あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

ひと

2018-09-30 11:03:33 | 

 3年前に父を交通事故で亡くし、鳥取大学の食堂で働いていた母が突然死。法政大学経営学部に通う柏木聖輔(かしわぎせいすけ)20歳は天涯孤独となった。金銭的な理由で、大学は中退するも、東京での生活を続けようと決める。

 そんな彼の財布の中には55円しかなく、砂町銀座の総菜屋の50円のコロッケを買おうとして、店主に声を掛けたと同時に、おばあさんが「コロッケとハムカツとあじフライ」を注文。おばあさんに順を「譲る」ことをきっかけにして、店主の人情にほだされ、この総菜屋・田野倉でアルバイトをすることになる。この日から1年間を綴った物語が本書です。

 孤独な存在とは言え、田野倉の人たち、来店するお客さま、砂川銀座の小売店の人々、大学時代のサークルの仲間、そして、高校の同級生の井崎青葉など、彼の周りには素敵な人がいっぱいいる。父が東京で働いていた人たちにも会いに行った。

 「大切なものはものじゃない。形がない何かでもない。人だ。人材に代わりがいても、人には代わりはいない。」

 こういう思いになったのは、彼の「譲る」行為だった。しかしながら、聖輔の譲れない一言でエンディングを迎えます。

 人間関係には様々な情が駆け巡ります。生きている以上は気持ちよく、楽しく、人との情の交換をしたいものですね。

『ひと』(小野寺史宜著、祥伝社、本体価格1,500円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「本の読み方」で学力は決まる

2018-09-25 17:26:57 | 

  『2時間の学習効果が消える! やってはいけない脳の習慣 小中高生7万人の実証データによる衝撃レポート』が一昨年に出版され、このブログでも取り上げ、神戸新聞さんの書評も書かせていただきました。

 https://blog.goo.ne.jp/idomori28/e/2179c3eafce4eac1f62385b9a4eca2be

 デジタルの脳への影響力の強さと、そして、学力へのダメージの大きさについて語られていました。

 さて、今回は、アナログの大本命の読書の位置付けを、最新脳科学データで証明しています。

 「どんなに勉強を頑張っても、読書をしないとほぼ平均点までしか届かない」
 「勉強に加えて1日たった30分の読書を取り入れるだけで、偏差値が約3もアップする」

ことがわかり、

 「小学5、6年生において、『勉強・睡眠・読書時間』の最適な組み合わせは、勉強『30分~1時間』かつ、睡眠『8時間以上』かつ、読書『1時間以上』で、偏差値はトップになる」

のように、十分な時間の睡眠が記憶を定着させ、好成績を上げることができています。

 また、読み聞かせに関しては、子どもの言語発達に大きな影響を及ぼすだけでなく、音読する親、そして、それを聴く子どもたちの情動を落ち着かせ、親子の関係を良好にする結果も出ています。最終的な結論は

 「各家庭の社会経済的背景の影響を考慮した場合であっても、小学生の学力に一番影響するのは家庭での『読書活動』である。」
 「親子の読書が『毎日』から『週に1、2回』の子どもは15歳時点での学力が高い。」

です。もちろん、学力のためだけに読書をするわけではありません。人としてどう生きるか、そして、人生を豊かにするために読書をするわけですが、これに関してはなかなか科学的データで証明することが出来ないので、実証しやすい、理解しやすいところから評価していくしかありません。但し、本書でも指摘されている通り、読書離れの時期は中学からであり、その原因の一端がスマホであるといことも示されているので、いかに読書習慣を維持していくか、デジタル機器を避けるかがポイントになるでしょう。

『最新脳科学でついに出た結論 「本の読み方」で学力は決まる』(川島隆太監修、松崎泰・榊浩平著、青春出版社、本体価格880円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

14歳の君へ―どう考えどう生きるか

2018-09-25 16:15:16 | 

 当店の「大人の人間学塾」の9月の課題図書にしました。14歳と中学生が考えるにもってこいのテーマ16に焦点を当てていますが、読者を中学生に限定するのにはもったいない内容で、学び多い1冊です。

 まずは、副題の前半である、「どう考え」です。じっくり考えなくても、生きていけるほど、便利で至れり尽くせりの世の中になっています。逆に言えば、考えさせないような仕組みが出来上がっていると言っても過言ではないでしょう。あるいは、「長いものに巻かれろ」で、考えずに、人の判断に流される方が楽であると思っている人も多いでしょうが、


 「自分で考えたこと、自分の頭を使って自分でしっかり考えたことというのは、決して忘れることがない。」
 「これからの人生、すごく大変なことだけれども、常に自分で考えなくちゃいけない。」
 「考えるほどに、いろんなことが見えてきて、君は考えるのをやめられなくなるはずだ。」 

というスタンスで生きていくことこそ大切です。考えれば、

 「本当の価値は、いつどこでどんな時でも同じ価値でなければならない。(中略)本当の価値、きみの人生とって本当に大事なものは、きみの中にこそある。」ということに繋がります。

 次に、後半部の、「どう生きるか」に関しては、

 「人が生きてゆくのは、よい人生を生きるためだ。自分にとってのよい人生、幸福な人生を生きることが、すべての人の人生の目的だ。」

ということが、間違いなく、本命です。そして、「幸福とは、職業や生活のことではなく、心のこと。(中略)心が幸福になるのでなければ、人が幸福になることは、絶対にできない。」つまり、心の平安が幸福への第一歩でしょう。そのためにも、「自然」や「宗教」の稿で書かれていた、

 「君がその体で生きているということそのことが、自然のことだ」
 「自分がいまここに存在しているということが、それ自体で、奇跡的で絶対的な出来事なのだと気づく」

という認識が大前提になると思います。すべての生が奇跡的な存在であると信じれば、争いや差別もなくなるでしょう。

『14歳の君へ―どう考えどう生きるか』(池田晶子著、毎日新聞出版社、本体価格1,143円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人生の教養が身につく名言集

2018-09-18 16:14:43 | 

 ライフネット生命創業者・出口治明さんがこれまでに読んできた中から選ばれた名言集です。出口さん自身の経験も添えて、現代人の処世訓を提示してくれています。たぶん、今の自分に響くことばに出会うはずです。

 私にとって学びになったのは

 「世界は偉人たちの水準で生きることはできない」 (ジェームズ・ジョージ・フレイザー)

です。この項では、80:20の法則や、働きアリもその2割は働かないなどを引用して、「人間にあまり多くを期待しすぎてはいけない」としています。100%の働きを期待したいところですが、そうすることによって、両者にストレスを生むのであれば、割り切った方が心身ともに良いでしょう。

 もうひとつ、

 「それ銅をもって鏡となせば、もって衣冠を正すべし。古をもって鏡とすれば、もっと興替(国の行く末)を知るべし。人をもって鏡となせば、もって得失を明らかにすべし。朕つねにこの三鏡を保ち、もって己の過ちを防ぐ」(李世民)

は本当に名言中の名言。ひとつ目の鏡は自身の容姿を観る、つまり、良好な健康状態を維持すること、ふたつ目の鏡は歴史を学び、目の前の課題解決に役立てる、3つ目はリーダーに諫言してくれる人をそばに置くことです。特に、「間違ってまっせ!」と言ってくれる存在は、うるさいと思いますが、貴重なりと肝に銘じれば良いでしょう。

 全体を通して訴えているのは、常に学び、そのインプットを発信すること。これが肝心要であり、それがいつかは日の目を見ることを信じて生きろ!というメッセージです。人生、学びです。

『人生の教養が身につく名言集』(出口治明著、三笠書房、本体価格1,400円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

君が生きる意味

2018-09-10 16:27:35 | 

  大手アパレル会社のある店舗の店長をしているボクは、半年間販売予算未達のため、部長やエリアスーパーバイザーには愚弄され、店舗スタッフからは文句を言われ、モンスタークレイマーには散々に理不尽なクレームで悩まされる。こんな人生ではなかったと考えているボクの前に小さなおじさんが現れる。このおじさんはボクの生き方の指導を行いますが、『夜と霧』の著者として有名な、ヴィクトール・フランクルの心理学の教えを7日間の間、説いていきます。

 ・成功と失敗のものさしではなく、生きる意味を考えること。

 ・出発点が自分(自分中心)ではなく、自分を忘れて誰かや何かのために尽くす、自己超越が意味を付加してくれる。無我夢中になれば、言葉の通り、「我を無くせば、夢は手中に」なる。

 ・人生は仕事が全てではない。仕事の完成より、人間の完成が大切。

 ・人間は苦悩し耐える存在~ホモ・パティエンス

など、現代人の自己中心の思考(欲望の成就や地位や名誉など)ではなく、自分の目の前の人や、関係する環境に働きかけ、抱える課題解決をすることこそが、仕事や人生の意味を明確にし、人生を豊かにしてくれます。Me Firstの時代、フランクルの教えは人間のみならず、地球を救う思考になるでしょう。

『君が生きる意味 人生を劇的に変えるフランクルの教え』(松山淳著、諸富祥彦解説、ダイヤモンド社、本体価格1,400円)

コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

なぜ、脳はそれを嫌がるのか?

2018-09-05 16:44:09 | 

 井戸書店のクレドには、「常に自ら考えて今すぐやれ!」とあります。このクレドがあるということは、そうしてほしいからであり、現実はそうなっていないからです。実際は、どうしても、後からやればよいの後回しで落ち着いてしまいます。なぜかなぁ、不思議だなぁと思っていましたが、本書を読んで一挙に解決しました。それは、

『そもそも脳は「怠け者」だから』
『脳はエネルギーを節約したがるもの』
『周りがしないと、脳も「したくない」から』
『脳は誘惑に弱いから』

であり、

『脳は「仕事を拒むこと」が仕事』

ですから、脳をやりたくてたまらない状態に持って行かないといけません。その処方とは、

脳内にドーパミンを出させるようにする

です。ドーパミンが出れば、心地よくなり、また、そうなりたいためにするべきことを再び行います。こうなれば、やりたがる脳へ変貌し、井戸書店のクレドから、「常に自ら考えて今すぐやれ!」はなくなります。その手順の詳細は本書に譲りますが、世の成功者はドーパミン分泌上手であり、一般人が邪魔くさくてやりたがらない、まめに続ける努力ことを喜んでやる人なのでしょう。

『なぜ、脳はそれを嫌がるのか? 』(菅原道仁著、サンマーク出版、本体価格1,400円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

本所おけら長屋(十一)

2018-09-03 15:43:51 | 

 今回も人情と笑い満載の5編。おけら長屋の個性あふれる住人たちが自分の持ち味をいかんなく発揮して、様々な課題の解決に奔走します。

 「その壱 こまいぬ」では、江戸の職人の仕事観の名言が響きましたね。

「おめえは、おれに小言を言われねえか、そればかりを考えて仕事をしていやがった。心なんだよ。石工の仕事ってえのは、てめえの心に向かって無心で挑むってことなんでぇ。」

 いわゆる、ゾーンに入って仕事に励め!ということでしょう。

 「その参 ぬけがら」では、長屋のお染さんの波乱万丈の人生を開陳してくれました。また、おけら長屋の連中の特徴である、

明けっ広げで、お節介で、間抜けで、人のためなら無茶なことをするが、いざ自分のことになると及び腰になる。」

が好かれるのは、現代の地域の人間関係が希薄になってきた裏返しなのでしょう。隣りは何する人ぞ?引っ越してきても、挨拶もなし、マンションでは上下階では別の町なので、いざというときには何の助けにもならないのが現状です。

 「その五 らくがき」では、どんな人でも長所を伸ばせば、見る人は理解してくれる、お天道様はしっかりといらっしゃることを教えてくれます。

 ちょいと時間があれば、すぐに読め、心洗われる、おけら長屋の心をみんなにしってもらいたい!本屋のオヤジの気持ちです。

『本所おけら長屋(十一)』(畠山健二著、PHP文芸文庫、本体価格620円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

江戸の家計簿

2018-09-03 15:14:48 | 

 誰しも人の懐事情は気になるもの。士農工商という身分制度があった時代の江戸の人々の家計はどのようになっていたか?これがわかると、時代小説や時代劇、落語、歌舞伎、浄瑠璃などの世界が大きく色づくと思います。

 武士の収入もその役職によって大きく差が生じるのは理解できますが、テレビの捕物帳に出てくる岡っ引きは、石高で1石、現代の貨幣価値では年収7万5千円しかないとは想定外でした。内職や副職を持たないとやってられません。

 江戸は、何も産みださない武士の消費を助けるために、農商工や飲食、他のサービス業の人たちの町でもあります。所得の多かったのは、大工、左官、鳶職です。これは火事が多かったためであり、年収では800万円クラスでした。

 また、男性の多かった江戸の町では、外食が盛んであり、そば、うどん、寿司、天ぷらなど、今の相場とあまり変わりません。落語に出てくる、そばやうどんは16文で、現在の250円程度。これを、時そばや時うどんで誤魔化すわけです。

 長屋の賃料はお安く、表長屋では10畳で6,750円、裏長屋では、9畳4,850円。ここに家族4人が暮らすのですから、色々と騒動があって然るべきです。

 お財布事情はその時代や土地を反映します。理解を深めるための一つの指標になりますね。

『江戸の家計簿』(磯田道史監修、宝島社新書、本体価格800円)

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする