ニューヨークに行きたいと思っていた、30歳目前の真美は、夫の武文に一緒に行くことを提案するも、定年後にしようと切り返され、しぶしぶ納得する。大学時代の女友だちの、花恵が出店しているフリーマーケットで、気を使わない同級生たちと週末に再会した。彼女たちは海外旅行好きで、しょっちゅう渡航している。真美は、ニューヨーク行きの夫婦の会話を彼女たちに開陳すると、「ひとりで行けば!」と言われ、ひとりで行くのが心配な真美はフリーマーケット会場を見学する。ここで出くわしたのが、目の覚めるような革製の青色のスーツケース。一目惚れした真美は3千円で購入。もう何を言われようと、ニューヨーク行きを決心し、荷造りをし始めると、蓋裏側のポケットに、二つ折のメモ用紙があり、「あなたの旅に、幸多かれ」という一文が書かれていた。真美はツアーながらも、無事にニューヨークから帰国し、「ひとりで、自分の行きたいところに行ける自分になる」ことができた。
その後、彼女の女友達は、このスーツケースを「幸福のスーツケース」と呼び、海外旅行の度に真美から借りる。各人の旅物語の主人公のスーツケースは彼女たちに幸せを提供する。
「旅に出れば、日本にいるときの自分を脱ぎ捨てられる」
「いろんな国の、いろんな出会い。いろんな笑顔と思い出。土地の名前と、その思い出が重なってかけがえのないものになっていく。」
旅の良さもふんだんに書かれているだけでなく、この「幸福のスーツケース」の履歴も、メモの正体も明らかになっていく。それは人の生き様のように描かれ、スーツケースの心地良い誕生が幸福を生み出すの原点になっていると思った。
『スーツケースの半分は』(近藤史恵著、祥伝社文庫、本体価格620円)