別れた妻が再婚したが、夫ともども交通事故死したため、彼らの子どもである小学5年生の百音(もね)を引き取った統理(とうり)はマンション5階で暮らしています。隣の部屋の住人の路有(ろゆう)は自家用車の移動型のバーを営み、朝食を3人で取ります。そのマンションの屋上には、悪い縁を断ち切ってくれるというご利益のある小さな神社があり、統理が神官として管理運営しています。心に傷を負ったり、どうしても新しい道に進みたいと思う人々が形代に願いを書いていきます。
同じマンションに住む39歳の桃子は結婚へのプレッシャーが強いながらも、高校時代の悲しい思い出が横たわっています。路有はゲイとしての熱愛も失い、次の歩みに苛立っています。桃子の高校時代の恋人の弟は仕事からのうつで悩んでいます。それぞれが世間の抱くステレオタイプから逸脱することで頭を抱えています。しかし、統理、路有、百音の生活の楽しいスタイルと縁切り神社の御蔭で、立ち直っていく人の姿はとても印象的です。
「かけた情けは巡り巡って自らに返ってくる」「手を取り合ってはいけない人なんていないし、誰とでも助け合えばいい。それは世界を豊かにするひとつの手段だ」
人は思い悩みながらも少しずつ進んで生きています。そばにいる人が思いをかけてやれるか、そこに答えがありそうです。
『わたしの美しい庭』(凪良ゆう著、ポプラ文庫、本体価格740円、税込価格814円)