ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

いろいろあり過ぎる

2024-06-20 08:29:21 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「いろいろあり過ぎ」6月12日
 『中3対象無料学習塾 就学援助世帯 江戸川区開設へ』という見出しの記事が掲載されました。『江戸川区は、家庭の経済的事情などで塾に通えない区立中学3年生のうち、成績上位者を対象にした無料の学習塾「EDO塾」を9月に開設する』ことを報じる記事です。
 私はこの短い記事を読み、考えさせられることが多い記事だと思いました。まず、『成績上位者を対象』という点です。最近では、ある意味画期的な発想です。それは、成績が悪い生徒には支援する価値はない、という考え方が潜んでいるからです。
 こうした考え方は、かつては当たり前でした。奨学金制度というものは、ある一定の成績を収めて者が受けるという趣旨だったのです。意欲と能力がある若者、それは将来国家や社会の発展に貢献することが期待できる若者であるという考え方から支援が正当化され、そうでない若者、意欲も能力もない、あるいは意欲はあっても能力がない、逆に能力はあるが意欲がないような若者に期待するのは大切な資金をどぶに捨てるようなものだ、と支援不要とされたのです。
 近年、こうした考え方は差別的であると退けられ、望むものには誰でも平等に支援を届けることが「善」とされるように変わってきたのです。それだけに、学力テストの成績上位者と対象を絞った施策には驚かされたのです。今後の教育支援論議に、一石を投じることになるのではないでしょうか。
 次に、『都立高入試がある25年2月まで~』という点です。つまり、入試対策だと言っているのです。学力向上や学習機会の均等というようなある意味崇高な「理念」を打ち出すのではなく、税金を使った公の事業の目的を「受験対策」と露骨に前面に押し出す感覚が潔いと感じたのです。そうである以上、塾の内容は、受験対策に特化され、受験技術的な指導も行われることになるはずです。それを区民がどのように評価するか、興味があります。
 さらに細かいことですが、『毎週平日に2日間、午後6時~9時に~』という点についてです。江戸川区は広く塾から自宅まで小一時間かかる生徒もいると思われます。ということは、中学生が夜の10時近くまで外出しているという状態を是認するということです。大丈夫なのでしょうか。トラブルに巻き込まれたり、夜間外出がきっかけとなって問題行動を起こすようになったりする事例が明らかになったとき、どのような「弁解」をするつもりなのか、同区を含む城東地区の生活指導担当指導主事会の代表を務めた者として気になるところです。
 最後に、この事業の予算が、4400万円という点です。『毎週平日2日間、午後6時~9時』『区内の中央、小岩、西葛西の3図書館に設置』ということですから、3時間×2日間×3か所×25週となり、合計指導時間450時間になります。一時間当たり10万円です。対象生徒は120人、一カ所当たり40人、ほぼ中学校の一学級の生徒数と同じです。
 公立中学校の教員は、1時間の授業でほぼ5000円の給与という計算になります。5000円と10万円、もちろん、10万円すべてが講師代ではないでしょうが、随分な差です。そして一般的に言えば、意欲も能力もある生徒、つまり今回のEDO塾に通ってくるような生徒を相手に授業をする方が、やる気のない生徒を相手に授業するよりも楽であるということが定説になっています。公立中学校の教員の授業力の評価が低すぎると感じるのは私だけでしょうか。

 

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