な話ではありますが・・・。

 この著者の浮揚感のある物語つくりは、変わることなく健在です。

 それから「ねこ」がよく登場してくること、泣き声の表現が変わっていることも特徴的です。

江國香織『きらきらひかる』新潮文庫、1994年

2008-08-21 14:53:08 | 小説
江國香織『きらきらひかる』新潮文庫、1994年

            きらきらひかる / 江國香織/著

 この本をもとにした映画を観て、原作がいいのではと想像しました。

 医者で睦月と言う名の男と笑子という名のアル中の女とが見合い結婚し、ふたりの間にセックスはなく、睦月は相手の紺といまだにつきあっています。

 睦月と笑子のそれぞれの両親は、ふたりの結婚生活を心配しています。ふたりをとりまく人たちの奇妙な関係とわけのわからない感情。

 とにかく異次元の世界でややとらえどころがありません。

 タイトルの「きらきらひかる」は入江康夫の詩からとか(p.203)。

 また、各章(?)は、睦月と笑子とのそれぞれの立場から入れ替わりながらの記述になっていて、実験的な構成になっています。

 江國香織さんは経歴を見ると、坪田譲治賞、路傍の石文学賞、山本周五郎賞、直木賞などを受賞し、凄いですね。

吉村昭『わたしの普段着』新潮社、2005年

2008-08-20 17:35:00 | エッセイ/手記/日記/手紙/対談

吉村昭『わたしの普段着』新潮社、2005年

          
 エッセイ集です。文章から「折り目の正しい」人柄を連想できます。

 短編小説と歴史小説を得意としているが自らの小説の作り方を「眼に映じたもの、耳にしたこと、書籍等の活字で知ったことに一瞬触発されて小説の素材をつかむ。それは絶えず私が小説のこと考えているからで獲物を探しまわる飢えた野獣に似ている」(p.247)と書いています。また、「歴史小説を書く場合、結末までのあらましを頭に入れたまま筆を起こす。書き進めるうちに、突然、調べなければならぬ史実にぶち当り、筆をとめて調べた上で再び筆を進める。それは、氷にとざされた海を行く砕氷船に似て、一つ一つ氷塊に似た史実に行手をさえぎられる度に、それを砕いて進むことを繰返す。/史実という氷塊に突き当たると、私は即座に史実を調べるため、それのある地におもむき、書斎にとって返して筆を進める」(p.192)らしいです。

 それで飛行機に乗っての国内旅行の回数も5,600回ぐらいというから凄いです(p.204)。

 自作の小説にかかわるエピソードにふれた箇所は、興味深いです。「高熱隧道」「ニコライ遭難」「陸奥爆沈」「島抜け」「戦艦武蔵」「北天の星」「深海の使者」などなど。

 目聡く人の顔をたがわずみわけることができるという話(「初老の男の顔」)、伊予の宇和島の朝のうどんの話(「朝うどん」)、長崎の居酒屋のおたかちゃんの話(「長崎のおたかちゃん」)、俳優の橋爪功さん、緒形拳さんの演技の凄みの話(「献呈したウイスキー」「赤いタオルの鉢巻」)、オニヤンマ取りの話(「トンボ」)、どれもこれも現実味があり、著者の人柄が滲みでています。

 20歳前後、肺結核の末期患者で死を待つばかりであったのが実験的な手術が成功し、生命をとりとめたようで、その自分がずっと永らえて仕事ができていて、それで朝、眼を覚ますたびに「幸せだな」とつぶやくという小さなエッセイががよかったです(「朝のつぶやき」)。



角田房子『閔妃(ミンピ)暗殺-朝鮮王朝末期の国母-』新潮文庫、2003年

2008-08-18 00:29:17 | 歴史

角田房子『閔妃暗殺-朝鮮王朝末期の国母-』新潮文庫、2003年

            閔妃暗殺 朝鮮王朝末期の国母 / 角田房子/著

 日本はその歴史のなかで、数々の非道なことを隣国である韓国(そして中国、朝鮮)に対して行ってきました。

 歴史教育がまともでないせいか、本心から悪かったと思っている日本人は少ないし、事実を知らなさすぎます。閔妃暗殺事件もそのひとつです。この事件を知っている日本人はほとんどいなのではないでしょうか。

 閔妃暗殺事件とは、次のようです
、日本の国家を代表する朝鮮駐在公使であった三浦梧楼が首謀者となり、日本の軍隊・警察、民間人の暴徒が深夜から未明にかけて王宮(景福宮)に押し入り、乱暴、狼藉の限りをつくし、公然と王妃を殺害したという事件で、しかもそれを朝鮮での政争の結末であるかのように仕組んだというものです。もっとも閔妃が朝鮮の国政に果たした役割はいいものではなく、人々の貧困の対極で無頓着な生活をしていたのは事実であり、本書ではそのこともキチッと書いてありますが、それにしてもこの事件が近代外交史上で例をみない暴虐であるということはその中身をしれば誰も否定できないのではないでしょうか・・・・。

 本書はその事件の真相、顛末を資料にもとづいて精査し、解明したノンフィクションです。事件の理解には19世紀末の歴史的事情の理解が必要であり、著者はそれを丹念に記しています。李王家の系譜、勢道政治の流れ、権力争い、国際情勢、等々。

 とくに日清戦争後の朝鮮情勢は要であり、西欧列強とロシアと日本との間での覇権争いは深刻であり、日本は「朝鮮の独立」を形式的に認めながらも、再三、朝鮮王朝内部に対立をもちこみ、この国を傀儡国家に仕立てようと画策していました。こうした背景のなかで、閔妃は日本を敬遠し、その影響力を排除するためにロシアと接近を図っていたのです。日本にとっては「閔妃」を「消す(殺す)」ことがまことしやかな話題となっていたらしいです。

 文庫版で全編456ページの大作。「閔妃暗殺」事件はわずか百数十年前のことでありながら、よくわからないことが多いようで、著者の苦労は並大抵のものではなかったとのこと。あの歌人の与謝野鉄幹がこの事件に関与していたなど(419-420ページ)、驚くようなことがたくさん書いてありました。


高木俊郎『特攻基地・知覧』角川書店、1973年

2008-08-16 01:36:25 | 歴史
高木俊郎『特攻基地・知覧』角川書店、1973年

            特攻基地 知覧

  いい本に出会いました。過去に読んだ澤地久枝さんが「わが人生の案内人」で紹介していたものです。

 太平洋戦争末期、陸軍第6航空軍振武隊、海軍神風特別攻撃隊の特攻隊員として「散華」した青少年。

 特攻はいうまでもなく、250キロの爆弾を装着した飛行機で敵艦に体当たりする戦法です。戦果はほとんどなく、2千とも、3千とも言われる若者の命が散りました。

 彼らは、「天皇精神」「殉国精神」によって鼓舞され、あたかも「志願」して隊に参加したかのように言われていますが、実は直接、間接の強制によるものでした。

 鹿児島県「知覧」の飛行場から飛び立つ前に、兵隊たちは「三角兵舎」に待機し、親族は最後の別れに近くの軍用旅館に泊まりました。

 著者は「知覧」のこうした風景を目の当たりに見せるように、強い筆力で読者を引っ張っていきます。

 自らの陸軍報道班員の経験と、生き証人の証言、発表した記録に応えて手紙をくれた人たちの回顧などをもとに、この「歴史的愚行」、気違い沙汰を詳細に暴く意欲的な作品です。

中島信吾『沢村貞子 波瀾の人生』岩波書店、1997年

2008-08-15 00:24:35 | 評論/評伝/自伝
中島信吾『沢村貞子 波瀾の人生』岩波書店、1997年

           

 図書館の書庫で見つけました。

  著者は朝日新聞の記者として「ひと」の欄の原稿の
取材で沢村貞子さんに逢い、夫の大橋恭彦さんともどもごくごく数年お付き合いし、その縁でこの本をまとめたようです。

  ご夫妻とのやさしい、おもいやりのある交流が全体
のトーンになっています。小見出しの入れ方、文字の大きさ、余白のとりかた、沢村さんの文章の引用の仕方にまで、筆者の気持ちが行き届いています。

 「Ⅰ 蝉しぐれ」「Ⅱ 葉山のふたり」「Ⅲ 夫を語る」「Ⅳ 女優 沢村貞子」「Ⅴ 晩秋の海」。

  教師をめざし、日本女子大師範家政学部に入学するも、尊敬する先生のたったひとつの言動に失望し、大学をやめ俳優の道に。

 しばしばアカの俳優との嫌疑で、留置場に。しかし、その後は押しも押されぬ大女優。大橋さんと出逢い、彼に尽くして、最後は相模湾を毎日みて過ごして亡くなりました。

 夫の遺骨とともに散骨を希望し、そうしたそうです。

地域の本当の力を知るための本

2008-08-12 00:35:36 | 経済/経営
藻谷浩介『実測・ニッポンの地域力』日本経済新聞出版社、2007年
                              実測!ニッポンの地域力 / 藻谷浩介/著
 インパクトの大きい地域経済論の本です。というのは従来の固定観念を否定した問題提起を統計を使って実証的に行っているからです。

 「まえがき」にあるように、「地域間格差などというものはない。都会も地方も、少しの時間差をおいて同時に沈んでいるだけだ」「日本で唯一小売販売額が増えているのは、東京都でも愛知県でもなく沖縄県である」などの主張をしています。

 もっと言うと、地域振興にはモノづくりが必要、地域の活性化には工業立地が不可欠、新幹線がとおれば人口が増える、高速交通網の整備は人口減少に拍車をかける、女性の就業率の高さが少子化の原因のひとつというのは間違い、などなど。

 しかし、中身を読むと納得する事ばかりです。統計の使い方の方法が斬新です。

 まず、実数を加工した数値よりも大切にするという考え方。例えば、有効]求人倍率という数字で少子化の不安をかきたてる風潮がありますが、出生数は近年ほとんど変化がない、それよりも人口ピラミッドで実数の推移で見るほうが将来予測には適しているという考え方に立っています。なぜなら生産年齢人口が痩せていると、この部分は10年後、20年後に高齢化し子どもは産めない、したがって出生率が好転しても高齢化そのものが回避されるわけではない、ということです。

 また「都市の連結キャッシュフロー」という方法。これは相互に関係の深い複数の市町村を1つの都市圏とみなし、居住者のネットの出入り(人口社会増減)を数値化するというものです。

 個別地域経済論が面白くためになります。「静岡県・豊かだが人は素通り」「仙台都市圏・思わぬ人口流入ストップ」「沖縄県・全国唯一、就業者も小売販売額も増加」「鹿児島県・所得や預貯金学は低くても地域経済は活性化」「福岡県・乗り遅れが生み出した日本一の活力」「滋賀県・人口増加が最も長持ち長続きする理由」「北海道・経済よりも迫り来る高齢化が落とし穴」「関西圏・文化の蓄積活かせず、就労人口流出」。他にもたくさんありますので、是非読んでみてください。

 「終章」で「東京に依存しない国土構造を」提起しています。それは要約すれば以下のとおりです。ドメスティックな視点を捨てること、東京のマーケットに依存しない産業構造をつくること、都市づくりを「サーバー&クライアント型」にすること、生活の質の向上をめざすこと、首都の置き場を再考すること、若者が人口再生産の低い東京に集中する構造をあらためること。

 一読して、地域の将来のあり方を議論したいものです。

コローCOROT 光と追憶の変奏曲(国立西洋美術館)

2008-08-11 00:42:15 | 美術(絵画)/写真
コローCOROT 光と追憶の変奏曲(国立西洋美術館)

            ジャン=バティスト・カミーユ・コロー《真珠の女》

 上野の西洋美術館で表記の展覧会が開催されています。8月末までです。

 何と言っても「真珠の女」と「青い服の婦人」ですね。もちろんヴィル・タブレーでの風景画には、どれも観ても心がなごみます。また、コローは服装に関心があったらしく、それらを身にまとった人物像の画が数点あり、眼をひきました。

 コローは18世紀末に生まれた19世紀の画家です(1796-1875)。織物の取引きを行っていた裕福な家庭に生まれ、早くから画家を心ざしていましたが、父親は反対でした。父親はコローの妹、すなわち娘を亡くしてから、コローの志を受け入れ、彼は画家の道を進みます。

 風景画、人物画など、奇をてらうことのない、自然との(人物も[社会的地位など関係なく]自然のままでとの)対話に重きをおき、優れた作品を残しました。

 イタリアには3度、赴いています。イタリアのコロシアムの風景などを描いたものもたくさん出品されていました。

  古典的なトーンがあるかと思うと、セザンヌのようなタッチがあり、キュビスムにつながる要素ももっているように思いました。単なる風景画家では全くありません。

  今回の展覧会には世界中に散らばっている彼の画があつめられています。日本では、東京の山村美術館、国立西洋美術館、大原美術館、海外ではルーブルはもちろんオルセー、ウフィツイ、他にもナショナル・ギャラリー、モントリオール美術館、ボストン美術館、ピカソ美術館などなどに所蔵されているコローの作品郡です。キュレーターの努力の結晶です。そのことを考えるとキュレーターの人たちには感謝の念で一杯です。



橘木俊詔『日本の経済格差』岩波新書、1998年

2008-08-10 01:04:47 | 経済/経営
橘木俊詔『日本の経済格差-所得と資産から考える-』岩波新書、1998年

              日本の経済格差 所得と資産から考える / 橘木俊詔/著

 この本はジニ係数を用いて,日本の所得格差の拡大,国際比較という観点からの不平等度の強まりを,まず実証分析しています。

 バブル期に資産分配の不平等化が顕著に進んだことが統計数値で示されています。所得分配不平等化の要因としてあげられているのは,賃金分配の緩慢な不平等化,高齢化,単身家計の増加,家計内稼得者の微増,資産保有者の金利所得の増加,帰属家賃の貢献などです(p.205)。

 不平等度の強まりを放置できないという観点から,機会の平等の保証,税制改革(累進消費税,所得税率の累進度を下げる措置の廃止,金融課税の総合所得税制への変更,相続税の強化など),社会保障制度改革,税と社会保障との統合など現実的な提唱があります。

 また,かつてみられた親子間の職業移動,階層の流動性(学歴,結婚)が閉鎖性と固定性を強めているとの指摘も説得的です。

司馬遼太郎『坂の上の雲(3)』文藝春秋、1999年

2008-08-09 17:35:03 | 文学
司馬遼太郎『坂の上の雲(3)』文藝春秋、1999年

            新装版 坂の上の雲 三 / 司馬 遼太郎

 第三分冊では、子規の死、そして日露戦争開始。

 根岸の子規庵に真之が見舞いに訪れ、虚子と碧梧桐とが変わり番に看病し、子規を力づけ、母と妹に見守られてなくなりました。あっけない末期でした。

 子規の死後、著者はこんなことをつぶやいています、「この小説をどう書こうかということを、まだ悩んでいる。/子規は死んだ。/好古と真之は、やがては日露戦争のなかに入ってゆくであろう。/できることならかれらをたえず軸にしながら日露戦争そのものをえがいてゆきたいが、しかし対象は漠然として大きく、そういうものを十分にとらえることができるほど、小説というものは便利なものではない」と(p.39).。

 そしてテーマは日露戦争の叙述に入っていきますが、ここではロシアの南下政策、冒険的領土拡張政策、西郷従道海軍大臣の行動、日英同盟に独をもとりくんだ外交政策を構想する桂首相と日露の関係に関心を寄せる伊藤博文との対立、ロシア側の戦略をめぐるアレクセイーエフとクラポトキンとの対立と確執、常備艦隊司令長官・東郷平八郎と参謀・秋山真之の海戦での戦いぶりが書かれています。

 明治37年2月日露戦争はきっておとされますが、バルチック艦隊を待ち、それまで旅順要塞を死守せんとするロシア軍と総力をあげてこのロシア軍を殲滅しようとし遼東半島に地歩を残そうとする日本軍。

 悲惨な戦争の図がたんたんと記述されています。

居酒屋「ちこて」 中央区銀座

2008-08-08 00:14:14 | 居酒屋&BAR/お酒
居酒屋「ちこて」 中央区銀座6-4-11 3572-0888  

           

「ちこて」はスペイン語で「小太りの女」だそうです。オーナーの静枝さんが音の響きにひきつけられて、つけたとか。

 関東大震災後に建てられた銀座でも数少なくいレトロなビル(海洋ビル)の入り口横にあるのが、創業昭和30年の老舗のバー「ちこて」です。

  看板に「居酒屋 ちこて 家庭料理」。なかに入ると、スペースは5坪ほど、9席のカウンターの小ぢんまりとした家庭的な店内です。

 天井が高く、異国情緒を感じさせる鉄のオブジェや調度品など、大正ロマン溢れるモダンなインテリが眼に入ります。

 現在バーテンを勤めているのは、大平真綺さん。元気のいい、明るく、暖かい女性です。

 お酒は「スーパーニッカロイヤル」などのウイスキー。「余市」、「ワイルド・ターキー」などのバーボンウイスキーも数種類置いてあります。日本酒は青森の「田酒」、長野の「七笑」など、また焼酎は「百年の孤独」や「森伊蔵」など。

 過日はボンベイサファイアを飲みました。

黒木和雄『わたしの戦争(ジュニア新書)』岩波書店、2004年

2008-08-06 00:09:02 | エッセイ/手記/日記/手紙/対談
黒木和雄『わたしの戦争(ジュニア新書)』岩波書店、2004年

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 敗戦記念日がまじかの5月8日、宮崎県の都城にあった川崎航空機工業の工場に学徒動員された著者は、米軍の爆撃にあいます。友人(宗方周太君)が吹き飛ばされ、即死状態の悲劇、側にいた著者は彼を手当てすることもなくその場から逃げ去る-このことが著者にとって生涯の負い目になりました。

 戦前の満州での生活、映画の道に入った経緯、自作「とべない沈黙(1966年)」「かよこ桜の咲く日(1985年)」「TOMORROW/明日(1988年)」「美しい夏キリシマ(2002年)」「父と暮らせば(2004年)」に関連する話が綴られています。

 戦争に対して無自覚であった少年時代への反省、グラマン機の爆撃による友人の死の衝撃、「昭和ヒトケタ世代」の使命として、著者は戦争、とりわけ原爆の悲惨さを訴える映画の撮影に生涯を捧げました。

 敗戦後、神さまと思っていた天皇がマッカーサーに呼びつけられている写真をみたときの衝撃(p.41)、「美しい夏キリシマ」の完成謝恩上映会後の宗方君のお姉さんとの邂逅(p.64)、「父と暮らせば」の美津江役の宮沢りえさんの役者魂(pp.184-85)、などの記述が脳裏に焼きついています。

 28歳で戦病死した天才映画監督、山中貞雄の生涯をテーマとした映画を25年間あたため続けたとありますが(p.207)、果たしえなかったのは惜しいことでした。

 読後、録画してあった「TOMORROW/明日」(黒木和雄追悼番組)を観ました。