大学の同級生の梢との結婚を控えた、30歳の拓海は驚いた様子であるブログを見つめている。高校の同級生だった睦月のブログが12年ぶりに更新されていたため。しかし、彼女は18歳に亡くなっている。
沖縄の高校3年生の5月に、東京からの転校生・睦月と海岸で出会う。東京から来ただけで一目置かれる彼女には多くの男子から言い寄られるも、誰とも付き合わない。しかし、拓海とは教室で毎日出会い、放課後は図書館、アイスクリーム屋、書店、海岸などで楽しく話し合う間柄だった。
ブログの更新は誰の仕業かを調べるために、拓海は高校時代の友、恩師、そして、睦月の両親とも会い始める。幸福な将来を一時ストップしてまでも、過去に捨て去ってきた沖縄を振りかえざるを得なかった。さて、結末は…。
睦月の愛読書となった「クジラの一生」。水中カメラマンだった拓海の母のクジラの泳ぐ写真。そして、クジラが歌うことが愛のメッセージであること。クジラを通して、関係が親密になった拓海はその過去を美しく昇華するために、高校の友とクジラを見に沖縄へ。更新ブログのメッセージである
「君は今、何を見て、何を思っていますか?」
に対する答えを見つけて、新しい人生を歩む。
とても清々しいストーリーは、読むほどに映像が脳内に駆け巡った。
『クジラは歌をうたう』(持地佑季子著、集英社文庫、本体価格640円)