故・ハマスの軍事部門であるカッサム旅団のデイフ司令官
故・ハニーヤ
【随時更新】イスラエル・パレスチナ 中東情勢(8月1日) NHK 2024年8月1日 19時36分
イスラエル軍は1日、7月に行ったガザ地区南部への空爆で、イスラム組織ハマスの軍事部門、カッサム旅団のデイフ司令官を殺害したことを確認したと発表しました。
一方、ハマスの最高幹部が訪問中に殺害されたイランでは、イスラエルへの報復を求める声が上がっていて、緊張の度合いが増しています。
※中東情勢に関する日本時間8月1日の動きを随時更新してお伝えします。
ハマスが会見 “ミサイルがハニーヤ最高幹部の部屋を直撃”
ハニーヤ最高幹部の殺害について、ハマスの幹部は31日、テヘランで会見し、関係者による詳細な調査を待っているとしたうえで、「ミサイルがハニーヤ最高幹部のいた部屋に撃ち込まれ、直撃した。窓ガラスやドア、壁の一部が破壊された」などと述べ、ハニーヤ最高幹部がいた部屋に向けてピンポイントに攻撃が行われたという考えを示しました。
また、イスラエルが地域全体を巻き込む戦争を求めているなどと厳しく非難したうえで、「イスラエルによる犯罪を見過ごすことはない」と述べ、徹底抗戦を続ける構えを強調しました。
イスラエル政府はハニーヤ最高幹部の殺害について直接言及していませんが、ネタニヤフ首相は31日に声明で、「われわれはどのようなシナリオにも準備は出来ている」と述べ、イランやイランが支援するハマスを含むあらゆる勢力との戦いを続ける考えを強調していて、緊張の度合いが増しています。
イランでハマスのハニーヤ最高幹部 追悼式典
ハマスのハニーヤ最高幹部は31日、訪問していたイランの首都テヘランで殺害され、ハマスや、その後ろ盾であるイランは、イスラエルの攻撃によるものだとして、非難しています。
テヘランでは1日、ハニーヤ最高幹部を追悼する式典が行われ、会場となった市内中心部のテヘラン大学では、ハニーヤ最高幹部のひつぎを前に、イランの最高指導者ハメネイ師がペゼシュキアン大統領とともに祈りをささげました。
また、会場周辺には、ハニーヤ最高幹部の写真や肖像画が掲げられていたほか、喪に服して黒い服に身を包んだ人たちが「イスラエルに死を」などと叫びながら行進していました。
集まった市民からは、「イスラエルが、どれだけごう慢で、間違ったことをしたのかを思い知らせなければならない」とか、「こうしたことが繰り返されないように彼らがやったことと同じことをイランはする必要がある」などと、報復を求める声が聞かれました。
“10月の奇襲攻撃で重要な役割果たしたハマス司令官を殺害”
イスラエル軍は1日、7月13日に行ったガザ地区南部への空爆で、イスラム組織ハマスの軍事部門であるカッサム旅団のデイフ司令官を殺害したことを確認したと発表しました。
ガラント国防相は1日、「ハマスの壊滅、そして戦争の目的達成の大きな節目となった」とSNSに投稿し、作戦の成果を強調しました。
ムハンマド・デイフ司令官は、イスラム組織ハマスの軍事部門であるカッサム旅団のトップです。
イスラエル軍は、去年10月のハマスによる奇襲攻撃の計画や実行で「極めて重要な役割を果たした」と指摘しています。
イスラエル軍によりますと、デイフ司令官は1965年にガザ地区南部のハンユニスで生まれたとされ、1987年に発足したハマスに加わりました。
その後、1989年にイスラエルに拘束されましたが、囚人交換で釈放されています。
デイフ司令官は、ガザ地区からイスラエル側に侵入するための地下トンネルの建設計画にも携わっていたとみられています。
アメリカ政府は2015年、デイフ司令官を自爆テロやイスラエル兵の誘拐に関与したとして国際テロリストに指定しています。
「デイフ」はアラビア語で「客人」という意味です。
長年身を隠す中、家々を転々としているとされ、イスラエル側も数枚しか写真を持たないとされるなど、情報は限られています。
ヒズボラ側 司令官が殺害されたことを認める
中東では30日、イスラエル軍がレバノンの首都ベイルートでハマスに連帯を示してきたイスラム教シーア派組織、ヒズボラの司令官を標的に空爆を行い、殺害したと発表し、ヒズボラ側も31日、殺害されたことを認めました。
アメリカの国務省はイスラエルとヒズボラとの間でも緊張が高まっているとして、レバノンへの渡航情報を最も厳しいレベルにして、国民に渡航しないよう呼びかけています。
イラン最高指導者ハメネイ師 “復しゅう みずからの義務”
ガザ地区を実効支配し、イスラエルと戦闘を続けるハマスは7月31日、ハニーヤ最高幹部が訪問先のイランの首都テヘランでイスラエルによる攻撃によって殺害されたと発表しました。
イランの外務省は31日、ハニーヤ最高幹部の殺害は国際法に著しく違反しているなどとイスラエルを強く非難するとともに、イスラエルを支援するアメリカにも責任があると強調しました。
イランの最高指導者ハメネイ師は声明で「イランの領土で起きたこのつらい事件で復しゅうすることをみずからの義務だと考える」などとして、何らかの報復を行う考えを示していて、イランの対応が焦点となっています。
イランで反イスラエルのデモ
イランでは31日、イスラエルに反発するデモが行われました。
首都テヘラン中心部の広場では、ハニーヤ最高幹部の写真が印刷された巨大な垂れ幕が掲げられ、付近を埋め尽くした人たちが「イスラエルに死を」と叫びながら、報復を求めていました。
また、イランの国旗やパレスチナの旗とともに、イスラエルに対し軍事支援を続けるアメリカを非難するメッセージを掲げる人の姿も多く見られました。
参加した44歳の男性は、「われわれの領土で客人の血が流されるようなことがあってはならず、復しゅうしなければなりません」と怒りをあらわにしていました。
また、35歳の男性は、「イスラエルはおろかすぎて自分たちが何も成し遂げておらず、抵抗勢力の怒りを増幅させただけであることにも気づいていません」と話していました。
ヨルダン川西岸でも抗議デモ
ヨルダン川西岸のパレスチナ暫定自治区ラマラでは31日、大規模なデモが行われました。
デモに参加した人たちはパレスチナやハマスの旗を掲げて、ハニーヤ最高幹部の殺害に対する抗議の意思やイスラエル軍と戦闘を続けるハマスへの連帯を示していました。
デモに参加した男性は、「停戦交渉の相手を殺害したということはイスラエルは平和を望んでいないということだ」と非難していました。
イスラエル政府 “個別の事案にはコメントしない”
一方、イスラエル政府は31日の会見で、ハニーヤ最高幹部の殺害への関与について問われたのに対し「個別の事案にはコメントしない」と述べ、確認を避けました。
イスラエル軍は7月30日には隣国レバノンの首都ベイルートで、ハマスに連帯を示してきたヒズボラの司令官を標的に空爆を行い、殺害したと発表するなど、ガザ地区の外でもハマスや連帯する勢力への攻勢を強めていて、中東情勢は混迷の度合いを深めています。
ネタニヤフ首相も言及せず
イスラエルのネタニヤフ首相は31日、演説を行い、「この数日、ハマス、フーシ派、それにヒズボラに対し激しい打撃を与えた」と述べて敵対する勢力への攻撃が成功していると強調しました。
ただ、ガザ地区で戦闘を続けるイスラム組織ハマスのハニーヤ最高幹部が殺害されたことには言及しませんでした。
一方、ネタニヤフ首相は、隣国レバノンの首都ベイルートでハマスに連帯を示すヒズボラの司令官を殺害したことで、多方面から脅しを受けているとしたうえで、「われわれはどのようなシナリオにも準備は出来ている」と述べ、あらゆる事態への備えがあると主張しました。
米高官 “確認できる立場にはない”
アメリカ・ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は31日、記者会見で「私は伝えられていることについて確認できる立場にはない。ハマスが発表した声明も見たが確認も検証もできない」と述べて具体的な言及を避けました。
また中東地域での紛争が激化する可能性について、「事態の激化が避けられないとは考えていないし、差し迫っているという兆候もないが、注意深く見ている」と述べました。
さらに停戦と人質解放に向けた交渉への影響については、「交渉にどのような意味を持つのかを判断するには早すぎる。私たちが取り組みをやめることはない」と述べて、交渉の合意に向けて引き続き取り組む考えを強調しました。
国連事務総長 “危険は増している”
国連のグテーレス事務総長は31日、報道官を通じて声明を出し、「ガザ地区での停戦や人質の解放などに向けたあらゆる努力が必要ないま、目の当たりにした攻撃で危険は増していて、むしろそうした目標を遠ざける行為だ」と指摘しました。
その上でグテーレス事務総長は、「細心の注意が必要な時で、自制だけでは不十分なのは明らかだ。地域の緊張緩和に向けて精力的に取り組むようすべての当事者に強く求める」として、外交によって事態の悪化を防ぐよう国際社会に呼びかけました。
国連安保理 緊急会合で悪影響懸念相次ぐ
イスラム組織ハマスのハニーヤ最高幹部が訪問先のイランで殺害されたことを受けて、国連の安全保障理事会の緊急会合が開かれ、各国からは、地域の緊張が高まるような行為は自制すべきだという意見が相次ぎました。
国連安保理の緊急会合は、中国やアルジェリアの要請で31日午後、日本時間の1日朝、開かれました。
この中で、各国からは、ハニーヤ最高幹部の殺害によってガザ地区での停戦と人質の解放に向けた交渉に悪影響が出ることを懸念する意見が相次ぎました。
そして各国は、今後、地域の緊張がさらに高まるような行為は避けるべきだと訴え、イスラエルやイランを含むすべての当事者に自制を求めました。
しかし、イランのイラバニ国連大使は、ハニーヤ最高幹部はイランの首都テヘランでイスラエルによって殺害されたとした上で、「このテロ行為は最も深刻な国際法違反であり、主権と安全保障に対する重大な侵害だ」と強く非難し、「国際法に従い、断固として対応する自衛権をイランは持っている」と主張しました。
これに対してイスラエルのミラー国連次席大使は、ハニーヤ最高幹部の殺害については言及せず、「イランは世界一のテロ支援国家だ」と非難した上で、「わたしたちは自分自身を守り、わたしたちを傷つける相手に対しては大きな力で対応する」と主張し、双方の対立が際立つ形となりました。
戦闘開始300日 エルサレムで人質解放訴える集会
去年10月にイスラエルとイスラム組織ハマスの間の戦闘が始まってから1日で300日となるのにあわせエルサレムでは7月31日、人質の解放を訴える集会が開かれました。
イスラエル軍によりますと、いまもガザ地区では115人が人質として捕らわれていて、集会では、家族の代表者がスピーチを行い、解放に向けて政府やハマスに対して働きかけを強めるべきだなどと訴えていました。
妹のカリーナさんが人質になっているサーシャ・アリエブさんは「この国も世界も行動を起こすべきです。人質となった人たちのことを気にとめてもらうことが私たちの戦いです」と訴えていました。
また息子が人質になっているという男性はハマスのハニーヤ最高幹部の殺害について「この地域のことを非常に心配している。このような事態をすべて終わりにして平和に暮らしたいです」と話していました。