あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

いのちの使い方

2023-01-31 16:40:33 | 

 神戸で学生時代を過ごされた、日野原重明先生は2017年に105歳の生涯を終えられました。たくさんの著作がおありですが、105年の経験からのいのちの使い方を教わりました。

 100歳を越えられても、10年の計画を立案し、使命を果たそうとされました。「いのちを使い切る」という言葉の通り、いまのこの時間を最大限に活かしてこられました。そのいのちについて「いのちとは、生きていられる時間のこと」「自分で自由に使える時間」とし、その上で、「あたりまえのように生きている時間が、人生の大きな宝物」「憎い相手を許す勇気こそが争いを終わらせる」「どんないのちもかけがえのない」「どんないのちも粗末に扱ってはいけない」と書かれています。

 そんな貴重ないのちの最も有効な使い方は、他者への助けになることで自分も生かされる存在となる、つまり誰かの役に立つことをすることを目指せ!とおっしゃっています。「Pay forward」、恩送りで社会や地球を良くする歩みを止めない人が多くなれば、人間社会もより素晴らしいものになるでしょう。

『いのちの使い方』(日野原重明著、小学館文庫、本体価格510円、税込561円)

 

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黄色い家

2023-01-27 15:15:04 | 

 2月20日発売の小説のゲラを読ましていただきました。

 スナックで働く母親に放任されていた娘の花。家には母親の友だちやスナック仲間が遊びに来たり、泊まったりしていました。その中の一人、黄美子は花と波長が合っていました。高校になり、家から出ていくためにバイトで稼いだお金70数万円を母の彼氏に盗まれ、途方になっているときに黄美子さんと再会し、スナックを共同で運営することになり、そこから貯金を再開、235万に至っても、今度はトラブルに巻き込まれた母親に200万を貸すことになり、スナックも火事に遭い、稼ぐ糧を失います。花はシノギを手伝うことで三度の貯金を始めるが・・・。

 人間は無垢の状態で誕生しますが、人間社会で揉まれ、欲にまみれ、悪に手を染め、そこで踊らされるも、本当の幸せを得るには他人(ひと)とのつながりしかないというメッセージが胸を突きます。禅の教えの通り、人は丸く生まれて、教育を受けて三角になり、社会の中で競争や欲を出して、自己中心になっていくが、幸せを求めるには再び丸くなることが必定になります。前回の『精神科医が見つけた3つの幸福』でも述べられていた、ドーパミン全開の状況下に置かれた人間はなぜか淋しく、心がダークになりますが、セロトニン的な健康を土台に、人との愛を求めることは忘れてはいけません。

『黄色い家』(川上未映子著、中央公論新社、本体価格1,900円、税込2,090円)

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精神科医が見つけた3つの幸福

2023-01-26 17:49:19 | 

 これまで多くの幸福論の本を読んできましたが、こんなに理解しやすい本に出会えたことは嬉しい!精神科医である著者は、「幸せ」と感じたときに分泌される脳内物質に着目し、3つの幸福を得ることを示唆しています。

 まずは、セロトニン的幸福です。これは自分自身の心身の健康。これが一番の基礎となります。健康は当たり前

 2つ目は、オキシトシン的幸福です。人間はつながりを求め、そこに愛を感じることで幸せを膨らせます。

 3つ目は、この2つの幸福を土台にして、ドーパミン的幸福を追求します。成功やお金を得ることにつながります。但し、これは扱いを間違うと依存症につながり、自己破綻を招きます。

 これをもとに、本書では3つの脳内物質の分泌を促進するためにどうすればよいかを解説しています。気づく力、自己洞察力を発揮して、小さくとも幸せを日々見つけ出し、アウトプットすること、日記を記すことを推奨しています。感謝日記であり、3行ポジティブ日記です。読了後に3行ポジティブ日記を書き始めました。

『精神科医が見つけた3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』(樺沢紫苑著、飛鳥新社、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

 

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孤高の人

2023-01-13 12:48:39 | 

 兵庫県浜坂出身の加藤文太郎は高等小学校卒業後、神戸の神港造船所の技術研修生となり、将来は設計の技師をを目指して学びます。休みの日に六甲山系を登ること、特に、長田区の高取山へは何度も登っていたようです。いわゆる六甲縦走路を宝塚まで踏破した後、会社の寄宿舎のある和田岬まで、全行程100キロを17時間で戻る、とても速い登山家でした。彼の登山スタイルは単独行の山行で、いずれの山岳会にも所属しませんでした。研修所を成績優秀で卒業し、設計現場に出てからは、夏の休暇で日本アルプスを歩き始めました。3日間で主要なアルプスの頂を制覇する単独行をやり遂げた後は、冬山へ挑戦、毎年年末から2月までで有給休暇20日を使い切っていました。

 単独で歩くことにつながったのか、日常生活での人間関係はスムーズではなく、無口で顔の表情も少なく、温かく見守る人もいましたが、人付き合いの下手な人でした。しかし、郷里の花子と結婚し、人が変わったように明るく、口数も増えました。結婚後は山行を控えていましたが、彼を尊敬する宮村健が就職前に冬の槍ヶ岳へ一緒に行って欲しいというお願いに、娘も生まれた自分自身も冬山との決別の登山に出発しますが・・・。

 「なぜ山に登るのか、しかも単独で」を問い続けたアルピニスト加藤文太郎はまさに「不世出の登山家」であり、「すべてを自らの力で切り開いていく人間」でした。研修所卒業後は長田区池田上町に下宿し、結婚後は長田神社近くに新居を借り、高取山を登っていたと知るだけで、非常に親近感を持ちました。

『孤高の人 上・下』(新田次郎著、新潮文庫、本体価格【上】850円、【下】800円、税込価格【上】935円、【下】880円)

 

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人生を豊かにする 歴史・時代小説教室

2023-01-13 12:30:50 | 

 歴史・時代小説家の安部龍太郎氏、門井慶喜氏、畠中恵氏のお三方に、歴史・時代小説の書き方の講演会の本。お三方ともそれぞれの手法を用いて執筆されています。どのように書かれているのかを一読者として興味をそそられます。

 特徴的なこととして何点かを列挙します。自分の好きな作家の作品の「構成分析」、いわゆる起承転結は全体の中でどのあたりに置かれているかを知り、プロット立ての参考にされています。それに付随して、手本となる小説を何度も何度も読み、そして、書き写すことも書き手の学びの一つです。

 門井慶喜氏の手法、年表をEXCELで作成すること。登場人物の年齢と合わせると小説が書きやすくなります。

 歴史小説では、歴史の事実を書きあげていますが、その奥にある何らかな人間的テーマをしっかりと著わすことが重要です。

 最後に、推敲では、「最小限の言葉数で最大のものを読者に伝わっているか」、また、「自分が書きたいことが的確に読者に伝わっているか」を考えられており、これは日常生活や仕事でも活かせますね。「推敲は裏切らない」というお言葉は名言です。

『人生を豊かにする 歴史・時代小説教室』(安部龍太郎・門井慶喜・畠中恵著、文春新書、本体価格800円、税込価格880円)

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