住職のひとりごと

広島県福山市神辺町にある備後國分寺から配信する
住職のひとりごと
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四国遍路行記13

2006年09月24日 18時47分16秒 | 四国歩き遍路行記
このとき野根のお大師さんに二泊している。たった一人でお寺を守っている老僧さんと一緒に日長一日色々な話をして過ごした。裏山の木がお堂の屋根に伸びてしまったのを一緒に切り出したり、境内の掃き掃除などもさせていただいた。3日目の朝遍路へ戻る私を国道まで出てきて見送って下さった。今あの老僧さんはどうなさっておられるのか。お元気でいて欲しいと思う。

それから、国道をひたすら歩いて室戸岬を目指した。海岸沿いのひなびた町並みを眺め、また開店休業中といった錆び付いたホテルにかつては人々で賑わったのであろうわびしさを思いつつ歩いた。もう何か見えてくるだろうと思うせいか、なかなか陸地の果てが見えてこない。まだかまだかと思っていると、右手の先に白い大きなお大師さんが見えてきた。10㍍はあろうか。室戸岬の手前に出来た新しい地元仏教界で造った青年大師像だった。

そこを過ぎると国道沿いに、二つの洞穴が現れた。右に神明宮、左が御蔵洞(みくろどう)。御蔵洞で弘法大師が若いときに虚空藏求聞持法を修した。その時龍が現れ修行を止めさせようとしたが、大師は動じることなく完遂し、空と海が口の中に飛び込んできたとも言われている。

このとき、神明宮前で心経を唱え、それから御蔵洞に入った。中は真っ暗で結構奥が深い、コウモリが飛んできそうな薄気味悪い感じがした。何か神様を祀っているようで、神具が並んでいた。振り返ると遠くに水平線が見えた。

大師は四国での修行の後、唐に行く。本格的に真言密教を学ぶために。はっきりと目的を定めて意中の人と出会い、悉く密教を授かって帰国する。その後四国をお参りして歩いたときに、御蔵洞での求聞持法の成就を思い出されて、ここに虚空藏菩薩を本尊に造ったお寺が最御埼寺(ほつみさきじ)だ。

岬をぐるっと回って坂道を上り、石段を上がって24番最御埼寺に参る。山門を入り手前に大師堂、奥に本堂が位置する。境内は岩場でなだらかに傾斜していた。夕方に差し掛かっていたが、先を急ぐ。国道に降りて、国道55号線を高知に向け歩く。25番津照寺は6キロとある。だんだんと暗くなってくる。6キロなど、すぐだと思って歩くので、とても長く感じた。

室津港を左に見て突き当たりを右に曲がると石段が見えた。石段手前のベンチを今日の寝床にすると決めた。翌朝、夜露で寝袋が濡れていた。石段を上がり、本堂にお参りする。本尊は延命地蔵菩薩。本堂は鉄筋の現代風の建物ではあったが、護摩を焚いた残り香が匂ってくるような拝み込んだ雰囲気と本尊様の存在感を感じた。本堂から太平洋が一望できる。さすがは海上安全を祈願するお寺に相応しい眺めであった。

26番金剛頂寺は、国道に戻って5キロの地点にある。大きな駐車場から石段を上がるとコンクリートの打ちっ放しの大きな本堂が見えてきた。屋根は本瓦がのっている。堂々とした造りだ。ゆっくりとお経を唱える。

また国道へ戻り歩く。27番神峰寺までは29キロもある。途中昼すぎ頃食堂に入った。網のケースからおかずを出してご飯と汁を取って食べる昔ながらの食堂だった。自分の家で食べたようなお袋の味。ゆっくり食べて、トイレを済ませてお勘定。

代金を小銭で支払うと、そのお金を受け取られてから、そのうち200円だったか「はい、お接待です」と言われて返して寄越した。何とも申し訳ない思いがしたが、「ありがとうございます」と言って頂戴した。こういう事の繰り返しだと、食堂に入るのにも気が引ける。だからついついお店でおにぎりやパンを買って済ませることが多くなってしまう。

神峰寺を目指して歩くものの夕刻が迫ってきた。まだ神峰寺のある安田町の隣町田野町あたりで、今日のお宿はどうしたものかと考えていると、駅を過ぎて町並みがとぎれた辺りに国道からすぐ右上に小さな神社があった。細い階段を上がると猫の額ほどの境内に出た。小さな社があって、無人であった。水道もある。丁度先に仕入れておいたお弁当の用意もある。手と顔を洗い、腹ごしらえをして、静かに中に入って寝袋を開いた。

昔は、よく僧侶が神社で修行をしたという。神仏習合と言い、だから今でも日本人は神仏を一緒に参る習慣がある。神亀二年(725)大分県の宇佐八幡宮に僧侶が住み、社僧として神前で読経するのが習慣化して神仏習合が始まった。以来江戸時代まで続けられてきた。一千年にも及ぶこのような伝統に基づいて私たち日本人の信仰は形成されたのであった。だから、古い四国遍路の札所には神社も含まれていたと言われている。

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