おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

離愁

2024-08-12 07:19:52 | 映画
「離愁」 1973年 フランス / イタリア


監督 ピエール・グラニエ=ドフェール
出演 ジャン=ルイ・トランティニャン ロミー・シュナイダー
   モーリス・ビロー アンヌ・ヴィアゼムスキー
   ニケ・アリギ ポール・ル・ペルソン

ストーリー
1940年、ドイツ軍はノルウェー、デンマークに侵入し、五月にはフランスにも侵入してきた。
ジュリアン(J・L・トランティニャン)は北部フランスのある村でラジオの修理屋を営んでいたが、事態が切迫するにつれ、いよいよ住みなれた故郷を去らねばならぬ時が来たことを知った。
この村に住んで40年以上、きわめて単調で退屈な日々といってよかったが、ふと自分が住みなれた村を去るとき自分の人生に一大転機がおとずれるのではないかと思った。
やがて村人たちが列車で村を立ち退く日がきた。
幼い娘と妊娠中の妻モニーク(ニケ・アリギ)を客車に乗せ、自分は家畜車に乗らなければならなかった。
その日は、フランスでも50年に一度という絶好の春日和で、列車は美しいフランスの田園を走る。
駅に停まると待ち構えていた避難民が押しかけてきたのでたちまちすし詰めとなり、その間ドイツ軍の攻撃は日増しに激しさを加え、避難民の不安は日毎に募っていった。
名も知れぬ駅に列車が停車したとき、ジュリアンは妻と娘を確認しに行き、戻ってくると若い女アンナ(R・シュナイダー)が家畜車に乗り込んでいた。
彼女はドイツ生まれのユダヤ人だった。
二人は自由に身動きできない貨車の中で、互いに寄り添うようにしながら旅を続け殆んど口をきかなかったのだが、二人の心は次第にたかまり求めあった。
ジュリアンは、それが不倫の恋と知りつつ、愛情は深まるばかりだった。
アンナも、ドイツ軍に追われ続けた辛い過去を、ジュリアンを知ることでしばし忘れることが出来た。
その頃、ジュリアンの妻子が乗っていた客軍は切り離され、行方が知れなくなってしまった。


寸評
ラストシーンから逆算して撮られたような作品に思えるが、そう思わせるほどラストシーンが素晴らしい。
1943年の冬のある日、家族と細々と暮らしていたジュリアンはナチの秘密警察から呼び出しを受ける。
アンナがレジスタンスの一員として捕まっていて、ジュリアンの妻として作った証明書を持っていたのだ。
ジュリアンは係官にアンナを知っているか、もし知っているならどんな関係か尋問される。
知らぬとシラを切れば自分の身の安全は守られる。
ジュリアンは命がかかっているし、自分だけではなく家族のこともあるから、知らぬ存ぜぬの態度を見せる。
部屋を出て行こうとしたときに、所長がジュリアンを引き止め彼女と対面させる。
ジュリアンが待っているところに、アンナが入ってくる。
椅子に座り、お互い顔を見合わせるが、アンアはこんな男は見たことがないという表情を見せる。
ジュリアンもトラブルに巻き込まれたくないと目をそらし、知らないのならお引き取りをと言う言葉に押されて部屋を出ようとしノブに手をかけた瞬間、抑えきれない感情でアンアを振り返る。
アンナは戸惑った表情を浮かべるが、ジュリアンは彼女のところへ行き、ほほに手を差し伸べる。
アンアから抑えていた彼への愛情が吹きこぼれる。
所長は「やっぱり知っていたんだね、これでわかった。君もレジスタンスの一員だったんだ」と呟く。
署長が誤解してレジスタンスの一員だと断定するが、ジュリアンは一言も言い訳もせずアンナだけを見つめ優しく微笑むのだが、その間二人は一言も発しない。
そしてアンナが泣き崩れるところでストップモーションとなる。
これから彼らはどうなるのかとか、残された家族はどうなるのかの疑問を挟ませないラストシーンとなっている。

途中で走行する汽車がドイツ戦闘機の銃撃を受けて、同乗していた乗客が銃弾を浴びて死ぬ場面もあるが、総じて特段のドラマがあるわけでもなく、避難の為に貨車に乗り込んでいる人々も至ってのんきでピクニック気分だ。
停車時に貨車から降りて川辺でくつろぐ場面もあるし、貨車内では宴会騒ぎの様な事もやっている。
同乗者の中に水商売風な女性がいるが、アンナとの対比の為の存在であろう。
彼女は同乗者が寝ている間に男と関係を持つ。
それに刺激されたのか、アンナもジュリアンを求め、女はアンタもやるわねとばかりにウィンクをする。
ジュリアンとアンアがそういう関係になる経緯をもう少し丁寧に描いておいても良かったのではないかと思うが、ロミー・シュナイダーのようないい女が居れば、男の方は心ときめくと言うのは分かる。
彼女を巡っての争いが簡単に決着を見て、それ以後にそれらしき様子がないのは不思議だが、それも水商売風の女性によってかき消されていたのだろう。

カトリーヌ・ドヌーブとロミー・シュナイダーは1970年代のフランス映画界における美人女優だったが、演技力ではロミー・シュナイダーが勝っていたと思う。
僕はその二人よりも断然ジャンヌ・モローが良かった。
人生と言う観点から見れば、カトリーヌ・ドヌーブに比べればロミー・シュナイダーは恵まれた人生とは言い難いような一生を送ったと思う。
アラン・ドロンと結婚していたらどうなっていたのだろう。