大阪の京阪沿線に住む松岡一家。高校1年生の松岡清澄は子どもの頃から手芸や刺繍が趣味で、学校で浮いた存在。難波で学習塾の事務職の姉の水青(みお)は小学生の頃にスカート切りに遭ったことから、女性っぽいことやかわいいことを嫌う傾向にありました。水青が結婚することが決まり、派手な結婚式、披露宴を避け、ドレスも地味なものにしたいという彼女の発言に反応した清澄は「ドレスつくったるわ!」と明言。おばあちゃんとぼちぼちと縫い始めるも納得がいきません。清澄が1歳の時に両親は離婚。縫製工場の営業職の父親である全(ぜん)は学生時代に服飾デザイナーを目指していたが、父親失格でだらしない性格のため、その夢は潰えていました。清澄がドレスの件で父に相談したら、全は娘のドレスを一気に作り上げる快挙を成し遂げます。
大阪ならどこにでもあるファミリー、松岡家は誰もが普通から少しずれています。しかし、そのずれ加減が一家を豊かにしている後押しをする言葉がストーリーに表現されています。清澄の手芸好きにも、
「自分の好きなことを好きでないふりをするのは、好きでないことを好きなふりをするより、もっともっとさびしい」
とあり、母さつ子の清澄に対しての家庭教育についてさつ子を諫める祖母文枝は
「あの子(清澄)には失敗する権利がある」
と一刀両断です。普通からの乖離を是正してくれる愛情が流れています。
『水を縫う』(寺地はるな著、集英社、本体価格1,600円)