あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

君のいた日々

2020-02-29 16:02:35 | 

 当時それほど親しくもなかった春夫と久里子は中学の同級生で、中学卒業後に春夫が引っ越した後に再会したのは、春夫が飛び込み営業をした会社の受付に久里子がいたからでした。その後、結婚し、息子を授かり、結婚19年11か月、それぞれが49歳でこの世を去った設定で展開します。久里子はがんで、春夫は帰宅途中の駅で倒れ、そのままあの世へ。各章ごとに主人公が替り、妻を亡くした夫、夫を亡くした妻が、告別式1年後からの生活を過ごしながら、相思相愛だった過去を浮き彫りにします。前の章の食事、もしくは食品が次の章へ引き継がれて関連付けられています。平穏な日常の中にも小さな愛のかけらが点在している暮しこそが幸せかなぁと思えます。じんわりとくる小説です。

 この二人は昭和30年代後半の生まれなので、ストーリーに出てくるユーミンの曲や映画のタワーリングインフェルノなど、世代が一緒の私としては、それもストレートに効いてきます。

『君のいた日々』(藤野千夜著、ハルキ文庫、本体価格640円)

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屋根をかける人

2020-02-29 15:28:19 | 

 ウィリアム・メレル・ヴォーリズの伝記。1905年にキリスト教伝道のために日本に上陸して、英語教師として赴任した、滋賀の近江八幡の商業高校でその活動が花開きかけたところで解雇され、もう一つの道である建築に特化することで、日本におけるキリスト教教会やYMCA会館などを日本各地に建設、また、メンソレータムの製造会社も設立し、会社の運営とキリスト教の二つの車を走らせていました。

 しかし、日米の関係が悪化。戦火を交えるようになると、日本でアメリカ人として生きることの難しさを骨身にしみ、戦時中にもかかわらず日本に帰化します。キリスト教をやめ、神道に帰依する形となりました。終戦後は、疎開先の軽井沢から横浜へ呼び出され、日本の再出発に大きな功績をされていたことは全く知りませんでした。まさに、「建築家ですから、(日米)双方に、大きな屋根をかけた」存在となりました。

 その後も、近江商人の如く、三方よし、利他の精神で社会事業家としての人生を全うされ、また、1,600以上も設計した彼の建築が日本に多く残っています。それを考えると、近江八幡に生きた意味の大きさがありますね。

『屋根をかける人』(門井慶喜著、角川文庫、本体価格720円)

 

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トライアウト

2020-02-29 14:46:56 | 

 自由契約になったプロ野球選手が全12球団のスカウトが見守る中で試合を行うのがトライアウト。言わば、再出発の場。それを取材に来た、運動担当の新聞記者の久平可南子は小学2年生の男の子・考太を待つシングルマザー。彼女の目に映った選手は深澤翔介。彼が高校地区予選、甲子園での活躍も取材していて、記憶に残っていました。彼にインタビューを試みたところから物語がスタートします。

 シングルとして息子を養うために記者の仕事を全うするため、考太を預けていた実家の父が病に倒れ、彼女を助けた深澤翔介は彼女の過去を知っているそぶりを見せ、彼女は動揺しつつ、父が亡くなったのを契機に、彼女自身も再起、トライアウトに臨みます。考太の父の存在が考太の夢へ邁進させるきっかけにもなって。

「辛い時はその場でぐっと踏ん張るんだ。そうしたら必ずチャンスはくる。チャンスがこない人は辛い時に逃げる人だ。」誰しも耐え忍ぶ時はあります。その場を肯定して、前へ進むしかありません。

『トライアウト』(藤岡陽子著、光文社文庫、本体価格700円)

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ウィメンズマラソン

2020-02-18 14:40:12 | 

 マラソンシーズンですが、コロナウィルス肺炎対策のため、東京マラソンでは一般参加者はエントリーはなしとなりました。応募に当選してやる気満々だった方には残念ですが、仕方なしですね。

 さて、主人公・岸峰子は、プロのトライアスリートの父と実業団のトラック選手の母というスポーツDNAを引き継ぎ、かけっこには自信があったが、高校で中長距離、大学でも駅伝に汗を流したが、これといった成績も残せず終い。幸田生命女子競技部の、「小出」ではなく、小南監督からマラソンを勧められ、マラソン選手としてスタートをします。

 フルマラソン3度目の大阪マラソンで優勝、世界選手権で5位入賞、名古屋ウィメンズマラソンでも優勝し、ロンドンオリンピック選手に選出されるが、急遽の参加辞退。その理由は

「妊娠」

日本国中からバッシングを浴びるも、出産し、再起を図る、復活劇の物語です。リオデジャネイロオリンピック出場へ、自分を追い込み、さぁ結末は?

 読み進むうちに、ランニング・ハイならぬリーディング・ハイになりますよ。

『ウィメンズマラソン』(坂井希久子著、ハルキ文庫、本体価格580円)

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「無意識」はすべてを知っている

2020-02-07 15:44:28 | 

 私たちが持っているにもかかわらず、その力を発揮し得ていないのが

『無意識』の力

です。意識はわかっても、無意識なるものをどこにどのように持っているのか?比較宗教学者の町田宗鳳先生が教えてくれます。

 心の中には、情報をキャッチして判断する、心の司令塔の「自我意識」、意識化・言語化されていない情念の「潜在意識」、個人的体験の全記憶が格納されている「個人無意識」、個人を超えた集団的記憶がある「普遍的無意識」、そして、神性、真心の「光の意識」と5つの意識を持っています。自我意識がピラミッドの頂点にあり、順に下に位置し、「光の意識」が底辺にあります。それぞれの意識には壁があり、この壁を打ち破り、最終的には「光の意識」に触れると、素晴らしい力が付加されます。

 では、どのようにして壁を破っていくのか?スポーツや仕事でよく言われる、「ゾーン」に入るように、集中する姿勢があれば、この壁は突破していきます。しかし、一般の人々にそのような機会は少ないので、町田宗鳳先生が推奨するのは祈りを発声することです。お経や讃美歌などを無心に声を上げることで、この体験を得ると断じています。私も一度だけ行った、町田宗鳳先生による「ありがとう禅」では、「ありがとう」という言葉を瞑想しながら発声するだけでした。

 スピリチャルな感も呈していますが、宝の持ち腐れにならぬよう、探求したいと思います。

「無意識」はすべてを知っている 内なる力を呼び覚ます』(町田宗鳳著、青春出版社、本体価格1,520円)

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信長の経済戦略

2020-02-03 17:34:36 | Weblog

 戦国時代のヒーローの一人である織田信長。彼の業績は年号とともに日本史の授業で学びました。しかし、その施策はどういう背景、状況下で行われたかはよくわからないまま、暗記の世界に溺れていました。今回、本書でようやく理解できました。

 まず、第1に小国であった尾張で桶狭間の戦い以降、経済的に問題なかったか?尾張一国だけの米の生産量は知れています。しかし、尾張の津島という物流拠点を押さえていたため、版図以上のマネーを持っていたために、築城や兵農分離、武器の購入なども問題なくこなしていました。

 第2に、比叡山延暦寺の焼き討ちのバックボーンです。日本有数の仏教の拠点の壊滅的な攻撃はなぜ行われたのか?延暦寺も寺領を多く持ち、また、経済的な基盤強化のために、商業における権益も持っていました。この権益を守るために、僧兵という武装集団という組織もありました。このことを知れば、信長の行動は納得がいきます。つまり、宗教活動だけでない、既得権益を打破する目的がありました。これは武士だけでなく、朝廷や貴族も同じ思いであったらしい。

 楽市楽座や度量衡の統一、その後の貨幣制度の基礎、また、鎌倉、室町の幕府ではなく、王政復古の政治体制を目指していたなど、すべては過去を一新し、既得権益のゼロ化を図ったと考えられます。

 このようなことを日本史の授業で学べば、もっと楽しいだけでなく、政治経済の勉強にもなっていたことでしょう。

『信長の経済戦略 国盗りも天下統一もカネ次第』(大村大次郎著、秀和システム、本体価格1,500円)

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