ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

金言の宝庫

2024-06-08 08:34:22 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「宝庫」6月2日
 連載企画『池上彰のこれ聞いていいですか?』、今回のゲストは絵本作家ヨシタケシンスケ氏でした。このヨシタケ氏の話が、教育を、子供を考える場合の金言の宝庫なのです。
 まず、『子どもって「わからないけど面白い」という部分がある。全部わかると、「はい、おしまい」になっちゃう』です。子供というものをよく知っている人の言葉です。大人は、特に教員は子供に対して「分からせよう」とする傾向を強くもっています。分からせることができなければ失敗、そんな観念がこびりついているのです。大人の「分からせたい」があまりにも前面に出過ぎると、子どもは大人に「配慮」して分かったふりをするようになります。分からないのに分かったふり、これは苦痛です。そんな苦痛から逃れようとして子供は大人の話を聴くことを避けるようになっていくのです。
 30年ほど前、生涯学習という概念が唱えられるようになりました。学びは学校だけで終わるものではなく、生涯にわたって学び続けることが大切という考え方です。この考え方を学校教育期間にも当てはめることが必要です。
 それまでは、小学校の段階では学校で習う全てのことを理解して中学校に進むという発想でしたが、小学校ではよく理解できないまま、なぜだか頭の片隅にあり続けたことが中学校で「そうか!そういうことか」と腑に落ちる、そんな学びの在り方を認める柔軟性が求められていると考えます。
 次に、『中学、高校になって君は何がしたいんだと「夢の提出」を求められた。落ち込みました。大人になった時それが大人の事情だったとわかったんです。「サッカー選手です」などと即答できれば、先生はそれ以上仕事が増えずに帰宅できるし、親も「じゃあ頑張れ」となる。本来、将来の夢なんて他人に言う必要はない(略)夢なんかなくていい、僕自身もどうにかなったし、むしろそういう人の方が多い』です。
 物心ついてからせいぜい10年、大した人生経験もない中学生、社会の仕組みもよく分からず、職業の詳細も知らない、そんな段階で「将来は何に~」などと訊くことにどんな意味があるのでしょうか。私は常々思ってきました。
 私の中学校の恩師は、苦労して大学の夜間部に通い、教員免許を取得した人でした。彼女は、「親が大学まで行かしてくれるというのなら行きなさい。将来何になるにしろ、大学で学んだことは役に立つはずだし、大学卒でなければ得ることができない資格がたくさんあります。後から、大学に行っておけば、と後悔しても遅いのです。みんなはまだ社会のことなんて本当は分かっていない。今の乏しい知識や判断力で焦って将来を決めないこと」と話してくれたものでした。
 ヨシタケ氏が言うように、実際は、大部分の子供が中高生のときに確固たる将来像など描くことなく、それでも「何とかなっている」のです。
 さらに、『「この大人は一生懸命伝えようとしてくれてる」という心意気、誠意は伝わるはず(略)「なんか言いくるめられているな」という感覚は大人以上に敏感です』です。刺さりました。私は「言いくるめる」ことに必死になってきた教員だったからです。言いくるめることができなければ負け、そんな意識さえもっていたのです。近年流行の「論破!」主義者だったのです。それも子供を相手にして、です。
 伝えようとしていると言いくるめようとしているの違いは、双方向性か一方通行か、ということです。子供に口を開く間も与えず、あるいは何らかの「威圧」で反論も質問も封じた上で教員の考えだけを話すのが言いくるめる、です。少し話したら子供の意見を求め、また少し話したら「どう思う」と感じたことを口にさせ、次に話が途切れたらききたいことがあるんじゃないの?と立ち止まる、そんな向き合い方ができているのが伝える、です。
 最後に、『教師は子供に向き合うからこそできることがあるでしょうし、逆に教師や親だから言えないこと、立ち入れない場所がある』です。これは、形式的な意味ではなく実質的な意味での、教育鼎立論です。
 子供を成長させる営み、それを広い意味で教育と呼ぶとき、家庭教育、社会教育、学校教育の三者がそれぞれの特性を生かして関わるのが理想です。それは、○○は家庭で、▽▽は学校で、というような機械的な割り振りではなく、大勢に語りかけなくてはならない学校と個人に働きかける家庭という違い、カリキュラムに基づいて計画的に行われる学校での指導と偶発的に起こった出来事に応じて行われる家庭での指導、建前を述べざるを得ない学校と本音で語る家庭、などといった機能と役割を踏まえて相互補完的に行われるべきという考え方を表しています。ヨシタケ氏はそのことを指摘なさっているのだと思います。

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