当時それほど親しくもなかった春夫と久里子は中学の同級生で、中学卒業後に春夫が引っ越した後に再会したのは、春夫が飛び込み営業をした会社の受付に久里子がいたからでした。その後、結婚し、息子を授かり、結婚19年11か月、それぞれが49歳でこの世を去った設定で展開します。久里子はがんで、春夫は帰宅途中の駅で倒れ、そのままあの世へ。各章ごとに主人公が替り、妻を亡くした夫、夫を亡くした妻が、告別式1年後からの生活を過ごしながら、相思相愛だった過去を浮き彫りにします。前の章の食事、もしくは食品が次の章へ引き継がれて関連付けられています。平穏な日常の中にも小さな愛のかけらが点在している暮しこそが幸せかなぁと思えます。じんわりとくる小説です。
この二人は昭和30年代後半の生まれなので、ストーリーに出てくるユーミンの曲や映画のタワーリングインフェルノなど、世代が一緒の私としては、それもストレートに効いてきます。
『君のいた日々』(藤野千夜著、ハルキ文庫、本体価格640円)