国家の命運を懸けた戦いのために各家庭に送られる徴集通知。過去の戦の傷が癒えない父の代わりに、女であることを隠して従軍することをたった一人で決断するムーラン。
女性でありながら既に戦いに関して優れた能力を持っていたムーラン。家存続のために自分に課せられた運命は「気を隠して嫁ぐこと」だったのだが、軍の中では隠していた気を発揮し、戦闘能力を磨くことが求められる。
父を思い従軍したことが、軍の中では「偽っている自分(刀に刻まれる忠・勇・真という三つの漢字の重さのプレッシャー)」という事に悩まざるを得ない。
そんな彼女の揺れる心を一目で見破るのは、敵方である侵略軍と行動を共にする魔法使いの女性。
魔法を使える上に更に女性であることで特別視され、恐れられ更には虐げられる存在だった彼女にとって、ムーランは若い自分の姿と重なるようだ。
姿を自在に変える彼女の存在はムーランの所属する軍隊も翻弄させられる。
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雪崩の場面、戦闘の場面など非常にスケールも大きく、綺麗に描かれているのだが、やや人間関係に悩むあたりの描写があっさりしすぎている。
既に戦いの気を備えているムーランが悩むのは、女性であることを隠しているということだけ。武術で悩むということがないので、話はやや単調にも思える。
登場するだけでかなりな圧力を感じさせる呪術師を演じるコン・リーとムーランを演じるリウ・イーフェイの丁々発止のやり取りを期待していたのだが、男性社会になじめず苦悩していた呪術師の女性との敵味方を越えた共感も、呪術師を演じるコン・リー側からのやや片思いであるかのように描かれ、これも深みが足りない。
ムーランが所属する部隊の司令官を演じるのはドニー・イェン。もちろんカリスマたっぷりの人物なのだが、エピソードがどれも定型的でやっぱりやや残念な感じなのだ。
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公開時期が二転三転し、リウ・イーフェイの香港のデモに対する発言、コロナによる公開の度重なる延期(そして最終的には配信公開)そして新疆ウイグル自治区での撮影に対する指摘・・・・「ボイコットムーラン」という声も上がっていた映画。昨年9月の配信開始からは随分時間が経ってしまったが、私はとりあえず見る事を選択。
バックグラウンド云々より、ムーランや呪術師の心をもっと掘り下げた話になっていなかった事を残念に感じる。映像は綺麗だったが、それも映画館で見られてこそのものだろう・・・それも残念だった。