あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

悲しみのマリア 上・下

2014-06-26 16:37:57 | 

  東京・清瀬に、きよせの森総合病院(旧武谷病院)という病院があります。理事長は、武谷ピニロピという94歳になるロシア人女性。彼女の父親は、帝政ロシアが誇るバルチック艦隊勤務を経て、ロシア帝国最後の皇帝となったニコライ2世の身辺警固を勤めた職業軍人でした。父親はツァーリの擁護者として、革命政府から追われる身となり、家族は革命を逃れてさまよい、ウラジオストックで日本陸軍の情報将校・安藤大尉が援助の手を差し伸べ、ハルビンの逃亡途上の列車のなかで、彼女はこの世に生を受けました。亡命先は日本。安藤大尉の実家、会津若松の若松酒造へ身を寄せました。


 日本語もわからない彼女は若松第五尋常高等小学校へ編入し、そこからは向学心に燃え、県立会津高等女学校、東京女子医学専門学校へ進学しました。いずれの学校でも卒業式の答辞を担当するほど、成績も優秀でした。医師になって、戦時中に物理学者の武谷三男と結婚し、白人だったために迫害を受けつつも、終戦を迎え、貧しい人のための病院建設に臨みました。

 彼女の生涯を綴った本書には、彼女の並々ならぬ闘志、それとともに類を見ない忍耐心が目を見張りました。私には彼女が会津に身を寄せたことも、人生の形成に大きかったと感じます。「ならぬことはならぬものです」の「什の掟」で鍛えられたに違いありません。


 そして、ベートーベンが聴力を失った四十九歳の時の言葉が彼女を奮い立たせたと思います。それは


「正しい、貴い行ひをするものは、ただそれだけに依って、不幸に堪へ得るということを、自分は保證してやりたい」

 治療法の確立していないベーチェット氏病という眼病を患った、城山三郎賞受賞作家を診た彼女の生涯は本当に逞しく、勇気を与えてくれます。

「悲しみのマリア 上・下」(熊谷敬太郎、NHK出版、本体価格 各1,800円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小商いのすすめ 「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ

2014-06-23 14:03:08 | 

  ミシマ社さん書籍の販売を始めました。井戸書店と相性が合いそうな本があるので、突撃営業の寄谷さんに、名前の通り、寄り切られました。

 さっそく読んだのが、以前から気になっていた本書です。資本主義的な社会システムが、

 産業資本主義→消費資本主義→金融資本主義→経済成長不可能な状態

へと変遷していく中、これからは「小商い」が脚光を浴びるはずだと主張されています。「小商い」の定義を、

 「自分が売りたい商品を売りたい人に届けたいという、送り手と受け手を直接的につないでいけるビジネスという名の交通」

とされ、自然性を考慮に入れたヒューマンスケールを追求する商いです。環境問題や原子力発電事故を経験し、人間が「拡大」や「成長」を目指すよりも、「継続」に重きを置き、労働の現場の一人一人の幸福を実現するための切り札ともいえましょう。

 戦後日本の経済や社会、人々の生活を、「昭和が明るかった理由は、貧乏なのに明るかったのではなく、誰もが共和的にゆえに貧乏を受容することができた」し、「今日の日本は富を得て、野性を失いつつある」と考察している点に共感をおぼえます。そして、「いま、ここ」に責任を持って生きることが「小商い」へのベクトルを生みます。

 街の書店の商売は、「小商い」の好例ですね。戦後の、共同体を個に解体した流れを取り戻すべく、街には本屋が必要です。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

命の格差は止められるか

2014-06-19 17:03:22 | 

  健康と言えば、個人に起因していますが、「社会と健康」を研究テーマに掲げ、平均寿命の差が国によってなぜ違うのかをハーバード大学の日本人教授イチロー・カワチ氏は本書で分析しておられます。

  食事が違う、医療技術に差があるなど様々な要因が考えられる中、格差の差がまずは考えられました。グローバル経済の進展とともに、非正規雇用者が増え、人々の所得の格差が生まれ、その結果、教育の格差も発生してます。これら所得、労働、教育のレベルが高低で、健康の格差も生まれています。

   さらには、絆やお互い様という精神、地域の結束が健康に大きく影響している結果も出ています。いわゆる、ソーシャルキャピタルですね。

「地域や人のつながり、そして、そこに生まれる信頼感があり、また、人が他人を思いやる協調的な行動をとると、それが地域全体や自分の財産になる」

ということは、東日本大震災でも大きく報道されました。ソーシャルキャピタルが弱くとも、ソーシャルサポートがとれる仕組み作りが社会全体としてできれば、健康格差は減らせることが可能になります。これをパブリックヘルスと呼んでいます。

 社会に格差が生まれると、人々のつながりは所得が同レベルにある人に限られる傾向に有り、それはソーシャルキャピタルを弱体化することにつながります。資本主義社会では格差は必ずありますが、できるだけ少ない社会にすれば、人々の寿命も延び、幸福感も増すのではないでしょうか。

 以前にも紹介した、『生命のきずな』(大田尭著、偕成社、本体価格1,200円)には、「生命(いのち)と生命のきずな」こそがライフラインであることが書かれていましたが、非常時だけでなく、常にきずなは強く、広く形成されることを願います。

 『命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』(イチロー・カワチ著、小学館101新書、本体価格720円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アンのゆりかご 村岡花子の生涯

2014-06-18 17:01:06 | 

  NHK朝ドラ「花子とアン」の主人公で、「赤毛のアン」の翻訳者の村岡花子さんの生涯を、花子さんの孫の村岡恵理さんが綴っています。

 戦前から戦後にかけての、女性が社会に出ることがはばかれていた時代に、書くことをやめなかった花子に赤毛のアンの姿を重ねてしまします。本書には市川房枝をはじめ、女性の社会進出を訴えた女傑の方々が登場します。日本女性ならお読みになられることをお薦めいたします。そして、「花子とアン」がより楽しく観れること必至です。

 『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』(村岡恵理著、新潮文庫、本体価格750円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀の島

2014-06-16 15:28:45 | 

 「利休にたずねよ」の著者で、今年2月に亡くなられた山本兼一さんの歴史小説「銀の島」です。

 ポルトガル国王による密命は「石見銀山占領計画」。その計画を命じられた司令官バラッタは、
宣教師ザビエルに帯同し日本に潜入する。迫りくるポルトガル大艦隊を迎え撃つのは薩摩の安次郎と倭寇の大海賊・王直船団!

 バラッタ、ザビエル、安次郎の3人の目線から綴られる物語には、各々の波乱万丈の人生とそれに伴う感情の変化が描かれています。特に、ザビエルの来日には、とても人間臭いストーリーが隠されていたことに驚きました。

 数年かけて、徹底した取材を敢行した著者の本領発揮の作品です。

 『銀の島』(山本兼一著、朝日文庫、本体価格840円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『当たり前』の積み重ねが、本物になる 凡事徹底-前橋育英が甲子園を制した理由

2014-06-11 15:11:09 | 

  高校野球の甲子園の優勝チームの選手たちを指導していく野球部監督の手腕、言葉には惚れ惚れするだけでなく、その生き様、そして考え方には学ぶべき点が多いですね。2013年夏を制した、前橋育英高校・荒井直樹監督もその一人ですね。

 書名の通り、ぶれずに「凡事徹底」を貫かれています。

 「誰にもできることを 誰にもできないくらい 徹底してやり続ける」

言うのは簡単ですが、行動するのは並大抵のことではありません。「積み重ねて、積み重ねて、積み重なったものが、いつかきっと大きな財産になる。」とは至言です。

 また、練習を単に練習と捉えずに、「練習を試合だと思って臨み、そこで課題が見つかれば、より早く試合で成果を出すことができる」ように、常に本気で取り組んでいます。

 そして、ご自身の本気度は、「適当な指導者のもとでは、適当な選手しか育たないはず。」というように、自分をより高める努力も惜しみません。監督以下選手も、「人間性を高め、勝つために必要なチームづくりの極意」が本書には散りばめられています。

『当たり前』の積み重ねが、本物になる 凡事徹底-前橋育英が甲子園を制した理由(荒井直樹著、カンゼン、本体価格1,600円) 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

発動せよ!変人(かぶきもの)感性

2014-06-07 16:35:17 | 

 ワクワク系の小阪裕司先生の新刊はビジネス絵本です。

 日本では子どもの時から、「同調圧力」を受けまくります。「協調性を持て」「空気を読め」と言われ続け、異端になれない環境に置かれています。つまり、「なぜ?」と考えるよりも、時代の流れに乗っかることを奨められ、既存の価値観だけが大手を振って闊歩します。

 また、効率化の重視一辺倒で、寄り道、みちくさはご法度になり、五感を活かすゆとりや空間が損なわれています。

 しかし、モノが有り余るこの時代、常識や慣習に囚われない、自由な感性を活かした変人がビジネスを動かしていることを、ワクワク系ビジネス実践会の実例を挙げて報告しています。

 そこで小阪さんが掲げた指標は 「変差値」 です。ものごとの本質を徹底的に考え、抽象的な概念を練り上げ、実行に移す、変人を目指そうと訴えています。

 『非属の才能』(山田玲二著、光文社新書)

と同じく、変人で何よ!という意気込みで生きていきましょう! 中高生に読んでもらいたい1冊ですね。

 『発動せよ!変人(かぶきもの)感性』(小阪裕司著、ぼくら社、本体価格1,800円)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする