あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

その青の、その先の、

2019-10-31 17:10:13 | 

 主人公の17歳のまひるは親友の女友達3人と高校生活を満喫しています。友達たちは将来の夢やなりたい職業について狙いをつけていますが、まひるは全くのノーアイデア。成るようになるさと言った感じ。まひるの彼氏・亮司は他校の同学年で落語家志望。高校を卒業したら入門する思いは強く、高校でも落研を創設し、落語活動に励んでいます。とは言っても、彼らは平和で楽しい高校ディズを送っています。

 3学期のある日、亮司はバイク事故を起こし、左足が開放粉砕骨折と診断され、遅々として回復せず、膝下から切断することになりました。この事故をきっかけに、彼のお見舞いに専念する、まひるは「これまでは何に対しても、べつになんでもいいやって感じだったんだけど、今は後悔しないように生きたい」と思いはじめました。切断後の亮司は赤い義足を付けて、リハビリに励み、3月の最後の日曜日にはベットの上で正座して、「薮入り」を語りました。いやぁ~泣かせますねぇ~

 エンディングでは、「人間はひとりひとり全員違って、その人だけの人生を生きている。計り知れない宇宙をみんなが待っている。」とまひるは胸中を嘆じています。そして、彼らの将来は、書名の通り、「その青の、その先の、」何かへ突き進んでいるのでしょう。椰月美智子さんの小説の明るさは最後まで続いていました。

『その青の、その先の、』(椰月美智子著、幻冬舎文庫、本体価格690円)

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子どもたちが身を乗り出して聞く道徳の話

2019-10-30 16:14:06 | 

 教師歴32年の小学校教師・平光雄さんによる本書は子どもだけに読ませるにはもったいない内容です。子どもの時にこんな道徳教育があれば、素敵な日本人が間違いなく続々と輩出されるでしょう。どんなに難しい徳目であろうと、イラストと図式を含めて、とても理解しやすい。

 当店で月に一度行われている「大人の人間学塾」の10月の課題図書にしましたが、うちの二人のスタッフに必要な部分を読んでもらいました。一人は「主体性」。これは「先回りできる人になる」という定義で、言われたことをする指示待ちではなく、一を知って十をする存在を明確に示しています。もう一人は「配慮」でした。これは「やられて嫌なことを他人にしない」、つまり、論語で言う「恕」です。特に、言葉の配慮、言語環境の整備を訴えています。何でも思いついたことを言うのではなく、相手に配慮し、一呼吸を置いてから話す、書くなどのアウトプットを行うことです。「言葉は心を切る」という比喩はとても響きます。

 私は「個性」の章句に教えられました。これは『「変なところ」も認めてあげる』です。一般から見ての「普通」では人間が埋没するし、いわゆる偉人は変わっていて、こだわっていたから結果を出せました。個々の「変さ値」を向上させれば、その集団もオリジナルな一群になります。「馬鹿になれ!」って伝えても、同調圧力を受け続けてきたので、普通路線から逸脱をしない、したがらないでしょうが…。

 皆さんも、自分に必要だと思われる点を読み進められることをお勧めします。

『子どもたちが身を乗り出して聞く道徳の話』(平光雄著、致知出版社、本体価格1,500円)

 

 

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『「本の読み方」で学力は決まる』講演を聴いて

2019-10-27 10:59:15 | 

 昨日(10/26)、著者の榊浩平先生にお越しいただいて、『「本の読み方」で学力は決まる』と題しての神戸新聞ブッククラブ主催の講演会に参加しました。冒頭、主催者を代表しての挨拶を私が行いました。

 「地球温暖化による風水害の甚大な被害、また、海洋プラスチック問題など、人類への被害が起こらない限り、人間は生き方を変えません。デジタルに対しても、便利だ、楽だと洗脳されつつ、使用しているが、我々への影響はまだまだ解明していません。その一端を今日聴くことができます。私たちの生き方への貴重なアドバイスとなることを期します。」

 本書の内容に関しては、このブログで以下の通り書かせてもらいました。

https://blog.goo.ne.jp/idomori28/e/2fcb9adb7a462bb98c574fb2e281ed88

 昨日の講演で、とても印象的だったのは、辞書が紙とデジタルの差を脳科学的に分析した結果でした。デジタルの方が同一時間内では辞書引きする言葉は多いですが、脳はどうなっているか?紙なら脳は時間内にずっと働き続けていますが、デジタルの場合は全く動いていない結果が発表されました。人はデジタルの前ではロボットになっているかのようでした。やはり、紙の意味はまだまだ十分に重い。

 読書離れはスマホなどのデジタル機器と接する時間の増加で起きており、そういう意味では、紙よりもデジタルの方がコンテンツの面白さは超越しているのでしょう。しかし、読書と学力の問題をとっても、読書人口の減少は将来における日本人のノーベル賞受賞者の減少にもつながるでしょうし、人口減少が避けられない今、日本人の学力だけでなく、人間力にまでに及ぶ質の低下を避けるためにも、読書習慣を付けることの意味は計り知れないほど大きいと考えます。また、兵庫県小野市の取り組みのように、子どもたちの学力と生活習慣の相関性を重視した取り組みは地域の人口増加への一助になると思います。

『最新脳科学でついに出た結論 「本の読み方」で学力は決まる』(川島隆太監修、松崎泰・榊浩平著、青春出版社、本体価格880円)

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ナオタの星

2019-10-24 16:23:32 | 

 昨年の本屋大賞2位に私自身が推したこともあり、少しずつですが小野寺史宜さんの作品を読み進めています。製菓会社を辞めて、シナリオライターを目指す、主人公の小倉直丈(ナオタ)は新人賞を応募するも、2回連続で最終選考で落選という憂き目を味わう。会社で知り合った彼女の藍に仕事に就くように言われたが、踏ん切りがつかない直丈は失恋のオマケまで付く。自棄になり、神田のヘルスに行き、個室で相手をしたのが小学生の同級生の牧田梨沙。同級生の中ではとびぬけて可愛い存在。直丈は小学校を途中で転校したので、彼女のその後を知らず、同級生に電話し始めることから、ストーリーは進展します。

 小野寺史宜作品の主人公は時間を持て余す傾向があり、今回友だちや隣人の援けに応じることでさまざまな場面に自ら誘い込むところが面白い。現代人はみんな妙に忙しく、ぶらぶらしている存在はめったに見かけない。こんなメインキャストを置くのも、今の日本に対する著者の嫌味かもしれない。もっと、ゆっくりズムで生きれば、人生、結構けっさくだと思いたいし、思わせる。直丈にもエンディングでは大きなチャンスが巡ってくる先が気になっての読了だ。

『ナオタの星』(小野寺史宜著、ポプラ文庫、本体価格740円)

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生きる──どんなにひどい世界でも

2019-10-18 16:58:47 | Weblog

 脳科学者の茂木健一郎氏と臨床心理学者の長谷川博一氏の対談集。生きづらさを感じても、どう生きてほしいかを導き出そうとしています。これは日本だけのことではなく、先進国では同様のことが起きています。

 生きづらさの元凶は、世間からの「こうあるべし」という同調圧力であり、マジョリティーへの迎合、そして、人間の格付け化であるとしています。教育や社会のしくみから、学歴社会の偏重は消えず、世間では多様性への要望はありつつも、そうなってはいないのが現状です。

 では、どうすればよいか?私が特に、気になった個所を列記します。

 未来のことなど分かる人などいないのだから、先のことに心配せず、いまここを一所懸命に生きることしかない

 また、逆に、将来における自分の置かれる環境は不明なので、今は苦しくとも、とにかく生きておけ!

 個で悩むのではなく、立場や背景の違う他者との共同体験をせよ!

 豊かさや幸せをつかむためにも、他人をこそ想わなければならない

 特に、長谷川博一氏が凶悪な犯罪者とも面談し、彼らがなぜ犯行に至ったかを探る中でも、人間はみな同じであるという結論に目を醒ましました。

 

『生きる──どんなにひどい世界でも』(茂木健一郎・長谷川博一著、主婦と生活社、本体価格1,400円)

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店長がバカすぎて

2019-10-12 14:20:46 | 

 中規模書店の武蔵野書店・吉祥寺本店を舞台の小説。吉祥寺本店の先輩社員にあこがれて入った、契約社員の谷原京子は28歳の独身で本好き。京子は自ら押しの1冊を探し、お客様にアピールすべく懸命な姿は書店員の鑑です。それに引き換え、40歳に突入する、日本武尊をまさにもじった様な、山本猛(たける)という名前負けする、店長はスタッフの意気を挙げるべく、朝礼では長い、面白くもない訓示を垂れるが、本にはあまり関心がないというミスマッチ。この店長の口から出る、「我々の仕事は、作家のみなさんを気持ち良くすることではありません。肩を組み、同じ方向を見つめて、この出版不況という荒波と対峙することです。」という道理は非常に真っ当ですが、行動やその他の発言がバカすぎての範疇に入るため、笑える場面が続出します。

 物語の終盤では、人気の覆面作家が武蔵野書店・吉祥寺本店のことをベースの自作作品を手掛け、小説発売には武蔵野書店・吉祥寺本店でトークショウを行って、覆面を取るところでは、ちょいとミステリーも加味しながら楽しめるエンターテイメントです。

  書店での仕事は、このストーリでも語られるように、日々理不尽なことも多く、思い通りにはなりません。しかし、幸せになりたい書店員は、好きな本と触れ合っていたいし、また、売りたいと思える本と邂逅する思いがけない出会いにときめきを求めているのかもしれません。だから、黙々とルーチンの仕事を実行していくだけなのかもしれません。しかし、この日常を打破するために、京子の父が言うように、「もう少し抗えよ。」と忠告されるのでしょう。この言葉は著者の早見さんからのメッセージとして受け取りたいですね。出版不況だと落ち込まず、「抗う」姿勢を維持し続けることにこそ、意義ありですね。

『店長がバカすぎて』(早見和真著、角川春樹事務所、本体価格1,500円)

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稲荷書店きつね堂

2019-10-07 16:13:25 | 

 先月、春秋社さんにお邪魔した時に、ちらっと鳥居を拝見した神田明神。その界隈にある小さな書店の敷地には小さな鳥居と、お稲荷さんの祠が祀られており、対の白狐像もある由来で、店名を「稲荷書店きつね堂」と称しています。奥さんが亡くなった後は、年老いた旦那さん一人で切り盛りしていました。ある日、そのおじいさんが店で倒れるのを白狐の一方(おじいさんは「ヨモギ」と名付けていました)が見て、何とかしなければという思い強く、人間に変身します。落語の「元犬」のようでもありますが、おじいさん救命のために頑張り、おじいさんは救急車で病院に運ばれ、一命は取りとめ、退院します。

 おじいさんは、年齢や健康状態、そして、芳しくない経営状態を鑑み、閉店を決意するが、「息子が生まれた時に、子供達が色んなことを学ぶ切っ掛けを作れるように」という志で開店した、思い出深いお店であることを知っているヨモギが継続するように説得。しかし、担い手は居ない。そこで、ヨモギが立候補。全くのズブの素人書店員の誕生です。

 ヨモギは苦労します。衰退産業の書店ですから。しかし、一歩一歩、プロ書店員としての道を歩むべく、おじいさんが倒れた時に一緒に助けてくれた、神田の大型書店のアルバイトの三谷さんや、あまりの空腹のために稲荷書店きつね堂で倒れ込んだ、趣味でイラストを描いているOLの兎内さんにアドバイスや援助を受け、店の盛り返しに躍起となります。著者の蒼月海里さんは元書店員だけにその辺の事情は詳しく、

 「客層をつぶさに観察し、そのお客さんならば何を欲しがるかを推測して、本を入荷する」や「お客さんのニーズに合わせて本を選ぶ」など、書店人がどんな状況下でも何をすべきが書かれています。書店再生への手順として、書店人の教科書になりますね。また、

 「人には出来ることと出来ないことがある。それを埋め合い、お互いを支え合っていくことで、前に進めることもある。相手が困っているとき、自分にできることをすることで、そこに縁が生まれ、徳が積まれるのだ。」

とは出版業界への愛のメッセージであるとともに、現代日本人のあるべき姿を表現していると思います。これからの「稲荷書店きつね堂」はどうなっていくのか、次巻が楽しみです。うちにもお稲荷さんの化身が現れてほしい!

『稲荷書店きつね堂』(蒼月海里著、ハルキ文庫、本体価格520円)

 

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旅がなければ死んでいた

2019-10-02 17:41:08 | 

 旅は非日常へ連れて行ってくれます。スケジュール通りに行くのではなく、のんびりとその土地を、そこの人々とのコミュニケーションを楽しめば、新しい地平が開けるでしょう。

 過労と失恋で、バックパックを背に世界1周を敢行した著者。まぁ、聞いたこともない場所へ訪れる勇気に拍手を送るとともに、世界にはこんなところもあるのかという感動、いや興奮、ちがう驚嘆を感じます。全員全裸のギリシャ・ガヴドス島、驚異のパワースポットのチベット・聖地カイラス山の巡礼などは、旅の醍醐味を教えてもらいました。チベット僧からのお言葉、

「1日2回、『自分の人生』について考えてみてください。自分にとって、よく生きるとは何か?あなたの本当の成功とは何か?」

は失恋のどん底の著者を蘇らせてくれたのではないでしょうか。

 旅先からのブログ更新で、世界の人々も旅先へ引き付け、挙句の果てには恋人も見つけ、結婚までに至る荒技~というかハッピーエンドには拍子抜けしましたが…。まぁ、とにかく旅に出たいと、心は駆り出されました。

『旅がなければ死んでいた』(坂田ミギー著、KKベストセラーズ、本体価格1,250円)

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