あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

皇帝たちの中国史

2023-08-21 14:28:12 | 

 中国は経済発展し国力を伸ばし、さらには覇権を海外へ推し進め、チベットや新疆ウイグル自治区では漢族優先の政策を施しています。なぜそうするのか?国家的戦略は何か?わからないままでは気味が悪いので、まずは中国史を紐解きました。本書『皇帝たちの中国史』は、著者の宮脇淳子先生の師匠であり、夫である岡田英弘著『皇帝たちの中国』で書き足りなかったであろうことも含めての1冊です。

 中国史の個別の事象はさておき、歴史から見て今も引き続いて中国人で行われている事実は何かを読みました。それは、

  ①中国の王朝はほとんどが異民族主導である
    ②漢字が読み書きできる人が指導者である
    ③人民は国を全く信じていない

ということ。

  ①漢族の王朝は秦、明、そして、いまの中華人民共和国だけです。野蛮な異民族と蔑視するものの、異民族の方が漢族よりも強かったという事実です。②華僑というぐらい、中国では商売人がメインであったが、共通の言語として漢字が重要視され、商人が都会に住み、そのまま指導者になったようです。③中国人は家族や血族、同郷人、宗教秘密結社を重んじ、国は信じていません。国の指導者=様々な異民族だからでしょう。国を信じないから、賄賂が横行する社会だったのでしょう。

 そして、本書を読み、清の皇帝たちの政治がとても民主的で開放的なことを知りました。版図が増えても、チベットやモンゴル、新疆でも、清の共通語の満州語の使用を押し付けず、その民族の言語を大事にし、地方分権もしっかりと守っていました。別の民族の事情を理解してまで政治をするのではなく、その民族に任せるスタイルを取っていたのには驚きました。それの証拠に、清の当初の人口6,000万人に対して、アヘン戦争直前には4億人になっていたことは平和で豊かだったからでしょう。現在の政権のやりようとは真逆なのは漢族だからでしょうか。

『皇帝たちの中国史』(宮脇淳子著、徳間書店、本体価格1,400円、税込価格1,540円)

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山が見ていた

2023-08-21 13:34:51 | 

 新田次郎作品は山岳、歴史がメインですが、本書は珍しく、サスペンス、心理ミステリー、全15作品の短編集です。

 人間関係のボタンの掛け違いから生まれる恨み、そして念がこもった執念を感じる小説が多い。結婚後は奥さんから登山を禁じられている夫の思いを書いた『山靴』、温泉が湧いている沼を開発しようという下心を持つ調査員に対して、村や家族をバラバラにされた一人の男の怨念を描いた『沼』、社内で俳句を詠むことを奨励した社長があるクラブの女性の句を絶賛したことに乗じて発覚させた交際費の流用問題の『十六歳の俳句』、夫の浮気の現場を押さえるために、お隣に住む奥さんのすすめで尾行を雇うことにした妻も含めて泡を吹かせた夫の企みを書いた『情事の記録』など、短編ながらどれも面白い。

 本書の表題になっている『山が見ていた』は善行をすれば悪行も消える内容の山岳作品。運転免許取り立ての主人公は配送の運転手が足りないため、急遽ハンドルを握ることに。順調に配達を終え、営業所に戻る時に子どもをはねたが、現場から逃げました。いわゆるひき逃げ。彼は落ち込み、山で死のうと雪がチラつく奥多摩へ。午後3時半頃に5人の中学生と出会い、吹雪の中を彼らと離れるものの、彼らの動向が心配になり、彼らを追いかけ、うずくまっている彼らを先導し、下山し、自らも自首しようと心に決めるが・・・。

 いつもと違うイメージの新田次郎でしたが、意外と楽しめました。

『山が見ていた』(新田次郎著、文春文庫、本体価格860円、税込価格946円)

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奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち 伝説の灘校国語教師・橋本武の流儀

2023-08-18 15:05:48 | 

 これぞ、総合学習の授業!

 中勘助著『銀の匙』を用いて、3年間の中学校の国語の授業で読み通していく~とても独特なスタイルながら、大学受験でも結果をたたき出しているだけでなく、この授業を受けた卒業生が人間として成熟している姿を拝読すると、試験で高得点をあげるための詰込み教育には疑問符が付きます。合格結果には敏感なはずの灘中学校がこの授業をカリキュラムに組み込んでいたとは驚きです。

 この授業を30年間続けた橋本武先生には確固たる信念があります。

 「前に進もうとする力こそが『学ぶ力の背骨』であり、国語力だ」「国語力は『生きる力』」

 「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなります」

はすべての子どもたちの未来を考え、即座に答えを求めず、その過程を充実させる思いが充満しています。授業に必ず本題から外れた寄り道があり、たくさんの興味のネタを生徒たちに振りまき続けました。

 橋本先生は不明な点があれば、著者の中勘助氏に手紙を書いて、また、しっかりと返事があり、ガリ版刷のプリントもさることながら授業にも厚みが増したことでしょう。

 とても感動的なシーンは、父の転勤で灘中学から東京の私立中学校へ2年の春休みに転向した学生が「教科書をふつうに読み進めるだけの国語」が退屈で、どうしても橋本先生のプリントが欲しいという思いに応えて、2年間のプリントは送られてきました。その後の物語に涙が止まりませんでした。

 授業で生きる力を付与できることが実感しました。

『奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち 伝説の灘校国語教師・橋本武の流儀』(伊藤氏貴著、小学館文庫、本体価格600円、税込660円)

 

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戦慄の記録 インパール

2023-08-16 15:05:22 | 

 先の大戦でのビルマ戦線のインパール作戦の悲惨さは、歴史で学んで知っていましたが、2017年に放映されたNHKスペシャル取材班「戦慄の記録 インパール」の本書を8月13日~14日に一気に読みました。科学的根拠よりも精神論、また組織内の人情論が生んだ悲劇としか考えられません。

 ビルマ国境を越え、英領インドから中国への支援物資を送る援蒋ルート上の拠点であるインド北東部のインパールを占領すること、また、インドの独立を支援する目的の戦いです。太平洋上での戦いに暗雲が立ち込める中、ビルマからインドへの侵攻が日本軍の士気向上に功を奏すると日本軍指導部は考えました。

 まずもって、無謀な作戦の内容は

兵士の食糧は20日のみ、そして、150発の弾薬の携行
1人当たり40キロの荷物を背負い、2000メートル級のアラカン山脈を越える
インパール陥落までは後方からの補給は無し

でした。食料に連れていけという牛は渡河する川で暴れるか、細い登山道では怯えて動かないという笑えないエピソードも付されていました。

 この作戦には部隊の参謀や現場後方支援部門から反対の声をあげる者もいましたが、罷免や移動させられ、イエスマンしか残らない。「陸軍部内でしか通用しない偏狭な理屈に固執した」や「人間としての物の考え方に哲学があるかないか」という批判も戦後は当事者から出ていました。

 この作戦に参加した日本兵9万人のうち、死者が3万人に及び、作戦中止後の撤退中にその6割が死亡し、そのほとんどが病死、もしくは餓死、あるいは生きていても倒れれば、トラ、ハゲタカ、そして、生き延びたい戦友にも襲われるとは地獄としか考えられない。撤退路は白骨街道と呼ばれたとは絶句します。

 理念なき戦争は惨たらしく、平和を追求するしか考えられません。

『戦慄の記録 インパール』(NHKスペシャル取材班著、岩波現代文庫、本体価格1,210円、税込価格1,331円)

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ものがわかるということ

2023-08-11 08:23:08 | 

 虫好きから自然を見渡して思考すると、現代社会の不合理な点が降ってくるのでしょうか?養老先生の論にうなずいてしまいます。

 人間も含めて自然は変わり続けるものなのに、人間は生きる上で楽したいからか、変わらない状態の環境で暮らしたいために都市を作り、そこに住んでいます。そうすることによって、自分が変わることを忘れている、もしくはそれを嫌っているのでしょうか。養老先生の都市VS自然(田舎)の対照は

都市 意識(言葉)→ 不変 → 合理性追求 → 単純化 → 同一を求める
                (意味を求める)
自然 身体感覚   → 変化 → 不合理のまま → 複雑 → 違う
(田舎)                                              (意味を求めない)

のように指摘されています。われわれ人間は他の動物と違い、脳が発達したためか、脳にばかり重きを置いているが、動物の一種だから、身体、感覚に軸足を置くのが当然であることを忘却しています。自然災害が発生し、被災すれば、そのことを思い出す動物なのかもしれません。「ああすればこうなる」から「どうなるかわからない」、自分の置かれた環境で少しでも感覚を研ぎつつ、諸行無常の存在として生きるのが得策です。ケセラセラですね。

 まずは自然に身を置きましょう!感覚を呼び戻すために。

『ものがわかるということ』(養老孟司著、祥伝社、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

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