あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

少年と犬

2024-01-31 12:57:48 | 

 人間と犬のつながりは長い。羊飼いや牧牛の犬たちは訓練されて、飼い主の機微をよく感じて行動に示す存在です。本書に登場する「多聞」と名付けられた犬は天命を知った犬です。

 仙台郊外に住む、東日本大震災で被災し、真っ当な職に就けない和正がシェパード似の犬とコンビニのドアの前で出会います。首輪に付いているタグには「多聞」と書かれています。飼い主もいないし、このままだと処分されるだけと思い、車に乗せます。彼の姉と一緒に暮らす母は若年性認知症の兆候が表れており、多聞を連れて行くと症状が回復し、元気を取り戻します。父の生命保険金だけで暮らす姉にも仕送りをしなければならない。和正は危ない仕事に手を染めるが、多聞が彼の気持ちを理解するようなしぐさを見せる。そして、どういう訳か多聞は常に南を向く。

 多聞は南へ、西へ走っては悩める人に会い、その人に勇気づける。そして、とうとう会うべき人の元へ辿り着き、使命を果たす。生まれるべくして生まれた命。やるべきことを成し遂げる力。感動のエンディングです。

『少年と犬』(馳星周著、文春文庫、本体価格780円、税込価格858円)

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「孤独」という生き方   「ありのままの自分」でいることのできる、自分だけの居場所を求めて

2024-01-25 15:22:46 | 

 最愛の息子がガンで早逝し、その喪失感と哀しみは父親である著者に圧し掛かり、とても都会の喧騒の中に身を置くことができないために、人里離れた山奥へ身を隠し、瞑想し、心の落ち着く山の生活を始めました。大自然の中で「独り在ること」は孤独や孤立ではなく、ただただ生活を営む主体として、その中での心を平安に導くのは「赦す」「受け入れる」「あるがまま」の3つの要素が必要であると述べています。

 また、情報過多の現況から逃れ、鳥の囀りや風の音を聞きながら山の中に身を置くだけでも心は平安になります。板宿の里山で整備をしていてもそれを私は感じます、筋肉痛はあっても。「ポツンと一軒家」というテレビ番組がよく観られていることも、登山する人が増えているのも、スマホから離れることにつながり、それは真の人間の生きる姿かもしれません。本書を読むだけでも心が鎮まると思います。

『「孤独」という生き方  「ありのままの自分」でいることのできる、自分だけの居場所を求めて』(織田淳太郎著、光文社新書、本体価格900円、税込価格990円)

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奇跡の経済教室

2024-01-25 14:56:20 | 

 デフレ脱却のために安倍政権は異次元の金融緩和を推し進めてきました。岸田政権でも同じスタンスですが、ロシアのウクライナ侵攻からインフレに転じています。日本銀行は金融緩和を解くのではないかと予想されています。様々な新聞やテレビの報道解説も読んできましたが、なんかよくわからない状態でした。お上がやることは間違いがないだろうと思っていては、納税者としては失格なので、本書で学びました。

 「需要不足/供給過剰」のデフレを脱却するには、「大きな政府」が財政支出の拡大、減税、そして、金融緩和ならびに規制緩和・国有化・グローバル化の抑制の産業ならびに労働者保護が必要です。現下の政権まで、金融緩和は盛大にやりましたが、国有化よりも民営化をし、グローバル化を促進してきましたし、企業への減税は行いましたが、消費を盛り上げるには消費税の減税を行うべきだと論じています。

 「貨幣」とは何か?「財政健全化」は本当に必要なのか?といった基本の点をしっかりと学ぶことが出来ました。知らないと政府のミスリードを裁けません。今のインフレも本来の「需要過剰/供給不足」状況のインフレではなく、ロシアのウクライナ侵攻による原油や食料品原価の高騰なので、早く良いインフレにしてほしい。

『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』(中野 剛志著、KKベストセラーズ、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

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たとえ明日、世界が滅びても今日、僕はリンゴの木を植える

2024-01-15 17:51:35 | 

 ピエロを稼業としている修二は、インドから来た「オム」という名の変わり者とパーフォーマーとしてイベントに出演しています。ショッピングモールの屋上で100組の親子限定の風船飛ばしという企画の集まりで、一人の幼女が屋上の柵の外側に出て、今にも飛び降りようとしていました。彼ら2人は彼女を助け、親のところへ届けようと試みます。彼女のポケットには3年前の修二のピエロの写真が入っており、そこから探索が始まりますが、それは修二の抱えた闇の解決にもつながっていきます。

 登場人物たちの関係には少し無理がある伏線があって、そこは引っかかりますが、本書名の「たとえ明日、世界が滅びても今日、僕はリンゴの木を植える」が物語を彩る人たちの考えや行動にストレートに影響を与えます。この言葉は修二の父が大切にしている言葉でした。過去を悔いず、未来を案じず、「夢を持つこと」や「他者のために尽くすこと」をすべきというメッセージは届きました。

『たとえ明日、世界が滅びても今日、僕はリンゴの木を植える』(瀧森 古都著、SBクリエイティブ、本体価格1,200円、税込価格1,320円)

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みどりのゆび

2024-01-15 17:16:00 | 

 児童書も大人を感動させる作品はあります。本書もその1冊です。

 ミルポワルという町の鉄砲や大砲を製造する工場を経営する会社の息子のチトは裕福な暮らしの男の子です。学校へ通い出したけれども、授業中に眠くなるために家へ送り返されます。家庭教育をすることになりましたが、いわゆる総合学習のような授業を家や工場で働く人たちから受けます。まずは庭の授業を庭師のムスターシュから教えられます。チトが植木鉢に土をつめるだけで花が咲くという奇跡が起こります。チトは「みどりのおやゆび」の持ち主だったから、土におやゆびを付けるだけで花が咲くのです。このことは庭師とチトだけの秘密になりました。

 規律を学ぶための授業では刑務所を見学しました。刑務所は囚人が逃げれないような建物になっており、囚人たちも楽しい姿ではありませんでした。チトは秘密の力で刑務所を花だらけにしました。貧乏な人が住む町や病院も花いっぱいにすることで抱えていた課題を解決してゆきます。戦争のことも学ぶと、チトは素敵な反戦運動をしました。それは本書で読んでくださいね。

 チトは小さな哲学者のように考え、植物を活かします。人々の欲も「自然の力に逆らえない」。世界中の問題が花々で昇華されていくのは壮観であり、現実でも発揮されるパワーですね。大人もこのファンタジーに親しんで欲しい。

『みどりのゆび』(モーリス・ドリュオン/作 安東次男/訳、岩波少年文庫、本体価格750円、税込価格825円)

 

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あのとき僕が泣いたのは、悲しかったからじゃない

2024-01-12 12:33:03 | 

 7つの短編で構成されている、本書の「真昼の花火」を昨日電車で読んでいましたが、本当にやばかった~涙がこぼれそうでした。

 著者の瀧森古都さんのプロフィール、「現在、主に『感動』をテーマに小説や童話を執筆」に惹かれて読んでみました。井戸書店の理念の「我々は感動伝達人である」にピッタリはまるのではと思い読み進めました。いずれも家族の関係や、家族とペットのそれを中心に書かれています。1月10日に投稿した『私のすべてを私が許可する“眠りのセラピー”』(七海文重著、CLOVER出版、本体価格1,500円、税込価格1,650円)の内容、子どもの頃の潜在意識の話とリンクします。家族の思いのすれ違いの存在が関係を悪化させるも、あるきっかけでものの見事にその原因が見出され、そして、お互いの本当の思いに気付き、ストーリーのエンディングに突入していきます。

 「真昼の花火」では、不登校の中学3年生の息子に対し、母は高圧的な態度をとることもなく、彼を信じてただただ見守っていました。帰宅途上の公園で拾った線香花火を家の庭で真昼に着火したところ、彼女が5歳の時に亡くなった10歳上の姉が浴衣姿で霊として登場し、浴衣や花火の思い出を語り合い、妹の今の課題を思いやり、息子の担任の先生や息子に対して「思ったままに話せば」と告げます。息子の夢の中にも浴衣を着たその叔母は登場していたので、母親の線香花火の現場を見て不思議に感じていました。担任の先生から電話がかかってきて・・・。

 その次の物語「おしるこ」ではこんな言葉が綴られます。「誰かと気持ちが一つになる瞬間、それを『幸せ』と呼ぶのではないだろうか」からすると、相互に思いをぶつけることが良いのではないでしょうか。家族ならばこそ、言いたいことも言えない、言うと共に生活しづらくなることを先に考えてしまいます。ケースバイケースでしょうが、思いを伝える、それも「いまここ」かも知れません。

『あのとき僕が泣いたのは、悲しかったからじゃない』(瀧森古都著、誠文堂新光社、本体価格1,200円、税込価格1,320円)

 

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星の王子さま、禅を語る

2024-01-12 11:42:20 | 

 年初に自宅の棚から取り出しての再読です。禅については難解のイメージがありますが、全世界的大ベストセラー『星の王子さま』の中のストーリーや言葉を引用しての禅の解説は意外とスッと入ってきます。

 「いちばん大事なものは、目に見えないんだ。」という『星の王子さま』の有名な言葉。いちばん大事なものは「心」「内面」ですね。人の目は外敵から身を守るために外に向いてついています。だからこそ、『目に見えない「心」を洞察する』必要があります。生活の中での日常の仕事、炊事、洗濯、掃除などを「いまここ」の思いで真っすぐに行うによって、本来の自己を探っていくスタンスが必要です。心の充実こそが目に見える部分にも波及し、人生が輝いていきます。精一杯生きることがよく死ぬことにつながります。

 『星の王子さま、禅を語る』(重松 宗育 著、ちくま文庫、本体価格740円、本体価格814円)

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私のすべてを私が許可する“眠りのセラピー”

2024-01-10 13:22:49 | Weblog

 パーミッションセラピー協会代表の七海文重さんと1月5日に井戸書店でお会いし、本書をプレゼントしてくれました。彼女自身が息子さんの成長に関して悩んだ経験から、いかにしてどん底から抜け出したかが書かれています。そして、今ではクライアントの潜在意識を探り、その原因を見いだし、クライアントがそれを許すことで苦しみから抜け出すセラピーを実践されています。

 人間の意識は、自分で自覚できる顕在意識とそれができない潜在意識で成り立っています。その潜在意識に蓄積されるのが親から刷り込まれる禁止令(例は「早くしなさい」=「ぼやぼやするな」)や拮抗禁止令(例は「お姉ちゃんだからしっかりしなさい」)です。子どもは親の愛を受けたいがためにそれらを遵守し、こうしなければならないという「幼児決断」をし、それに執着します。これが悩みや生きづらさの原因となり、ここに自身が気付き、執着を解き、再出発を許可することで解決に向かいます。

 私も他人に対してこうしなさいと強く伝える性向があり、仕事でも上手くいかないことが多々あります。潜在意識を探ってみると、厳しかった父親からの厳命、そして、従わないと怒られることから、父親の顔色ばかり見ていた子供時代がありました。そこで部下にも自らの意見を強いない、彼らに考えさせ任せる、彼らの長所、そして彼らが好きなことを仕事にするようにし始めました。自分のストレスも無くなる結果になりました。

 人は誕生し、家庭でのしつけ、学校での教育、社会でのルールを受け続けます。禅の教えでは、それを図として表すと

○ → △ → ▢

の変化です。誕生時や幼児では純真な気持ちですが、成長とともに角ができて、最後には四角となり、融通が利かなくなります。一般社会での行動では問題はないが、心の中では悩みや苦しみを抱いています。不要なことを捨て続け、心の中では感謝、謙虚の念を持つことで四角から丸に戻ると言われています。捨て去るものの中の最大なことが「幼児決断」かもしれません。

『私のすべてを私が許可する“眠りのセラピー”』(七海文重著、CLOVER出版、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

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人生を拓きたければ「知覧の英霊」に学びなさい

2024-01-10 12:04:44 | 

 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が映画化され、多くの若い人たちが特攻隊のことを知ったことでしょう。私自身も、『月光の夏』(毛利恒之著、講談社文庫)から特攻隊の本は多読し、知覧へも訪れ、記念館に掲示している特攻隊兵の手紙を読んで涙が止まりませんでした。

 ご承知のように、太平洋戦争末期、沖縄へ進攻する米軍艦船へ爆弾を搭載した飛行機で体当たりする、今で言う自爆の特攻作戦。特攻隊兵は国の将来を憂い、日本国民や自身の家族のことを案じ、無念の機上であったはずです。その知覧に日本一通う講演家の著者が特攻隊兵の英霊に触れて、その思いを生き方に活かしたことを吐露しているのが本書です。「目の前の人や課題に仕えること」と「世の中の役に立っているか」が出来ているかどうか?すべては「いま、ここ」で全力をあげて事に当たっているか?安全や安心の世の中で暮らす我々が忘れていることでしょう。

 彼らの存在が現在の日本を育んでいます。絶対に忘れてはならない史実です。

 著者の武田勝彦氏は2024年3月17日(日)午前10時から井戸書店で講演をしてくださいます。是非お聴きください、心が洗われると思います。詳細は↓

武田勝彦氏読書会|Book Event Navi [ブックイベントナビ]

『人生を拓きたければ「知覧の英霊」に学びなさい』(武田勝彦著、大和出版、本体価格1,800円、税込価格1,980円)

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ディープフィクサー 千利休

2024-01-09 13:24:34 | 

 皆さま、ご承知の通り、豊臣秀吉政権のソフトパワーの立役者は茶聖・千利休でした。利休は秀吉の茶の湯御政道を担当し、秀吉主催の茶会に出席することで各武将は秀吉に平伏す仕組みを創りました。武力を使用せずとも、全国を平定していきます。「茶の湯を行う余裕・・・それは力を見せることに他ならない。」信長の天下布武から秀吉の天下泰平への道です。ただ、この小説の千利休は軍師の役割を担う、秀吉の懐刀の存在でした。その理由は本書に譲りますが、史実に少し彩を添えるだけでこんなに面白い展開になるとは想像できませんでした。

 前年のNHK大河ドラマ「どうする家康」でも、秀吉にのちの秀頼が誕生してから、政権のスタンスがガラッと変わり、秀頼への政権承継へ目標が変わったので、利休の存在価値は消滅し、史実通りに進みますが、ここからもう一波乱があります。続きの『ピースメイカー 天海』も気になります。

『ディープフィクサー 千利休』(波多野聖著、幻冬舎文庫、本体価格800円、税込価格880円)

 

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