おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

緋牡丹博徒 一宿一飯

2023-02-05 08:50:57 | 映画
「緋牡丹博徒 一宿一飯」 1968年 日本


監督 鈴木則文
出演 藤純子 鶴田浩二 若山富三郎 待田京介 村井国夫 菅原文太
   城野ゆき 白木マリ 山城新伍 玉川良一 小島慶四郎 天津敏
   遠藤辰雄 西村晃 水島道太郎

ストーリー
明治十七年秋。上州の農民たちは、高利貸倉持(遠藤辰雄)に収穫物をカタに取られ困っていた。
倉持がことあるごとに農民に襲われるという事態が起り、戸ヶ崎組が乗り出して農民をなだめる一方、戸ヶ崎(水島道太郎)の舎弟分笠松一家が事態収拾にあたった。
そんな時、笠松の賭場では、艶気をふりまき、背中に弁天の刺青を入れたおれん(白木マリ)が、胴元を危うくするほどつきまくっていた。
そこで笠松(天津敏)は戸ヶ崎の客分緋牡丹のお竜(藤純子)に応援を頼んだ。
お竜は見事な手並みでおれんに勝った。
一方、笠松はひそかに倉持と結託、上州一帯の生糸の総元締会社設立を図っていた。
この計画を察知した戸ヶ崎は、農民に犠牲を強いる笠松のやり方に怒り、笠松一家に殴り込んだ。
その時は、お竜は戸ヶ崎のはからいで四国の熊虎一家を訪ねていた。
戸ヶ崎が殴り込んだことをお竜はそこで聞いたが、戸ヶ碕一家は笠松一家によって全滅したのだった。
お竜は急ぎ上州に戻ったが、そこはもう日の出の勢いの笠松一家の勢力圏になっていた。
後日のことを考慮した戸ヶ崎によって彼の娘まち(城野ゆき)と結婚して戸ヶ崎組の跡目を継いだ勇吉(村井国夫)は血気にはやって殴り込んだが、逆に私刑を受ける有様だった。
お竜はそんな勇吉を何かと助けていたが、関八州の親分の一人宮内(藤岡重慶)がその後楯となってくれた。
一方笠松は邪魔なお竜を消そうとして襲ったが、一匹狼の周太郎(鶴田浩二)に阻まれた。
しかし、笠松にはもう一つ企みがあった。
戸ヶ崎組の経営する郵便馬車の権利を手に入れることだった。
笠松はまちを脅し、ついにその権利書を手に入れたのだ。
憤怒に燃えた勇吉は、笠松組と争いなぶり殺しにあってしまった。


寸評
緋牡丹博徒シリーズ全八作中、鈴木則文は8作目の「緋牡丹博徒 仁義通します」以外で脚本に参加している。
そして第二作目の本作を監督しているが、監督を務めたのはこの作品のみである。
シリーズ第1作目の「緋牡丹博徒」は矢野組の組長だった父親を辻斬りで失い、「緋牡丹のお竜」となった藤純子が仇を討って二代目を踏襲するまでが描かれたが、本作で緋牡丹のお竜が全国を回りながら悪党を成敗していくというスタイルが形作られた。
お竜を助ける男として前作は高倉健だったが、それを継ぐ者として高倉健以上となると鶴田浩二しかいない。
敵役は天津敏と遠藤辰雄なのだが、ここでは菅原文太が天津敏の子分として登場し敵方に加わっている。
菅原文太はこれ以後は敵役をやることはなく、お竜を助ける男として登場し、その極め付けが第6作の「緋牡丹博徒 お竜参上」だろう。

お竜が助っ人の男にほのかな愛情を感じるのは毎回のことなのだが、ここではそれを補完するように二組の男女が登場する。
一組は上州富岡で賭場を荒らしている白木マリと西村晃の夫婦で、西村晃は以前に制裁を受けたために男性機能を失っている男である。
白木マリは天津敏に体を提供し、それを渡世上のことと西村晃は渋々黙認しているのだが、二人の絆は強い。
男と結ばれることのないお竜との対比として描かれている。
白木マリはお竜にイカサマを看破されたことで天津の逆鱗に触れ、夫の西村晃ともども痛めつけられるが、逃げた先の廃屋でお竜と鶴田に助けられる。
それがお竜と鶴田の再会の場でもあるため、このシーンは因縁のあった白木真理との和解と、鶴田浩二への愛が芽生えると言う二つのエピソードを再会を通じて同時に描き出すいい場面となっている。
もう一組は水島道太郎の一人娘・城野ゆきと水島一家の跡目を継いだ村井国夫である。
特に城野ゆきは天津敏に騙されて郵便配達の利権を取られ、おまけに犯されてしまう。
父の仏壇の前で泣き崩れ「私は汚れてしまったんです」と慟哭する城野ゆきに、背中の緋牡丹を見せて悲しみを分かち合うのだが、このシーンは本作屈指のハイライトとなっている。
「女だてらに…、こぎゃんもんば背負って生きとっとよ。だけん、私にはゆきさんの気持ちがよう分かりますばい。
女と生まれて人を本当に好きになったとき、いちばん苦しむのは、こん汚してしもうた肌ですけんね…。だけん、身体じゃなかつよ。人を好きになるのは心。肌に墨は打てても、心にゃあ誰も墨を打つこつはでけんとです…」と諭すのだが、その言葉と共に片肌を脱いで緋牡丹の刺青を見せる藤純子に目が釘付けになってしまうシーンだ。
シリーズの中では滅多に刺青を見せないのだが、このシーンでは緋牡丹の刺青がはっきり描かれていて一番印象に残る。
これまた惚れた男と一緒になれないお竜の宿命を歌い上げているのだ。
鶴田浩二は廃屋の場面でお竜に、こんな血生臭い世界からは足を洗えと諭し「ドスよりお針の方が似合うと思うぜ」と語り、去って行ったお竜が落としていったかんざしを拾う。
そして殴り込みに行く段になってこのかんざしをお竜の髪にさしてやる。
こういうラブシーンがたまらなくいいのだ。
ただし鶴田が残党の鉄砲であっけなく命を落とすのは工夫がなくいただけない。