あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

明日死ぬかもしれないから今お伝えします

2019-08-31 07:56:58 | 

 平凡なサラリーマンの前に現れた死神に、明日死ぬことを告げられる。

 どうしていいかおろおろしていると、死神は1通だけ手紙を書いていいと言う。

 彼は妻に書くことにした。エンディングレターですね。

 ここからは先はもう書けません。帯に書いている通り、「愛は、黙っていても伝わらない」。

 この本の最後のページは、便箋風の余白になっており、メッセージを書き込めるようになっています。あなたの妻の誕生日に、結婚記念日に、はたまた、ふたりの愛を深めたいと感じた日に、想いを込めてプレゼントできますよ!素敵な大人の絵本です。

『明日死ぬかもしれないから今お伝えします』(サトウヒロシ著、KADOKAWA、本体価格1,200円)

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入門! 自宅で大往生

2019-08-30 17:00:33 | 

 この本をもっと早く読んでおけば良かったなぁ~

 オヤジが今年の7月18日に永眠しました。本人は家逝きを希望しましたが、結局は病院逝きでした。希望通りにならなかったというよりも、本人の病状が電撃的に悪くなり、帰宅する間もなかったというのが現実です。しかし、この前に読んでおけばよかったと思います。

 私自身は家で誰も見送っていないので、「死」というものが想像できませんでした。家逝きを経験していると、人間はどういう風に死に向かっていくかが理解できたでしょう。もう駄目だとわかっていても、オヤジに元気になってもらって、家に帰ってもらいたいがために、要らんストレスを与えていたと思います。

 日本の家族も核家族、または一人で所帯を形成する割合が多くなる中、人は如何に死んでいくかがわからない、また、自分自身もいずれは死ぬわけですから、予習をしていても損はないでしょう。特に、介護を受ける身になる時に、介護者に気持ち良く介護してもらうためにはどう対処すればよいか、このあたりになると、もう人間学の範疇になるやもしれません。

 本書で書かれていたことで脳に刻んでおかなければならないことは、

 「寿命ありきではなく、『暮らしや人生の質、生きる意味』を軸にして考える方が、残された時間を有効に使える」

 「自分が大事なら、介護者を大切にする」

 「人は生きてきたように逝く」

です。その時にジタバタしないように、心身ともに生きる最期の極意は知っておきたいものです。

『入門! 自宅で大往生 あなたもなれる 「家逝き」達人・看取り名人』(中村伸一著、中公新書ラクレ、本体価格860円)

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アイデアはあさっての方向からやってくる

2019-08-26 15:24:07 | 

 新規に企画する時は、新しい視点や発想で取り組みたいもの。しかしながら、従前のものに引っ張られたり、自分の力量不足を理由に、色よいものが生まれてきません。そこで、本書はその考え方やノウハウを紹介してくれています。

 新しい視点を得るためには、みうらじゅん式の「修行」の実践を提唱しています。「自分に向いていない」映画や本、音楽、美術などは避ける傾向がありますが、「自分から『遠い』ものや、世の中で゛微妙〟だと思われているものに触れる」ことを自分に月1回課します。新たな挑戦になりますが、今までなかった見方が生まれる可能性はあります。

 また、「文句は欲望の裏返し」であるため、文句を拾う行為が大切になります。「本屋大賞」誕生の裏側には、各文学賞作品を書店サイドでは売りたくない、なぜ、この作品なの?という文句への裏返しです。全国の書店員が売りたい小説を選んで販売するのは、当たり前ですね。

 書名の通り、「あさっての方向からやってくる」素地や仕組みは自分で作り出すものであり、それを習慣にしてしまえば、もう鬼に金棒です。

『アイデアはあさっての方向からやってくる』(嶋 浩一郎著、日経BP社、本体価格1,400円)

 

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青空に飛ぶ

2019-08-17 10:06:40 | 

 昨年に大きく売れた、『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』の小説版です。

 アメリカからの帰国子女である、中学2年生の萩原友人はクラス全員からのいじめで苦しんでいた。誰にも言えず、心身ともに極限にまで至り、自殺を決行しようとしていた。その場所は、叔父、叔母の住む札幌。叔母が働く病院に、9度の特攻作戦から帰還した、92歳の佐々木友次が入院していた。自分は死のうとしているのに、9回も死から生還した特攻兵は「生きる」とはどう考えているのか?興味を持った友人は、古本屋で『陸軍特別攻撃隊』を購入し、死を思い止まり、読みふける。読めば読むほど、本人の佐々木友次から生で話を聴こうと、病院へ向かう。そこでわかったことは

 「命のある限り戦う」「人間は容易なことで死ぬもんじゃない」「寿命は自分で決めるものではない」

ということ。特攻作戦の愚をわかりきっていた佐々木友次は、上官からどう罵られようと、犬死を拒否し、自分の命を粗末にせず、自分の持てる力を発揮しようと志していた。友人は彼の生き様を知り、自分の生き方を変えようとする。

 いじめのシーンでムカついて、読むのを止めようと思ったが、それを乗り越えて、「命」の大切さ、生きる意味を感じさせられた。

『青空に飛ぶ』(鴻上尚史著、講談社文庫、本体価格740円)

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身体感覚で『論語』を読みなおす。

2019-08-16 14:08:04 | 

 身体感覚と古代漢字で読み解くと、論語はとても面白い。

 「心」という漢字は3000年前に生まれています。「心」という概念が創出されたので、その文字が生まれました。人間の「心」は、ポジティブな面ばかりではなく、苦しみ、傷み、つらさを味わうようになります。その心の病の解決策の「心の指南書」として、論語が生み出されてきたと考え、「本来は神とのコミにケーション・ツールであった『礼』が、苦しい『心』に役立つと発見した」のが孔子だったのでしょう。型である「礼」を実践し続けると、論語の最高の徳目のである「仁」が自ずと醸成されていくしくみは、能楽師の著者は能と同じメソッドであることを訴えます。

 「仁」は他者への思いやりであり、自己と「他者、他者の気持ちとの一体化」、つまり、「己の欲せざるところ、他人に施すことなかれ。」となります。自己の他者へのポジティブな心の持ち様は、自己が喜ばしいと想像することを実践するだけです。

 「君子は器ならず」に関しても、非常に興味深い。君子、思いやりのある人は「器」、専門家、スペシャリストではなく、ゼネラリスト、すなわち、多くのことに通じている人であると孔子は述べているが、これは孔子そのものであり、著者も多くの分野に精通しておられます。本書の解説では、多能な著者に、解説者の内田樹先生がエールを送って終わっています。

『身体感覚で『論語』を読みなおす。―古代中国の文字から―』(安田登著、新潮文庫、本体価格550円)

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からだの無意識の治癒力

2019-08-12 16:18:29 | 

 井戸書店では、著者・山口さんの本はほぼ陳列しています。今までは皮膚触覚に重きを置いていましたが、今回は身体の無意識の側面を追いかけています。皮膚、腸、筋肉です。なぜ、無意識に焦点を合わせているのか?それは現代の人間の置かれている環境、そして、そこから発せられる人間の思考、行動に基づいています。

 意識領域の脳が重要視されています。脳は人間の欲望を高め、暴走させ、身体においても独裁者の態をなしています。身体を隷属化し、身体性を欠如させ、不健康へ導いています。インターネットやSNSにより、リアルに会うことも接することもなく、すべてバーチャルで処理できてしまう、脳優位の世の中です。しかし、そうすることで幸せや健康も享受できていないのが現状です。

 人間が誕生するまでの歴史を振り返ってみると、単細胞生物においては、外界と自己を隔てる膜の存在があり、触覚だけでなく、多くの機能を有しています。これは人間の皮膚に相当します。また、5億年ほど遡ると、食べ物を吸い込み、腸で消化後、不要なものを排出する、ホヤという原始的な生物は腸がメインであり、この周りにその他の臓器が付いてきたことを考えても、モノ言わぬ腸は大切な臓器であり、「第二の脳」とも言われています。さらに、筋肉も皮膚や腸と同様、単独で動くわけではなく、すべての臓器が関連して機能しています。人間だけが、脳を異様に発達させ、身体のことを忘れていますが、歴史的に見ても、根本は身体、そても無意識の領域です。これら3つの働きは本書で十分に紹介されていますが、無視することはできません。

 西洋の思考では、分野ごとに分けて考える傾向がありますが、統合的に観察していくことの必要性、は身体だけでなく、すべての事象において不可欠なのでしょう。

『からだの無意識の治癒力 身体は不調を治す力を知っている』(山口創著、さくら舎、本体価格1,500円)

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もし、日本という国がなかったら

2019-08-10 15:02:37 | 

 アメリカ生まれのユダヤ人ながらオーストラリア国籍を持つ著者は、日本をこよなく愛する人です。1967年に日本の土を踏み、新聞記事を書いたり、大学の教壇に立ったり、または映画、演劇に携わってきた彼は、宮澤賢治の虜になり、井上ひさしとの深い交流、大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」の助監督を務めるなど、かなりユニークな存在です。

 日本の文化、風土に造詣の深い彼は、「世界を対立から救うのは、日本以外にない」と断じています。日本の無宗教、非宗教性は宗教対立の橋渡しになり得るし、環境問題においても、宮澤賢治の教えである、人間は自然の一部であることを一番知る日本人の存在価値は高い。しかし、そのためには必要なことは、日本人が日本文化の普遍性を理解すること、さらには、「『変わり者』に創造の機会を与え、若い人がぼくらに食って掛かること、もっと言えば逆らうことうを奨励する」こと、若者の「反逆精神」の醸成を訴えておられます。「富国強兵」ならぬ、「富国強芸」、いまで言う、ジャパンクールこそが21世紀の日本の旗頭になるのでしょう。

『もし、日本という国がなかったら』(ロジャー・パルバース著、坂野由紀子訳、角川ソフィア文庫、本体価格1,000円)

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ハーバードの人生が変わる東洋哲学

2019-08-01 17:00:02 | 

 中国思想は難解なものが多いですね。しかし、ハーバード大学での東洋思想講座での講義内容の本書は、孔子、孟子、老子、荘子、荀子の教えを的確に解説してくれています。

 例えば、孔子の論語は、生きていく上での各場面ごとに行う、「〈かのように〉の礼を通じて、まわりの人に親切にする術を感じとる能力」、つまり、「仁」、思いやりを醸成していくことがその根幹であることを教えてくれています。「礼」という型にはめることを嫌う人も多いでしょうが、「礼」を「守破離」のスタンスで応用すれば、「仁」が滲み出す人格形成がなされます。

 また、荘氏の「物化」では、様々な物や生き物からの視点を自らに取り入れることにより、視野狭窄を打破し、「真の想像力と創造力を育てる心の状態が得られ」、理性からの解放と自発性の発揮に結びつきます。「広がりのある〈かのように〉の世界へとわたしたちをいざない、想像力をひらいてくれる」ためには、「流されるな、流れろ」という状態になることを求めています。

 日本の禅も含めて、混迷の世界の課題の解決のヒントは東洋思想にあると思います。

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学──悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』(マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー著、早川文庫、本体価格700円)

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