あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

かけおちる

2023-02-19 09:28:57 | 

 四万石の小藩の財政好転を目指すべく新規事業を検討し実行に移す執政の阿部重秀。サケの遡上を促す川の改修を自らの事業として成功へ道筋を作った。しかし、彼は致仕を願い出ようと考える。その理由は22年前に、妻民江がかけおちを行い、重秀が二人を追い女敵討ち(姦通をした姦夫を本夫が殺害する)をした際、妻を結果的に谷から追い落とした事件があった。重秀自身はなぜ妻がかけおちたかは知らない。

 一人娘理津を育て、嫁がせたが、その理津もかけおちを実行。重秀はまたしても、かけおちる二人を追いかける・・・。なぜかけおちるのか?

 その真相は江戸時代ならではかもしれないが、妻の夫への愛は深く、夫は仕事に邁進し、それを理解していなかった。現在にも起こりうる情愛の景色。青山文平のストーリーは美しい。

『かけおちる』(青山文平著、文春文庫、本体価格610円、税込価格671円)

 

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生きがい―世界が驚く日本人の幸せの秘訣―

2023-02-19 09:08:26 | 

 海外に向けて日本のことを示した書籍は有名なものは、新渡戸稲造の『武士道』、岡倉天心『茶の本』、内村鑑三『代表的日本人』などがありますが、この『生きがい』(洋書では『IKIGAI』)も日本人が読むべきでは将来は同列に入ってくると思います。

 「生きがい」という言葉は日本語しかないらしい。ということは日本の文化、歴史、日本人の人生観から生まれたものになります。そして、この「生きがい」には大事な五本柱の存在を明かしています。それは、

柱1:小さく始める
柱2:自分を解放する
柱3:持続可能にするために調和する
柱4:小さな喜びを持つ
柱5:〈今ここ〉にいる

です。この本ではこの五本柱を歴史、文化、文学、宗教、職業観などから解説しています。現代の混迷する世界の解決に「生きがい」を持つ人が増えることが寄与するという著者の思いに賛同します。それだけ納得できる1冊です。

『生きがい―世界が驚く日本人の幸せの秘訣―』(茂木健一郎著 、恩蔵絢子訳、新潮文庫、本体価格520円、税込価格572円)

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あなたはここにいなくとも

2023-02-13 13:48:58 | 

 2月20日発売の町田そのこさんの新刊短編集です。こちらもゲラを読ませてもらいました。

 恋人を紹介したいと思えない家族の存在、会社でいじめられ引きこもってしまい、彼氏に発破をかけられる女性、祖父の従妹と思っていた人がなんと愛人だったこと、会社での上司との不倫、そして、同じマンションの幼なじみの同級生の男の子を好きになったけど引っ越すことになった5つの話を、「あなたはここにいなくとも」という書名で串刺しにした本書は、まさに「ここにいないあなたが私を導いてくれる」力の持ち主であることがわかります。

 変えれない過去に後悔し、どうなるかも知れない未来に悩みますが、結局は現状をすべて受け入れること、そして、手を差し伸べてくれる人に甘えることが次の一手を生み出します。現代人の抱える思いを少しでも解いてくるストーリーに心は和らぎます。

『あなたはここにいなくとも』(町田そのこ著、新潮社、本体価格1,550円、税込価格1,705円)

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三流シェフ

2023-02-13 13:20:46 | 

 「オテル・ドゥ・ミクニ」が閉店の情報は衝撃のニュースでした。そして、三國さんが『三流』とはどういうことなのか?興味抱いて、三國さんの経歴書である本書を読みました。

 北海道の増毛、朱文別という漁師町で三男坊として生まれ、父はもちろん漁師。7人兄弟で子どもの頃から貧しく、清三は父の漁を手伝い、船に乗り、網を引き、魚を魚市場や料理屋へ配達もしていました。のちに料理人になる道はこの時に出来たかもしれません。中学を卒業し、札幌の米屋へ住み込みで働き、夜間に調理の専門学校へ通い、ホテルのシェフになるべく、札幌グランドホテルに文字通り潜り込みます。父の「大波が来たら逃げるな。船の真正面からぶつかってけ」や、母の「キヨミ、おまえには学歴はないけど、志はみんな平等なんだからね」の言葉に支えられていたのでしょう。

 懸命な皿洗いと先を読む仕事力で札幌グランドホテルで腕を上げ、日本一と言われた帝国ホテルでも一人前になろうとしたが、皿洗いだけで終える始末。しかし、村上信夫総料理長への接近は功を奏し、帝国ホテルでは職を得れなかったが、海外で働ける道は付けてもらい、大使料理番からヨーロッパの有名フランス料理店で修業を重ね、天狗になってていたが、何かが足りない。それは・・・。

 最後には自分自身のルーツに戻る、自分は何者なのかの定義づけが必要になることは我が身を振り返っても重要なポイントになりました。売れない本屋をいかにするかはここにあるのでしょうね。

『三流シェフ』(三國清三著、幻冬舎、本体価格1,500円、税込1,650円)

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水車小屋のネネ

2023-02-10 16:25:21 | 

 3月2日発売予定のゲラを読ましてもらいました。

 母親の婚約者が新しい事業をするために資金が必要になり、18歳の理沙の専門学校の入学金を取り上げられた形となり、また、8歳の律は婚約者にいじめられるが、母親は庇護してくれない。そこで、姉妹で家出を敢行。都会から離れた山間部の蕎麦屋さんで理沙が働き、律は小学校へ通います。辛い日々を送る中でも、蕎麦屋の夫婦や律の担任の先生、地域の人たちの温かい支援を受けることになります。

 成長した律は心で語ります。「自分はおそらく姉やあの人たちや、これまでに出会ったあらゆる人々の良心でできあがっている」。そして、律は恩送りを本当に自然にやり始めます。

 蕎麦屋の前には、蕎麦の実を水車の力で臼で製粉する水車小屋があり、ネネという名のしゃべる鳥も飼育されています。このネネがこの小説の中では象徴的な存在です。ネネもみんなの良心で出来上がっています。

『水車小屋のネネ』(津村記久子著、毎日新聞出版、本体価格1,800円、税込1,980円)

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山とハワイ 上

2023-02-10 16:01:35 | 

 ハワイに行ったことはあっても、視線の先はやっぱり海。ハワイ島ではマウナ・ケアへの日の出ツアーには参加しましたが、標高4,190メートルでも車で行くので、登山という範疇ではありません。しかし、ハワイ島のマウナ・ロア(標高4,169m)へはまさに登山。山小屋に2泊、それも食料、水は持参。火山なので、溶岩の上を行くので、他の星を歩くような感じなのは少し閉口ですが、満天の星空は圧巻なのでしょうね。

 キラウエアやワイピオのトレッキングも掲載いますし、とにかく食レポがきめ細かに書かれていますでの、そちら方面に食指を動かされる方にもいいのではないでしょうか。

 下巻も読みま~す。

『山とハワイ 上』(鈴木ともこ著、新潮社、本体価格1,600円、税込1,760円)

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