ささやんの週刊X曜日

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

なぜ戦争なのか

2018-11-14 14:40:08 | 日記
第一次世界大戦の終結100年にあたる11日、パリの凱旋(がいせん)門
で記念式典が行われた。主催したマクロン仏大統領は演説で、世界で高まる
ナショナリズムについて「古い悪魔が再び目覚めつつある」と危機感を顕
(あらわ)にし、また、自国第一主義が「国家にとって貴重な道徳的価値観
を失わせる」とも説いて、トランプ米大統領を批判した。

こういう報道を目にすると、いつもの問いが私の中に頭をもたげる。どうし
て人間というやつは、戦争をくり返すのか。現代では、世界が相互依存のネッ
トワークで緊密に結びあっていることは、だれもが知っている。相互依存の
関係があるのに、どうして各国の指導者は戦争をしようという気になれるの
か。

好い例が、アメリカと中国との関係である。先ごろトランプ米大統領は、中
国に貿易戦争を仕掛け、中国製品に高率の関税を掛けたが、その影響は全世
界に及ぶ。むろん日本もその影響を免れない。アメリカの消費者や産業界に
しても同様である。

たとえば野村総合研究所・エグゼクティブ・エコノミストの木内 登英氏は次
のように述べている。

「今後米国が中国に対する追加関税の範囲をさらに広げていった場合には、
中国から輸入される消費財もその対象に多く含まれるようになり、輸入品の
価格上昇で米国の消費者にも悪影響が及ぶことは必至である。中国に対する
制裁関税措置の影響が米国に跳ね返ってくる、いわゆる「ブーメラン効果」
が現実味を増してきている。
(野村総合研究所《米中貿易戦争が日本経済に与える悪影響》)」

また、三菱総合研究所・チーフエコノミストの武田洋子氏は、もう少しマク
ロな視点から、次のように分析している。

「保護主義の連鎖が突き進むと、勝者は誰もいない。世界経済全体にとって
悪影響が出てしまうと考えています。
米国と中国を足すと、世界のGDPの約4割に達するので、これらの国の成
長率が押し下げられるという見方が強まれば、当然ながら金融市場でもそれ
への懸念が高まり、結果として株価が下落し、為替市場も不安定になってく
る。」
(NHKクローズアップ現代+9月3日《”トランプ発”貿易戦争の衝撃〜日
本・世界経済への影響は?〜》)

二国間の貿易戦争でさえ、世界経済に大きな影響を与えるという現実がある。
武力攻撃を伴った本物の戦争なら、その影響は計り知れない。累(るい)は
自国の経済や生活にまで及ぶだろう。戦争を始めたがる国の指導者は、そう
いうことに思い及ばないのだろうか。

この憂うべき現象を解き明かすため、「存在」と「意識」という言葉を使う
ことにしよう。
「我が国のために」と思う自国第一主義は、その国のーーその国の指導者の
ーー「意識」の側面である。この「意識」は、自国がどういう(相互依存の)
関係の中にあるのかにーーつまり自国の「存在」にーー、目を向けることを
忘れてしまっている。ここに欠けているのは、自己の「存在」を見つめる
「自己意識」のまなざしである。

各国の指導者に、また国民に、すこしでもこの「自己意識」があれば、二度
と戦争が起こることはないはずだ。ーーそういう楽観的な展望を妨げるのは、
目先しか見ない人類の「意識」の近視眼と、過去を忘れてしまう人類の度し
難い健忘症的体質である。いやはや参ったな。
コメント
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