3年前に父を交通事故で亡くし、鳥取大学の食堂で働いていた母が突然死。法政大学経営学部に通う柏木聖輔(かしわぎせいすけ)20歳は天涯孤独となった。金銭的な理由で、大学は中退するも、東京での生活を続けようと決める。
そんな彼の財布の中には55円しかなく、砂町銀座の総菜屋の50円のコロッケを買おうとして、店主に声を掛けたと同時に、おばあさんが「コロッケとハムカツとあじフライ」を注文。おばあさんに順を「譲る」ことをきっかけにして、店主の人情にほだされ、この総菜屋・田野倉でアルバイトをすることになる。この日から1年間を綴った物語が本書です。
孤独な存在とは言え、田野倉の人たち、来店するお客さま、砂川銀座の小売店の人々、大学時代のサークルの仲間、そして、高校の同級生の井崎青葉など、彼の周りには素敵な人がいっぱいいる。父が東京で働いていた人たちにも会いに行った。
「大切なものはものじゃない。形がない何かでもない。人だ。人材に代わりがいても、人には代わりはいない。」
こういう思いになったのは、彼の「譲る」行為だった。しかしながら、聖輔の譲れない一言でエンディングを迎えます。
人間関係には様々な情が駆け巡ります。生きている以上は気持ちよく、楽しく、人との情の交換をしたいものですね。
『ひと』(小野寺史宜著、祥伝社、本体価格1,500円)