子どもの頃から店の本を読み続けた読書家である、丹羽宇一郎さんは名古屋の書店の息子さん。その彼が冒頭から訴えるのは
「本の時代が復活する」
ということ。書店人にとっては嬉しい限りですが、ネット社会の「信頼性」が怪しいことに起因しています。また、ネットやSNSで膨大な情報を受け続けるだけで、考えないことがこれからの時代では人として問題になると考えられています。「考えることによって、さまざなな情報が有機的に結合し、知識になる。読書で得たものが知識になるのは、本を読む行為が往々にして『考える』ことを伴うものだから。」
私も多くの読書論の本を読んできましたが、本書はその中での秀逸なことが多く書かれています。特に、「動物の血」と「理性の血」の話は興味深かったですね。
「心に栄養が足りないと、人にある『動物の血』が騒ぎ出します。ねたみ、やっかみ、憎しみ、怒り、利己心、自暴自棄、暴力的な衝動など、ジャングルの獣ごとく次々と表出する動物の血は、負の感情を生み出します。」
これをコントロールするのが「理性の血」ですが、この血を濃くするのは心を鍛えるしか策はなく、
「そのためには読書を通して心に栄養をできるだけ与えたり、仕事をしたり、いろいろな人と交わったりするなかで多くのことを真摯に学ぼうとすることが不可欠。」
というように、人生において、本、仕事、人から学ぶことの重要性を論じておられます。だからこそ、
「物の豊かさではなく、“心のありよう”こそが、人間としての最大、唯一の証である」
ためにも、言葉を操る人間ならば、本を読んでもらいたいと私も思います。
『死ぬほど読書』(丹羽宇一郎著、幻冬舎新書、本体価格780円)