あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

武器としての落語

2022-10-28 15:40:03 | 

 「本の日イベント」として井戸書店は満を持して、

『談慶・一頁二人会』

を明日、新開地の奏楽舎和みにて開催します。アマチュアと一緒に落語をしてくださる談慶師匠には誠に申し訳なく思う一方、書店をやっていたご利益と思って、明日の高座は楽しみにしております。「本の日」に因んで、本や紙が登場するネタを選びます。また、中入り後は、「本の日」対談を致します。読書の楽しみや重要性を語り合います。もちろん、談慶師匠の書籍23点の中から厳選して販売、そして、サイン会も行います。入場料はなんと500円。真打ちの落語を2席、この価格で聴けるのは贅沢です。

 さて、明日販売する最新刊が『武器としての落語』です。副題「天才談志が教えてくれた人生の闘い方」と書かれているように、談志師匠の教えを9年半に渡り叩き込まれた、つまりは前座期間が人の3倍もあった、また、落語のエッセンスをふんだんに盛り込んだ、談慶師匠の人生をいかに生きるか論です。

 「状況判断はドローンで」から始まり、「自分を貶める」は最強のコミュニケーションスキルまで、本書の底辺に流れる視点は、自分に迫った目前の事象を引いて観察して行動を決するということ。己にだけベクトルを向けるのではなく、空間的には上下左右、斜めや後ろにまで自分の配慮を投げかけ、時間的に一拍置いて主体的に考えてみることです。そうすることによって、状況判断力や対応力、アドリブ力も発揮できる。また、「常にアップデートを忘れない」とあるのは、アウトプットするからインプットは必要なものであり、自己を磨き続けることを習慣化していけば前進できます。

 明日の対談でも、「武器としての読書」を語り合えるように、今から作戦を練ります。

『武器としての落語  天才談志が教えてくれた人生の闘い方』(立川談慶著、方丈社、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

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発酵道

2022-10-23 10:44:12 | 

 僕たちは自然から離れて、人間界という不自然なところに身を置いていることがよ~くわかる本です。

 三百年続く老舗の造り酒屋『寺田本家』に26歳で婿入りした寺田啓佐さんは、以前の仕事の電化製品販売の経験を参考に、低迷時代まっしぐらの酒蔵を儲ける会社にしようと意気込みます。しかし、目先の経営に走り、地酒ブームに乗ろうと画策し、売り先の確保ために飲食店まで開業するも、ニッチもサッチも行かなくなり、社内の雰囲気も悪くし、挙句の果てに自らの直腸の管を腐らして(いわゆる痔瘻)入院。

 発酵の仕事に携わりながら、わが身を腐敗させるという有り様。反自然的な行為や不調和の積み重ねが腐る元と判断し、「腐敗せずに、発酵すればいいんだ!」と開眼。原材料を無農薬米にし、効率を求めず、従来通りの酒造りに徹することで蔵の経営も少しずつ上向きに変化していきました。酒造りの根本である微生物に着目すると、見えてくる人間の生き方、「御酒ひびき=うれしき・楽しき・ありがたき」の発信を現代人はキャッチしなければなりません。

『発酵道』(寺田啓佐著、河出書房新社、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

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部長の大晩年

2022-10-19 17:10:06 | 

 読書会をするために再読しました。

 永田耕衣は三菱製紙高砂工場の製造部長兼研究部長を最終ポストで55歳の定年後から97歳までの42年間を俳人として、書家、読書家、骨董収集家など多彩な顔で生きました。これはサラリーマン時代からの趣味の域をゆうに超えて、一文人として確固たる意志の下、日々を楽しまれました。

 定年後の住処は山陽電車の月見山と須磨寺の両駅の間の須磨区行幸町。彼は群れない人で、俳壇からも離れて俳句を詠むが、出会いだけは大切にしました。「出会いは絶景」という名言を繰り返し口にし、訪問してくる者は拒まず、話し相手に困らない日々を送ります。そして、相手を十二分に尊重する姿勢はサラリーマン時代から続きます。

 また、禅の教えを禅寺の和尚から学び、自身の人間観にも影響を与えたのでしょう。「器より中身」を重視し、シンプルな上にも高い好奇心から、行く道では深い洞察を重ね、90歳になって第2回現代俳句協会賞を受賞するという大器晩成。

 人生100年、いや120年と言われるようになる今、彼の生き方は後半生の長いであろう我々には参考になるし、一つのモデルとして学ぶべき存在でもあります。

『部長の大晩年』(城山三郎著、新潮文庫、本体価格520円、税込価格572円)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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傑作はまだ

2022-10-13 15:19:18 | 

 生まれてから一度も会ったことがなかった息子が突然やってきて、一緒に暮らし始める父親であり小説家である加賀野。職業柄か、ひきこもり状態でも生きてこれたため、世間との付き合いに慣れていない父に対して、地域にもすぐに溶け込める、社交的な息子・智。まるで水と油のような性格の違いにも、共有する時間の経過と共に、変容していく父は、

 「日常で交わされる会話はもっと現実的だ。だけど、それらが重なっていく中で、真実が見えてくる。」

と認識し始め、暗く闇のような小説ばかり書いていた、その内容にも明るさを滲みだしていきます。息子のことを少しずつ知り、自分を振り返り、新しい家族へのステージに踏み出す。とてもハッピーなエンディングは読者に希望をもって生きる力を与えてくれます。

『傑作はまだ』(瀬尾まいこ著、文春文庫、本体価格650円、税込価格715円) 

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やっと訪れた春に

2022-10-09 10:48:56 | 

 江戸時代、本来なら一人で良い、橋倉藩の近習目付(きんじゅめつけ)が二人いる。なぜなら、本家と分家から交代で藩主を出すために、ともに齢六十七歳の長沢圭史と団藤匠が38年間勤め、気心もしれています。長沢圭史は幼少の頃から父に「斬気」を身に付けるために、剣の稽古で亡骸を斬ることを強いられ、これをしていたのは、圭史と匠と、そして、「いるかいないかもわからぬ一名」。

 次期藩主の急遽を機に、長らく二家から一家に藩主が統合され、加齢による身体の衰えを感じていた圭史は「今なら、近習目付は一人でもなんとかなる」と判断し、致仕願いを出し、晴れて老後の春を楽しもうとした矢先に、暗殺事件が発生し、春は遠のきました。

 まさにミステリー小説さながらの犯人捜しは、「斬気」という恐ろしい言葉と共に揺れ動きます。

『やっと訪れた春に』(青山文平著、祥伝社、本体価格1,600円、税込1,760円)

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覇王の譜

2022-10-04 13:13:02 | 

 子どもの頃に将棋の才能ありとして大会に出場し優勝を収めた直江大、3位に沈んだ剛力英明は共に関西の奨励会に入り、友として切磋琢磨して棋士となるも、力量が伸び悩み、C級2級から上へ登れない直江に対し、剛力は順調に昇段し、タイトルも取るA級クラスの存在になります。剛力から「一流になれないぞ」と烙印を押された直江は、剛力と袂を分かち、師匠の師村王将や、将棋界のトップに君臨する北神には直接の指導を受け、また、直江に弟子入りし、直江にAI将棋の導入から実践まで尽力した小学生の拓未らからの援助もあり、メキメキと昇級し、1度も勝てなった剛力と新タイトルの最終局を戦います。

 直江は元師匠である三木からの薫陶である「どの世界でもてっぺんに立とうと思うてるもんは、いつ来るかもわからん奇跡に備えとかなあかん」を胸に精進し続ける姿はとても美しい。歯を食いしばり、上を目指す道にはライバルの存在があり、頂上からの視線を受けつつも、その頂に立ちたいと志向する過程に感動します。

 元奨励会会員で、将棋の世界を深く知る、兵庫県出身の著者ならではの作品。将棋のことがわからなくとも物語には融け込めます。

『覇王の譜』(橋本長道著、新潮文庫、本体価格750円、税込825円)

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