住職のひとりごと

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幅広く仏教について考える

仏教の実践と供養

2017年08月23日 17時29分13秒 | 仏教に関する様々なお話
仏教とは、日本では、特に先祖の供養や亡くなった方の葬儀の際に必要なもの、または死後の安楽のためにあるように思っている方もあるかもしれません。ですから、仏様は私たちの理想であり、最高の目標として敬いの心を表し礼拝するのであって、私たちも何度生まれ変わってもそこに至るべく頑張るのが仏教徒の生き方ですと突然いっても、ちょっと引いてしまう方もあるかもしれません。先に、そもそも仏教とはいかなる教えかということをお話ししなくてはいけません。

仏教は神々を超える

仏教は信じるだけでよい、何か唱えたらよい、わきまえておればよい、という教えではありません。信仰というよりは一生かけておこなう実践の道ゆきともいえましょうか。崇高なる存在を崇拝する、礼拝する、御名をお唱えする、信じる、期待するという、それだけでよいものではありません。

ですから、いわゆる宗教と言われるものとは次元の違う教えであるべきものが仏教であり、お釈迦様の教えの基本にあります。いわゆる神を最高の尊格とする他の教えがそれへの信仰を説くのに対し、仏教は最高の尊格であるとする仏に私たちも至ることが可能だとする教えであり、そのための具体的なプロセスを説く教えです。

法句経94偈に、「馭者のよく馴らせる馬の如くに己の感官を静め高慢もなく汚れなき人を神々さえもうらやむ」とあるように、神々をさえ超えた位置に仏が位置すると考えます。多くの経典に、お釈迦様のところに神々が夜な夜な来たり教えを請う場面が説かれますが、仏教では最高の悟りを得た阿羅漢と言われる人たちは神の次元をも超えた人たちなのです。

仏教の生命観

仏教の生命観は、個々の生命である衆生は、お釈迦様のように悟らぬ限り何度も何度も生まれ変わり、その行いによって業が生じ、その業の蓄積によって定められた心の次元によって五つないし六つの世界があるとします。いわゆる地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天の六つで、この上に仏界が位置します。これ以外にたとえば極楽などというあいまいな場所はなく、それは天界ととらえるのが妥当でしょう。この六つの世界を表す形で作られているのが仏壇であり、また六つの世界のどこに生まれ変わっても教えを説いて下さるお地蔵様が六体セットで祀られている所以となっています。

法句経126偈には、「ある人は再び母胎に生まれ、悪をなせる者は地獄に生じ、善をなせる者は天界に生じ、汚れなき者はニッバーナ(悟り)に入る」とあります。仏教は、いま人としてあるのは何事も自らの意志で出来る恵まれた位置にあることを理解し、下の世界に堕ちることなく、出来ればより上位に生まれ変わりつつ最終的には仏様と同じ悟りに至るように学び精進するための教えです。

ですから、仏教徒とは人生の最終的な目標として、お釈迦様と同じ最高の悟りを得られるようにと願い励む人々をいうのであって、それは何度生まれ変わっても少しずつでも仏様に近づいていくのだと生きる人々のことをいいます。お釈迦様はお悟りに成られた晩に、先ず自らの過去世を何万回も何十万回も思い出されたといいます。それぞれ、どこに、何という名前で、どのような生業をしていたか、どのような理由で死んだかを克明に回想されていかれました。そして、他の人々がその業によって生まれ変わっていく様子をご覧になり、煩悩のあり様を知り、智慧を生じてお悟りになられた。

ですから、何度も生まれ変わり、それだけ沢山の功徳を積まれて最後の生涯をインドのルンビニというところでお生まれになったのです。けっして六年間の苦行の末の瞑想だけで悟られたわけではない、少しづつ徳を積み、善業を重ねられてお釈迦様となるべくお生まれになったと考えた方がよいのでしょう。私たちも過去世でどれだけ修行を積んできたのかは分かりません。ですから、何事も一所懸命なされれば、意外とすぐに結果が現れるかもしれません。

仏事の意味

亡くなるというのは、仏教では体と心が分離することをいい、身体は寿命に至り死して火葬に付されるわけですが、心は来世に逝くまでに、しばし四十九日の間この三次元の空間に留まります。(死の瞬間に来世に逝くと考える、ないし七日間は留まると考える仏教徒もあります) その間に通夜葬儀七日参りなどを通じて、たとえば、自分の葬儀に来てくれた会葬者の姿を上方から見て自らの人生を振り返り、親族が掛け軸の仏様方や祭壇に額ずく姿に触れ、また仏道に精進する様子を見て、改めて仏教の教えに帰依する心を確かにして来世に旅立っていただくのです。

葬儀などで焼香するとき、私たちは亡くなった人にどうぞ成仏して下さいと願います。法事では、板塔婆に書かれてあるように、何回忌の菩提のために建立するとありますように、その回忌毎にさらにさらに来世で生まれ変わった先に向けて、悟りに近づいてもらうようにと功徳を手向けます。

成仏ないし菩提とは、正にお釈迦様と同じ悟りを得ることであり、天界の上の仏界に至ることをいうのですから、ふだん私たちも知らず知らずのうちにそのように亡くなった人に最高に善きところである仏様方の悟りに至ってもらうことを願っているのです。来世に旅立った先にも功徳を手向け、少しでも悟りに近づくように、悟りという最高のよい状態に一生でも早く到達されますようにと願い仏事がなされているのです。

ですが、このところ都会では、人が亡くなっても葬儀もしない、祭壇も祀らず、火葬され埋葬してしまう。また法事もなされないことがあるようです。生前のいろいろな行いを誰も回想してくれることもなく墓に埋められてしまった人の心はどんなに寂しく、無念なことでしょうか。何をたよりにあの世に身罷ったらよいのかと不安なままに旅立つことになるのではないかと思えます。

そして、いまは元気に過ごしている私たち自身も、いつその立場になるか分からないのですから、今のうちから生と死、その後のあり方を考え、準備しておくことも必要でしょう。ご先祖が代々家の中の一番上等な部屋にすえて子々孫々に継承してきた仏壇や日本人が大切にしてきた仏事の意味について知ることは大事なことであると思えます。

仏教の実践と供養

人間生きていればいろいろなことがあります。とても自分が仏教の実践なんてと思われる方もあるかもしれませんが、先ほども申した通り過去世でどれだけ功徳を積み修行を済まされているのか誰にもわかりません。法句経173偈に「たとえ悪しき行いをなせども善にてこれを償わばよくこの世間を照らす、雲を出でたる月の如し」、また183偈には「すべて悪しきことをなさず、善きことを実践し自己の心を浄むること、これ諸々の仏陀の教えなり」とありますように、たとえ悪いことをしたとしてもそれを上回る善きことで償い、心を清めていくことが大切なことです。

では、いかがなしたらよいのか、その実践の道は、ふつう布施・戒・定・慧といわれ、布施により徳を積み、戒を守り清浄な生活をして、坐禅瞑想して禅定を経験し、智慧を得るものとされています。ですが、ここでは真言宗の仏前勤行次第にのっとりその実践について述べてみます。仏前勤行次第を読誦したり、その内容を吟味して実践していただけたら、その基本は学んでいけるものと考えます。

はじめに、合掌礼拝、これは正に、自らが生きる最高の理想、目標である仏様に敬いの心を身を以て表す。自らの人生にとって価値あるものをきちんと定めることです。本当にありがたい存在と思えるようになるとよいと思います。

懺悔、まずは自己の足下を見つめること、日々の行いが煩悩だらけで過ち多きことを知り反省することです。人のことではなく己の行いいかんが大切なことであることを教えてくれています。

三帰三竟、仏と教え、それを継承し実践する清僧に、今世も来世も身と心を任せ、精進していく人生の目標をきちんと定めたことを表明し確認することです。日々精進努力し続ける力となるものです。

十善戒、戒を守り清浄な生活を送ることは心の安定につながるものですが、さらに生きる上で大切にすべきことを示している教えと受け取らねばなりません。命あるものを大切に育み、あまねく施しの心をもち、身を清らかに保ち、正直を旨とし、相手を尊重し、柔らかく話し、他と和合し、足るを知り、怒らずたえ忍び、正しい智慧をもって生きることを教えられています。

このあと、発菩提心、三摩耶戒の真言を唱え、悟りを身近に捉え精進すべきことを確認し、般若心経を読誦します。心経は、大般若経のエッセンスを写したものととらえられがちですが、お釈迦様からの仏教の要諦をコンパクトにまとめたものともいえます。五蘊・十二処十八界・十二縁起・四聖諦が説かれていますが、五蘊・五つの要素に過ぎない私に執着せず、十二処十八界・五官や心の中に受けた刺激にとらわれず、十二縁起・苦しみに至る十二の行程に知悉して因果の連鎖に陥ることなく、四聖諦・無常苦無我の真理をさとり、苦しみの無い状態に至るために八つの実践に励む、そうして、最終的には言葉や概念の壁を越えていくために真言の読誦を教えています。

そして次第の最後には廻向文を唱え、その功徳を自分自身と生きとし生けるものの悟りのために手向けます。こうした実践を説く教えであるからこそ功徳があり、そうした教えを唱えるだけでも自らにとっても功徳となり、御先祖様にも廻向することができるのです。自らの人生にとり、仏様とその教えがかけがえのない存在であり教えであるからこそ唱え実践することで、亡くなった人やご先祖様の供養にもなるのだと言えましょう。


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