ひまわりの種

毎日の診療や暮しの中で感じたことを、思いつくまま書いていきます。
不定期更新、ご容赦下さい。

教科書の1行(2)

2011年01月30日 | 医療
昨日の土曜日、母校の大学の小児科の同門会があり、
わたしもはるばる出かけてきました。

昨年母校を定年退官後、北の大地の大学に赴任なさったA教授もおいでになってました。
退官直前に大病を患われたとのことでしたが、とてもお元気そうで、
新任地でも研究への情熱は衰えてはおられませんでした。

ほとんどのお子さんが、生後数ヶ月から2歳頃までのあいだにかかる、
突発性発疹症という病気があります。
わたしが学生の頃の教科書には、ウイルス感染によるものと思われる、
という記載だけで、何のウイルスかはわかっていませんでした。
その原因ウイルスを突き止め報告したのは、実は日本人です。
約20年前、1988年のことです。

当時、まだ講師だったA教授も母校でその研究に携わっていました。
A先生ひきいる小児感染症グループの先生方(といってもわずか3名でしたが)が、
日々の診療をこなした後の夜9時~10時頃から、
文字通り不眠不休で、原因ウイルスの研究をなさっていた姿を、
わたしはまだ駆けだしの医師でしたが、今も覚えています。
論文提出の間際には、研究室の床で寝てしまったこともあったそうです。

残念ながら、わずか1週間の違いで、国立研究所の先生が先に報告論文を提出してしまい、
A先生たちは、世界初の報告者にはなりませんでした。

けれども、医学論文で「突発性発疹症」を検索すれば、ほとんどにA先生のお名前があります。
「突発性発疹症の原因はヒトヘルペスウイルス6型・7型」というのは、
今や医学部の学生も知っている、教科書の常識になりました。
A先生の業績はもちろん突発性発疹症だけではなく、
ウイルス学・感染症学の分野でA先生をご存知ない方はいません。

A先生が、ご自身の教授退官記念の祝賀会でのご挨拶で、

「今までは日本の子どもたちのために研究してきました。
 これからは、もっと恵まれない国の子どもたちのために研究をしたいと思うので、
 近いうちにザンビアに行く予定です」

とおっしゃった時には、わたしたち後輩医局員のほとんどがびっくりしたのです。
先生は、大病を患った後でしたし・・・ 。

ところが、今回でのご挨拶もお元気そのもので、
ザンビアへ渡航なさる計画もいよいよ具体的になったようでした。
先生のスケールの大きなお話を聴きながら、
わたしはつくづく自分の小ささに恥じ入ってました。

せめてわたしにはわたしの、身の丈にあった、目の前に与えられたことを、
誠実にひとつずつこなしていこう、
・・・そんなふうに心を新たに帰ってきました。
(この決心が、しっかり持続すればいいんだけどねぇ・・・)

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