四万石の小藩の財政好転を目指すべく新規事業を検討し実行に移す執政の阿部重秀。サケの遡上を促す川の改修を自らの事業として成功へ道筋を作った。しかし、彼は致仕を願い出ようと考える。その理由は22年前に、妻民江がかけおちを行い、重秀が二人を追い女敵討ち(姦通をした姦夫を本夫が殺害する)をした際、妻を結果的に谷から追い落とした事件があった。重秀自身はなぜ妻がかけおちたかは知らない。
一人娘理津を育て、嫁がせたが、その理津もかけおちを実行。重秀はまたしても、かけおちる二人を追いかける・・・。なぜかけおちるのか?
その真相は江戸時代ならではかもしれないが、妻の夫への愛は深く、夫は仕事に邁進し、それを理解していなかった。現在にも起こりうる情愛の景色。青山文平のストーリーは美しい。
『かけおちる』(青山文平著、文春文庫、本体価格610円、税込価格671円)