あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ

2015-07-28 16:15:44 | 

 アナログな本屋をやっていると、現実に埋没してしまうのですが、本書を読んで、デジタルの世界で何が起きているのか、さらに、それを理解した上でどっち向いていけばいいのかがよーくわかりました!

 書名の通り、インターネットが普及し、SNSで人と人がつながり、スマホを手にした現代人は、マスのメディアから離脱し、150人程度の集団の中の1人になる、つまり原始人になるという大命題の下、デジタルのことを知り尽くしたお2人、小林弘人氏と柳瀬博一氏の対談集。

 デジタルに移行しつつある今、どういうことが起きているか?

①情報源がマスコミからSNSを介しての信頼のおける友人や知人に移っている

②ウェブやSNSによるコンテンツデータを解析し、誰に、いつ、どこで、どのようなマーケッティングをしたらよいへ移行している

③ウェブやSNSで情報開示をし、ユーザーと一緒に商品開発ができるようになった

④モノが潤沢になり、それが行き渡ると、経営においては、デザインが重視され、これの重要性を理解できない経営者がいる企業は危ない

 他にもさまざまなことが論じられていますが、こんな時代でも生き残るのが際立った「属人性」を持つ人。「商店街の多くがシャッター商店街化しているんだけれど、そんな中で、どこでも生き残っている業態が3つある。それが『スナック』、『洋品店』、『理容店・美容院』。」その3つの売り物は人であることが大きな要因であり、誰でもできる店舗は残っていけない。

 また、リアルの店舗では、 「編集力」の有無が決定打になること、これは納得できますね。どこの店舗も同じ商品が陳列されている中、いかに切り口が違うか、商品に対する視点が変われば、陳列も変わり、店のアピールの仕方も変わる、つまりは店舗がオリジナルなものになります。

  お2人とも編集業務をされているので、リアル書店のあり方や代官山蔦谷書店のコンセプトなど、本屋のオヤジに参考になるお話が読めて幸せでした。

『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』(小林弘人・柳瀬博一 著、晶文社、本体価格1,500円)

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コミュ障 動物性を失った人類 

2015-07-26 08:01:47 | 

 「コミュ障」はコミュニケーション障がいの略で、自分の言いたいことはしっかり言うが、他人の話には耳を傾けようとせず、相手の目を見て会話をしないなど、コミュニケーションが成立しえない可能性がある人のことを指します。

 健常者と「コミュ障」の人を脳科学的に考察すると、情報処理回路が、健常者の場合は脳の皮質下回路である動物的回路に基づいていますが、「コミュ障」の人は皮質回路である人間的回路を使用しています。その意味では、「コミュ障」の人の方が進化しているとも判断できます。動物的回路は危機的環境に置かれる場合に作動することが多く、現代のように豊かなかつ安心な社会では脳の働きも変化しているようです。

 また、マイペースでご都合主義者な「コミュ障」の人は、SNSなどの登場で、他人に注目を浴びることに意義を感じやすく、健常者から見ればおかしいことも意に介さず、ネット上に情報提供をする、しても賛同が得られなければ、さらに過激なことをします。

 もう一つの特徴は、細部にはこだわるが、全体を顧みない。本書の表現では、「木を見て森を見ない」傾向にあり、オタク系となりやすい。

 しかし、「コミュ障」の人には、レオナルド・ダビンチ、アインシュタイン、南方熊楠などの天才的業績を残す人が多く、その意味では、彼らを正しく理解し、能力を引き出す社会になることが、世を発展させることにつながります。わたしたちは「愛」を持って、人と接する基本が問い直されているのではないでしょうか?

『コミュ障 動物性を失った人類 正しく理解し能力を引き出す』(正高信男著、講談社ブルーバックス、本体価格800円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

18cmの奇跡 「土」にまつわる恐るべき事実!

2015-07-21 15:15:30 | 

 「生きている人間がどこから来て、どうして生きているのか」という子どもの頃に抱いた疑問を考えた著者が至った答えは、

 「人間は土壌から来ている」

ということでした。われわれの食は野菜や果物は土壌から取れ、、牛肉、豚、鳥などは土壌からの植物を餌にして、最終的に私たちの口に入ります。そして、農学部農芸化学科に入学し、卒業後は農水省等を経て、現在は農業大学校校長を務めておられます。

 本書は、見開き2頁単位で、写真と短文で綴った、「土の再発見」を促す本です。現代人が忘れている、しかし、極めて重要な土の存在を教えてくれます。

 「人類が生きるために使用できる土壌を地球の陸地表面に置いてみると、それはたった18cmの厚さにすぎない。」

 46億年の地球の歴史の中で、土は夥しい数の微生物を養い、植物を育ててきました。つまり、地球上に生息する動植物、微生物は土に依存し、そして、自らも土に帰っていく、この繰り返しを行ってきました。

 「人間は土から生まれた物を食べている、土の生きものなのである。土壌の中で生きるミミズやダニと同じ生きものなのである。わたしたちは土壌から来て、土壌に還る生き物なのである。」

 しかし、人類はこの土壌に致命的な悪影響を与えています。収奪的な農耕と産業革命により、

 「文明人は塩類土壌と砂漠を残した。」

 本年度2015年は「国際土壌年」です。

 「環境を保全するとか改善するということは、私たち自身を保全するとか改善することにほかならない。そのためには、わたしたちの生き方と心の豊かさが必要になる。」

 「環境倫理がない世界では、自然は無秩序と化し、天地は人間にしっぺ返しを食らわせるであろう。」

 土壌との共存が薄れている現代人が土を触れるところから始めましょう!

『18cmの奇跡 「土」にまつわる恐るべき事実!』(陽 捷行(みなみ かつゆき) 著、三五館、本体価格1,500円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

社員が輝くときお客さまの満足が生まれる

2015-07-20 16:08:05 | 

 バグジー美容室と聞けば、美容業界関係者ならびにESやCSを気になされている経営者ならご存知であろう美容室です。北九州市を拠点に7店舗を展開する経営者・久保華図八氏の経営報告を1冊にした本書は中小企業経営者に良い刺激を与えます。

 経営危機の挫折を経験した彼の経営思想は次のとおりです。

 CS(顧客満足)の極意は

①お客様に安心を与える ②手間をかける ③相手の立場になる「利他の心」 ④自分たちの心のコンディションを常に整えておく

とし、ES(従業員満足)の極意は

①より良い人間関係をつくる ②学習文化をつくり上げる

です。学習文化の向上には読書を強制的にでもやるべき勉強法とされていることは納得できます。

 これらのベースには、「企業の目的は、人材育成」であり、「人間尊重の経営」を目指しており、スタッフの心(価値観)の教育と能力開発の両輪で人の成長を促すスタイルは理解できます。

 最後に、今やるべきことを、「当たり前のことに情熱を込め、特に些細なこと、小さなことに情熱を込める」と明言できる経営者こそ、真のリーダーと言えるでしょう。

『社員が輝くときお客さまの満足が生まれる』(久保華図八[かずや]著、経済法令研究会 、本体価格800円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

レジリエンスとは何か

2015-07-15 14:06:35 | 

 グローバル経済は効率やコスト重視や利益追求一辺倒のため、社会そのものも有事に遭遇すると、なかなか復旧、復興まで導けないことが起きています。そんな中、「外的な衝撃にも、ぽきっと折れてしまわず、しなやかに立ち直る強さ」という概念であるレジリエンスは、生態系や心理学の分野で発展してきたものが、教育、子育て、防災、地域づくり、温暖化対策に応用されてきています。本書はレジリエンスの教科書として、非常にわかりやすく解説しています。

 短期や平時であれば、効率追求型でもいいですが、長期的視点に立った場合や有事の場合を考慮に入れて、社会システムの中にレジリエンスの要素を複眼的に持つことが大切になります。レジリエンスの構成要因は次の3つです。

多様性

モジュール性=ふだんは全体とゆるやかにつながっても、いざというときには、自分たちを全体から切り離して、自分たちだけで成り立つようにする

密接なフィードバック

 特に、石油依存社会を避け、地域経済の自立度を高めることが重要になります。エネルギーを地域で生産したり、地産地消(最近では地消地産=消費するものを生産する)や地域通貨、地域内再投資力がキーワードになります。リローカリゼーションも叫ばれています。

 心理学の分野ではいかに生きるのかにおいて、レジリエンスの思想は禅やタオに非常に似通っており、東洋思想が根源と言っても過言ではないでしょう。教育、災害、環境など、レジリエンスは無視できないと思います。

『レジリエンスとは何か 何があっても折れないこころ、暮らし、地域、社会をつくる』(枝廣淳子著、東洋経済新報社、本体価格1,700円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あん

2015-07-09 18:00:09 | 

  河直美監督による映画を見られた方も多いかと思いますが、その原作は課題図書にも選ばれたことのある名作。

 刑務所で服役したし、出所後にどら焼き屋・どら春を任された千太郎。バイト募集のチラシを見て、やってきたのが70歳を過ぎた手の不自由な女性・吉井徳江。彼女の作るあんの旨さに千太郎は感動し、彼女を雇うことになりました。あんが変わることによって、売上も急上昇するも、ある時期からパタッと売れなくなります。徳江は自分が原因だと感じ、辞めることに。彼女は完治しているものの、ハンセン病でした。あんをさらに美味くしようと、徳江が住むハンセン病療養所を千太郎は訪ねます。

 ハンセン病を発病後は療養施設に閉じ込められた人生を歩んできた徳江は、「人の役に立ちたい」一心で、どら春で自分の価値を発揮することができ、とても幸せだったでしょう。

 「闇の底でもがき続けるような勝ち目のない闘いの中で、私たちは人間であること、ただこの一点にしがみつき、誇りを持とうとした」

 「囲いを越えるためには、囲いを越えた心で生きるしかない」

 辛い人生を歩みながらも、「あん」という甘味が人とのつながりを産み、生きる終末にちょっぴり口福を招いたかなぁと思います。

 『あん』(ドリアン助川著、ポプラ文庫、本体価格600円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ぞうきん

2015-07-04 17:00:15 | 

  『置かれた場所で咲きなさい』や『面倒だから、しよう』などのベストセラーを書かれた、ノートルダム清心学園理事長の渡辺和子さんが、河野進さんの詩を再編したいという企画のもとに生まれたのが本書『ぞうきん』です。

   河野進さんは1904年和歌山生まれ、神戸中央神学校で学び、岡山県の玉島教会で牧師になられました。賀川豊彦に奨められた、岡山ハンセン病療養所での慰問伝道を50有余年続けられました。「玉島の良寛さん」と呼ばれた河野さんは、「聖良寛文学賞」も受賞されています。

  良寛さんというだけあって、凡人とは視点が違い、また、弱者に優しい気概が詩に滲んでいます。平易な言葉で書かれた詩たちは読む者の心を捉えて離しません。書名の「ぞうきん」という作品はぞうきんの置かれている立場に同情しつつ、ぞうきんのお役立ちに感銘を受け、自身もぞうきんのようになりたい!と宣言されています。心がざわついているときに音読してはいかがでしょうか?

 『ぞうきん』(河野進著、幻冬舎、本体価格857円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

さよなら、ニルヴァーナ

2015-07-03 17:43:54 | 

  『絶歌 神戸連続児童殺傷事件』が世を騒がせる直前に出版された、『さよなら、ニルヴァーナ』。少年Aを題材にしたフィクションです。フィクションとは言え、須磨区の住民としては生々しく感じられるほど、事件の舞台の情景模写が目に映ってきました。

 この作品の中で、この物語を描くのは、小説家になりたい30代の独身女性。東京でOL生活をしながら、文筆家になるために教室に通い、本を読み漁り、アパートで原稿書きに没頭し、これで最後と応募したコンテストには最終選考にまで残りながらも落選。新人文学賞に当選するには、「実際に起きた大事件を小説にしたらどうですか?」というアドバイスを出版社の担当者に受けつつも、東日本大震災が発生し、母や妹夫婦のいる故郷へ帰ります。戻った街には、少年Aが住んでいるという噂を聞き、興味を抱きます。

  少年Aを崇拝する少女が登場し、彼女は事件現場である神戸にも、そして、少年Aが暮らす街にも足を伸ばす。被害者の母親も少年Aがどのように過ごしているのかを知るべく、旅に出る。ここからのストーリーは、現実には無理も感じますが、だからこそ、この世に生まれてきた以上は、「生きる」ことの意味を誰もが問い続けなければならない、生きるとはそれほど過酷なことであると告知されているようでした。そして、正常な愛の享受こそが人を救うことを教えられました。

 『さよなら、ニルヴァーナ』(窪 美澄著、文藝春秋、本体価格1,500円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする