あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

もの作りは者づくり

2021-12-31 09:46:58 | 

 森政弘著『退歩を学べ ロボット博士の仏教的省察』を初めて読んだのが7年前(その時のブログは↓)。何度か目を通していますが、いつも刺激を受けています。その森政弘先生から教えを受けた人たちが森先生の教えをまとめたのが本書です。創造性開発のヒントが満載です。

 https://blog.goo.ne.jp/idomori28/s/%E6%A3%AE%E6%94%BF%E5%BC%98

 明確に述べられているのは、仏教の要諦とされている、柔軟性を持って「固定観念にとらわれない」「こだわらない」「執着しない」ことを習慣化することです。そのためには、「自分の持っているイメージをいったん無にして(自己否定)ありのまま見る」、あるいは、「異なったものの中から相似性、共通項を探し出す」ことを行うことを推奨しています。

 また、頭の意識で物事を考えてもロクなことを思いつかない傾向にあるので、森先生の創造のプロセスである「念・忘・解」での、「忘」の状況になれるように物事に没頭する三昧(ざんまい)に身を置きなさいと述べています。「忘れることによって、考えていた事柄が無意識の領域に沁みこんで熟成され」、無意識が働くと、全機~意識と無意識の自身の持てる天賦の機能を100%発揮することができます。

 人は惰性に流されやすいので、「常に原点、根本に立ち返る」ことも忘れないようにすることも明記しています。いずれにしても、「随所に主と作(な)れば、立つ処(ところ)皆真なり」(義玄禅師)の言葉通り、主体性をもって取り組む仕組みを構築しなければなりません。

 これからの時代、創造力の有無が結果を決めます。その開発の参考にしていただきたい。

『もの作りは者づくり  ロボット博士の伝授録』(森政弘研究会著、佼成出版社、本体価格2,000円、税込2,200円)

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辻調鮨科

2021-12-18 15:19:07 | 

 決壊しました!涙腺。エンディングを早朝に読んでましたが、嫁に「何、泣いてんのん?」が朝の挨拶。

 料理界の東大、辻調理師学校に昭和63年に鮨科が誕生し、そこに集う学生の1年間の成長物語。主人公・長谷川洋右は岡山県備中高梁の豆腐屋の息子。幼い頃に食べた鮨の味が忘れられず、握り手になるべく勇んで入学するも、劣等生一直線。やくざから鮨職人になり、ハイレベルの技術を持つ担当教師であり、師匠でもある城島永嗣は素直な洋右を徹底的に仕込みます。自身の努力の甲斐もあり、落ちこぼれから徐々に離陸し、卒業前には鮨科のリーダーにまで昇り、各科で競い合う卒展グランプリでは決勝にまで勝ち上がります。その間に、城島先生は視力を失い、不慮の事故でこの世を去りますが、優勝者発表のある卒業式の1日のクライマックスでは落涙必至です。

 卒業後は鮨職人としての厳しい世界を迎えますが、恩師の言葉、「成功は、それを信じて努力を重ねた者だけが手に入れられる」に支えられて生きていきます。

『辻調鮨科』(土田康彦著、祥伝社、本体価格1,800円、税込1,980円)

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腸と森の「土」を育てる

2021-12-13 14:22:29 | 

 店頭の健康書コーナーでは「腸」関連の本が賑やかです。『新しい腸の教科書 健康なカラダは、すべて腸から始まる』(江田証著、池田書店)や『腸がすべて』(フランク・ラポルト=アダムスキー著、東洋経済新報社)がロングセラーとなっています。腸は消化器という役割と学生時代は学びましたが、第二の脳とも呼ばれ、消化以上の働きを司っています。口から肛門までの消化管はどんな生物にも存在するベーシックな器官であり、その中でも腸は、異物である食物を栄養素として変化させ吸収します。腸内には多くの細菌が住み、これらのしくみに寄与しています。

 腸内細菌がいかに豊富で活動的であるかどうかがその人の健康を左右します。これと全く同じことが土壌にも言えます。土内の微生物の量の多さや多様性が森や田畑の健全性を示し、多様な生物や農産物の量や質を決定します。

 われわれ人間はその土壌が生んだ穀物や野菜、また、それを飼料にした牛、豚、鶏などを食しています。つまり、土壌が良ければ、腸内も良好になり、健康を維持増進できます。何を食べるかが健康度合いを決めるのであれば、優れた自然環境を創り出すことが重要なキーポイントになり、地球環境全体を考える視点を与えてくれます。食事をファーストフードだけにした場合、腸内細菌は激減し、さまざまな病状を呈するという実験結果からも、土壌の微生物を含んだ食物を摂ることが腸内細菌の活性化につながり、健全な身体にします。

 人間の目では見えない微生物をいかに活躍してもらうかが今後を占います。

『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(桐村里紗著、光文社新書、本体価格920円、税込1,012円)          

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心を変えれば、世界が変わる 世の中の「7つの原則」とは~心と現実は繋がっている

2021-12-09 17:04:57 | 

 世の中を泳いでいく中での「原理原則」7つを詳述しています。

 第1原則 「心」が先で、「現実」が後 これこそが最重要です。「思考は現実化する」というように、心と現実は密接につながっています。つまりは、心でどう思うかです。ネガティブに考えると、現実も暗ります。そのために、形から入る、態度を変える、潜在意識にアピールすることを訴えられています。

 第2原則以降も第1原則が自身にインストールされていれば、自ずとできるのではないかと思います。だからこそ、目に見えない「心」をいかに深化させるかが焦点になります。

『心を変えれば、世界が変わる 世の中の「7つの原則」とは~心と現実は繋がっている』(鴨頭嘉人著、鴨ブックス、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

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雪のなまえ

2021-12-07 16:31:25 | 

  学校でいじめを受けて不登校の小学5年生の雪乃を助けてやりたいという思いで、父の航介は仕事を辞めて、自分の祖父母の住む田舎へ娘を連れて移住します。出版社で編集を手掛ける母は仕事を続け、週末だけ娘のもとへ足を伸ばします。移住してからも転校せず、父や曾祖父、曾祖母の農業や家の手伝いをしながらも、雪乃を同い年の連中の一員に溶け込まそうとする大輝くんが気になり、少しずつ胸襟を広げていきます。美しい自然、心優しい大人の人々も温かい目で雪乃を見守ります。

 「起き上がり小法師(こぼし)とおんなじだ。てっくりけえったら、ほー、何べんだって起き上がンねぇと」

 周りの人々が起き上がれる環境を作り、自分の意志で起き上がる。その意思を貫け!と信じての小学生活の終焉です。

『雪のなまえ』(村山由佳著、徳間書店、本体価格1,700円、税込価格1,870円)

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神曲

2021-12-07 16:05:08 | 

 平凡で幸せな暮らしを積み重ねていた檀野小鳥店一家は地獄へ落されます。小学生の息子が校門の前で通り魔に刺殺され、犯人も自殺しました。母親は特にショックが激しく、新興宗教へ入信、苦しみを除去しようとします。寄付をする妻を正気にするために、夫はやっきになるも、家族の幸せを考えて、自身と娘も入信します。この小説は、夫、妻、娘の順で物語を紡いでいきます。

 本当の神はどこにいてどのように導いてくれるのか?を問いかけながら、檀野小鳥店にもう一度の事件が発生。そして、エンディングでは・・・。

 心に負った傷を癒すためにはいろいろな方策があるかも知れません。でも、いまここをじっくりと生きることしか人にはできないのかもしれません、苦悩を背負いながらも。

『神曲』(川村元気著、新潮社、本体価格1,550円、税込価格1,705円)

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東井義雄「いのち」の教え

2021-12-01 15:58:53 | 

 兵庫県但東町出身の東井義雄先生の子どもへの視線は本当に優しいし、柔らかい。また、モノの見方も全方位的であり、天空から覗き込んでいるようです。本書を読み進むごとに涙が溢れ、胸が熱くなります。

 子の母への気持ち、そして、母が子どもを包み込む思いに勝るものはありません。悪事を働いたために少年院に入っている少年も母からの手紙を大切に枕元に積むさまは、母心に頭を垂れる心の現れです。父が雪の降る夜に働いている姿を知って、父親への尊敬を抱く息子。言葉は荒くとも、行動は心の表現の一種です。

 徒競走でのビリにもビリの役割があることを読み取って、希望を持つ子どもは輝いているはずです。「一番だけが立派であるのではない。ビリにだって日本一のビリがある。」と認識すれば、どんな人にも生きる意味を存します。そうなれば、きっと生きやすい世の中になるはずです。

 育児中のお父さん、お母さん、是非とも一読して、お子さんへの思いを振り返ってもらいたいと思います。

『東井義雄「いのち」の教え』(東井義雄著、佼成出版社、本体価格1,262円)

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