あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

ミッテランの帽子

2022-01-31 15:11:50 | 

 『赤いモレスキンの女』(アントワーヌ・ローラン著)が面白かったので、前作も読みました。

 フランスのミッテラン大統領がブラッスリーで黒のフェルト帽を置き忘れました。それを拾ったというか、持ち去ったうだつの上がらない会計士は社内で急に弁が立ち、みるみる昇進していきました。会計士は列車の中に帽子を忘れ、それを持ち帰った不倫を断ち切れない女はきれいに別れ、小説家となりました。その後、スランプ中の天才調香師、退屈なブルジョワ男と持ち主は変わりますが、みんな幸運に恵まれる、不思議な帽子の力。最後の持ち主は誰になるのか?

 愉快なストーリ展開に酔わされます。人の運はどこからやってくるかわかりません。世はモノ余りで、断捨離ばかり叫ばれていますが、神通力を宿すモノを持つ人になりたいですねぇ。

(アントワーヌ・ローラン著、新潮社、本体価格1,900円、税込価格2,090円)

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赤いモレスキンの女

2022-01-25 17:12:18 | 

 銀行員を辞め、パリの書店主となったローランは、朝食を取る行きつけのレストランに向かう途上、路上のゴミ箱の上に置かれていた女性用のハンドバックを見つけました。貴重品は抜かれていたので盗難品のため、警察署に赴いたが、遺留品係も混雑しており、そのまま持って帰りました。持ち主に直接返そうとカバンの中身からの手掛かりは1冊の本。パトリック・モディアノ著の『夜半の事故』には「ロールへ、雨降る中、私たちの出会いの記憶に。」というサインがありました。ここからは推理小説のような展開、さあ、果たしてローランはロールに会えるのか、また、その後の物語は…。

 主人公が書店主というのが気になりましたが、さすがはパリだけあって、神戸須磨板宿の書店主とは違います。微かなきっかけでも人生は大きく変わるのだなぁ~何事も一期一会。目の前のことには全力で!

『赤いモレスキンの女』(アントワーヌ・ローラン著、新潮社、本体価格1,800円、税込価格1,980円)

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八月の銀の雪

2022-01-23 11:40:48 | 

 『月まで三キロ』(伊与原新著、新潮文庫)から伊与原新さんのファンになり、続編を読みました。こちらも科学と人間の抱える個人的な問題とのオーバーラップの短編小説です。

 書名になっている「八月の銀の雪」では、難航する就活をしている、1年留年している大学4年生の堀川と、仮想通貨のマルチの手先になっている清田、コンビニのアルバイトのベトナムからの留学生グエンがそれぞれ抱える悩みを、グエンの研究する地球の内部を絡めて展開します。人は外面を気にして、良く見せようとするも、内面を良く知ろうとしない、または知っていても無視する嫌いがあります。「表面だけ見ていても、他人にはけっしてわからない。その人間にどんなことがあったのか。奥深くにどんなものを抱えているのか。」

 「アルノーと檸檬」では、瀬戸内海の島の檸檬農家の後継ぎである正樹は、俳優を目指して東京へ出てくるも、なかなか目が出ず、不動産会社で勤めています。管理している賃貸に住んでいる加藤寿美江(すみえ)の部屋にやってきた伝書鳩と思われる鳩の飼い主を探すように頼まれます。鳩の素晴らしい帰巣能力と自分が故郷に戻れない現実の相関を語ってくれています。

 「玻璃を拾う」では、珪藻の姿の美しさに取り付かれた男性と、その写真を無断でSNSで発信した女性との物語。珪藻の美しさは、「こんなに小さく、こんなに精巧なガラスの器を作り出した、自然。」の偉大さを称えた彼に惹かれていく女性。ミクロの大自然が男女を取り持つとは不思議ですよね。読み終わって、『珪藻美術館 ちいさな・ちいさな・ガラスの世界』(福音館書店)を注文してしまいました。

 他の2編もとても素敵な物語です。寒い毎日、科学の世界と共に読書に耽りましょう。

『八月の銀の雪』(伊与原新著、新潮社、本体価格1,600円、税込1,760円)

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死にたくなったら電話して

2022-01-11 17:06:54 | 

 3浪生の徳山はアルバイト先の仲間とキャバクラに遊びに行き、キャバ嬢の初美と出会い、恋に落ちる。初美の蔵書のラインナップが「殺人」「残酷」「地獄」「猟奇」「拷問」「虐殺」を含むものばかり。そして、その知識は半端ではなく、そこから生み出される結論が生きていても仕方ない、だから死のうというネガティブなもの。徳山はこれに影響を受け、人間関係を整理していき、同志社大学に合格したにもかかわらず、入学手続きをせず、初美との生活を続けていく。

 この物語のどこまでも厭世的な空気はコロナウイルスの感染拡大の影響から拡散していくと恐ろしいが、本当に底なし沼の様相を示す。生きるのは四苦八苦であるが、その中に小さな幸せを見いだすことが大切だと思っていたが、その思いも木っ端みじんに砕かれる。破滅願望の人には触れさせないほうがいいでしょう。

『死にたくなったら電話して』(李龍徳著、河出文庫、本体価格850円、税込価格935円)

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スモールワールズ

2022-01-06 15:55:36 | 

 どれもこれも遭遇しないであろうと思いつつも、その場に置かれたら、自分ならどう考え、どのようなアクションを起こすのかと想像してしまう6つのシーンを描く短編集。不妊、離婚騒動からの実家への帰宅、乳幼児の不審な死亡事例、実兄を殺された犯人と文通をする妹、娘がLBGTQになった父、そして、最初の物語の延長線上のストーリーと、どう答えを出していいのかわからないが、正面を向いて生きている感は十分に触れることが出来ます。

 私には、「魔王の帰還」がとても面白かった。気の弱そうな男と結婚した姉は近所の子供たちに「魔王」と呼ばれるぐらい身体も大きく、豪快な性格の持ち主。魔王は離婚する気で実家に戻ってきたが、弟と彼の同級生の女の子と金魚すくい選手権大会に参加する過程で、「気持ちで勝つ」ということを学び、夫のもとへ戻ります。魔王の心の波は高く時化ていましたが、気持ちを穏やかにし、集中することを発見したのでしょう。

 エゴを出せば、周りとの関係は荒れますが、今の自分は何をすることが最善なのか常に考えて生活しなければいけません。

『スモールワールズ』(一穂 ミチ著、講談社、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

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一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語

2022-01-05 16:16:43 | 

 出版業界ではもちろん超有名な1万円選書、NHKプロフェッショナルにも出演され、全国から講演依頼が舞い込む北海道砂川市のいわた書店の岩田さん。このたび、1万円選書に至った経緯、また、書店の今後について出版されました。

 書店の廃業も考えていた岩田さんに高校の先輩から差し出された1万円。「これでオレに合う本を選んでくれ!」。その人が今、何を読みたいかを考えて選書するスタイルはこうして始まりました。一般に広げるために、選書カルテを編み出し、読者は、選書カルテを書くことで、自分の人生を顧み、また、今後を予想して書くので、セラピーになり、岩田さんは、「その人が望んだ生き方を肯定し、人生に寄り添ってくれる本を選ぶ」わけです。これによって、代替不可能な本屋となり、累計1万人以上の選書を行い、常に3,000人待ちの状況になりました。新刊や売れ筋の書籍は大型書店やネット書店に任せ、おススメ書籍を売る書店に転じることは、すなわち、1人1人への選書するサービスを商品とした、自らの主体性が発揮された書店に変貌を遂げました。仕事でやりたいことができるのでストレスもないでしょうね。

 井戸書店も見習って、1万円選書をしております。読書歴が違うので、岩田さんのチョイスとは全く異なります。これが多様な販売になると考えますし、井戸書店の店頭のあり方を考える契機になりました。「モノではなくヒトにフォーカスする」大切さは間違いありません。

『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』(岩田徹著、ポプラ新書、本体価格900円、税込価格990円) 

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