ある本を読んでいて、精神療法をやってられる、この著者の名を知り、講談社現代新書の本書を読んでみました。カウンセラーや医療職を目指す人に向けた講座や講義をまとめた内容ですが、10講に渡って人間の心理の世界をわかりやすく解説しています。
私たちが目指す生き方を「自分で感じ、自分で考える」地点に置いて、様々な視点で発見を授けてくれています。まずは、書名でもある「普通」。普通に生きたいと人は言いますが、「普通」ってなにか?著者は「言葉の手垢を落とせ」と忠告してくれます。マジョリティの人として生きることが「普通」なのか?他人と違うことはしないのが「普通」?しかしながら、自他には違いがあり、それぞれの人がそれぞれの特徴を抱いて生きています。「自分で感じ、自分で考える」ならいかに処するか?
また、頭と心、身体、そして自然の関係はとても興味深かった。われわれ人間は自然の一部であり、心や身体もその一部です。頭は理性の場であり、二元論で成り立っており、「~すべき」「must」、コントロールの世界です。時間軸では過去と未来を捉えるに終始します。心は「~したい」「want」、欲求の世界で、喜怒哀楽の感情の世界です。時間的にはいまここを捉えます。身体は心と連携しています。人間は他の動物と違い、「頭」の存在が大きく、「心」や「身体」への影響が著しい。
その上で本当の自分のとは何かを問う第8講は禅的で面白い。家庭や社会における教育や常識に晒されて、本来の自分の姿を見失うものの、自分で志を立てるなどの自発的なきっかけで本当の自分が現れる過程は一人の人間の真の誕生と考えられます。
心の姿はよくわからないと考えていましたが、霧は晴れてきました。
『「普通がいい」という病』(泉谷 閑示著、講談社現代新書、本体価格920円、税込価格1,012円)