既に口コミで人気になっている短篇小説。あの世に行って、「とりつくしま係」に面談し、未練のあるモノに取り付き、現世に戻れるフィクション。落語好きの私にとっては、六代目桂文枝(桂三枝)さんの『生まれ変わり』を彷彿とするような設定で非常に楽しい。
『生まれ変わり』では現世に戻るまでのやり取りが面白いのですが、『とりつくしま』では戻ってからのストーリーが感動を呼びます。特に、「ロージン」や「日記」、「白檀」など、自分の死後、自分に関わる人たちがどうなっているのか、あるいは最愛の人の自分に対する情愛がどうなのかを知ろうと躍起になります。どの作品も落語のネタになると言ってしまえば、著者の東さんには申し訳ないですが、肩の力を抜いて気楽に楽しく読めます。
読了後の感想は、自分は何に取り付きたいかを考えてしまいますね。そうすると、創造力が広がりますし、今世でしっかりと自分の思いを伝えようと決心させます。
『とりつくしま』(東直子著、ちくま文庫、本体価格600円)