あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

最後の講義 完全版 𠮷岡秀人 人のために生きることは自分のために生きること

2023-03-30 11:16:40 | 

 NHKの『最後の講義 𠮷岡秀人』の書籍化された本書は読む者を勇気づけてくれます。

 著者の𠮷岡秀人先生は途上国で医療をするパイオニアの小児外科医。東南アジア諸国と日本の離島などへの医療支援を2004年から行っておられます。不安な政治情勢下、真っ当な医療を受診できない多くの人が𠮷岡先生へ向かってきます。

 人生100年時代、人生後半生に幸福になること、そのためには、自分の「寿命を変えたものの質によって、自分の人生の質が決まってくる」と考えられています。「自分の好きなこと、得意なこと、やりたいことをどんどん試し」、社会からの要求=ソーシャルディマンドに対応していくこと。そして、「人を大切にする前に自分の人生を大切にし、自分に価値がある、自分は本当に尊い人間であることを自ら悟ること、自覚」せよと述べています。I am OK,and You are OK.自覚悟の上で利他をすることが生きる得策です。

『最後の講義 完全版 𠮷岡秀人 人のために生きることは自分のために生きること』(𠮷岡秀人著、主婦の友社、本体価格1,450円、税込価格1,595円)

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あの夏の正解

2023-03-29 13:23:47 | 

 コロナウィルス感染拡大のため、2020年春の選抜大会は中止に、続いて5月には夏の甲子園大会も中止が決定。自身も神奈川県横浜市の桐蔭学園で高校野球部員だった、早見和真氏が、住んでいる愛媛県松山市の済美高校と石川県星稜高校、両校とも甲子園常連校の2校の野球部監督、そして野球部員へのインタビューを敢行しています。

 高校野球部員は甲子園出場のために練習に打ち込みます。現実を受け要らざるを得ないですが、目標が一瞬にして喪失すると、何のために1年生から厳しい練習にも耐えてきたのか?という疑問が湧き、落ち込むと想像します。その環境下で、監督、選手の苦しむ過程を追い続け、野球部引退時にどう考えていたのか?

 一つには、勝利すべきという目標が消えた中で野球をやり続けることが今まで忘れていた、「心から野球が楽しい」と再確認させてくれたこと、そして、自分を人間的に成長させることにつながり、「当たり前のことが当たり前ではない」、つまり、多くの人の思いの結晶として甲子園大会はあったということを心から感じることができた最終学年でした。「命」という字は「人が一回叩かれる」と書くと解釈すれば、彼らは今後の輝ける未来に貴重な体験をしたと思います。

『あの夏の正解』(早見和真著、新潮文庫、本体価格550円、税込価格605円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

神去なあなあ日常

2023-03-27 14:42:12 | 

 高校を卒業しても就職先も探さない平野勇気(ゆうき)は、高校の担任の先生と母親の策略か、生まれ育った横浜からは遠い、三重県中西部、奈良県境に近い神去(かみさり)村の中村林業に放り込まれました。迎えに来た同じ職場のヨキに、携帯の電池は捨てられ、逃げ出さないように予防線を張られました。過疎の山奥での肉体労働、少ない独身の若い男女、居候しているヨキ宅と山の現場の往復だけの生活に、村の濃密な人間関係や村の神事が加味され、逞しく成長していく1年間を綴っています。

 「山の生き物は、山のもの。山での出来事は、神さまの領域。お邪魔しているだけの人間は、よけいなことには首をつっこまない。」

 山や森のしきたり、林業の過酷さを感じながら、また、唯一の若い女性の直紀に恋焦がれる勇気は1年を経て、村では喜ばれる存在になりつつ、『神去なあなあ夜話』へと続いていきます。

『神去なあなあ日常』(三浦しをん著、徳間文庫、本体価格619円、税込価格681円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

徳川がつくった先進国日本

2023-03-20 16:11:30 | 

 井戸書店の歴史書の棚も、戦国時代は別にして、縄文時代と江戸時代は書籍を厚めに置いています。日本人に大きな影響を与えているのがこの2つの時代と考えています。江戸時代についてのバックアップを磯田先生の本書にお願いすると、4つの要素を取り上げています。

 まずは、鎖国。戦国の戦乱の世が落ち着き、海外からの侵略がない状態が徳川の平和をもたらしています。幕末に欧米の黒船が訪れるまで戦争だけはない時代が260年続くのは世界史でも稀です。

 次は飢饉。江戸時代には何度となく飢饉が発生しました。その中でも最大級は浅間山が噴火した1783年の天明の飢饉です。農村部での餓死者、都会での打ちこわしなど、政治が無視できない状況に対し、幕府や藩は民命を第一にすべく、方向転換を行います。食料備蓄、土木などの公共事業、人口増への対策などは国民の福祉を念頭に置いたものです。

 さらに、1707年の南海トラフが引き起こした宝永地震と津波による被害の甚大さに、それまで行ってきた新田開発はほぼストップし、環境破壊を止め、農村の人々の幸せを育むように、農業経営の充実や教育の普及などはまさに現代社会と同じです。

 さかのぼって、最後は1637年の島原の乱。これにより、国内の内乱は終わります。武士を評価するものさしは武功の有無から、今で言う公務員としての能力に置かれるようになり、そのための教育、特に「仁」を重んじる心の教育が豊かになりました。

 このように、現代日本社会の姿の原型が江戸時代に形作られています。やっぱり、江戸の歴史はおもしろい!

『徳川がつくった先進国日本』(磯田道史著、文春文庫、本体価格550円、税込605円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

山本由伸 常識を変える投球術

2023-03-16 14:38:28 | 

 山本由伸投手はWBCでも安心して観ていられる投球で、24歳と若くして日本球界ナンバー1投手となりました。パリーグ投手部門のタイトルを2年連続ですべて獲得し、沢村賞も2年連続で輝いています。

 彼の目指すところは「世界に類を見ないピッチャーになる」こと。また、先発ローテーションを15年間守り続けることも目標にしています。身体を部分で捉えずに、身体全体で使うことを意識してトレーニングをし、それがケガをしないことにつながっているのでしょう。若いながらも、「自己分析ができた中で取捨選択が的確にできる」存在なのです。東洋的な思想が根幹をなす、そのトレーニングの内容に関しては本書に譲りますが、積み重ねの賜物、積小為大そのものです。彼はプロ入り1年目に出会ったトレーニングを土台にして、「自分の軸」を築き上げています。

 二刀流の大谷翔平ばかりが注目されていますが、山本由伸も「世界に類を見ないピッチャー」としては独特であり、オリジナリティー満載です。

『山本由伸 常識を変える投球術』(中島大輔著、新潮新書、本体価格780円、税込価格858円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

万延元年のニンジャ茶漬け

2023-03-14 15:46:14 | 

 垂水区在住の松宮宏先生の3つの短編の新刊です。幕末の遣米使節団の侍たちが腰に付ける一品がニンジャの代物であると勘違いし、本当に忍者になろうとした海軍将校のストーリーには苦笑しました。「無すなわち夢である。日々、精進されい。」を日本の通詞は、「ナッシング  イズ ドリーム。シンク ディファレント」と訳し、異文化に触れる場面での一言としては最高です。

 また、3つ目の物語は埼玉出身の京都の大学に通う女子大生が神戸本社の外資系の会社に就職にあたり、友達の住む鈴蘭台で新居を探します。色々と不動産屋に紹介してもらったが、鈴蘭台のミモザ館という大豪邸の離れをその住人自らから勧められます。「人生は予想外の出会いの繰り返し。必要なときに必要な人が現れて、歴史と、真理を受け継いでいく。」そういう思いで生きていくと彩りある人生が出現しますよね。

『万延元年のニンジャ茶漬け』(松宮宏著、徳間文庫、本体価格700円、税込価格770円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

君のクイズ

2023-03-09 14:33:55 | 

 生放送のテレビでの優勝賞金1,000万円のクイズ大会決勝戦。どちらが答えても優勝となる最後の問題で本庄絆は、問い読みのアナウンサーが「問題」という声と共に早押しボタンを押し、見事の優勝を成し遂げます。対戦相手の三島は、「やらせ」ではないかという疑いが噴出する中、本庄が答えることのできた謎に迫ります。

 物語はテレビでのクイズ番組のリアルをさらけ出しながら、三島が真相に近づき、本庄自身にその訳を訊いて、「クイズとは必然的に参加者の人生についての競技」という証明も解いてしまいます。生放送のクイズ番組そのものが「やらせ」となってしまう。クイズ大会がミステリーになる面白さを感じました。

『君のクイズ』(小川哲著、朝日新聞出版、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スマホはどこまで脳を壊すか

2023-03-06 14:14:17 | 

 『スマホ脳』など、スマホに関してはその使用に対して警鐘を鳴らす書籍が続々と出版されています。日本では東北大学加齢医学研究所の川島隆太先生を筆頭に研究結果が、『「本の読み方」で学力は決まる』や『やってはいけない脳の習慣』、『子どもたちに大切なことを脳科学が明かしました』『オンライン脳』など書籍化されています。

 榊浩平・東北大学加齢医学研究所助教授は『「本の読み方」で学力は決まる』出版時の講演会でお話しいただいたこともあり、この度には前著からどれほど新事実が込められているか楽しみでした。

 人間らしさを発揮するのは脳の前頭前野であり、大人になるにつれて発達していきます。その前頭前野について、「インターネットを使い続けた(毎日使用する)子どもたちの脳の発達はゼロに近い数値」になっているという衝撃の事実が載せられていました。パソコンやスマホなど利用して検索して調べると、その場では情報を得ても、すぐに忘れ、忘れてもまた検索すれば良いと判断すると、脳は記憶したがらないしくみになっているらしい。これはその時点だけの課題だけではなく、認知症になりやすいという研究結果もあり、将来の日本は恐ろしい現実が待っているかもしれません。

 身体でも、負荷をかけないと筋肉がなまるのと同様に、脳も楽をすると大きなしっぺ返しがあることをよく理解した上で、子どもだけでなく大人もスマホの利用方法、時間を考える必要があります。

『スマホはどこまで脳を壊すか』(榊浩平著、川島隆太監修、朝日新書、本体価格850円、税込価格935円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする