あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

風の男 白洲次郎

2023-11-30 16:39:54 | 

 ニヒルでダンディを絵に描いたような男。年齢を経てもそのカッコよさを失わない。芦屋生まれで、神戸一中を経て、イギリスに留学します。この留学が彼の人生を決定づけたと思います。英語は堪能、英国での人脈も築き、実業や政治の世界でも彼は一目を置かれる存在になります。

 それは「noblesse oblige」、地位や権力、財力のある人は責任も負うべきということを体現したからこそでしょう。「身をもって実行し、己を律し、さらには高い立場にいる人を容赦なく叱りつける」姿はブレない。また、弱い立場の人には限りなく優しい。本当の人格者である彼が終戦後の占領下での混迷の政治の場面でニッチな立場に身を置きながら、日本の行く先を導いていくのは「私心がない」から可能にしたのでしょう。

 他の評価など我関せず、生きる背骨がしっかりと伸びていた、そんな人物が今の日本には必要でしょう。

『風の男 白洲次郎』(青柳恵介著、新潮文庫、本体価格490円、税込539円)

 

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ひねもすなむなむ

2023-11-27 16:04:00 | 

 岩手のあるお寺・鐘丈(しょうじょう)寺を舞台にした物語。東日本大震災から10年を経て、この寺の住職・田貫恵快(たぬきけいかい)は余命1年と診断され、住職候補の募集をしたところ、幼少期に母を亡くし、遠洋漁業に従事する父が子育てを放棄し、施設に入れられていたが、高知県の観光がメインの龍命寺の住職に拾われ、坊主になっていた仁心(じんしん)がどこか落ち着く所の欲しかったためにに赴任しました。

 穏やかな性格の恵快はお寺や檀家で起こるさまざまなトラブルに対して、ゲームやぬいぐるみ探しなど変わった解決策を編み出しつつも、仁心に仏の教えを説いていきます。「因果、因縁、縁起の道理。世の中のものはすべてつながっている。単独では存在できない。つまりおかげさまだよね。」、「『せい』にするのをやめよう。(中略)たくさんの『おかげさま』を見つけて幸せになろう」や「未来を見れば、不安になる。過去を見れば、後悔する。今だけを見るといいよ。」など、読者も悟りに導いてくれます。お寺の掲示板に書かれた、恵快の言葉も問題解決に寄与します。

 しかし、無常にも恵快はあの世へ旅立ちます。恵快の葬儀を取り仕切る、檀家総代で葬儀屋を営む虎太郎は通常の葬祭をしなかったために、仁心は恵快の本当の姿を探り始めます。暴かれる、若かりし頃の恵快の姿に感動を覚えます。ストリーの最後には、仁心の父が寺に訪ねてきて・・・。

 生きるのは難しいが、「今という、一度きりの花を咲かせよう」という思いだけはしっかりと持っていたい。

『ひねもすなむなむ』(名取佐和子著、幻冬舎文庫、本体価格750円、税込825円)

 

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現象が一変する「量子力学的」パラレルワールドの法則

2023-11-21 14:09:17 | 

 書名に「量子力学」や「パラレルワールド」なんて、私にとっては得体の知れない分野の言葉がこの本を引き寄せませんでしたが、結果的には食わず嫌いを後悔しました。確かに、第1章「量子力学の不思議」を読んでいると、この本は理解できるのだろうかと不安でしたが、「パラレルワールドは周波数帯であること」、そして、「何を観測するか、何を意図するかによって、その周波数帯にあなたは飛び移ります」というところから視野が開けてきました。

 目の前の現象や課題に直面した時に、「物事を〈深さ〉を用いて見る」、「視座を深めて観る」ことによって、「物事の本質にたどり着く」わけですから、自分で決める「意図」、大切にすること、理念や志を常に抱くことを忘れてはいけません。当店でも「感動伝達人」という思いから感動本を選び提示することを一途に深めていきたいと思います。

 『現象が一変する「量子力学的」パラレルワールドの法則』(村松大輔著、サンマーク出版、本体価格1,400円、税込価格1,540円)

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いとはんのポン菓子

2023-11-15 15:58:30 | 

 いやぁ~泣かされました。日本でのポン菓子の製造機械が初めて出来るまでの物語。太平洋戦争末期、大阪の旧家の娘(いとはん)であるトシ子は子どもの頃から機械いじりが好きで、分解しては元通りにする、典型的な変わり者でした。長じて工学を学びたいと思うも、女の身では許されません。結局は国民学校の先生となるも、食料が乏しい時代、子どもたちがしっかりと食事も取れず、それが元で死んでいくのを目にして、少しの穀物でお腹がふくれるポン菓子の製造機械を組み立てたいと志を立てます。しかし、原料である鉄がない。そこで、鉄の街の北九州へ単身で乗り込み、工場を構えて奮闘します。

 女が何するものぞという時代に食糧難に立ち向かうトシ子の姿は凛々しく、「自分らしさ」を追求します。「自分らしさいううんは、自分のことだけしとったらわからへん。人のためになんとかしたときに、ようわかるんと違うやろか。」ポン菓子製造機械は、子どもたちのお腹を満たし、笑顔をつくる、本当に素敵なストーリーはおススメです。

 大阪での焼夷弾による空襲が人々に牙を抜く場面では、ガザ地区を連想させますし、人間の醜さは変わらない印象ばかりが強くなりました。

『いとはんのポン菓子』(歌川たいじ著、光文社文庫、本体価格740円、税込価格814円)

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山は輝いていた―登る表現者たち十三人の断章―

2023-11-09 17:21:56 | 

 趣味としてのアマチュア登山をしていますが、頂上までの途上でも、また、刻一刻と変化していく頂上からの眺望や絶景を求めている自分がいます。その地点に行くには自分の身体を自分で運ばなければなりません。だからこその風景を我が目に焼き付けれます。

 「山と渓谷」で編集を担当されていた神長氏が、表現者としても素晴らしい13人の登山家の作品をまとめてくれたのが本書です。山を楽しむ対象として花に注目する田中澄江さんに始まって、山の文芸誌を創刊した串田孫一さん、『日本百名山』の深田久弥さん、最後は極限の地へ誘うトップクライマーまで、さまざまな山との向き合い方が読み取れます。

 単独行をする理由、自然との一体感、通常の生活では失われた原始性の身体的な復活、また、深田久弥氏の求める山の品格、死と隣り合わせの冬季の挑戦まで、山へ登ることは表現することに収斂しているように思えます。私自身は楽しむ登山でしかありえませんが、登山者の先達の思いを知る良い機会となりました。

『山は輝いていた―登る表現者たち十三人の断章―』(神長幹雄編、新潮文庫、本体価格670円、税込価格737円)

 

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新版 科学がつきとめた「運のいい人」

2023-11-06 15:37:21 | 

 いままで様々な人間学の本を読んできました。より良い生き方を追求していくると、傍から見るとその人は「運のいい人」に映ります。「運をよくするための行動や考え方を脳科学の知見をもとに解説」してくれている本書の内容を実践すれば、良き人になれます。

 他者の判断ではなく、自分のぶれない判断軸を持ちつつ、利他行動をとり、他者との共生を願うことなど、人間学の本で伝えられることは脳科学から見ても間違いなく、そのような考え方を実践する人こそ「運のいい人」です。思考パターンと行動のパターンは脳が決定しているので、「脳そのものを『運のいい脳』にしてしまえ」と断じています。その方法の一つが「祈りの習慣化」であるなら、私の場合、毎朝、数秒なりとも仏壇に手を合わせ、昨日の出来事に感謝を述べ、今日の出来事に対して上手いこと行くように願っているのはまさにそれに当たります。

 運のいい人になる習慣をつけましょう!

『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(中野信子著、サンマーク出版、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

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あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。

2023-11-01 13:46:51 | 

 12月8日に上映される映画の原作。中高生向けに書かれているために、登場人物の言葉が共通語であることが気になりますが、現代に生きる中学生が生き方や戦争観を考えるには読むべき書ですね。

 親や先生に反抗的な態度をとる百合は授業をすっぽかして帰宅するも、シングルマザーの母親と喧嘩。家を出たものの、行くところがなく、近所の防空壕跡で一晩を過ごそうとするが、目覚めると1945年6月の特攻隊基地のある町にいました。ぐったりとしていた彼女を助けたのが特攻隊員の彰(あきら)。隣町の空襲を受けて家族も家も失った女性と思われた百合は鶴屋食堂に住み込みで働きます。特攻隊員がよく来る食堂で、彰とは親密になり、2人は恋に落ちます。しかし、彰の出陣する日が迫ります。

 特攻隊員の多くは国や家族のためを思い、少しでも戦況を良くしようと血気盛んですが、一人の若者としてこれからの自分の人生を考えたときに、埋めることのできない心境の大きな溝に悩みます。「誰かのために生きる、という強い覚悟。(中略)『死にたくない』んじゃない、『生きたいんだ』」というのが本心ですね。

 今も世界のいくつもの地で戦闘は行われています。争わずに共生するのが動物の使命です。

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(汐見夏衛著、スターツ出版文庫、本体価格560円)

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