LOS ANGELES FLIGHT DIARY

愛機ビーチクラフトボナンザで南カリフォルニアの空を駆ける日本人飛行機乗りの日記。

フライトログ:Seneca IIでのソロフライトは緊急着陸に終わる、、

2009-11-28 | Flight Log (機長)

厳密に言えば、私は緊急事態は宣言してないが、管制塔の判断でEmergencyという結末になってしまった。ただ、基本的にはハッピーエンドなので、良い記念になった。

以前の日記でも書いて来たが、双発ターボ機のパイパーセネカ(Piper Seneca II / PA34-200T)で自由に飛び回れるようになる為、保険会社の要求事項を満たすべく(同乗飛行5時間、単独飛行5時間、その後は乗客を乗せても構わないというもの)、3回の同乗飛行を行った。そして晴れてソロで飛んでもよいことになり、5時間の単独飛行をこなしてしまおうと、機体の駐機してあるトーランス空港に向かった。

トーランス空港に到着、機体のプリフライトを行う。自分の前にも他の二人が数回飛んでいたようなので、特に念入りにランディングギアを調べた。ソフトランディングが難しいと言われるパイパーセネカ。そしてノーズギアが非常に弱いということでも知られており、ノーズギア回りの耐空改善命令/ADが連邦航空局/FAAから出まくりの機種。かと言って、そんな悪い機体でもないのだが、とにかくノーズギアだけが本当に弱い。High Speed Taxiで旋回などできないし、低速でも急旋回するとノーズギアから異音が出るほど。これは新しいとか古いに関係なく、ノーズギアはセネカの弱点。他の人が飛んだあとはしっかりギアを確認する必要がある。でも、自分が見た限り異常なし。

エンジン始動、Fuel pitで給油してトーランス空港 Rwy29Rにタクシーした。特に問題なし、警告灯も全て異常なし。ランナップの後、Rwy29Rから離陸となったが、100ガロン以上の燃料を積んでいる状態でも、一人乗りで35インチのマニフォールドプレッシャーをかけると気持ち良いターボの加速を感じる。110ktの速度で飛びながらも1200fpm位の勢いでぐんぐん上昇、正に快適なフライトだった。

そのままロングビーチ空港で着陸の練習でもしようと思い、パロスバーデスの上空を旋回して3000feetでレベルオフ、30インチ/2400回転のパワー設定で巡航を開始した。すぐにロングビーチ空港管制塔にコンタクトし、Squawk Codeをもらい、ターボをいたわりながら降下開始。そして125ktくらいに減速したところでランディングギアダウン!。

ここで問題発生。ノーズギアのライトが点灯しない。。。。。

ノーズギアの弱いセネカだけに、かなり焦った。もう一度ランディングギアを出し入れし、ピッチを振ったりしてみたが変化なし。ロングビーチ管制塔に事情を話し、着陸ではなくてローアプローチをしたいとお願いした。そして、ノーズギアを見て欲しいともお願いした。そして、Rwy25Lの上をローアプローチで通過。ロングビーチの管制塔いわく、

”The gear APPEARS down."

もちろんロックしているかどうかの確証はコクピットパネルのグリーンのライトに頼るしかない。ある程度システムに精通しているBeechcraft Duchessなら、グリーンライトに頼らなくても、フルフラップでスロットルを戻せばギアロックなしではギア警告音が鳴るので、色々とトラブルシュート出来ることはあるし、問題点も把握しやすい。ただ、このパイパーセネカのシステムはそこまで細かく把握しているわけじゃない。

ロングビーチ空港の管制塔はRwy25Lに着陸するか?とたずねてきたが、ここはこの機体のベース空港のトーランスに戻るが正解。すぐにロングビーチ空港を後にし、そのままトラブルシュートする為に海上のプラクティスエリアに向かった。そして、POHを確認しながら飛行、トラブルシュート開始。ギアを強制的に下げる方法を確認したが、それを行う前に3個あるギアのグリーンライトを入れ替えてみることにした。ランディングギアを上げ下げしながらライトバルブを入れ替えると、どうやらノーズギアのライトだけが球切れしているようだった。

これでとりあえず安心。ただ、ロングビーチ空港でギアダウンを目視で確認してもらった後、何度もギアの上げ下げを行っているので、ここは念の為にトーランス空港で管制塔に近い29LでLow Approachを打って、再びノーズギアが落ちているかどうかを確認してもらい、その後で29Rに下りるという安全策を取ることにした。

トーランス空港の管制塔に事情を話し、Rwy29Lの上を管制塔の高さでLow Approachした。管制塔からは、

"The nose gear appears down sir"

との返答。一安心。そしてRight Traffic for 29Rに入るべく右に旋回しはじめた途端に管制塔から言われた一言が、

"How many souls on board sir?"

いつのまにか緊急事態 / Emergencyの扱いになってしまっていた。こちらはEmergencyを宣言していないが、Downwindから空港を見ると消防車!!が待機、空港オフィシャル車両も出動している。General Aviation Centerの前には軽くギャラリーが出ている。大事になってしまった。大きめのトラフィクパターンを回り、長めのファイナルを取ってしっかりと速度を落とす。いつも行うショートファイナルでの最終ギア確認だが、分っててもノーズギアライトが消えているのを見ると気持ち良いものじゃない。

いよいよ着陸。ギアを労るようなソフトランディングをしないといけないが、ノーズギアを労るというだけでなく、これだけギャラリーの前でバウンスなどできない!という、多少色気もあったかもしれない。その介あってか、凄く綺麗な着陸、接地が決まった。そして、ノーズギアに負担をかけないようにゆっくり減速し、無事にRwyの外に出た。ギアはロックされているようなので、エンジン停止せずにそのままタクシーすることにした。

ここでトーランス空港Rwy29Rはインスペクションの為に一時閉鎖!(ほんの10分ほどだが)。そして、私とセネカは空港オフィシャル車両と赤色灯を回す消防車にエスコートされながら、General Aviation Centerの前までタクシーすることになった。

機体を停め、エンジンを停止。これで一安心。機体の外に出ると、消防士さんとトーランス管制塔のFAAの人がやってきて、

"怪我はない?”

と質問を浴びせられた。その後はAccident / Incident Reportを書かされた。ずいぶんと大げさになってしまったなと思ったが、それと同時に空港の人たちは困っているパイロットに対して凄く優しいなということを感じた。

あとで聞いたことだが、わたしをエスコートすべく緊急出動した消防車は、トーランス空港のゲートを壊してしまったらしい。

管制塔の皆も凄く優しく、書類を書く私に対し、"急がなくてもいいよ”と笑顔で声をかけてくれる。日本でインシデントレポートを書くことになったら、もっとややこしいんだろうなと想像する。ここアメリカでは簡単な紙切れ一枚の提出で、”何もなくて良かったね!!”と笑顔のFAA管制官がそれを受け取って終わり。

このパイパーセネカのソロフライトデビューはとんでもないものになってしまったが、Emergency Aircraftに対するあまりに優しく気さくな対応を経験し、アメリカのジェネアビとその制度や文化がさらに好きになってしまった感がある。

かなり大げさになってしまったが、”他にやりようがあったかな?”と自分に問い返してみても、もし次同じことがあっても同じように処理すると思う。ギアライトの球切れだなと思っても、管制塔がある空港なら目視で確認してもらうのが安全だ。本当にノーズギアが出ていなかったり、ノーズギアがぶらぶらしていたりすれば、上空旋回して燃料を消費してから着陸しただろう。今回はそこまでする必要ないと判断、緊急事態を宣言するまでもないと考えていたが、それを緊急事態と判断するかどうかは管制塔、管制官次第だったと思う。

なにはともあれ、基本的にこの国はジェネアビパイロット達に優しいと思う。


最新の画像もっと見る

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (YouHaveControl)
2009-11-28 14:50:00
ご無事で何よりです。 正しく冷静な判断、頭が下がります!
返信する
Unknown (DAIJA)
2009-11-29 08:03:10
こんにちは!
大事にならずよかったですね。僕が訓練していたときもスクールのセネカのギアが壊れていて、他のスクールのセネカで訓練したことを思い出しました。アクチャルでのトラブル経験は無いのでとても興味はありますが、出来ることなら飛行機を降りるまで何事も無いほうがよいですよね…
返信する
Unknown (C2)
2009-11-29 14:30:36
>YouHaveConrolさん
Landing Gear Indicatorが光らなかった時は、”ついに来たか、、、”と汗をかきました。ただの球切れでよかったですが、やはり気分の良いものではないですよね。

>DAIJAさん
セネカは良い機体だと思いますが、本当にランディングギアが弱いですね。これを機会に、さらにセネカのシステムを勉強することにしました。これからも頻繁に飛ばす機体ですので、”トラブルが発生して上空でPOHを読む時には復習のような気持ちで読める”というくらいにSenecaのPOHに目を通しておこうと思います。
返信する
Unknown (tackoberry)
2009-11-30 08:59:07
初めまして。
JMGC(非会員ですが)HP⇒大利根@カフェから!経由で辿り着きました。
どの様なお仕事をされているか存じませんがアメリカ在住にてGAを存分に満喫されているようで大変羨ましです。
自身、幼少の頃7年程在米経験があり(LAのTemple CityとSFのMillbrae)、また学生時代にはグライダー部に所属、PhoenixのEstrella Arizona SoaringにてFAAのPPGを取得した事があります。
私の夢も仕事で再度北米駐在をして、グライダーや飛行機でGAを楽しみたいと思ってます。
また覗かせて頂きます!
返信する
Unknown (C2)
2009-11-30 11:21:01
>tackoberryさん
コメントありがとうございます。学生時代からグライダーをやっていたというのはうらやましいですね。私は双発計器飛行まで行ってからグライダーを経験しましたが、”最初にグライダーをやっておけばもっともっと上手くなれたのに!”と悔やんだくらいです。ロサンゼルス在住はあしかけ10年になりますが、これからもGAを満喫するつもりです。コツコツとブログを続けていきますので、これからもよろしくお願いいたします。
返信する
ご無事で何より (pon)
2009-11-30 16:08:25
大変でした
さすが対応も的確で、参考になりました。
(前にもギアのパンクがありましたね。対応がすばらしく、自分でしたら、どうなったかとおもいます:双発なんて操縦したことありませんが)。
それにしても、アメリカのGAに対する対応もいいですね。日本でしたら、どうなるのかと思います。
返信する
Unknown (C2)
2009-12-01 02:04:04
>ponさん
Landing Gear Indication Lightsが点灯しなければ、究極的には強制的にギアを出す操作を行ったほうがいいのでは?という意見も現場ではありましたが、目視でNose Gearが出ていたということでその操作は行いませんでした。したがって、4枚写真の右上にある、ギアハンドル下の赤いスイッチを引き抜くことはありませんでした。何が一番よい方法だったのか、空港の仲間内でメール交換しながら色々話したりしています。これは公開したほうがいい!という意見がありましたら、またこの日記に書いてみるつもりです。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。