あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

半席

2022-12-31 08:30:09 | 

 青山文平作品『やっと訪れた春に』『つまをめとらば』と読んで、次に本書『半席』に至りました。

 御家人である徒目付の片岡直人25歳は、片岡家が一代御目見の半席から永々御目見以上の旗本になるため仕事に励み、勘定職への昇進を目指します。そのために表御用の目付としての仕事に邁進、専心しますが、上司の徒目付組頭の内藤雅之から、現在でいうアルバイトの御用頼みを依頼されます。

 表御用ではなぜ犯行に至ったかは求められないが、被害者の家族はこの「なぜ」を知りたいために御用頼みを刑の執行までの時間的猶予のないわずかな時に求めます。そのために仮説を立てて加害者に対面します。真相を見抜くためには人とはいかなる存在か、つまり豊富な人間観を有する必要があります。6つの事件も様々な人間模様を呈します。

 この小説では、内藤雅之が片岡直人に依頼する場所として、七五屋という居酒屋が登場します。店主の喜助は自前の釣舟を持つ釣師。釣った魚を捌き、お客さんに旬の料理を提供します。江戸前の食文化に触れつつ、よだれが漏れます。

『半席』(青山文平著、新潮文庫、本体価格590円、税込価格649円)

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三河雑兵心得 10 馬廻役仁義

2022-12-30 11:49:21 | 

   真田との戦で殿軍を務め、部下を救うために敵に突っ込み、家康配下の者たちには討死したと思われた茂兵衛。しかし、真田領のだが、戸石城の土牢に部下3名と囚われの身になって、助けだされるの待つ。地震が発生した折に、以前から親交のあった真田信之に牢を解かれ、家康旗下に戻る。世は天下取りの家康と秀吉の駆け引きの真只中。茂兵衛や、いかに!

『三河雑兵心得  10 馬廻役仁義』(井原忠政著、双葉文庫、本体価格650円、税込715円)

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つまをめとらば

2022-12-30 11:06:16 | 

 六篇の短編集、第154回(2016年)直木三十五賞をいまごろ読了。江戸時代の侍たちの物語。どれも組織の一人としてどう生きるのかを如実に、そして、味わい深く書かれています。

 「ひともうらやむ」では、皆からうやまれるような美女を嫁にしたものの、その嫁の不義な関係を理由に、嫁を藩の菩提寺で殺害した克己に、彼の分家で子どもの頃からの親友である庄平がいかに対峙するか?

 「乳付」は、子どもが生まれたものの、乳が出ない民惠の代わりに、夫の親類の瀬紀に父を与えてもらう手配を姑がする。瀬紀があまりに美しいので、民惠は嫉妬心を抱くが・・・。

 「逢対」という、幕府の上級官僚が登城前に無役の幕臣と面を相対する仕組みに長年取り組みながらも、採用されない友と初めて「逢対」に参加した、算学塾の塾頭をし、金に困らぬ泰郎が採用される時にどう対応したか?

 他の作品も含めて、夫婦や友との人情の機微が鮮やかに描かれています。本書は他の青山文平作品に流れる本流のように思います。山本周五郎や藤沢周平作品を読まれてきた方にはお試しあれ!

『つまをめとらば』(青山文平著、文春文庫、本体価格650円、税込価格715円)

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死にゆくあなたへ

2022-12-29 08:04:14 | 

 ブラジルで「死にゆく人のケアをする」緩和ケアや老年医学を専門にする医師による、生き方、死に方、看取られ方、看取り方を書いた本書は多くのことを教えてくれます。

 まず、医師として初めてケアをした経験は、自分自身が「繊細すぎて病気を診られない医師」と評するほど何もできず、心疾患を患う羽目に陥ります。大学では病を治癒することは学んでも、「死」や「どのように死ぬか」、また終末期の患者へのケアにも注目されません。当惑しつつも、同じ道を最期は歩む人としての人生観、そして、「私たち人間は、意識をもち、思考する哺乳動物として生まれ、人間になるために学び、人間へと成長していく」人間化の時を重ね、死が訪れる人間観が彼女を強くしました。

 生きている人間は常に今の生を謳歌しようと考えがちですが、「死を意識することこそ、私たちを本来あるべき存在へと向かわせる早道です」という言葉通り、終末点からの視点を忘れてはいけません。それは時を大事にする意識であり、今を重要視する考えです。さらには、生きる上でもっともっとと求め得ることばかりではなく、喪失することを学ぶことが大切になります。

『死にゆくあなたへ』(アナ・アランチス 著、飛鳥新社、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

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貸本屋おせん

2022-12-26 16:39:33 | 

 第100回オール讀物新人賞を満場一致で受賞した高瀬乃一さんが江戸時代のお仕事小説に捕物を交えながら書いた本書はとてもおもしろい。貸本屋を営む主人公おせんは、本を担ぎ、お客さんの元へ本を貸し歩きます。当時は書籍は購入するというよりも借りて読む。お客さんの好みをしっかりと把握してお届けする姿は現在の書店の原型かも知れません。

 「善人も悪人も、同じ本を見て笑い悲しむ。ときに憤り、あきらめ、それでも次の丁をめくらずにはいられない。そして一度読まれた本は忘れさられて、みな現(うつつ)に戻っていく。」

 そんな本を担ぐ。連作になっていくことを期待します。

『貸本屋おせん』(高瀬乃一著、文藝春秋、本体価格1,800円、税込価格1,980円)

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瞑想でたどる仏教 心と身体を観察する

2022-12-26 16:13:18 | 

 NHKBSでNHKこころの時代~宗教・人生~の再放送を拝見し、興味深かったのでテキストを読んでみました。

 2500年前にブッダは生老病死の苦しみから逃れるために様々な修行を行いましたが、瞑想をすることで悟りをひらきました。身心の観察を施し、注意を振り向けて、しっかりと把握することを教えました。この観察を「念処」と呼び、それには4種類があることを指摘しました。身体における動きを観察する「身」、感情を観察する「受」、心が起こす様々な働きを観察する「心」、そして、誰もが起こす心の働きを観察する「法」になります。苦しみの原因は感覚器官を通じて外界を認識することにあり、それが心に苦しみをもたらします。そこで、「体の動きなどを観察し、注意を振り向けて、しっかり把握し続けていき、その先に心が勝手に動き出していかないようにしていく」ことにより、苦しまなくなる構図を示しました。

 これは瞑想だけでなく、「心の中に浄土や仏の姿を思い浮かべる観想念仏」や「『南無阿弥陀仏』や『阿弥陀仏』と声を出して唱える称名念仏」を行うことによって、同じ効果を発揮します。放送では著者の箕輪氏と陸上の為末大氏が対談する場面では、競技中のゾーンがまさにこの身念処と同一の状況ではないかと議論されていました。なかなか理解が進まなかったブッダの心理学が少しはわかったような気がします。

『瞑想でたどる仏教 心と身体を観察する』(箕輪顕量著、NHK出版、本体価格950円、税込価格1,045円)

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雲を紡ぐ

2022-12-23 15:03:45 | 

 高校2年生になって1か月間不登校状態の山崎美緒は学校の人間関係だけでなく、仕事に逃げて娘を放任の父、学校に行かせたい教師の母、そして、過干渉の母方の祖母との軋轢も抱え、自分の誕生時に贈られた赤いショールを作ってくれた父方の祖父の元、岩手県盛岡へ一人で出かけました。このショールこそが祖父の会社である山崎工藝社で祖母の作品でした。

 祖父の手助けもあって、羊毛を糸にして染色し布にしていく工程の見習いをし始めました。自分自身の色に染めることは学校では教わらない自分の道を歩むことにもなります。生きることに自信のかけらもなかった美緒は少しずつ前を向いていきます。

 人間中心の都会の暮らしではなく、自然と触れ合い、そして、一緒にモノづくりをする仲間の一員になることは心にゆとりを生むかもしれません。他人が設定したルートを無理に進まずとも、自分の進みたい道を進むことを見守ってあげることが大切ですね。

『雲を紡ぐ』(伊吹有喜著、文春文庫、本体価格770円、税込価格847円)

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