あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

あえて、つながらない生きかた

2014-11-28 16:35:01 | 

 ホスピタリティの真髄のマスターと言えば、リッツ・カールトン前日本支社長の高野登さん。人と人のつながりを細やかにすることを推し進めた人がこの書名の本を書くに至ったのは、

デジタルのつながり

についてでした。お感じになった方も居られるでしょう、SNSの友達申請の軽さは何なのでしょうか?「友達の友達は皆友達」とは言えません。デジタル上のつながりだけの人がリアルで活きる場合もありますが、それはとても希少なケースです。一度もお会いせず、デジタルだけのつながりで終わる場合が多いのではないでしょうか。

 人と人のつながりの最高峰は「おもてなし」です。この語源は聖徳太子の十七条憲法の一文「和を以って貴しと為す」の、 「以て、為す」 から来ており、

 「お互いを敬い大切に想い、慈しみ合い支え合う精神」

と高野さんは考えられています。これこそ、日本人の生き方、在り様を示す訳で、しっかりとリアルの人間関係で行えば、そのつながりはお互いに刺激を与え、「お互いさま」や「受けた恩は石に刻め、施した恩は水に流せ」となります。こういうつながりを形成するには、人間としての思慮の深さ」、すなわち、 「人間力」 を向上させる必要があります。

 人は一人では生きていけません。他人の存在があってこそ、自分が活きてきます。一度、つながりについて考えてみましょう!そして、不要なつながりは整理することが不可欠です。

『あえて、つながらない生きかた』(高野 登著、ポプラ新書、本体価格 780円)

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星の王子さま、禅を語る

2014-11-27 17:53:25 | 

  70年以上も読み続けられている、全世界的大ベストセラー「星の王子さま」の言葉を随所に引用し、難しいと思われている禅の思想を解説しているのが本書。書影も誠にカワイイ!

 禅の最も重要なテーマは「己事究明」 、つまり、自分のアイデンティティの探求です。そのために、一日の勤行や作務を通しての修行を行うのが禅僧です。彼らはこの中で精神的な成長を遂げていきます。配慮や責任、尊敬、知識、忍耐、精神統一などを、型から入り、自らのスタイルにまで作り上げていきます。結果、悟りを開き、開眼しますが、それは見える外への視線ではなく、見えない自らの心を心眼で見通す力を得ることになります。

 「星の王子さま」では、有名な言葉、

 「いちばん大事なものは、目に見えないんだ。」

が心眼についての表現になりますね。そして、覚者は

 「すべてのものの仏性の尊厳性に頭を下げ」、

 「その命をどう活かすか」

を常に考えます。「慈悲」の心、「愛する」を醸成して、世のために働くのです。

 禅は奥行きの深い思想ですが、文学と共に学ぶと理解しやすくなります。


『星の王子さま、禅を語る』(重松 宗育 著、ちくま文庫、本体価格740円)

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殉愛

2014-11-26 17:43:56 | 

 発売と同時にテレビでの度重なる告知の結果、本に羽が付いたように売れました。お亡くなりになって1年を経ても、たかじんの人気は衰えず、また、何かと問題を巻き起こしておられる、百田尚樹氏の著作への信頼も継続しています。今回はスタッフの田中さんのオススメです。

 発売日の午前中に売り切れた、話題本『殉愛』。亡きたかじんの闘病生活を、「永遠の0」「海賊とよばれた男」の著者・百田尚樹さんが書いた本書は、出版に関しても是非が問われています。

 しかしながら、克明に描かれる食道がんとの闘い、そして、たかじん夫妻の心情の変化は、読みだすと止まらず、苦しく辛いながらも深い愛を感じ、普通に生活できる幸せに感謝します。「がん末期の闘病記」として、私はおススメします。

 『殉愛』(百田尚樹著、幻冬舎、本体価格1,600円)

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そして、星の輝く夜がくる

2014-11-19 18:20:40 | 

  阪神・淡路大震災から20年が来年1月にやってきます。ノンフィクションや写真集、絵本はこれまでにも多く出版されてきましたが、小説はまだ数少ないですね。原田マハさんの『翔ぶ少女』以外にないかなぁと探していたところ、新聞記事で真山仁さんのことが書かれていて、この本を知りました。この本の奥付は今年3月11日、東日本大震災3年目でした。

 主人公は神戸市出身の小学校教師・小野寺徹平。2011年5月に、被災地にある遠間第一小学校に、応援教師として神戸から赴任。彼は17年前の阪神・淡路大震災で被災し、妻と娘を亡くし、茫然自失の状態でしたが、「あの時の辛さに耐え、生きる喜びを子どもたちに伝える」ことを自身の使命として教師を続けてきました。神戸市西区の小学校に勤務していましたが、校長との諍いから、東北にやってきました。

 「忍耐強い」という東北人の気質や、復旧、復興に懸命な親に対して、子どもたちが無意識な遠慮をしていると気付いた小野寺先生は、子どもたちらしさの喜怒哀楽を前面に出すように指導します。被災し、復興までの経験を活かした彼の行動は、保護者や同僚教諭と軋轢を生みます。しかし、使命の実現のために動いた小野寺先生の力で、子どもたち、そして、保護者、校長を始めとする先生方の「心の復興」の端緒に付けるようになります。

 2012年1月17日の神戸市中央区の東遊園地での「1.17のつどい」を描く場面では、小野寺自身の被災の様子も書かれています。「明日も生きる勇気をもらいに来るんや。一生懸命がんばるから、天国から応援してなって」という、彼の上司であった森永先生の言葉は、東日本大震災での被災者へのエールかもしれません。

 経験が希望を生み、子どもたちに笑みがよみがえる。気持ちが高揚すれば、夜空を見上げる余裕も生まれ、だからこそ、「星の輝く夜がくる」と確認できる。一歩一歩ですが、止めない歩みは幸せを呼びます。

『そして、星の輝く夜がくる 』(真山仁著、講談社、本体価格1,500円)

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捨てる幸せ シンプルに、ラクに生きる「禅の教え」

2014-11-13 16:09:24 | 

  モノ、情報、人間関係、どれも増える一方。特に、モノや情報は消費経済の進展や宣伝広告の拡散により、買わされている?結果、モノが氾濫し、時間も奪われ、人間的な幸せを感じられなくなっています。また、グローバリズムの拡大により、「勝ち組」「負け組」と選別され、「勝ち組」になりたいとひたすら努力してしまいます。

 本書でも、「人の心には、

 ・「いつも足りない」という〝渇する〟気持ち
 ・「損か得」「勝ち負け」「善悪」といった〝二つのどちらかに偏る〟考え方
  ・こだわって〝心を固くする〟頑なさ
 ・自分の思いを〝手放さない執着〟する心

 という四つが必ずあるもの。」

とされています。

  そこで、宗教で一番注目され、そして、書店でも売れているのが『禅』です。禅は漢字を解体すると、「単(シンプル)」を示すと書きますので、「シンプルになろう」が目標となります。日常の生活では

 「捨てる」「求めない」「囚(とら)われない」「なりきる」「柔軟に」

を考えて行動するべしとしています。外部の環境に振り回されず、「いま、ここでの主人公になる」ことを主眼に営んでいきましょう!

『捨てる幸せ シンプルに、ラクに生きる「禅の教え」』(藤原東演著、あさ出版、本体価格1,300円)

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へそ道 宇宙を見つめる 使命を見つける

2014-11-11 15:08:35 | 

  映画「1/4の奇跡」の監督・入江富美子さんについては少し気になっていました。「1/4の奇跡」が初監督作品であったこと、そして、映画についての経験がなかったにもかかわらず、あの映画を作り上げたのはなぜか?この本で彼女の思い、考え方がわかりました。

 ファッション・デザイナーのキャリアを積み、独立して服飾関係の会社を興し、順調に会社は成長したにもかかわらず、会社をたたみ、自分の好きな自然療法のセラピストとなっても、まだ満足な人生を歩めていないと感じ、結婚し、二人の子供を授かって、その子供がアトピーで苦しむ彼女。なぜ、息苦しい毎日を過ごさなければならないのか?

 それはビジョンを追いかけてばかりで、ミッションを選んでいなかったからでした。外に何かを追い求めるのではなく、自分自身の中にある使命を生きることを悟りました。その生き方こそが「へそ道」です。

 「へそ」の「へ」は船の舳先、つまり、先、今であり、「そ」は素、元、つまり先祖にあたります。宇宙の始まりから始まり、今の時代を生きる私たちは、

 「天の思いに沿って生きること」「本質の自分で生きる」

ことが必要なのです。

 「天は、すべてのものの存在を否定などせず、ありのまま、あるがままを認めます。天意はすべてを良し悪しで判断せず、ありのままのすべてを喜んで生きる。」

 目先のことばかりが気になる時は、「へそ」に手を当てて、天意を感じなければいけませんね。

『へそ道 宇宙を見つめる 使命を見つける』(入江富美子著、サンマーク出版、本体価格1,400円)

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星やどりの声

2014-11-08 14:18:57 | 

  朝井リョウ氏の小説に初めて手を出しました。学園ものを多く書かれていますが、この本は家族小説。

 早坂家は女3人男3人の子どもの一家。社会人の26歳の長女を筆頭に、就職活動真っ最中の大学4回生の長男、瓜二つの高校3年生の双子の姉妹、やんちゃな高校1年生の二男、カメラ好きな小学6年生の三男と賑やかなことこの上ない家庭です。建築家の父・星則(ほしのり)は街中に多くの建造物を残し、数年前にがんで死去。母が夫の建てた木造の喫茶店「星やどり」を切り盛りし、一家を支えています。

 毎日、店に訪れる常連のブラウンおじさんが来なくなって、「星やどり」に一大事件が勃発。家族が懸命に「星やどり」を盛り立てます。「星やどり」には、亡き父が仕掛けたマジックの種明かしが
家族をそれぞれの道へ導きます!

 「みんな、誰かの子として生まれ、その家族として育つ。だけど、いつかはその家を出て、大切な誰かとまた新しい家族を築いていく。」

 家族は生まれ変わっていきますが、とても暖かいカイロをもらった気分で読み終えました。

『星やどりの声』(朝井リョウ著、角川文庫、本体価格560円)

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獺祭 天翔ける日の本の酒

2014-11-05 16:55:33 | 

  一度だけ口にしたことのある「獺祭」の人気は凄いですね。このお酒がどのようにして造られているのかを知るために読んでみました。

  山口の地域だけで主に飲まれる地酒メーカーだった旭酒造。230年の歴史を持つが、蔵元の家が継いでからは90年。現社長の桜井博志氏は3代目。彼は大学で醸造学を学んだわけではないが、大学卒業後は西宮酒造に就職、3年で退職し、蔵に戻ったが、父と対立し、石材業を営み、年商2億を稼ぐほどの規模に育てました。父が死去し、蔵を継ぐと、このままでは蔵は潰れるという危機が迫っており、石材業で稼いだお金を充当し、蔵の存続のために骨を惜しまず力を注ぎます。

 ここからが3代目の真骨頂。酒造メーカーの常識を覆します。杜氏の交代時に、新しい杜氏に「大吟醸を造りたい」という提案は、「造ったことがない」の答えから、業界誌に載っていた吟醸酒作りのレポートのまま、製造し、これが「獺祭」誕生への糧になります。

 地ビールに手を出し、大失敗を経た後、杜氏が突然辞め、旭酒造の社員で醸造する仕組みへ転換、経験ではなく、データー管理による製造、四季醸造、そして、日本を代表する酒造り、日本の食文化を広めるために海外へも展開する。

  この本の版元の西日本出版社の内山社長がおっしゃりました。「日本酒も長い凋落期を経て、どん底から這い上がってきています。この本は、同じく低迷を続ける出版界への良いヒントを与えてくれます。」この言葉が活きるほどの読了感です。

『獺祭 天翔ける日の本の酒』(勝谷誠彦著、西日本出版社、本体価格1,500円 )

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デジタルは人間を奪うのか

2014-11-04 15:43:39 | 

 著者の小川和也氏はデジタルマーケティングディレクターとして、日本の実業界にデジタル環境の改善のために尽力をした人。その彼が

 「デジタルの進展で人類に大きな進歩を招いたが、何かしら不気味さがある」

と語る。モノがネットとつながり、ロボットに仕事を奪われる可能性が発生し、仮想と現実の境界線が分からなくなり、脳と肉体にデジタルが融合する将来には、人間が人間足り得ていないと危惧されています。

 「たとえデジタルの船の中であっても、この船がどんどん先に進もうとも、人間が考える葦であり続けさえすれば、人間が持つ可能性はむしろもっと大きなものとなる」

 もう下船できないデジタルの船には必ず利便性という光と、人をデジタルが支配するという影があることを認識し、そのデジタルを生みだしたのもあくまでもわれわれの思考、創造の力を思い続けなければなりません。著者が新聞の購読をやめないのも、アナログで考える習慣を一度失うと、人間からも下船しなければならないことを理解しているからでしょう。

『デジタルは人間を奪うのか』(小川和也著、講談社現代新書、本体価格740円)

コメント (2)
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