あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

クジラは歌をうたう

2018-08-30 17:03:14 | 

 大学の同級生の梢との結婚を控えた、30歳の拓海は驚いた様子であるブログを見つめている。高校の同級生だった睦月のブログが12年ぶりに更新されていたため。しかし、彼女は18歳に亡くなっている。

 沖縄の高校3年生の5月に、東京からの転校生・睦月と海岸で出会う。東京から来ただけで一目置かれる彼女には多くの男子から言い寄られるも、誰とも付き合わない。しかし、拓海とは教室で毎日出会い、放課後は図書館、アイスクリーム屋、書店、海岸などで楽しく話し合う間柄だった。

 ブログの更新は誰の仕業かを調べるために、拓海は高校時代の友、恩師、そして、睦月の両親とも会い始める。幸福な将来を一時ストップしてまでも、過去に捨て去ってきた沖縄を振りかえざるを得なかった。さて、結末は…。

 睦月の愛読書となった「クジラの一生」。水中カメラマンだった拓海の母のクジラの泳ぐ写真。そして、クジラが歌うことが愛のメッセージであること。クジラを通して、関係が親密になった拓海はその過去を美しく昇華するために、高校の友とクジラを見に沖縄へ。更新ブログのメッセージである

 「君は今、何を見て、何を思っていますか?」

に対する答えを見つけて、新しい人生を歩む。

 とても清々しいストーリーは、読むほどに映像が脳内に駆け巡った。

『クジラは歌をうたう』(持地佑季子著、集英社文庫、本体価格640円)

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それでも、日本人は「戦争」を選んだ

2018-08-20 16:44:05 | 

  井戸書店の「大人の人間学塾」という毎月の読書会(毎月第4日曜日午前9時から開催)の8月の課題図書が本書です。中高生への5日間の集中講義録ですが、私のような平和ボケの大人が読んでも奥深い。学生時代、日本史の授業での近現代史は授業時間が不足気味で、超特急で過ぎていきましたが、明治維新後の150年こそ、しっかりと学ばなければならないと感じました。

 明治日本にとっては、安全保障上、朝鮮半島の重要性は国土の存亡にかかわる「利益線」であるため、日清戦争では中国と、日露戦争ではロシアと戦わざるを得なかったことは納得できます。その後、満州が「利益線」となり、満州事変、日中戦争に突入していく辺りから、私自身、以前から疑問符が付いていました。軍部、特に陸軍の暴走ではないかと感じていましたが、本書を読んで、日本国の権益をいかに守るかは理解できました。しかし、太平洋戦争については、戦争遂行の判断が本当に良かったのか?水野廣徳(ひろのり)海軍大佐の「日本は戦争する資格がない」という論もあったことにも目を見開きました。

 また、日中戦争での中華民国政府の方向性に関して、驚きの事実を知りました。「日本切腹、中国介錯」策や、中国のソビエト化を阻止するための日本との妥協策に関しては、中国の懐の深さを知り得ました。

 読了して感じた点は3つあります。その1つは、敗戦は国体の変更を導くこと。次に、政府が情報を正しく開示していること、国民がそれをキャッチする能力を備えていることの大切さ。そして、第3は、「広い範囲の過去の出来事が、真実に近い解釈に関連づけられて、より多く頭に入っている」ことが、歴史の行方を決定することです。

 前回の、『明治維新とは何だったのか - 世界史から考える』(半藤一利・出口治明著、祥伝社、本体価格1,500円)でも学びましたが、日本のような資源のない国は、外国との通商、つまり開国こそが生きる道であり、開国を止めると、攘夷につながることは、間違いのない歴史の教訓です。

『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(加藤陽子著、新潮文庫、本体価格750円)

 

 

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明治維新とは何だったのか

2018-08-16 16:07:44 | 

 学生時代に学び、大河ドラマで観た幕末とは一味もふた味も違い、う~んと唸ってしまいました。こう教えられていれば、過去も未来も見方が変わってましたね。やっぱり、薩長史観がまだ息づいていますね。

  国としては交易をすることによって潤う。そのためには開国を迫り、交渉で動かなければ、武力に訴える政治力を利用したアメリカに対し、開国やむなしと舵を切ったのは幕末の老中、阿部正弘。あの当時の国際状況を考え、「開国・富国・強兵」のグランドデザインは彼でなければ描けませんでした。江戸幕府の屋台骨を自己改革する凄まじさ、また、「万機公論」という、上からの政治を変えたのも、間違いなく、阿部のお蔭です。

  戊辰戦争を終え、阿部の見取り図を形作ったのが大久保利通。大久保は西郷さんに比べて人気はありませんが、現実主義の守成の人であり、漸進主義で事を進める彼なくして、明治新政府の路線は確立しませんでした。

 半藤一利さん、出口治明さんが、彼ら二人が江戸幕末から明治の日本を形成したと断言していることが目からウロコの真実でした。幕末志士は多くいましたが、世を見据え、実行できる人こそが素晴らしい。その意味でも、「広く世界を見ること」は常に持たなければなりません。情報を多元的に仕入て、考えることは忘れてはなりません。

 また、保護主義的な波が強くなっていますが、資源国でない日本は「開国」の札は提示し続けることも大切です。150年前に開国したからこそ、今があるわけです。

『明治維新とは何だったのか - 世界史から考える』(半藤一利・出口治明著、祥伝社、本体価格1,500円)

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引き出しの中のラブレター

2018-08-12 07:54:34 | 

 デジタルが普通となり、メールと言えば、スマホや携帯で済ます時代に、手紙を書くことは高い敷居があります。しかし、デジタルでは電源OFFや電波の届かない限り、既読さえも送信元にわかる、便利でありながら、情緒がないという思いもあります。相手のことを思い遣り、手紙にペンをすべらすことの意義を、そして、アナログの価値を再確認するには最適の小説です。

 主人公・真生のラジオパーソナリティーの仕事のことを理解してくれず、絶縁し、仲直りをする前に他界した父親との関係にしこりを残したまま、生きてきた彼女には、生前に父が彼女宛にしたためた手紙がありました。そこには、20数年前に、母が父と喧嘩して、家を飛び出したいきさつ、父が母をどれだけ愛していたか、また、真生の仕事ぶりを評価し、彼女のファンであることを書き綴っていました。

 真生は手紙の持つ力に背中を押され、新しいラジオ企画を考えました。「誰にでも、伝えたかったのに、伝えられなかった想いってあると思います。そんな想いを募集して、番組で紹介したいんです。」そのきっかけになる番組、「引き出しの中のラブレター」が実現します。番組の最後の手紙では、40年前に引き裂かれた夫婦間のことを謝罪することで、バラバラになった家族の再生が描かれています。

 「手紙って本当に、長い間こり固まっていた胸の奥のわだかまりを、ふっと消してくれることがある。」

 「本当に伝えたいものがあって、誠実な気持ちで綴られた手紙は、見返りみたいなものをまったく期待していないんだ。届くことを前提にしていないっていうか、書いている人が救われるための、お祈りみたいなものだったの。」

 手紙を書くことによって、自省し、相手を思い遣りながら、自分の夢に一歩を踏み出す勇気を与えてくれるストーリーに胸が透く思いで読了しました。

『引き出しの中のラブレター』(新堂冬樹著、河出文庫、本体価格680円)

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中韓を滅ぼす儒教の呪縛

2018-08-11 09:44:56 | 

 韓国大統領の末路はすべて哀れな理由はなぜか?「公(パブリック)」ではなく、「私(ファミリー)」最優先社会の結果であり、その原因を儒教、とりわけ朱子学に置いています。それでは、儒教、朱子学とは何か?

 儒教は「孝」を重んじる祖先崇拝が大事であり、祖先のやったこと、祖法を変えたがらない。保守的であり、抜本的な改革もなされず、ましてや革命は起きえない。

 また、他の宗教に見られる「来世」への視点はありません。「そんなことをしたら地獄に落ちる」や「閻魔さんに舌を抜かれる」などは道徳としてなさず、自己中、ファミリーさえ良ければに動くのは当たり前かもしれません。

 さらには、「士農工商」という身分制をとり、「貴穀賤金」思想が商業を卑しい行為と位置づけ、商業蔑視が強い。これは江戸時代の政策でも、貿易をすれば国が潤ったにもかかわらず、鎖国をし、中国においてのアヘン戦争を振り返るとよくわかります。

 では、なぜ、日本も朱子学を江戸政権は中心根本にしたにもかかわらず、中韓よりも開国が早かったのか?まずは、「科挙」を採用しなかったこと。支配層である「武士」のみが朱子学を学べばよかった。農工商民は孔子由来の儒教しか知らなかったわけです。

 そして、天皇の存在が非常に大きい。日本も武士政権になってから、政権を担う頭領は替わろうとも、国体は変わらなかったことの意義は、最終的には「公」があるわけです。中韓に絶対的存在はその政権を担う一族ですから、「私」に片寄るのは仕方ないことかもしれません。

 儒教の極端な教えである朱子学の呪縛を脱却することこそが、未来志向の国際関係を築く一歩でしょう。 

『中韓を滅ぼす儒教の呪縛』(井沢元彦著、徳間文庫、本体価格700円)

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池上彰の未来を拓く君たちへ

2018-08-02 16:20:06 | 

 池上彰さんが東工大生を中心に、大学生、高校生への講義、学生からの質問への答え、また、読書会の模様をベースに、池上さんの学生時代から社会人の人生を振り返りつつ、若者が世界へ羽ばたくためにいかに生きるべきかを語る1冊。

 なによりも人間力をつけ、仕事の困難にも対応するためには、「豊富な読書量に裏付けされた知識」が大切である。そこには、「好奇心」と「学び続ける力」を持ち続けなければなりません。しかも、効率や即時性を求めないこと。 「すぐに役に立つことは、すぐに役に立たなくなる」から、「すぐに役に立たないことが、いずれ役に立つ」を胆に銘じましょう。さらには、「自らの問いを立て、その答えを考え抜く」経験を積め!

 AIが活用される度合いが増えれば増えるほど、人間は創造力や思考力が試されます。そのためにも過去の情報である歴史、そして、多様な民族のバックグラウンド、宗教の教義など、教養が重要になってきます。エリートが国を動かすのではなく、国民が国を考える時代には、一人ひとりが世界の難問に対して自らの考えを持って対処しなければなりません。その意味でも、池上さんの訴える生き方は必要となってきます。これは何も若者だけに伝えているのではないでしょう。全ての人が生きる上での必要条件になってくるはずです。

 やはり、基本は読書です。

『池上彰の 未来を拓く君たちへ』(池上彰著、日本経済新聞出版社、本体価格1,400円)

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