あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

死ぬほど読書

2017-08-25 16:04:56 | 

 子どもの頃から店の本を読み続けた読書家である、丹羽宇一郎さんは名古屋の書店の息子さん。その彼が冒頭から訴えるのは

「本の時代が復活する」

ということ。書店人にとっては嬉しい限りですが、ネット社会の「信頼性」が怪しいことに起因しています。また、ネットやSNSで膨大な情報を受け続けるだけで、考えないことがこれからの時代では人として問題になると考えられています。「考えることによって、さまざなな情報が有機的に結合し、知識になる。読書で得たものが知識になるのは、本を読む行為が往々にして『考える』ことを伴うものだから。」

 私も多くの読書論の本を読んできましたが、本書はその中での秀逸なことが多く書かれています。特に、「動物の血」と「理性の血」の話は興味深かったですね。

 「心に栄養が足りないと、人にある『動物の血』が騒ぎ出します。ねたみ、やっかみ、憎しみ、怒り、利己心、自暴自棄、暴力的な衝動など、ジャングルの獣ごとく次々と表出する動物の血は、負の感情を生み出します。」

 これをコントロールするのが「理性の血」ですが、この血を濃くするのは心を鍛えるしか策はなく、

 「そのためには読書を通して心に栄養をできるだけ与えたり、仕事をしたり、いろいろな人と交わったりするなかで多くのことを真摯に学ぼうとすることが不可欠。」

というように、人生において、本、仕事、人から学ぶことの重要性を論じておられます。だからこそ、

 「物の豊かさではなく、“心のありよう”こそが、人間としての最大、唯一の証である」

ためにも、言葉を操る人間ならば、本を読んでもらいたいと私も思います。

『死ぬほど読書』(丹羽宇一郎著、幻冬舎新書、本体価格780円)

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「売る」から、「売れる」へ。

2017-08-23 16:38:00 | 

 月刊致知で水野学さんの対談を読んで、興味深かったので本書を手に取りました。慶應義塾大学での講義を書籍化したものですが、学生だけでなくビジネスパーソンも是非とも読むべき一冊です。

 「売れる」をつくる3つの方法として、

①発明する
②ブームをつくる → 広告やメディアでの露出

が一般的でしたが、現在では、機能やスペックだけでは商品の差がつきにくいため、商品が選ばれづらい状況にあり、

③ブランドをつくる

ことをしなければならないと水野さんは訴えます。

 それでは、ブランドとは何か?「ブランドとは“らしさ”」であり、「企業や商品が本来持っている思いや志を含めた特有の魅力」、「企業のアウトプット」と説明されています。すべてのアウトプット、例えば、書店でいえば、店舗の佇まい、商品構成、ブックカバー、ショッピングバック、名刺、社長やスタッフの服装まで、すべての「見え方のコントロール」をしなければならない。一部ではダメで、全てを統一することが大切です。そして、このアウトプットには必ずインプットが必要であり、センス良くするのは、「センスとは、集積した知識をもとに最適化する能力である」ということが胆となるでしょう。センスの磨き方に関しても詳細に書かれており、水野さんは自社の取り組んだ仕事を例にあげ、ノウハウを全面的に紹介しています。

 こうなると、経営トップも、ブランディングデザインについて無視できませんが、プロでしかできないことはなく、インプットの質と量、並びに思考することは欠かせないでしょう。

『「売る」から、「売れる」へ。 水野学のブランディングデザイン講義』(水野学著、誠文堂新光社、本体価格1,600円)

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小さき生きものたちの国で

2017-08-21 14:33:12 | 

   「人間は生きものであり、自然の一部である」

   これは人類誕生からの変えられることのない事実です。しかし、自然を分析し、置き換え可能、操作可能な機械としてj実証することによって、人間は自然を上から目線で見るようになりました。さらにグローバリゼーションの進展、金融資本主義の誕生により、自然は資本主義に搾取される存在としか見られなくなりました。

  3.11や自然災害の猛威に対して全く無力である日本人は、「生命とはなにか、人間とはなにかという基本を考えるところに立ち還らなければ未来はつながらない」という著者の視点を尊重し、「生命を基本に置く社会」の建設を模索しなければなりません。これを「生命革命」と呼んでいます。

 まど・みちおさん、宮沢賢治、ミホンミツバチ、ミミズなどを題材にしたエッセイで、自然への多様な向き合い方、そして、言語を大切にし、想像力を発揮する大切さを訴えておられます。自然のものさしには便利やスピードはなく、いのちのバトンタッチこそがなさねばならない自然の進むべき道です。

『小さき生きものたちの国で』(中村桂子 著、青土社、本体価格1,800円)

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生きる技法

2017-08-21 14:20:20 | 

 著者の安冨教授は配偶者にモラルハラスメントを受け、母親には恐怖心を抱いて生きてきましたが、四〇歳になって精神的にも身体的にも耐え難い状況に陥りました。そこで出会った命題が

           「自立とは、多くの人に依存することである」

です。私も、「自立とは、誰にも頼らないこと」と信じ込んでいましたが、「依存する相手が減ると、人はより従属する」こととなり、安冨先生の境遇になります。「自立した人と言うのは、自分で何でもする人でなく、自分が困ったらいつでも誰かに助けてもらえる人であり、そういう関係性のマネジメントに長けている人のこと」ということを知れば、肩の荷が軽くなりますよね。

 この生きるための根本原理に立脚すれば、友だちについても、「誰とでも仲よくしてはいけない」や、貨幣については、「貨幣は他人との信頼関係を作り出すために使うべき」、自由に関しては、「自由は選択肢が豊富であることではなく、思い通りの方向に成長すること」など、胸が空く思いがします。 

 人は子どもの頃から、「こう生きたらいいよ」とある種押し付けられた幻想のようなものを抱いています。しかしその考えは押し付けた人には有益であっても、押し付けられた人には無益だけでなく、不自由な人生を歩まざるを得ないことになっているんだなと理解できました。人生の幕は誰にとってもいかようにでも開くという確信を得ました。

『生きる技法』(安冨歩著、青灯社、本体価格1,500円)

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鍵山秀三郎 人生をひらく100の金言

2017-08-12 15:54:41 | 

 「だれにでもできる簡単なことを、だれにもできないほど続けてきた」鍵山秀三郎先生は、その実践力、そして、その根底にある思考のきめ細やかさにおいては日本の至宝ではないかと確信します。発せられる言葉には重みがあり、腐っている自分の心を奮い立たしてくれます。

  数日前の朝日新聞朝刊の読者の投稿欄で、最寄の駅でゴミ拾いをしている高校球児の話が書かれていました。「彼が甲子園に行ってもらいたい」と書かれていましたが、本当にそう思います。「やれ」と言われてではなく、自発的に毎日ゴミ拾いを続けている高校生がその地域にいてるだけでも、地域の宝です。

 「小さなことでも、それを実行するには大きな勇気が要ります。ですから、道に落ちているゴミも、日々自分を鍛えてくれる大事な条件だと考えることもできるのです。」

 「人が見捨てたものの中に宝の山がある。」

 「やらなければならないことだけをやっているようではダメです。本来、やる必要のないことをどれだけできるかです。それが人間の魅了をつくります。」

 「微差の積み重ねが大差となり、絶対差となる。」

 我々も足元を見直す必要があります。見直して、実践、そして継続です。そのためにも鍵山先生の言葉に触れてほしい。

『鍵山秀三郎 人生をひらく100の金言』(鍵山秀三郎著、致知出版社、本体価格1,200円)

 

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チームスポーツに学ぶボトムアップ理論

2017-08-12 15:21:43 | 

 『まんがでみる ボトムアップ理論』(畑喜美雄著、ザ・メディアジョン、本体価格1,200円)

http://blog.goo.ne.jp/idomori28/s/%E7%95%91%E5%96%9C%E7%BE%8E%E5%A4%AB

を井戸書店の課題図書にして、スタッフと学んでいますが、今回は活字で、ボトムアップ理論の「いろは」からその実践まで網羅されている本書は、スポーツチームだけではなく、企業や組織運営で活用されるはずです。

 ボトムアップ理論の大前提は「選手が主役」です。そして、「自分で考えて、自分で判断し行動でき、将来社会の中で一人で生き抜ける」人材育成法です。指示待ちではなく、自立型人材はどこでも必要であり、AIが進めば進むほど、その考える存在は脚光を浴びるはずです。そのベースには人間学の教えが横たわり、そして、その思考には「to me」ではなく、「to you」、あるいは「to us」の視点が常に宿り、自利よりも他利優先で行動を起こしていきます。

 この本を読み進むにつれ、論語の「仁」が思い出されました。この理論で極めて重要な地位を占めるのは、間違いなく、ボトムアップされたトップです。思いやりの心を持って、ボトムを見守る辛抱強いトップの存在なしでは成立しません。

 学生時代からボトムアップに慣れ親しめば、2045年のシンギュラリティも怖くはありません。

『チームスポーツに学ぶボトムアップ理論 高校サッカー界の革新者が明かす最強の組織づくり』(畑喜美夫 著、KANZEN、本体価格1,400円)

 

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「修」しながら「行」むから修行という

2017-08-12 14:19:55 | 

  『よっぽどの縁ですね 』(大谷徹奘著、小学館、本体価格1,204円)

http://blog.goo.ne.jp/idomori28/e/d4522e31dbce6b2d7d0ed1a22381b205

で、仏教を本当に平易に説く大谷和尚を知り、修行時代から東日本大震災での東北での法話まで感じたことを書かれている本書を読んでみました。書名はふりがなを付けないとわかりませんよね。修(なお)しながら行(すす)むから修行というように、一生かけて自分づくりをしていく修行は

1.祈り=意乗り=「意」の漢字は「心」と「音」に分解でき、自分のやりたいこと、すなわち、自分がどんな生き方をするか
2.覚悟 自分が気づいて、覚悟する習慣を付ける
3.根未熟 今は未熟でも、いつか大輪を咲かせるために努力を惜しむな
4.根気 可能性は誰もが有しているので、根気よく行う
5.観自在 自分の内側、心の在り様をしっかりと見定める
6.自静其意 自分の心を静め、何事も心静かに見定める

の6つの基本姿勢を彼は堅持してきました。その理由は仏教の初めての教えである法句経の人間観からきています。それは

「人間は心の生き物だが、すぐに恨み心を起こし、心にムラがあり、よい評価が欲しい生き物である」

です。だからこそ人間関係をいかに良くするかが幸せへの近道でしょう。その答えとして、

「それぞれ違う価値観のものさしを持つ」人間がお互いのものさしを尊重し合えばよろしい。

これは心理学の交流分析での、I am OK ,You are OKそのものであり、その思いがあれば、相手を「よっぽどの縁」と認識することができるのです。

『「修」しながら「行」むから修行という』(大谷徹奘著、講談社、本体価格1,429円)

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大遺言

2017-08-09 16:10:39 | 

  孫が知っているおじいさん・永六輔(家では孝雄くんと本名で呼ばれていて、その孝雄君に孫が色々と訊いても、空振りになることが多かったらしい)と、祖父の亡くなった時のマスコミの反応とのギャップは何だろう?祖父の著書、そして、祖父と関わりのあった人たちにインタビューして、祖父の遺した言葉や行動を調べ、現代にも通じる普遍性を追求した本書は、永六輔という人物の凄さをまざまざと明らかにしてくれています。その中でも、私にズコーンと響いた言葉を紹介したいと思います。

 「他人と比べても仕方ない。他人のことが気になるのは、自分が一生懸命やっていないからだ」

 禅語でいう所の、「脚下照顧」、自分をもっと見つめろですね。だからこそ、「自分の欠点を自覚すれば、自分が追及するものが見えてくる」とも話されています。他人との比較厳禁、自身を見つることに勝機ありですね。

 「職業に貴賤はないが、生き方には貴賤がある。職業よりも『生き方』を極めよう」

 生き方って何だろうか?貴い生き方とは、天に対して生きろということでしょう。正義をものさしにする必要があります。

 「生きているということは、誰かに借りを作るということ。生きていくということは、その借りを返して行くこと」

 人間は一人では生きていけない。誰かの支援を受けて、自立しているだからこそ、自分もお役に立てる存在になろうというメッセージは誇り高く思います。

 あなたの今に合った、永六輔さんのあなたの胸を刺す言葉を見つけてほしいと思います。

『大遺言 祖父・永六輔の今を生きる36の言葉』(永拓実  著、小学館、本体価格900円)

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ビッグデータという独裁者

2017-08-07 16:23:50 | 

  多くの人がスマホの虜になり、手のひらにある個人の端末がネットと接続すれば、より早く多くの情報と到達できる環境が整っています。動かずともモノも購入でき、ゲームもでき、他者とのコミュニケーションも取れる便利な機器です。

 しかし、その裏側では、「私たちは大人しく、自ら進んで隷属状態になり、透明化するように仕向けられて」おり、「私生活を奪われ、自由を決定的に放棄した」状態になっています。グーグル、アップル、マイクロソフト、フェイスブック、アマゾンなどの、アメリカのビッグデータと呼ばれる超大企業は、世界中から情報を収集し、「世界から予測不足なものを取り除き、偶然の力を決別する」ことを目指し、アルゴリズムによりすべてを解決しようとしています。データ提供者である個人は、デジタルの0か1の記号でデータ化され、完全な監視社会の下におり、接続が過ぎると、精神病理的な孤立に落とし込まれています。テロ防止でも活かされる、自ら打ち込んでいる個人情報や街の監視カメラの分析状況からは、オーウェルの小説『1984年』を凌駕する現実が広がっています。

 この監視社会から離れようと思えば、「接続しない」ことしか手はないが、一度手にした便利はなかなか離せないし、社会の同調圧力を無視する勇気も伴います。しかしながら、人間たる所以の「考える」存在に戻り、「コンピュータ-ではできないアイデア、コンセプト、想像力」を自らの脳で生み出さない限り、ビッグデータの僕(しもべ)からは逃れられません。

 最後に、我々出版人へのエールの言葉、「SNSや、絶えず流れてくる大量の情報の外になる紙の本は、おそらく最後の抵抗の場になる」ことを胆に銘じて、店頭で汗を流したいものであります。

『ビッグデータという独裁者─「便利」とひきかえに「自由」を奪う』(マルク・デュガン、クリストフ・ラベ 著、鳥取絹子訳、筑摩書房、本体価格1,500円)

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