おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白

2023-02-16 07:53:34 | 映画
「フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白」 2003年 アメリカ


監督 エロール・モリス
出演 ロバート・マクナマラ

ストーリー
1962年10月、マクナマラ国防長官はキューバ・ミサイル危機に直面する。
そのとき、ソ連問題顧問の一言で、ケネディ大統領はソ連の提案受け入れを決断、核戦争は回避された。
30年後、マクナマラはキューバ首相から、「当時ソ連に核攻撃を進言した」と知らされる。
マクナマラは大学に進学後に頭角を現し、当時最年少でハーバード大学経営学大学院助教授になる。
結婚、第一子誕生…その未来は順風満帆に見えたが、そこに第二次世界大戦が始まった。
マクナマラは経営管理の理論を戦争に応用、攻撃効率を高めるため統計を取り分析する。
だが彼の報告書を元に、指揮官のカカーティス・E・ルメイ少将は日本に無差別絨毯爆撃を行った。
戦後マクナマラはフォード自動車会社に入社し、会社の業績を上げ社長にまで昇りつめた。
その頃、最年少の米国大統領が誕生した。ジョン・F・ケネディ。
マクナマラは国防長官に就任したが、ケネディ大統領はベトナム戦争への対応に苦慮していた。
攻撃拡大を主張する軍部を抑え、大統領とマクナマラは、ベトナムから米軍を完全撤兵する決断を下す。
しかし1963年11月ケネディ大統領暗殺、昇格したジョンソン新大統領は、逆に戦争拡大を決意する。
31年後、マクナマラはベトナムを訪れ、トンキン湾事件の真実を知り、唖然とする。
1967年11月、マクナマラは国防長官を辞任した。
マクナマラは「11の教訓」とともに、新世紀へのメッセージを発する。
その教訓とは、教訓1:敵の身になって考えよ。 教訓2:理性は助けにならない。 教訓3:自己を越えた何かのために。 教訓4:効率を最大限に高めよ。 教訓5:戦争にも釣り合いが必要だ。 教訓6:データを集めろ。 教訓7:目に見えた事実が正しいとは限らない。 教訓8:理由付けを再検証せよ。 教訓9:人は善をなさんとして悪をなす。 教訓10: “決して”とは決して言うな。 教訓11:人間の本質は変えられない。


寸評
米国の国防長官としてその名が僕の記憶の中にある第一人者はロバート・マクナマラだ。
多分ベトナム戦争時にしきりと彼の名前を新聞紙上で目にしたり、ニュースを通じて聞いていたからだろう。
名前が記憶の中にあるだけで彼の経歴などはまったく知らないでいた。
冒頭で彼の経歴が簡単に紹介される。
軍歴はともかくとして、フォードの社長に就任していたとは知らなかった。
就任後わずか5ヶ月でジョン・F・ケネディに請われて国防長官に就任する。
マクナマラは妻の賛同を得た「ワシントンの社交界に出入りしなくてよいこと、自分の部下は自分で選ぶ」ということを条件として国防長官就任を受諾したようである。
直面したのが1962年10月に起きたキューバ危機である。
後年マクナマラがキューバのカストロに直接聞いたところによると、「ソ連がミサイルを持ち込んでいたことを知っていたか」については「知っていた」との答え。
それどころか、カストロはソ連側に核攻撃を進言していたということである。
マクナマラが「そうするとキューバはどうなっていたと思うか」の問いに、カストロは「壊滅していた」と答えたらしい。
実に恐ろしいことである。
国家指導者が、自国が壊滅状態になることを予期しながらも核戦争に踏み切ったかもしれないと言うことだ。
ひとたび開戦という方向に動き出してしまうと、最高指導者ですら止めることができないという証言だ。

次にマクナマラが対応を迫られるのがベトナム戦争である。
超強硬派のカーチス・ルメイ空軍参謀総長がいたとはいえ、ケネディ、ジョンソン政権の国防長官としての彼の責任は大きい。
ケネディ政権期にマクナマラが南ベトナムに派遣する軍事顧問団の規模を1万7千人に増加させたことにより、米国の実質的な軍事介入が開始されたと言ってよい。
北爆を開始してからは兵力増員が続き、ベトナム戦争は泥沼化していったのだから、やはりマクナマラは責任を逃れることはできないだろう。
インタビューに応じてマクナマラが告白している形態をとっているが、告白とは言え告白者はやはり自己弁護している部分があるなと感じるところもある。
自らの責任を認めながらも、ルメイの名前やジョンソンの名前を盛んにあげている。
マクナマラはケネディが暗殺されていなければ、ベトナムへの兵力増員は行われなかっただろうと述べている。
余談だが、ケネディ暗殺には軍部が関係していたのかもしれないと思ってしまう。

フォッグ・オブ・ウォー(霧の中の戦争)は先が見えない。
一旦始まってしまえば、この先どのような展開が起きるのか誰にも分からないのだ。
ルメイですら、戦争に負ければ我々は戦争犯罪者だと言っているのである。
マクナマラは、自分が発言すれば物議をかもすだろうし、言っても言わなくても批判を受けると言っている。
そして、自分は言わない方を選択すると述べる。
しかし、その時何があり、何が議論されて、どのような結論に至ったのかを指導者は示す責任はあると思う。