おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

黒部の太陽

2021-01-27 07:54:56 | 映画
「黒部の太陽」 1968年 日本


監督 熊井啓
出演 石原裕次郎 三船敏郎 滝沢修
   志村喬 佐野周二 辰巳柳太郎
   下川辰平 加藤武 柳永二郎
   宇野重吉 寺尾聡 二谷英明
   樫山文枝 日色ともゑ 川口晶
   高峰三枝子 芦田伸介 岡田英次

ストーリー
関西電力は黒部川上流に第四発電所を建設するため、太田垣社長(滝沢修)総指揮のもとに社運をかけて黒四ダム工事に当たることになった。
間組の国木田(加藤武)と熊谷組の下請会社の岩岡源三(辰巳柳太郎)は、ともに現場責任者の北川(三船敏郎)を訪れ、ダム工事の難しさを知らされた。
源三の息子剛(石原裕次郎)は、トンネル掘りのためにどんな犠牲も省りみない源三に反抗し、家を出て設計技師として図面をひいていた。
国木田はそんな剛と、北川の長女由紀(樫山文枝)と見合いさせようと提案して、源三を驚かした。
昭和三十一年八月、世紀の大工事といわれた黒四工事は、大自然との闘いの火蓋を切った。
こうして工事が始って半年、犠牲者はすでに十六人を数え、難工事であることが現場の人たちに不安を抱かせ始めた。
翌年の四月、北川たちが恐れていた事態が起った。
軟弱な花岡岩帯にぶつかり、五月に入ってすぐ、山崩れと大量の水がトンネルを襲った。
この危機を切り抜けるため、色々な技術プランが検討されたが、工事は一向に進まなかった。
そんな折りも折り、北川は次女の牧子(日色ともゑ)が白血病にかかって入院し、生命はあと一年と知らされたが、大仕事をかかえているので、娘のそばについているわけにはいかなかった。
現場は労務者が一人、二人と去っていく状態で、彼らの士気は上らなかった。
一方、太田垣はあらゆる手を尽して危機を乗り切るため莫大な金を投入、技術陣の科学的な処置と、北川や源三たちの努力が実を結び、その年の十二月、ついに難所を突破する・・・。


寸評
僕は公開時に映画館で鑑賞したが大いに満足した記憶がある。
ドラマとしての必要性からフィクション部分と思わる箇所も存在しているが概ね事実に即しているのだろう。
黒四ダム建設のための資材運搬道路の建設を描いたものだが、三船プロダクションと石原プロモーションの共同制作で関西電力や熊谷組などの関連企業に大量のチケットを買ってもらったタイアップ映画である。
石原プロはこの作品の成功に味を占めて、翌年には日産自動車とタイアップして「栄光への5000キロ」でも成功を収めたが、その後の富士山頂の観測レーダー建設を描いた「富士山頂」、世界最高峰のエベレストの大斜面から直滑降するプロ・スキーヤー、三浦雄一郎の勇気と彼を支えた三十三名のスキー隊員の決死行を記録したドキュメンタリー・ドラマ「エベレスト大滑降」、国境をのりこえた人間愛と戦争の罪悪をみつめた「ある兵士の賭け」とこけ続けついに倒産に追い込まれたのだから映画製作は怖い。
また鹿島建設が制作した、当時日本最高層のビルであった霞が関ビルディングの建設を描いた「超高層のあけぼの」もヒットせず、タイアップ映画は下火となっていった。
しかし、いつの時代においても流行のきっかけとなった作品は面白い。

この映画は、関西電力の黒部第四発電所建設の中で、最大の難工事と言われた大町ルートのトンネル掘削で、漸く突破出来た「破砕帯」との戦いを中心に据えて成功している。
自然は大きく人間はその中に包み込まれる。
映画は破砕帯という厳しい自然の克服を描いていると言っても良い。
三船敏郎が工事責任者を引き受けるまでの描き方、フォッサマグナの的確な説明による破砕帯の脅威なども手際よく描かれて行き、観客にとっては素早く映画の世界に入り込めるのがいい。
さらに当時は映画業界は大手5社が「俳優、監督を貸さない借りない引き抜かない」という5社協定を結んでおり、これに背いた者は、暗黙の了解で干されるというルールが存在していたので、「黒部の太陽」はこの破砕帯も突破したことになり、スタープロ制作の作品が数多く生み出されたことも映画史にとどめ置かれるだろう。

この時代になってはトンネルの掘削競争などと言うことは行われていなかったと思うし、石原裕次郎演じる熊谷組の岩岡と辰巳柳太郎演じる父親源三との確執などは脚色ぽいが、ドラマ的には効果を生み出している。
岩岡は笹島信義氏というトンネルマンがモデルらしいが、裕次郎演じる岩岡はオリジナルのキャラクターだろう。
三船が演じた北川次長は関西電力ダム建設担当の芳賀公介氏がモデルとされている。
映画では北川の長女と岩岡のラブロマンスも織り込まれているが、これは映画上でのフィクションで僕はこのエピソードは余計だと思っている。
作品の性格上、女性があまり登場しないので、このような女性も色付けとして必要だったのかもしれない。
トンネルのセットも本物らしい迫力があるし、見せ場の出水シーンは迫力がある。
意図したものだが想像以上の出水となり、電源も切れたため最後はストップモーションで処理されている。
けが人も続出した撮影現場の緊張感が伝わってくるし、CGなどない時代の本物の迫力を感じる。
掘削技術と機械が進歩した現在のトンネル工事とは手法が違うのだろうが、慰霊碑に見る死者の数が難工事だったことを物語っていると思う。
大工事には死者がつきものだがご冥福を祈るしかない。


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
結構良い映画でしたね (FUMIO SASHIDA)
2021-02-12 09:36:57
熊井啓は嫌いなので、見ていませんでしたが、CSで見て結構良い映画だと思いました。
裕次郎と三船敏郎が共演することの意義など、今では想像もできませんが。
樫山文枝も、この頃はかわいかったんだなと思いました。
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タイアップ映画 (館長)
2021-02-12 14:05:10
企業とのタイアップ映画としては、この作品が一番ではないでしょうか。
返信する
「黒部の太陽」について (風早真希)
2023-07-25 09:20:31
昭和31年。高度経済成長が始まった日本において、今後の電力供給能力を強化するために、関西電力は、黒部峡谷に黒部第四ダムの建設を決めた。

工事責任者となった北川(三船敏郎)だったが、難工事が予想されるため、辞令の辞退を申し出るほどだった。
しかし、太田垣社長(滝沢修)の説得により、重い腰をあげることになる。

一番の難工事は、トンネルの建設だ。
黒部のあたりは、フォッサマグナという破砕帯があり、地盤の中がどうなっているか解らない。

しかし、トンネルを作らなければ資材が運べず、ダムは完成しない。
言い換えれば、トンネルさえ開通すれば、ダム建設の見通しは立つのだ。

トンネルの建設は間組が請け負う。だが実際に働くのは、下請けの人々だ。
その労務者を束ねるのが岩岡源三(辰巳柳太郎)だ。
源三の息子の剛(石原裕次郎)は、父のかつてのトンネル建設のためなら、どんな犠牲もいとわない父に反発していた。

実は剛の兄も、かつて父の無理な命令によって命を落としていたのだ。
工事は始まった。心配された通り、破砕帯にぶつかった。
落盤と出水が全く止まらないまま何ヶ月も過ぎていく--------。

この「黒部の太陽」の中心は、ダム建設ではなく、トンネルの話で、実際にトンネル作りが始まるまでは、会社のお偉いさんたちの会議が多くてやや退屈する。

それに、戦前の戦争を勝つために行われた無理な工事、それを推進した父と、戦後民主主義のもとに工事を行おうとする息子の対立。

しかし、工事が進むうち、自分は労務者たちの仲間だと思っていたが、実は労務者たちからは「俺たちに工事をさせて儲けるということじゃ同じトンネルのむじな」と言われてしまう。

資本家、使用者、労働者の対立のドラマに持っていくあたりは、いかにも熊井啓監督らしいと言えるかも知れない。

それに、今の時点で観ると時代の違いを感じてしまう。
もう高度経済成長そのものなのだ。
電力の為なら、自然破壊もなんのその。第一この映画には、自然破壊という概念がない。
ダム建設の時代だけではなく、映画製作時にもなかったろう。

そして、工事が停滞すると「シールド工法というやり方もありますが、予算がかかります」と言うと、社長は「金で解決することなら遠慮せずに言ってください。金のことは私に任せて」と言い放つ。

3.11以降、原発問題で、如何にコスト削減の為なら、安全対策を怠ってきた電力会社の体質を観ているので、嘘くさくて、思わず笑ってしまった。

むしろ、コストがいくら掛かっても、電力会社としては、電力料金に上乗せすればいいから気にならないのかも知れない。

そして、三船敏郎の娘は白血病で死ぬ。父は仕事で見舞いもそこそこ。
家族よりも仕事を大切にする時代の価値観そのものだ。
今の時代なら、こうはならないだろう。

戦前派と戦後派の対立など、今観ると隔世の感がある。
今では高度経済成長の世代と、そのバブル崩壊以降の世代の対立ですからね。

ラストの犠牲者の碑を大きく写すところに、熊井啓監督の信条を見た気がしましたね。

映画的見せ場の中盤の大事故シーン。
水が一気に溢れ出てくるシーンは、まさに圧巻の一言だ。
CGではない本物の迫力だ。
このシーンで、途中でストップモーションになるシーンがあるが、この後きっとカメラも流されたので使えないカットだったのだろう。

ここで休憩が入るが、その後はなにをやっても水が止まらない八方塞がりというシーンが続いてやや退屈。
同じプロジェクトものなら「富士山頂」の方が面白かったという気がする。
尚、寺尾聡と宇野重吉が親子役で共演している。
寺尾聡は、これが映画初出演だと思うが、まだまだへたくそでしたね。

だが、全体としては、大企業(関西電力や建設会社)の提灯持ち映画と言われても仕方がないような気がする映画だった。
そうならないように、熊井啓監督は、一生懸命に努力をしていましたが--------。
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