© 産経新聞 大阪府咲洲庁舎(さきしまコスモタワー)=大阪市住之江区
滞納20億円回収進まず 大阪府・咲洲庁舎ホテル賃料問題、泥沼の法廷闘争に 産経新聞2022/06/18 12:00 https://t.co/pa42FOzDsp
— bod (@bod91313247) June 18, 2022
大阪湾の人工島・咲洲(さきしま)にある大阪府咲洲庁舎(大阪市住之江区)で開業中の「さきしまコスモタワーホテル」が府への賃料を滞納し、総額が20億円近くに膨らんでいる。府は滞納金の支払いなどを求めて提訴する一方、ホテル側も庁舎の騒音を理由に対策費と賃料の相殺を求めて反訴し、泥沼の様相に。新型コロナウイルス禍で経営は悪化し、府の滞納金回収のめどは立たないままだ。
外れた誘客目算
「客を呼び込める自信はあった。なぜこんなことになってしまったのか」。ホテルの運営会社「さきしまコスモタワーホテル」の男性社長(62)は胸中をこう明かした。
ホテルは平成31年1月以降、庁舎7~17階部分に段階的にオープンした。客室からは関西の街並みを一望でき、梅田や難波など大阪の中心地には電車で約20分とアクセスも良好。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の候補地で、令和7年開催の大阪・関西万博の会場にもなっている夢洲にも近い。観光とビジネス双方の面で誘客が大いに期待できた。
ところが開業してみると客足は思うように伸びず、元年度の客室販売による売り上げは目標の8割程度の約5億円にとどまった。開業9カ月後の同年10月以降は月約3500万円の賃料の支払いが滞り、府は2年7月、施設の賃貸借契約を解除した。
日韓関係影響?
目算はどこで食い違ったのか。開業直後の元年は日韓関係悪化により、韓国から大阪を訪れる旅行客が前年比で3割以上減少。男性は「ホテルの誘客にも影響した」と指摘する。それでも、滞納した賃料の支払いと再建への道筋を模索しようと、府と協議を重ねていたという。
ただ府は賃料が支払われない現状に、「信頼関係を損ねた」として協議を打ち切り、2年11月、契約先の「さきしまコスモタワーホテル開発」とホテルなどを相手取り、滞納金や光熱水費など約3億2千万円の支払いと施設の明け渡しを求めて大阪地裁に提訴した。
これに対し、ホテル側が主張するのは、エレベーター昇降時に客室内に響く騒音だ。ホテル側は契約後、走行中の自動車内に相当する最大65デシベルの騒音が客室内で確認されたと説明。約4億円かけて改修し、騒音は軽減されたが、客室単価は当初の想定の8割程度に下落したという。
ホテル側は客室に適した水準の35デシベル程度に抑えるには、さらに約36億円の改修費用が必要として、3年2月、賃料と相殺するよう求めて反訴。ただ、府は「他のテナントから騒音のクレームはなく、ホテル側が主張するような事実はない。入居フロアはもともとオフィス仕様で、用途の変更は入居者が負担する条件で公募していた」と譲らない。
着地点見いだせず
さらに状況を深刻化させたのが、新型コロナの感染拡大だ。2年1月以降、宿泊客は激減し、客室稼働率は元年度の70%から2年度は15%まで落ち込んだ。ホテル側は賃料減免を求めているが、府は他のテナントにも減免しておらず「特例は認められない」とする。
もっともホテル退去後に別のテナントが入る見込みはない。ホテルが撤退すれば、庁舎の入居率は80%台から60%台に落ち込む。咲洲庁舎は、維持管理費が賃料収入を上回る状況が続き、用途制限緩和を大阪市に働きかけ、ホテルを誘致した経緯もある。
契約では、解除後もホテル側が施設の占有を続けた場合、賃料の2倍相当の損害金を府に支払うよう定めている。ホテル側への請求は解除後、月7千万円に増額されており、未払い賃料と損害金の総額は単純計算で約20億円にまで膨らむ。
男性は「滞納は事実で、業績が回復すれば賃料を支払う用意もある。一緒に大阪を盛り上げようとすでに多額の投資をしており、和解する着地点を見いだしたい」。一方、吉村洋文知事は「望んで訴訟をやったわけではなくて、大切な税金にもなる賃料を回収しないといけない。速やかに法的な義務を履行してもらいたい」と話している。(吉国在)
大阪府咲洲庁舎
大阪市住之江区の人工島・咲洲にある高さ256メートルの55階建てビル。市の第三セクターが平成7年に約1200億円を投じて「大阪ワールドトレードセンタービルディング(WTC)」を建設したが入居率が低迷し、16年に経営破綻に陥った。当時の橋下徹知事がWTCの活用をめぐり老朽化した府庁舎の全面移転を掲げたが、移転条例案は府議会で否決。府は22年に第2庁舎としてWTCを格安の約85億円で購入したが、翌年の東日本大震災で安全性が問題視され、府の一部部局が移転するにとどまっている。