あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

見下すことからはじめよう

2016-05-30 18:05:58 | Weblog

 生き苦しい時代と言われて有余年。現実が人の心を病んでしまい、物理的には生きていても、心が泣いています。この社会の状況を1960年代からのマンガやアニメのコンテンツを時代に照らし合わせて分析し、これからの生きる方策を考えている本書。

 まず、現代日本を

 「複雑な社会と、持て余した欲望と、不安を回避するための壁に囲まれて、日本人は『普通』が分らなくなってしまっている」

と理解し、誰もが「壁」を作り、「壁」の内部で生きています。壁に入りたいのは、「こうあらねばならない」という同調圧力に屈してしまい、幸せになれない現実があるから。つまり、自分が判断する基準を持ちえないように日本人を改造しています。

 しかし、壁から脱しない限り、幸福感は醸成できません。そのためには、

 魅力ある人になり、リアルな場で居心地のいい場所を生み出せ!

と提案しています。他者の価値観や判断で生きるのではなく、自分基軸の人生を歩むことというOSをインストールしましょう!

『見下すことからはじめよう』(山田怜司著、ベストセラーズ、本体価格1,200円)

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

炎の陽明学 - 山田方谷伝

2016-05-23 14:09:07 | Weblog

 毎月第4日曜日の午前9時より1時間、井戸書店では『大人の人間学塾』と称して、人間学の書籍を1冊、参加者で輪読し、その感想を述べ合うイベントを開催しています。第10回目の昨日の課題図書は『炎の陽明学 -  山田方谷伝』(矢吹邦彦著、明徳出版社)でした。

 山田方谷と言ってもなかなか知られていない人物ですが、幕末の備中松山藩の財政再建を一気に成し遂げた人物です。10万両(現在の貨幣価値で300億円)の負債を、7年で払拭し、逆に10万両の余剰金を作り上げました。

 農家の倅として生まれた方谷は、山田家の再興のため、子どもの頃から勉学に励み、神童と呼ばれるほどになりました。しかし、14歳で母が亡くなり、1年後には父も失い、家業を継ぎます。彼の才を惜しみ、藩主坂倉勝職(かつつね)が二人扶持の奨学金を出し、学びの道に戻りました。その後、京都遊学、江戸では昌平黌に学び、佐久間象山と並び塾頭になった。

 藩主が坂倉勝静(かつきよ)になり、抜本的な藩政改革を推し進める中で、山田方谷に元締役及び吟味役を拝命し、藩の財務一般を管轄することになりました。大なたを振るう改革は

 ①財務状態の藩士への公開(表高5万石に対し実石1万9千石、10万両の負債状態)

 ②大坂蔵屋敷の廃止、自力で米の売買を行う

 ③信用を失った藩札を公前で焼き払い、新しい藩札を発行

 ④領内から取れる砂鉄で備中鍬を製造販売、その他特産品も開発

 ⑤下級武士に新田開発を奨励

 ⑥農民による農兵制を新設、欧米の新兵器の導入

と、幕末の薩長土肥列藩のさきがけのような存在となりました。

 彼の思想のベースは陽明学。「致良知」と「知行合一」の陽明学を、「誠」と解釈し、「言ったことは成す」を真髄と考えました。

 しかし、藩主坂倉勝静は筆頭老中となり、幕府の中枢のため、官軍に攻めたてられたが、方谷による無血開城により、方谷は隠居の身になります。

 明治新政府は彼に大蔵大臣就任を依頼しますが、頑なに断り、農夫と塾長として田や人を耕しました。

 彼こそは代表的日本人に加えてほしい。時代は違うとはいえ、1000兆の負債を抱える日本は彼の生き様を参考に財政再建に努めてほしいと思います。地元である備中高梁市では、方谷をNHK大河ドラマで取り上げる運動を行っており、この時代に彼の功績を国民に観てもらう必要があると考えます。

『炎の陽明学 -  山田方谷伝』(矢吹邦彦著、明徳出版社、本体価格3,300円)

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

縁は苦となる苦は縁となる

2016-05-19 17:25:04 | 

 帰省した次男坊が、「大阿闍梨って知ってる?」と訊いてきたので、「塩沼亮潤さんか?ほとんどの本は読んでるよ。これが新刊や。」と言って、『縁は苦となる苦は縁となる』を差し出しました。

 塩沼亮潤さんは大峯千日回峰行満行の大阿闍梨。吉野・金峯山寺1300年の歴史で二人目の達成者。その模様を書いた、『大峯千日回峰行 修験道の荒行』(春秋社)を読むと、あまりの過酷さに驚いてしまいます。驚異の荒行をやり遂げられた大阿闍梨だからこそ、仏の道を説く言葉は平易で心に沁み込みます。その中から私の胸を打った二つの文章を紹介します。

 「本来いらない『とらわれ』を捨てることにより、初めて大切な何かに気づくことができます。古来、手放すことが大切だといわれ続けてきたのは、私たちがさらにもう一つ成長するためなのでしょう。」

 人は欲があり、執着します。しかし、捨てる勇気があれば、欲も減退し、自身の目指す道も見え、生き方もシンプルになります。あれもこれもと思わずに、いまここに集中することが必要です。

 「そもそもお釈迦さまの教えである人生の真理とは、野に咲く花のように、あるがままに生きること。そして、よりよく生きることの考えかたなのです。植物は人に見えない根の部分では淡々と努力をして、天に向かってきれいな花を咲かせています。けれども自分の姿を見せびらかしたりしません。」 

 地位や名誉、肩書、権力に目がくらみ、本来するべきこととは違う生き方になっている人がいます。生きているあるがままの姿こそが美しい。それを知れば、余計な背伸びもしなくなります。

 深夜テレビ番組「クレイジージャーニー」に出演された塩沼亮潤大阿闍梨を見た次男坊は、自宅の書棚にあった『大峯千日回峰行 修験道の荒行』(春秋社)を持って帰りました。

『縁は苦となる苦は縁となる 』(塩沼亮潤著、幻冬舎、本体価格1,100円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

青い記憶

2016-05-18 16:22:56 | Weblog

 『青い約束』を読んで感動をおぼえて、新刊の『青い記憶』も読んでみました。ちなみに『青い約束』のここでの紹介は以下をお読みください。

http://blog.goo.ne.jp/idomori28/e/866ba64114cc242d526785a3976fe228

 悪性脳腫瘍と診断された父・周輔は息子・希一へ、手紙という形態で彼の青年時代を包み隠さず語る小説。周輔は絵を描きたい一心で東京芸大に2度受験するも失敗し、早稲田大学商学部へ入学します。しかし、絵への思いは捨てられず、大学を休学して、パリの美術試験予備校へ留学。高等師範学校に通うオルガとパリで出会い、恋に落ちる。彼女との毎日は幸せの連続でしたが、彼女が元恋人との関係を考え直すところから、周輔のパリでの生活も狂いが生じ、絵の才能の頭打ちから、帰国を決意します。ここから周輔はどん底に叩きつけられる事件に遭遇します。

 最後の30ページで事件の真相が明らかにされますが、人生の悲哀はいつどこで遭遇するかわかりません。だからこそ、一日一日を大切にしたいと考えながら読了しました。

 父から息子への手紙には、人生訓めいた言葉が書かれています。

 「本当に確信があったうえでの決断なら、逃げ道を作らないまま運悪く挫折しても、自分を納得させることができるだろうから、人生を大きく壊すことにはならないだろう。そんなときは逃げ道を作ることは力の分散になり、せっかくの進路を妨げることにもなりかねない。強い確信を抱けるかどうか。それを正しく感じ取れるかどうか。すべてはそこにかかっているのかもしれない。」

 「今、病気になって改めて感じたことなんだが、生きているということはただそれだけでも、神様からごく限られた時間だけ与えられた、かけがえのないプレゼントだ。僕らはだからこそ、それを宝石みたいにきれいなものにしていかなければならない。」

 生きる指針を常に抱いて、息子たちに語れる父になりたい!

『青い記憶』(田村優之著、ポプラ文庫、本体価格640円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

LINEで子どもがバカになる

2016-05-07 16:40:03 | 

  私立中学受験の塾で国語を教える著者・矢野耕平氏は子どもたちの日本語運用能力に違和感を感じ、本書を著しました。「読解力」や「論理的思考」は問題ないが、「語句・慣用句」に弱くなっている。その原因を探ると、第一はLINEです。

 二人、もしくは数人のグループでの閉鎖的なコミュニケーションのため、表現が稚拙(心情表現ができない=フィーリングプア)であり、わかり易さを優先するために比喩ができず、スタンプや絵文字利用で原始人化(原始人は洞窟に絵を描いていた。答案用紙に絵文字が登場する?)し、自動変換や予定変換のため同音異義語や同訓異義語がわからず、短文入力のため接続語は消え去るなど、日本語を表現することは非常に難しくなっています。

  第二は核家族化です。敬語が使えないだけでなく、両親が共働きのため、1人で留守番する時に手にするのがスマホになってしまっています。

  第三はタワーマンションです。外に出れない、窓が存在しない家に住むために季節感が育たず、自然に対する知識も机上だけになり、虫や花に対して思いが働かないために、言葉が貧弱になっています。

  第四は、そんな子どもたちに英語教育です。母語が確立していない状態で、会話主体の英語教育はどぶに金を捨てるようなもの。「英語を解釈する際には、日本語で考えることが必要」なのに、これではどの言語も習得できない日本人を生み出す教育となります。

  このような子どもたちに求められる日本語教育は「ことばにじっくり立ち止まり、熟考する姿勢を育んでいくこと」としているが、そこには日本語を使える大人たちの存在が必要になります。しかし、その大人たちもスマホに依存する傾向が強くなっています。私は子どもたちのデジタルへの接触は制限し、LINEなどで子ども同士でコミュニケーションをとるのではなく、日本語を駆使できる大人が子どもの国語力にレベルを下げずに語り合い、少しでも多くの日本語表現のシャワーを浴びるべきだと考えます。非常に難しいこととは言え、このままであれば、さらに読書人口が減るのではないかと危惧します。

『LINEで子どもがバカになる 「日本語」大崩壊』(矢野耕平著、講談社+α新書、本体価格840円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コーヒーが冷めないうちに

2016-05-07 15:54:25 | 

 「あの時、ああすれば良かった」、「なんであんなことを言ってしまったのだろう」、「相手は何て考えていたのだろうか?」と後悔や思案することは多々あります。もう一度、その場面に立ち返って、自分の言動を正したり、相手の気持ちを訊くことができたらなぁと想いますよね。この小説では、それができる、つまり過去に戻れる喫茶店「フニクリフニクラ」がストーリーの舞台です。但し、非常にめんどくさいルールが5つあり、過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけという極めて短時間。

 4つの短篇が用意されており、過去に戻る3つのストーリーと、逆に未来に進む物語はどれも感涙のものばかりです。私自身が一番感動したのは第四話『親子』この喫茶店で働く妊婦の話です。喫茶店「フニクリフニクラ」に勤める計(けい)が喫茶店のマスターの時田流(ながれ)の子を宿しますが、計は元来心臓が弱いため、出産時、母子ともに健康である可能性は低いと医者には告げられます。計は自身の子どもがどうなっているのか知りたくて、10年後に身を置いてみました。ここからの内容は本書に譲りますが、最後に著者が言いたかったことが書かれています。

 「現実が変わったわけじゃない。(中略)過去に戻って変わったのは『心』。」

 過去に戻ろうが、未来へ進もうが、そこで知ったことで「心」を変え、変わらない現実に対して凛として生きていけるのですね。

『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和著、サンマーク出版、本体価格1,300円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界中のトップエリートが集う禅の教室

2016-05-02 18:07:03 | 

  昨日、京都国立博物館で「禅 心をかたちに」を観てきました。禅の歴史、そして、禅の思想を伝える書画に圧倒されました。難解だとされている禅ですが、本書で頭にあったもやが消え去りました。

  著者は妙心寺春光院副住職で、マインドフルネス講師でもある川上全龍氏。アメリカの大学で宗教学、心理学を学び、帰国後は春光院で英語での座禅の教室を開き、多くの外国人が参禅に訪れています。アメリカのグーグルでは、禅、特に瞑想をトレーニング化した「マインドフルネス」を取り入れた人材育成をしており、その影響から禅に注目が集まり、マインドフルネスそのものが逆輸入されています。

  それでは、なぜ、今、禅なのか?リーマンショック後、欧米の企業エリートが則していた実践主義や勤労主義、また個人の自己実現を進めることが利己につながり、全体の幸せに貢献しないことがわかり始めました。利他や共感を生むために、禅の思想や実践に触れる必要が叫ばれました。禅は

 1.座禅や瞑想で、心を落ち着かせ、自己認知力や思考の客観性を鍛え、 

 2.あるがままの状態を把握するために、主観を排す

という二面にて解説されています。心身を整え、主観を排し、物事をありのままに見ることができれば、新たなる創造性が発揮できます。執着に直結する固定観念の除去こそが禅のツボであり、ステークスホルダー全員の幸福が醸成されます。

『世界中のトップエリートが集う禅の教室』(川上全龍著、石川 善樹・協力、KADOKAWA,本体価格1,600円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする