この絵本はえんぴつで書かれたモノクロの世界で、一本の木と一人の男の生涯がリンクされた物語になっています。活字は一切なく、絵を見る人の想像力でストーリーは紡がれていきます。
山深くに佇む巨木。その木は桜の老木という設定です。嵐に遭遇し、木は倒れ、川を通じて、下流の岸や海に辿り着き、そこで生活を営む人々に役立っていく。自らのすべてを人々や動植物に資するように委ねます。ひょっとして思いを届けたりもするし、ある人にとってはかけがえのないものに変化していきます。そして、最終ページは1本の苗木が植えられています。流転する時間の中で、すべてのものは無為自然な存在でありながらも、多くのものと共有する存在でもあります。作・企画のくすのきしげのり先生は
「ひとは、みな一本の木である。」
と締めくくられています。ひとが言葉を持ち、意識を発揮する以前の存在に立ち返ることを訴えているのではないでしょうか。
シェル・シルヴァスタインの『おおきな木』の内容と同じように、与え続けることこそが生命の働きかも知れません。
『一本の木がありました。』(作・企画:くすのきしげのり 絵・原案:ふるやま たく、PIE International、本体価格1,500円、税込1,650円)