あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

ワイルドサイドをほっつき歩け

2020-08-26 13:35:25 | 

 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で2019年の本屋大賞ノンフィクション大賞を受賞したブレイディみかこさんによる、イギリスでのオッサンのレポートです。彼女の旦那さんの幼馴染たちの過去と現在を描きだしています。

 イギリスではEU離脱、ブレグジットが大問題であり、個人の生活にも大なり小なり影響を及ぼしているのが如実にわかります。英国の緊縮財政に対する矛先が、原則治療費無料で薬代だけ請求される、揺りかごから墓場までの象徴のNHS(国民保健サービス)に向けられ、専門医に診てもらえるにも数か月は必要な状況に怒りしか覚えないオッサン。だからこそ、

 「おとなしく勤勉に働けば生きて行ける時代には人は反抗的になり、まともに働いても生活が保障されない時代には勤勉に働き始める」

状況に国が貶めていると考えています。

 ブレグジットは移民への反動もあり、移民への「憎悪」が剥き出しになっているのは地球人としては情けないと思います。グローバルに対して、自国第一主義に向かっても、人があっての国であり、国があっての地球です。逆に考えれば、地球があっての人という視点が欲しい。

 しかし、どこの国のオッサンも似たようなもんであり、社会情勢に揺り動かされ、最後はやっぱり酒か女性か?イギリスのオッサンは何度も結婚と離婚を繰り返し、心がしんどないんかいと思って、読了しました。

『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』(ブレイディみかこ著、筑摩書房、本体価格1,350円)            

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あめつちのうた

2020-08-23 11:20:34 | 

 甲子園球場、阪神園芸の小説を兵庫県人が読まない理由はありません。

 運動神経がマイナスとちゃうかと思える、高卒の雨宮大地は、阪神甲子園球場のグラウンド整備をしている阪神園芸に入社します。しかし、運動神経とともに要領の悪さが足を引っ張り、新入社員は四苦八苦します。野球の聖地で長年培われた匠の技は5年、10年スパンで身に付けていくもの、コツコツと身体で覚えていくことになります。

 1年先輩の同僚、長谷は高校野球の夏の大会、甲子園の優勝投手ですが、熱戦での連投の登板が原因で右肘を剥離骨折し、野球を諦め、阪神園芸で共に働きます。高校時代に野球部のマネジャーだった大地のチームのエース一志は、大学野球でも活躍するも同性愛者であることを悩みます。甲子園球場でビール売りのアルバイトをしている女子大生・近藤真夏はシンガーソングライターを目指しています。

 大地の家族の弟・傑(すぐる)は、兄とは正反対の運動神経の持ち主で、大地と同じ高校の野球部で、1年生からショートのレギュラーを任されています。父もプロを目指した社会人野球選手であり、運動神経の皆無の大地の育てに大いなる悩みを持っていました。大地は父からの愛情を受けていないと思い、傑には劣等感を抱いています。

 登場人物のそれぞれの悩みの解決の糸口は甲子園球場の土にありました。「表面だけではなく、深い層にまで水分を行き届かせなければ、柔軟で、同時に強くはならない」「土を耕し、掘り起こし、締め固めなければならない」ということは人の心も同じ。自然からの教えは間違いありません。人間の自然の一員ですから。

 最後に、阪神園芸さんが甲子園球場を最高の場所にされている、その1年の作業内容を本書で知り、改めてプロの道の険しさを理解しました。グランドを身体だけでなく、頭でも知り尽くしていることは、会社にとっても強みであり、日本のそれでもあるなぁと感じました。匠の会社が多く存在する日本ならではだと思います。

『あめつちのうた』(朝倉宏景著、講談社、本体価格1,600円)

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どうかこの声が、あなたに届きますように

2020-08-20 14:06:26 | 

 主人公・小松奈々子20歳。地下アイドルをしていたが、バイクのひったくり犯に引きずられ、左頬に傷を負い、心まで病み、アイドルから足を洗い、パン屋でアルバイトをするひっそりとした生活を送っていました。そこに現れたのが東文放送のラジオディレクター黒木。彼に騙されるようにして、彼女は昼のラジオ帯番組のアシスタントを小松夏海という名で週1回することになりました。ズブの素人の夏海は、「私の人生、この歳にしてすでに斜陽なんです。でもどうせ沈むなら、最後に輝いてやろう」という調子で、コツコツとリスナーの心をつかんでいきます。

 しかし、世の中厳しい~。聴取率の悪い夏海はアシスタントをクビになります。黒木や彼の同期の宣伝部の諏訪部が画策し、ノーギャラながら夏海の冠番組を深夜にスタート。これが大反響!夏海の快進撃は続きますが・・・。

 小説ですから、夏海の声も、放送のシーンもすべて自分の脳内で想像しますが、夏海のファンになってしましました。心の中で応援していました。ストーリーの中でも彼女の語りに感動した人々が彼女を支えるべくして登場します。聴覚からの縁がつながって、それぞれの人生を彩っています。

 私にとって、この小説で心を打たれたテーマは「自分で決める」ということ。人間、どうしても同調圧力や周りの影響で選択肢を選んでいます。しかし、それでよいのか?彼女の祖母の奈々子への言葉がぐっと胸に刺さります。
「子は親を選べない。でも自分の人生ぐらいは自分で選ぶべきよ。奈々子は夏海になって正解だったって、私は思う」

 そして、選んだ以上は書名の通り、「どうかこの声が、あなたに届きますように」という思いですね。あぁ、何度も泣かされました。

『どうかこの声が、あなたに届きますように』(浅葉なつ著、文春文庫、本体価格680円)

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二流が一流を育てる

2020-08-18 17:34:00 | 

 名伯楽と名付けられた、巨人軍と広島カープの1軍では打撃コーチを、2軍ではコーチだけでなく監督もされた内田順三さん。選手としては2流だったと自身で言われていますが、プロ野球選手になるだけでも凄い狭き門。毎年5万人の高校野球の選手から100人ほどしかその門の下を歩めず、新人からベテランまでの中から1軍に在籍するのはもうもう奇跡に近い存在です。長いコーチ歴から、巨人、広島での磨き上げた選手を例に挙げて、コーチの術を詳述しています。

 どんなに鳴り物入りで入団しても、アマチュアからプロへの道は厳しい。コーチは悩める選手を1流にしていく大重責を負ってます。選手もその意気込みは生半可ではなく、例えば、大学時代からも大きな実績を持っていた、天才と呼ばれた巨人の高橋由伸選手でさえ、練習量は半端ではなかったそうです。しかし、天狗ではなく、素直に内田さんのコーチングを受けていた姿は、1流でも謙虚な心の持ち主なのだと思います。そういう意味では大選手は大人格でもあるのでしょう。

 野球ファンだけでなく、会社や社会で上に立つ存在の人にはとても有益なコーチングの内容です。我々一般人は、入ってくる人も育てる人もアマチュア。プロの世界にいる人のことを知るだけでも興味深い。

『二流が一流を育てる ダメと言わないコーチング』(内田順三著、KADOKAWA、本体価格1,350円)

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つなぐ時計 吉祥寺に生まれたメーカーKnotの軌跡

2020-08-16 10:17:38 | 

 時計業界の半沢直樹かもしれません。

 2014年、80年ぶりの日本製時計メーカーとして創業したKnot。しかし、ここに至る道のりは険しいものでした。中高校生時代はサッカーではエースだった遠藤弘満さんは「やんちゃ」な学生でした。しかし、モノへの興味は非常に強く、それは渇望に変わり、お金の必要から高校3年生になるとアルバイトで稼ぎ、最後には叔父の経営するカタログ販売会社に入社。バイヤー担当となり、モノ雑誌を読みまくり、製品の裏側のストーリーに引き込まれ、目利きを育てることになります。ここから大躍進が始まります。海外からの商品調達も進み、ニューヨークの地に立ったのは20代前半。世界で仕事をするという思いを強くします。先輩と一緒に独立した販売会社で、遠藤さんは海外製腕時計の販売を手掛け、日本での販売権を得るも、社長である先輩と亀裂が生じ、退社。その後、自社を立ち上げ、デンマーク製の腕時計の販売で一躍脚光を浴びるも、仕入れの資金援助を受けていた会社と合併し、社長に就任するもクビに。

 目ざとく見つけだした商品の販売で確固たる地位を得るも2度の退場宣告。他社のブランドを引き立たせるのではなく、自分のブランドを持ちたい。そこで目指したのはメイド・イン・ジャパンの腕時計。中国など人件費の安い地で製造し、世界に販売するグローバル戦略の腕時計メーカーは超高性能しか日本では製造しない。つまり、真逆の道を歩むことしか自らのブランドを得る方法はなかったわけです。

 海外移転した現場の力は日本にはなく、組立メーカーの選択には苦慮しますが、何とか細い糸を手繰り寄せて、自社ブランドを確立します。

 これからの時代、自分のブランドを持たない限り生き残れないこと、そこには独自のミッションやストーリーが横たわっています。世の中に流されるのではなく、小さくとも上流に立つ会社を作り上げていくことの必要性をしみじみと感じました。高い志を持てば不可能はありません。

『つなぐ時計 吉祥寺に生まれたメーカーKnotの軌跡』(金田信一郎著、新潮社、本体価格1,600円)

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若冲

2020-08-15 11:03:36 | 

 1716年、京都の青物問屋舛源に生まれ、23歳の時に4代目枡屋源左衛門となるも、家業を顧みることなく、趣味の絵に没頭し、40歳に家督を弟に譲り、隠居の身となり、晴れて絵画の人となった伊藤若冲。妻を娶らなかったとされていますが、小説の中では結婚もしていることで展開しています。

 各章ごとに若冲の代表的な絵をモチーフに、「何のために描くのか」という絵師としての根本を問い続けていきます。

 「絵師とは、人の心の影子。そして絵はこの憂き世に暮らす者を励まし、生の喜びを謳うもの。いわば人の世を照らす日月なんやで。」

 「若冲はんの絵は、わしら生きている人の心と同じ(略)」

 若冲は絵に生きる志を込めました。読者も問いかけられています。

『若冲』(澤田瞳子著、文春文庫、本体価格700円)

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経営に生かす易経

2020-08-10 10:58:50 | 

 『易経 陽の巻 夢をもつってどういうこと?』『易経 陰の巻 結果が出ないときはどうしたらいい?』『易経 青龍の巻 自分の足で歩いていくってどういうこと?』と子供向けに書かれた3冊を読んできましたが、今度は大人向けです。著者は同じ、竹村亞希子さんです。

 易経は中国古典五経の中で最古の書籍であり、君子だけでなく、われわれ小人も含めて、人類みんなの資産として読まれるといいと感じます。大きな特徴として、天地の法則に則ることを優先に、自然から学べというメッセージが強い。西洋と同じように大自然を破壊して、大帝国を打ち立ててきた中国から発信されていることに驚きさえも覚えました。

 人の成長論である、龍のお話「乾為天(けんいてん)」、そして、人としていかに生きるべきかを問う「坤為地(こんいち)」など興味深い。今回読んで改めて学んだのは

 自然体でいることの大切さ

であり、

 陰陽でいうところの「陰のエネルギーが溜まると、陽の力が働き始める」こと、だからこそ、「意識して陰を生じさせる」ことの重要性

です。陽ばかりの状態が良いのではないかと思いがちですが、「積善」「陰徳」「惜福」など、陽の時こそ、あえて陰を生むことは無視できません。

 陽ばかりを追い求める傾向の強くなった現代日本人にももっと読まれるべしと考えます。

『「経営に生かす」易経』(竹村亞希子著、致知出版社、本体価格1,800円) 

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心の羅針盤(コンパス)をつくる

2020-08-08 08:08:47 | 

 日本の3大随筆の一つ、徒然草。日本人なら誰しも教科書で学んだことのあります。古典の授業は睡眠のお時間だった人も是非ひも解いてやってください。この徒然草が良く読まれるようになったのは江戸時代と言われ、かの坂本龍馬も引用していたそうな。

 コロナ渦中で先が読めない時代、無常を読み取った吉田兼好。その言葉には今も通じる言葉があります。

 『不定と心得ぬるのみ、実にて違わず。』 ほんとに不確かな世であって間違いないとはいつの時代も同じです。

 『しな・かたちこそ生まれつきたらめ、心はなどか賢きより賢きにも移さば移さざらん。』 生まれつき、家柄や外見は変えられないが、心だけは自分の力で変えられるなら変えよう!

 『一人灯のもとに文を広げて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる。』 慎読すれば時空を超えて著者とつながり、悩みも吹っ飛ぶ。ステイホームでする読書は、頭の中だけですが、GO TO TRAVELキャンペーンもできます。

 じっくり読めば、ストレスフリーな今を経験できます。

『心の羅針盤(コンパス)をつくる 「徒然草」兼好が教える人生の「徒然草」兼好が教える人生の流儀』(吉田裕子著、徳間書店、本体価格1,400円)

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武器としての図で考える習慣

2020-08-04 16:41:26 | 

 図で考えるって長いことしていませんでした。書店の事業にしてもしっかりと考えるきっかけをいただきました。

 まず、序章で明確に書かれています。

 「AI時代がやってくると、この『図で考える力』はますます重要になるはずです。」

 つまり、AIは過去のデーター(知識)から計算された結果しか指し示さないのに対し、人間は知恵を働かせて図を描くと、「現実を抽象化すること」ができます。そこからさまざまな構造や関係性を引き出し、そうすれば良いかを導き出せます。思考を熟成し進化させてくれます。この本には、図で考えることを、多くの例を示しながら詳述しています。これによって、自社の在り方、また、個人でもいかに生きていくか、学ぶかのベクトルを生み出せます。

 井戸書店も事業の方向性を「田」の形の図で表現してみました。頭が整理されました。どこをどうすればよいか明確になりました。

『武器としての図で考える習慣 抽象化思考」のレッスン』(平井孝志著、東洋経済新報社、本体価格1,600円)

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BUTTER

2020-08-03 17:21:07 | 

 実際の事件を基に書かれた小説。読むのにかなり重たかったが、現在の日本人の心の裏返しを表現しています。

 結婚詐欺から3人の男性を殺人した容疑で東京拘置所に収攬されている梶井真奈子(カジマナ)。容姿が特に美しいわけでもなく、スレンダーでもなく、なぜに男たちは彼女に引き寄せられるのか?週刊誌の30代の女性記者、町田里佳は彼女に面会を続けるうちに、知らぬ間に彼女の虜になっている自分を発見します。面会と多くの取材を重ねていくとこの事件の社会的側面が浮かびあげってきます。

 「家庭的な味とか家庭的な女性とか、これだけ家族の形が多様化している現代で、そんなのもう、なんの実態もないものです。そんな形のないイメージに振り回され、男も女もプレッシャーで苦しめられている。」

 日本の場合、こうでなきゃダメという同調圧力は極めて強い。はみ出ると異端の目を投げられます。カジマナは同調圧力を利用しつつ、自我の欲望を実現する人です。同調圧力を振り切るほど、自分の軸を持って生きることが求められているように感じました。

 この小説には様々な料理が出てきます。そのレシピの中でバターがキーになっています。主役ではないが、なければならない存在こそが生きる知恵かもしれません。

『BUTTER』(柚木麻子著、新潮文庫、本体価格900円)

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