ひまわりの種

毎日の診療や暮しの中で感じたことを、思いつくまま書いていきます。
不定期更新、ご容赦下さい。

恩師の言葉

2011年11月14日 | 医療
「病気を治しても、心に傷を残すような治療をしてはいけません」
   は治っても

お世話になった教授の、退官前の最終講義の時の言葉だ。

外来の患者さんをこなすことに忙殺され、へとへとになった時に、ふと思い出す。
あぁ、今日わたしは、あのお母さんに、もっと丁寧に話を聴いてあげればよかった・・・。
しきりに反省するのだけれど、また、同じことを繰り返してしまうことがある。

「内科診断学」を常に手元に置いて、基本に立ち返りなさい、というのも、教授がよくおっしゃっていたことだ。
わたしも教えを守って、外来の机のそばに「内科診断学」を置いてはいるが、
実はじっくり読み返したことが、あまりない・・・・。
まったくもって、不肖の弟子だ。

でも、冒頭の言葉は、折りに付け、思い出す。

母校でお世話になった恩師たちの、

「(目の前の患者さんが)自分の子ども、家族だったら、どうするか・・・。」
「(今は無駄だと思えることも)教科書の一行になるのです。」

という言葉とともに、わたしの座右の銘ともいえるものとなっている。
いつもいつも守れている自信はないのだけれど、守ろうと思いながら、診療をしている。

教授はわたしの夜更かしもよくご存知で、メーリングリストの投稿時間が遅いと、たびたび叱られた。
医師は健康が第一! 早く寝なさい! ・・・と。(^_^;)
「早寝、早起き、朝ご飯」
と子どもやお母さんたちに説くべきわたしは、その逆の生活をしている。
まったく、困ったものだ・・・。

(先生、ごめんなさい、わたしは今日も、夜更かしをしてしまいました・・・σ(^◇^;) )



 _____________________________________________
 追記:(11月16日)
  ご本人である恩師から、メールをいただいた。
  (わたしのブログを時々読んで下さっているらしい・・・。ひえぇ・・っっ)

   一つ、お願いがあります。
   それは、先生のブログの冒頭の記載文です。
   ブログには、
  「病気を治しても、心に傷を残すような治療をしてはいけません」
   ・・・とありますが、
   「病気」は自然に「治るもの」でして、「治すもの」ではないと
   私は、常々、考えております。
   つきましては、
   「病気を治しても、・・・」を「病気は治っても、・・・」に
   修正していただければ幸甚に存じます。


  嗚呼・・・。
  なんということ!!!
  本当に、教授のご指摘のとおりである。
  日本語はむつかしい。
  しかし、この「て・に・を・は」を間違えれば、大きく意味が異なってしまう。

  実は、この記事を書いたきっかけは、過去の日記帳だった。
  「10年日記」というのを書いていたことがあって(もちろん、早々に頓挫している)
  いつかこの言葉を書こうと思いながら、いつ聴いたのだったか思い出せないでいた。
  ほとんど真っ白の分厚い10年日記帳を処分しようかどうしようか迷っていて、
  でも捨てる決心がつかずページをめくっていたら、最終講義を聴いた日のことが書いてあったのだ。
  そこには、「病気は治っても・・・」と、聴いたとおりの言葉をわたし自身が書いていた。

  なのに、この記事には「治しても・・・」と書いてしまった。

  わたしたちは、実は「治る」お手伝いをしているに過ぎない、と以前の記事にも書いたことがある。
  それなのに、このような表現をしてしまったのは、
  わたしの気持ちのなかに、無意識の「奢り」があったのかもしれない。
  反省だ・・・・。

  先生、またしても、ありがとうございます。m(__)m
  
  

夏休みになって・・・・

2011年08月01日 | 医療
夏休みになって10日余り。
子どもの多くは、県外に短期避難するので、さぞや外来は暇になるだろう、
と、タカをくくっていたけれど、あんまりヒマじゃない。

 医療機関がヒマじゃないのは、ほんとはあんまりいいことじゃないんだけど。
 だって、具合の悪い方がそれだけいらっしゃる、ということなんだから・・・。

もっとも、おいでになるお子さんは、予防接種や健診も多い。
これまでの定期接種に加えて、肺炎球菌ワクチン・ヒブワクチン・子宮癌のワクチン、
などが増えたので、それらの接種スケジュールの説明に、時間がかかる。
当院では、看護師がスケジュールの説明をかなりきっちりしてくれるので、
わたしは助かっているけど。

でも、相変わらず、ヘルパンギーナとか、手足口病とか、プール熱とか、
夏かぜウイルスのお子さんも多い。
ヘルパンギーナは、のどに口内炎のような水疱がたくさんできて、
小さいお子さんは痛くて(食べたくても)食べられなくて、
高熱の上、脱水や低血糖になってしまうこともある。この暑さだしね・・・。

点滴して、ちょっと元気になって帰ったおこさんが再診の時には、
診察室に入るなり、わたしの顔見て、思いっきり泣かれてしまったり。
そうだよなぁ、赤ちゃんだって、嫌なことされたのは、しっかり覚えてるよなぁ。
しかも、一週間前に予防接種なんかしてた日には、

「あ、このヒト、なんか、やなことしたヒト!」

って、みるみる表情が変わるんだもん。

でもね。

そういう赤ちゃんたちでも、
長いお付き合いのうちには、ある日突然、泣かなくなるから、不思議。

この夏休みの間に、転校や転園するお子さんもいる。
気管支喘息やアトピー性皮膚炎で通院してたお子さんには、
紹介状をお渡しすることもある。

カルテの数年前の記事をひっくり返しながら、紹介状を書く。
書きながら、そのお子さんが小さかった頃のことを思い出す。

あるお嬢ちゃんは、アトピーがひどくて、毎晩からだを掻きむしって、
いつも顔や手足が傷だらけだった。
少し良くなってきた頃に弟が産まれて、小さいながらも、甘えたいのを我慢して、
でも泣き虫さんで、すぐに目の周りが涙でかぶれて、それをまた掻くから、
いっつも、目の周りがカサカサしてたっけ。

転校することが決まった時、やっぱり泣いたんだそうだ。
我慢強い子だから、それがからだに出ないといいな。
そんなことを考えながら、紹介状を書いた。

 センセイもね、小学校は2回も転校したんだよ。
 でも、その分、お友達もたくさんできたよ。
 だから、あなたもナンにも心配ないよ。
 いろんなところにお友達ができるんだから、よかったね。

そう話したら、その子は恥ずかしそうに笑った。
うん。きっと、この子は、大丈夫だ。
いま、どうしてるかな。

子ども達だけで、キャンプに行ってる子。
お母さんと一緒に短期滞在してる子。
みんな、元気かな。

今年の夏休み。
わたしは、絶対に、忘れない。
お母さんの気持ち、お父さんの気持ち、子どもたちの気持ち、
避難した人も、ここで過ごした人も、
みんなが、それぞれに、どんな思いで過ごそうとしたか、
どんなふうに過ごしたか、
絶対に、忘れない。

 福島県の子ども達をお世話して下さってる自治体の方々、ボランティアの方々、
 ほんとうに、ありがとうございます。
 どうぞ、よろしくお願いいたします。






赤ちゃんたち

2011年04月08日 | 医療
毎日のように、震災で亡くなった方々の報道がある。
昨日の地震でも、数名の方がお亡くなりになった。

毎日のように、うちでは、赤ちゃんが産まれる。
産まれた命に向き合う瞬間は、いつも厳粛な気持ちになる。

医師の仕事が、命の終末に深くかかわっていくのだということは、
山村で開業していた母の姿から身にしみていたつもりだ。
勤務医の頃も、病院のどこかの病棟では、おそらく毎日のように、最期を迎えた方々がいた。

  誕生と、終末。

医師になってからずっと、このふたつの事実を、心のどこかでは、いつも意識していた。

でも、産まれた赤ちゃんをみるたび、ご家族におめでとうと伝えるたび、
今回ほど、多くの亡くなった方々のことを思い起こすことは、これまでなかった。

 キミたち、これから先のこと、頼むよ。
 わたしたちも、がんばる。

赤ちゃんのちいさな手をにぎりながら、心の中で、そう語りかける。

この子たちに、負の遺産を残しちゃいけない。









大変なことになってしまった!!

2011年03月05日 | 医療
つい最近、肺炎球菌ワクチンとヒブ(髄膜炎菌)ワクチン接種後に、
4人の乳児が死亡したとのこと。
お亡くなりになったお子さん方のご冥福を、心よりお祈りいたします。

今日3月5日から、因果関係など詳細が解明されるまでの当面の間、
それぞれのワクチンの接種を見合わせるとのことです。
国や厚労省というお役所の立場とすれば、これは仕方ない対応なのでしょう。

・・が、
かつてのMMR(麻しん・風しん・おたふくかぜの混合)ワクチンや、
最近の日本脳炎ワクチンの二の舞にならなければいいが・・・、
と危惧しています。

肺炎球菌ワクチンもヒブワクチンも、一部の途上国をのぞいた世界各国で、
もう10年以上も前から「定期接種」としてすすめられているワクチンです。
先進国の中では一番遅くに、ようやく日本でも導入され、
高価なワクチンながらも、だいぶ普及してきたところでした。
最近になってやっと、公費補助の制度もできつつありました。

そこへ持ってきての、この出来事です。
全国の小児科医たちも、当惑しています。

乳児が肺炎球菌や髄膜炎菌に感染し髄膜炎を発症すれば、
命を落とすか、助かっても殆どに後遺症が残ってしまいます。
これは、麻しんなどにも起こりえます。(麻しんはウイルスですが)
わたしも、そういったお子さんたちを何人か診てきました。
また、年長児でも、治りにくい中耳炎の原因菌として、
肺炎球菌や髄膜炎菌はたびたび検出されます。
最近ではこれらの耐性菌(抗生物質が効きにくい)も問題になっています。

髄膜炎を発症して亡くなった、あるいは後遺症を残してしまった、
というお子さんたちの親御さんの思いはどれほどのものか、
それは、わたしにとっても今でも、
「あの時のあの患者さん」として記憶に残っています。
そういう時、医師も悔しく情けなく、気持ちの置き場がありません。

一方、ワクチン接種後にお子さんを亡くした親御さんの思いも、
想像するに余りあります。
今までわたし自身には、ワクチン接種後の重篤な副作用の経験はないのですが、
もし、接種したお子さんたちがそのような状況になったら・・・。

どちらの立場になっても、せつない。辛い。悔しい。

今日から親御さんたちにどのようにご説明すればいいのか・・・、
わたしたちも、混乱しています。

ワクチンの目的は、ただひとつ。
子どもたちの健康と未来です。
国や医師の利益ではなく。


良薬は口に苦し

2011年02月08日 | 医療
「良薬は口に苦し」

昔から、日本の国で言われていることわざですね。
「苦し」は「くるし」でなく「にがし」と読みます。

小児科外来でよくある問い合わせというか要望のひとつに、
「美味しいおクスリにしてください」
というのがあります。
「いただいたおクスリを、こどもが飲んでくれません」
という訴えとともに、「美味しいお薬」リクエストは、
小児科診療での要望のトップかもしれません。

でも、ぶっちゃけ、この要望には、困ってしまうことがあります。(^^ゞ
なぜなら、クスリは本来、苦いものだからです。

各薬剤メーカーが、それこそ社運を賭ける情熱で、
子ども向けの「ドライシロップ(溶ける粉薬)」や「シロップ(水薬」を開発しています。
わたしが子どもの頃と比べれば、今のクスリははるかに美味しくなってますが、
でも、所詮、クスリはクスリ。
口の中で味わってみれば、やっぱり苦いのです。

今どきの世の中の風潮のせいか、子どもが嫌がることをさせることに、
罪悪感を持つ親御さんが増えているように感じています。
もちろん、「嫌がること」を無理強いしてはいけません。これは大前提です。
でも、その大前提はそれとして、
「やらねばならぬこと」を「させる」毅然とした姿勢も必要と考えています。
そして多くは、親・大人が子どもに対して「させねばならぬこと」は、
おおむね、子どもにとって「嫌なこと」です。
予防接種なんか、その最たるものでしょう。
家の手伝いや宿題だって、そうです。
(これ、わたしにだって、覚えがあります(^_^;) )

たかがクスリ。されどクスリ。

赤ちゃんの時から、美味しくないクスリを飲むことに馴れてしまえば、
つまり、いっとき我慢して、苦いクスリを「ごっくん」することを覚えてしまえば、
その後はなんてことはないんです。

赤ちゃんの頃からのおつきあいのお子さんに、初めて内服薬を処方する時、
できるだけ、飲ませ方のご説明をするように心がけています。
クスリの飲ませ方のプリントを渡して、読んでいただきます。
場合によっては、薬局で処方されたおクスリを持ってもう一度戻っていただき、
外来で実際にお子さんに飲ませてみるという実演をすることもあります。

手前味噌ですけど、赤ちゃんの頃からのお付き合いのわたしの患者さんで、
苦いおクスリだから飲めません、というお子さんは、ほとんどいません。
かなり苦いクスリでも、お母さんたちは頑張って、子どもたちも頑張って、
のんでくれます。
こぼしたり、吐き出したりの多少の失敗はオッケーです。
それで躊躇したり怖がる必要はないんです。
頑張って飲めたら、うんと賞めましょう。
ご褒美に、おいしいものあげたっていいです。ただしひとくち。(^_^)b

「嫌がってる子どもに苦いクスリをのませ」ても、
その後のフォローがちゃんとあれば、つまり、できたことをちゃんと評価してあげれば、
決してそんなことで子どもの心がねじれることはありません。
むしろ、子どもにとっては自信がつくことになると思っています。
ちいちゃいお子さんだって、ちゃんと人格があるんです。
赤ちゃんだって、ほめてもらったことは、きっとわかるはずです。

ちょっとした工夫とかかわり方で、子どもは大きくステップアップします。
お母さんだって、自信がつくと思います。

教科書の1行(2)

2011年01月30日 | 医療
昨日の土曜日、母校の大学の小児科の同門会があり、
わたしもはるばる出かけてきました。

昨年母校を定年退官後、北の大地の大学に赴任なさったA教授もおいでになってました。
退官直前に大病を患われたとのことでしたが、とてもお元気そうで、
新任地でも研究への情熱は衰えてはおられませんでした。

ほとんどのお子さんが、生後数ヶ月から2歳頃までのあいだにかかる、
突発性発疹症という病気があります。
わたしが学生の頃の教科書には、ウイルス感染によるものと思われる、
という記載だけで、何のウイルスかはわかっていませんでした。
その原因ウイルスを突き止め報告したのは、実は日本人です。
約20年前、1988年のことです。

当時、まだ講師だったA教授も母校でその研究に携わっていました。
A先生ひきいる小児感染症グループの先生方(といってもわずか3名でしたが)が、
日々の診療をこなした後の夜9時~10時頃から、
文字通り不眠不休で、原因ウイルスの研究をなさっていた姿を、
わたしはまだ駆けだしの医師でしたが、今も覚えています。
論文提出の間際には、研究室の床で寝てしまったこともあったそうです。

残念ながら、わずか1週間の違いで、国立研究所の先生が先に報告論文を提出してしまい、
A先生たちは、世界初の報告者にはなりませんでした。

けれども、医学論文で「突発性発疹症」を検索すれば、ほとんどにA先生のお名前があります。
「突発性発疹症の原因はヒトヘルペスウイルス6型・7型」というのは、
今や医学部の学生も知っている、教科書の常識になりました。
A先生の業績はもちろん突発性発疹症だけではなく、
ウイルス学・感染症学の分野でA先生をご存知ない方はいません。

A先生が、ご自身の教授退官記念の祝賀会でのご挨拶で、

「今までは日本の子どもたちのために研究してきました。
 これからは、もっと恵まれない国の子どもたちのために研究をしたいと思うので、
 近いうちにザンビアに行く予定です」

とおっしゃった時には、わたしたち後輩医局員のほとんどがびっくりしたのです。
先生は、大病を患った後でしたし・・・ 。

ところが、今回でのご挨拶もお元気そのもので、
ザンビアへ渡航なさる計画もいよいよ具体的になったようでした。
先生のスケールの大きなお話を聴きながら、
わたしはつくづく自分の小ささに恥じ入ってました。

せめてわたしにはわたしの、身の丈にあった、目の前に与えられたことを、
誠実にひとつずつこなしていこう、
・・・そんなふうに心を新たに帰ってきました。
(この決心が、しっかり持続すればいいんだけどねぇ・・・)

休日当番

2011年01月02日 | 医療
暮れの31日に産まれた赤ちゃんが、どうも具合が悪い。
いや、元気はいいのだけれど、ちょっと微熱がある。
という報告が、昨夜来ました。
赤ちゃんは単に温めすぎても体温が上昇するのだけれど、
どうもそれだけじゃないみたい。
うちの看護師・助産師の観察眼はなかなか鋭いのです。
お母さんからの、なんか気になるんです、という申し出も無視できません。
結局、夜中から朝方にかけて、検査したり点滴したりで、
久しぶりのお正月の休日当番は、ほぼ完徹状態で臨みました。

おいでになった患者さんは約200人ぐらいだったでしょうか。
約3分の1は下痢・嘔吐。
次の3分の1は発熱(インフルエンザも数名)
残る3分の1は、おたふくかぜと水痘(水ぼうそう)でした。

わたしの外来は、設計の都合で、感染症の方にお待ちいただくスペースが狭いのです。
(これは大失敗だったのですが、今となっては仕方ありません)
なので、今日のような時は、保護者の方の携帯番号をお聞きして、
順番が来るまで、車の中などで待機していただくことにしていました。

ひとり、こんな親御さんがいました。
お子さんは水痘でしたが、丁度感染症の方のスペースには他の患者さんがいました。
受付では携帯アドレスを教えていただき、他の方々にご説明するのと同じように、
申し訳ありませんが車の中でお待ち下さい、順番が近づいたらお知らせします、
と説明したそうです。
そのお子さんの順番になったので携帯に電話したところ、出たのはお父さん。
順番なのでおいで下さいとお伝えしたところ、かなり立腹している様子。
受付でも訳がわからず詳しく訊いたところ、

 車でお待ち下さいと言われて駐車場に戻ったところ、駐車場が一杯だった。
 止めておける場所がないので、奥さんと子どもをクリニックの玄関先に降ろして、
 自分は車で出かけてきた。(何か用事があったのでしょうか?)
 この寒い時に、水ぼうそうで熱が出ている子どもを外に待たせて置くとは何事だ!

というのが、お父さんの怒りの原因だったようでした。
しかし、こちらでは、そこまでの様子というか事情は把握不可能です。
もし駐車場が一杯だったなら、車を止めておけないのだがどうすればいいか、
とひと言、問い合わせて下さればよかったのです。
実は駐車場はほかにも2カ所あり、止めることは可能でした。
でなければ、車を走らせて時間つぶしをしていてもよかったのに。>
こういう時のために、携帯でも待ち時間をチェックできるシステムにしてあるのに。

受付ではほかの患者さんの応対もあり、らちがあかないので、
事務長と院長が戻って来たお父さんに応対しましたが、
そこでも罵詈雑言だったようでした。
あまりのことに、近くを通りかかった男性の方までがお父さんに苦言を呈したそうですが、
今度はその男性と口論になる始末だったそうな。>

さて、そのお子さんの診察の順番になって・・・。
診察室に入ってきたのは、お子さんとお母さんだけ。
わたしからもお母さんに謝罪しましたが、
お母さんはばつが悪そうでした。
「言うだけ言うと怒りはおさまるんです。」とご主人のことをおっしゃってました。

確かに、休日当番、しかも正月の2日です。
小児科外来はものすごく混雑します。その上、殆どが初対面の患者さんです。
いつものかかりつけの方々の時よりも、ある意味、時間がかかります。
これはもう、お互いさまとして我慢していただくほかはないんです。
不満はいっぱいあるでしょう。でも仕方ないんです。

そのお子さんは、2日も前から水疱が出来ていて、
おいでになった時は全身に水疱が拡がっていて、40℃もの高熱でした。
水痘は、水疱が出始めた最初の頃に受診して治療を開始した方が、軽くて済むんです。
今回は年末年始だったから、受診のタイミングが遅れたのは仕方ないとして、
「この寒空に」と文句をわたしたちに言うのなら、
「この寒空に」玄関先に奥さんと子どもを降ろして行ってしまえるお父さんの感覚、
わたしは、そちらの方が心配になってしまいました。

そうそう、夜中に点滴した赤ちゃんは、今のところ元気です。
熱も下がりました。よかった
患者さんが元気になるなら、
徹夜しようが、クレーマーに遭おうが、なんちゅうことはない、です。


おまじない

2010年12月07日 | 医療
今年は10月半ばからインフルエンザワクチンを開始しています。
もうかなりのお子さんが接種をしています。
つい先日、2回目のワクチン接種にきた4歳の男の子。
右腕の袖をまくって、診察室にはいってきました。
口を真一文字に結んで、ひとりで椅子に座りました。
お母さんに抱っこしなくていいの? と訊くと、
いいんです、いんです、
とお母さんはにこにこしながらお子さんを見守っています。
ひととおりの診察が終わって、いざ、本番。
がんばろうねぇ~、と声をかけながら接種しようとしたら、突然大声で、

 「いたくない!! いたくない!!」

とその子が叫びました。
びっくりしてその子の顔を見ると、目をぎゅっとつぶって、歯をくいしばっています。
注射する右腕をわたしの方に出し、左腕で自分の右肘のあたりをしっかり掴んでいます。
そうかぁ、頑張ってるんだねぇ、えらいぞ! と励ましながら、
ぷすっ、と針を刺した瞬間から、ワクチン液を入れ終えるまで、

 「いたくない!! いたくない!!」

と身じろぎもせずに叫んでいました。
その子の注射が終わったあと、介助についていた看護師もみんなで大拍手でした。

きっと、ここに来るまでの間、どうやって痛い注射を我慢するか、
小さな胸で一生懸命考えてきたんだろうなぁ。

頑張りすぎ、我慢のしすぎはよくないけれど、
小さい時から頑張ってみること、我慢するトレーニングを積むことは、
その後の子どもたちの人生において、決して無駄にはならないと思います。
ちょっとした「おまじない」を自分にかけることで、なんだってできちゃう、
それが、子どもの無限の可能性だと、日頃から感じています。
もちろんオトナだって同じことがいえます。

注射をひとりで頑張ったキミはもちろん偉いけど、
その子がひとりで頑張るように見守ったお母さん、
(たぶん本音はハラハラしながら見てたんだと思うけど)
あなたも素晴らしいと思います。

「自然なお産」てなんだろう?

2010年10月22日 | 医療
2年前の日記に、九州の女性医師さんからコメントをいただいてました。
福島県立大野病院の産科医師が不当に逮捕された件の日記です。
以下は女性医師さんのコメント:

    <<<助産院は安全? いや危険です>>>

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/09/images/s0905-7f1.gif

      50年前、分娩場所が助産所や自宅から、病院や産婦人科医院(診療所)に代わり、
      母体死亡率が激減してます。

      半世紀前に戻るのか????


本当は2年前の日記のところに返信を書くべきなのですが、
コメント日時が今年の8月ですので、こちらの新しい日付でご紹介いたします。
九州の女性医師さん、当ブログに初コメント、ありがとうございました。

コメントのご意見、おっしゃる通りだと思います。

大野病院の一件をきっかけに、全国的な産科医不足があらためて問題視され、
それに伴い、正常産は助産師が担い、異常産は産科医が、という構想で、
助産師さんたちの役割も大きくクローズアップされたように思います。
それはそれで、ある側面からは喜ばしいことだとも思いますが、
いまだに各所での院内助産院などの構想が頓挫していることをみれば、
現実はそう簡単なものではなかったことは、明らかです。

勤務医時代から開業しての、これまでの間、
小児科医として、また、ふたりの子どもを出産した立場として、
産科医の夫を通して現代の産科医療をみてつくづく感じることは、
「お産は、産まれてくるまで、正常産か異常産か予測できないことが多い」
ということです。

妊娠経過も順調で何のリスクもないと思っていたのに、
分娩がなかなか進まなくて帝王切開になることもあれば、
予定日前に破水してしまって早産になるからスタンバイしてくれと言われ、
わたしの外来を一時ストップして、ドキドキしながら待機してみれば、
予想外にツルンと元気に産まれ、わたしの出る幕じゃなかった、
なんてお産もあります。

九州の女性医師さんがアップして下さったグラフのように、
1970年代を境に、妊産婦の死亡率も新生児死亡率も低下しています。
30~50年前なら助からなくても「仕方ない、運命だったのだ」で済まされたお産が、
21世紀の日本の医療では、かなりの例数を救命することができます。

「自然なお産」を、文字通り自然の成り行きにまかせて経過をみることを指すのなら、
その中には必ず、不幸な転機をたどる症例が出てきます。
それを、「仕方ない、運命だったのだ」と受け入れる覚悟が、
自然なお産を選ぶ妊婦さんたちは、きちんと認識しているのでしょうか。
「自然なお産」を奨める方々は、
「自然の経過に伴う危険度」をきちんと妊婦さんたちにお伝えしているのでしょうか。

全部とはいわないけれども、
開業助産院のHPや、自宅出産・助産院での出産を選んだ方々のブログなどを拝見すると、
「自然にまかせる」ことは正義で、「医療行為」は無駄・悪、
のような印象を受けることがあります。
助産院だけではなく、一部の産科医でさえも、このような意見を唱える方もいます。

ある地域に、一部の方々からカリスマ的に信頼を得ている産科医がおられ、
近々、彼を取材し自然なお産を題材にした映画が公開されるようです。
監督は、以前に何かの映画祭でも賞を獲った女性です。
その映画の予告動画を拝見しました。
綺麗です。とても。
女性ならではの、細やかな優しい描写です。
監督の「命」に対するあふれるようなメッセージが伝わってきます。
わたしがこれから妊娠・出産を控えている立場なら、文句なしに惹かれます。

でも、実はこの産科医院、近隣の総合病院での評判やすこぶるよろしくない。
なぜかといえば、自然を謳い文句にするあまり医療介入の機会を逃し、
どうしようもない状態で母子搬送されたり、仮死分娩で新生児搬送される例が、
かなり多いからです。
不幸な結果になった方々も多いと聞きます。

それなのに、これらの事実は、妊婦さんたちにはあまり知られていないようです。
でなければ、このような映画に取り上げられること自体、信じられません。

現代の医療行為をもってしても、ある一定の割合で救命できないことがあると、
それを医療ミスを世間からは糾弾されます。
なのに、一方では偏った「自然礼賛」で妙な医療を行っている人がお咎めなし。

これって、なぜなのだろう、といつも不思議に思います。

先にも書いたように、自然にまかせれば危険なお産でも、
その何例かは医療行為によって無事に産まれてくることができるのです。
それはすでに「自然なお産」ではありません。
それでも、お母さんも赤ちゃんも、無事なほうがいい。
まずは命ありき、なのではないでしょうか。
自然に産むことができたら、それはそれは素晴らしいことでしょう。
でも、自然じゃなくたって、母子ともに無事なら、それでいいじゃないですか。

つい最近も、こんなお産がありました。
その妊婦さんは、母ひとり子ひとりの家庭で育ちました。
妊娠はしたものの、子宮筋腫があることがわかり、その上前置胎盤でした。
当院のような個人産科医院では対応できませんから、
地元の大学病院に紹介し、37週で帝王切開で2300gの赤ちゃんが無事産まれました。
この方のお産、50年前だったら、母体の命だって危ないものでした。
現代でも、万が一の危険性は実はあります。前置胎盤ですから。
その万が一を予測して、現代でできうる限りの医療介入の結果、無事産まれたのです。
女手ひとつで育てた娘さんが無事に出産するまで、
そのお母さん(新米ばあちゃん)の不安はいかばかりだったでしょう。
紹介したわたしたちも、「産まれました」の連絡をきくまで、本当に心配でした。

味噌だって醤油だって、自家製のものを使っているご家庭は少ないでしょう。
野菜は泥のついてない虫食いのないキレイなものをスーパーで買い、
お肉は畜産農家で厳重に管理され育てられたものがほとんどです。
コンビニではいつでも手軽に欲しいものが手に入ります。自販機もしかり。
暑ければエアコンや扇風機を回し、寒ければこれまたエアコンやストーブをつける。
50年前なら歩いた距離も、車やバスや電車を使う。
こんな生活、すでに自然ではありません。

日常生活そのものが今や自然ではないのに、
妊娠・分娩だけを「自然」にしようとしても、それは無理というものです。
もし、本当の意味で「自然分娩」を目指すのなら、
赤ちゃんの時から50年前のような生活で過ごし、
「自然分娩」に適した身体を作り上げていなけれななりません。
いざ妊娠してから薪割りしたってぞうきんがけしたって、遅いとわたしは思います。
(まったく無意味とはいいませんが・・・・・)

もちろん、一般常識として、食品に気を遣うとか、身体を動かすなどの工夫は大事です。
その上で、必要であれば医療介入があったっていい、
「母子共に無事なお産」であればいいのではないでしょうか。

命が助かるのなら、お産のスタイルなんて、なんだっていい、とわたしは思います。
大切なことは、自分のお産がどんなであれ、受け入れること、
そして、その後の長く続く子育てだと思います。


手足口病とヘルパンギーナ

2010年08月03日 | 医療
今年の夏の異常な暑さのせいなのか、
例年になく手足口病とヘルパンギーナが流行中です。

手足口病とは、文字通り手のひら、足の裏、口の中に水泡ができる病気で、
代表的な夏かぜのひとつです。
原因は、コクサッキーウイルスやエンテロウイルスというウイルス感染で、
飛沫感染(空気感染)する他に、便にもウイルスが排泄させるので、
保育園などでは、あっというまに流行します。
それじたいは、たいした病気ではないことが多いのですが、
小さい赤ちゃんたちだと高熱が数日続いたり、下痢が長引いたり、
喉の粘膜の水疱が痛くて食事や哺乳が困難なことがあって、
きちんと手当しないと脱水症状を起こして弱ってしまいます。
また、まれにですが、心筋症や脳炎などの合併症の報告もあります。
(わたし自身はこれらの合併症の経験はありませんが・・・)

ヘルパンギーナも手足口病を同じコクサッキーウイルスやエコーウイルスなどの感染症で、
熱が3~4日続き、喉の粘膜に水疱ができます。
これも、のどの水疱が痛くて飲んだり食べたりができなくなることが多いです。

いずれも、症状が治るのには約一週間ぐらいです。

今の学校伝染病予防法では、厳密な出席停止の病気にはなっていません。
なので、わたし達小児科医も、熱がなくて食事も普通に摂れるようなら、
保育園や幼稚園や学校を治るまで休みなさい、とは言いません。
「本人の症状次第で登園・登校は可能」ということになっています。

でも。・・でも、なのです。

はしかや水疱瘡のように「休まねばなばない病気」ではない、けれども、
それは、「登園・登校しても人にうつさない」ということではないのです。

どういうことかというと、
症状が消えるまで休ませても、感染の流行の阻止にはならないことがわかったので、
あえて「他への感染防止のために休ませる」意味がないから、
というだけのことなんです。

ですから、同じ保育園児でも、年長さんと、赤ちゃんクラスのお子さんとでは、
対応を少し変えないといけないのではないかな、
とわたしはいつも考えています。
なぜなら、仮に熱がなくても、”食べられない、飲めない”ことで、
赤ちゃんのほうが、弱りかたがひどいからです。
今年は、暑さも手伝って、これらの病気にかかって点滴に通った赤ちゃん達が、
たっくさんいました。
やっぱり、無理して保育園に登園させてしまったお子さんが多い傾向です。
このご時世、簡単にお仕事を休む訳にいかないのは、百も承知。
だけど、それもこれも、まずはお子さんが健康であってのこと。
中には、ほかのところで手足口病は登園しててもいいからと言われた、
とおっしゃるお母さんもいました。
基本はそれで間違いじゃないんだけど、だからといって、
お熱があったり、食欲が明らかに低下している時は行かないほうがいい。

これも、小児科医の説明不足かな、と、
あらためて自分自身をも戒めています。



嬉しいプレゼント

2010年05月17日 | 医療
赤ちゃんの時から診ている喘息のお子さんがいます。
その子が小さい時にお父さんが亡くなり、お母さんは当地の実家に帰ってきて、
今はおじいちゃんやおばあちゃんも一緒に暮らしています。

小さい頃は本当にからだが弱くて、保育園も月の半分ぐらいしか行けませんでした。
何度も喘息の発作を起こして、点滴も何度もしました。入院もしました。

お母さんは一念発起して少し離れた街の医療専門学校に3年間通い、
理学療法士の資格を取って、今は市内の総合病院に勤務しています。
これだって、たいしたことだとわたしは感心しています。

お母さんが忙しいので、外来通院はもっぱらおじいちゃんとおばあちゃんの役目でした。
この子が小学生になっても、まだ喘息発作のコントロールはあまり良くありませんでした。
時々クスリの飲み忘れや、吸入をさぼったりすると、もうてきめんでした。
そのことで、お母さんはおじいちゃんにもずいぶん叱られたみたいです。
でも、お母さんだって、勉強や資格試験のことで精一杯の時期でした。

あるとき、わたしはおじいちゃんとおばあちゃんにお願いしました。
最終責任は親だけど、どうかここは、おじいちゃん達も親代わりのつもりで、
この子の喘息のおくすりの管理を、あとしばらくの間、お願いいたします。

それからその子は、みるみる良くなりました。
小学校4年生になってから、とにかく何か運動もさせてみよう、休みながらでもいいから、
ということで、ソフトボールのスポ少に入りました。
時々発作はあるものの、彼は頑張って続けました。

そして6年生になりました。
学校の運動会で、なんと、リレーの選手に選ばれたそうなのです。アンカーです。
しかも、白組の応援団長です。

運動会は無事終わり(残念ながら白組は負けたそうですが、応援合戦では勝ったそうです)、
運動会の代休の日、おじいちゃんと外来に報告に来てくれました。
照れくさそうに、お礼です、とケーキを持って。
彼が、自分の貯金から買ってきたのだそうです。

学校だってまともに通えるかどうか心配だったのに、
ソフトもやってリレーの選手にまでなって、
本当にセンセのおかげです、とおじいちゃんがおっしゃいます。
でもそれは、わたしの治療が、ではなく、ご家族みんなが、頑張ったからです。
わたしにお礼なんていいのに、と言いながらも、ありがたくいただきました。
嬉しくて涙が出そうでした。

その子とお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんの顔を浮かべ、
これまでのご家族のたどってきた思いをかみしめながらいただいたケーキは、
いままで食べたどのケーキよりも柔らかく優しく甘さが心に沁みました。





解熱鎮痛剤のこと

2010年03月13日 | 医療
解熱剤、と書いて「げねつざい」と読みます。
「かいねつざい」と読んだり、「下熱剤」と書いたりする方がおられますが、
これは間違いです。(^_^;)

さて、この解熱剤。
ご存知のように、発熱の時に使用するお薬です。
使い方のルートは二通り。
経口(口から飲む)か、座薬(肛門に入れる)です。

使用するタイミングは、医師によりやや異なりますが、
おおむね、38.5℃以上の発熱時に、とわたしはお話しています。
38℃以上とご説明する先生もいれば、断固として使わせない先生もいます。
あくまでも、患者さんの体調、発熱による「つらさ」で決めてかまわないと、
わたしは思っています。
使用間隔も、これまた医師により異なりますが、
できれば8時間以上あけて、とわたしはお話しています。
これも患者さんの「つらさ」によって、6時間ぐらいで使用することもアリ、です。

お薬の成分は、小児科領域では「アセトアミノフェン」というものが主流です。
これ以外の成分の解熱剤は今、ほとんど小児科では使用していません。

この解熱剤は、実は鎮痛作用もあります。
ですから正式名称は「解熱鎮痛剤」です。
発熱時以外に、頭痛・歯痛・生理痛・傷の痛み、などにも効きます。
(ただし、アセトアミノフェンは鎮痛効果は弱いですが・・・)

これをよくご存知ない方々が多いので、外来では時々残念に感じることがあります。
せっかく、おうちに手持ちの解熱鎮痛剤があるのに、
「頭が痛くてクスリがなかったので・・・」
と我慢しておいでになる患者さんが結構います。
処方する時に、これは痛み止めにもなりますからね、となるべくお話してるのですが。

もうひとつ残念に感じることは、
親御さんが自分の判断で解熱鎮痛剤を使えない場合が多いことです。
例えば、
夕方外来においでになったお子さん、その時は熱がないのだけれど、
のどが真っ赤に腫れていて痛そう・・・。
「お母さん、これからお熱が出るかも知れないから、解熱剤も一応処方しますね。」
わたしは必ず、このように対処します。
でも、たまに夜中に電話がかかってきます。
「今、39.5℃あるんですけど、昼間出された座薬使っていいですか?」

 ・・・やっぱりあのお子さん、熱が出たかぁ・・・。
 ・・・そのために、解熱剤処方したんだけどなぁ・・・。

産まれて初めてのお子さんの発熱の場合は、大抵は仕方ないなぁ、とも思います。
解熱剤を自分の判断で使っていいかどうかなんて、まだわからないですもんね。
こういうことを何回も体験しながら、
親御さんが自分の判断でお子さんの発熱に対応できるようになっていただく、
それがわたしの願いです。

なぜなら、夜間救急のほとんどが「急な発熱」だからです。
本来なら夜間救急外来を受診しなくても、おうちで充分対処できる状態でも、
クスリがないため(又は使用する判断ができないため)に受診するお子さんが、
夜間救急のほぼ8割をしめるからなんです。
夜中に熱のあるお子さんを動かすよりも、おうちで安静にしているほうが、
よほど「からだのため」になるとは思いませんか?

そのためには、救急箱に「解熱鎮痛剤」も常に在庫しておく、
という日頃の備えも必要なんじゃないかな、と思います。
使う、使わない、は別として。
ご家庭においてある消火器と同じようなものと考えてくださいね、
とわたしはいつもご説明します。

その意味では、小児科医の日頃の役割も大事です。
単に咳止め・鼻水止めを処方するのではなくて、
今診察したこのお子さんが、夜中もし発熱したらどういう対処方があるか、
そういった日常生活での工夫もきちんとお伝えしないといけないと思っています。
お風呂は入れないほうがいいかどうか、とか、食事の工夫とか、
夜間発熱したら翌日は自然に解熱しても保育園はお休みしたほうがいい、とか・・・。
いちいち細かいことまで、口うるさいなぁ、と思う方もいるだろうなぁ、
患者さん(お母さん)の人気取りのためなら、
要求されたとおりのことをはいはいと聞いてりゃいいのかなぁ、
なんて気弱になることもあるけど、
わたしは小児科医。
わたしの仕事は、子どもたちがすくすくと成長するお手伝いをすること。
そのためなら、多少オカアチャン達に煙たがられようが、かまうもんか!
といつも心のなかで思い直します。

そうそう、もうひとつ、大事なことがありました。
発熱→すぐに解熱剤、ではなくて、
その前にまず「からだを冷やす」ことです。
これも、冷えピタなどをおでこに貼り付けるんじゃなくて、
(これ、実はほとんど意味ないし・・・(^_^; )
保冷剤などを脇の下あたりに当ててみることです。
それでしばらく様子をみて、それでもつらそうなら解熱剤、
これがおうちでの看病ですね。

医者の不養生

2010年02月08日 | 医療
昨日は市の休日当番でした。
患者さんは120人ぐらいですから、小児科の休日当番としては、まぁまぁの人数です。
昼食を食べる時間もありました。
ただ、中身が濃かった。
というのも、最近またちょこちょこ出ているインフルエンザのほかに、
赤ちゃんがかかると呼吸困難がひどくなるRSウイルス感染の疑いのお子さんとか、
下痢嘔吐の患者さんが殆どでした。
なので、点滴や吸入などの処置が多かったので、内容としては結構忙しい一日でした。
開業当初からいるベテラン看護師さん3人と連携を取りながら、
新しい看護師さん2人も、一生懸命頑張ってくれました。
休日当番の受付は夕方5時までですが、当然5時には終わりません。
全て終了したのは6時半近くでした。
(でもこれは休日当番にしてはかなり早い終了です)
その後わたしは、夜7時からの市の夜間診療所の当番だったので、
急いで夕食を流し込み、急いで出かけました。
予想通り、すでに10人ぐらいの患者さんが待っていました。
夜11時までで約30人ちょっとの患者さんを診察しました。
こちらも同じく、高熱か、咳がひどいか、下痢嘔吐、のお子さんばかりでした。

普通は、同じ日に休日当番と夜間救急の当番をすることはありません。
今月のわたしの夜間救急の当番は、本当は11日の祝日だったのですが、
その日は都合が悪かったのです。
そういうときは、休日と休日で誰かに交換をお願いするのですが、
今月はこの日以外の休日は全部都合が悪く、仕方なく7日に交換していただいたのです。
ま、どうせ休日がつぶれるなら、昼も夜もいっぺんに終わったほうがいいかも、
なんてことも考えたので・・。
それに、勤務医の頃はこんなこと日常茶飯事だったしね。

考えなしだったかなぁ、とは思うものの、
わたしの年齢でも当直やってる勤務医の先生方がいらっしゃることを思えば、
なんの、これしき、です。

でも、やっぱり、さすがに疲れました。
今日、月曜日の外来も張り切ってスタートしたはよかったけど、
夕方になるにつれて、カルテを書きながら、なんか目まいがするし、
鼻がつまって頭が重い感じがするし、人の声が遠くで聞こえる感じだし。
そういえば、数日前から、時々くしゃみと鼻水が出てたなぁ・・・。
花粉はまだ飛んでないはずなんだけど・・。

アレルギー性鼻炎はもともとあるんだけど、副鼻腔炎になっちゃったかなぁ・・、
そういえばちょっと吐き気も・・・。もしかしてまたメニエール?
それとも患者さんの下痢嘔吐がうつった?
(いや、でもそれはこの間治ったばかりだし、胃腸はなんともないし・・)
いろんな診断名がアタマをよぎりますが、結局そのまま。(^_^;)

んで、さっさと寝ればいいものを、夜更かししてブログ書いてるし。(^^ゞ
だめだ、こりゃ。

さて、明日も頑張らなくちゃ!

人間万事塞翁が馬

2010年02月05日 | 医療
「人間万事塞翁が馬」という故事があります。

  中国の北部に、高値で売れる名馬を産出する地方がありました。
  そこで名馬を育てていたある老人のところから、一匹の馬が逃げてしまいました。
  村の人々は、口々になぐさめました。
  「良い馬だったのに、残念でしたね。」
  老人は言いました。
  「これが悪いことかどうかは、わからないよ。」
  それからしばらくすると、逃げた馬が、立派な名馬を数頭連れて戻って来ました。
  村の人々は、こぞって祝福しました。
  でも老人は言いました。
  「これが良いことなのかどうかは、わからないよ。」
  その後、老人の息子がその名馬に乗っていて落馬し、大怪我を負いました。
  村の人々は、またしてもなぐさめました。
  でも、老人は言いました。
  「これが悪いことなのかは、わからないよ。」
  その後、その地方で戦争が起こりました。
  村の多くの若者は戦争に行き、命を落とした者もいました。
  でも、老人の息子は、怪我をしていたおかげで戦争に行くことはなく、
  命を落とすこともありませんでした。

ざっとこんな内容だったでしょうか。
ちなみに、「人間~」とは「ニンゲン」ではなく「ジンカン」と読むのだそうで、
「世間」という意味なのだそうです。


当院も、開業して15年を過ぎました。
分娩を扱う産婦人科と小児科・内科なので、スタッフ人数も総勢40名ぐらいです。
今までにも、さまざまな事情で辞める人も何人かいましたが、
お世話になってる税理士さんや労務士さんのお話では、
うちはスタッフの出入り(辞める人)は少ない方なのだそうです。
それでも、今年(今年度)は、なぜか辞める看護師さんが相次ぎました。

勤務医の頃には想像もつかなかったことですが、
スタッフから「辞めたい」と相談を受けることぐらい、心が痛むことはありません。
(もちろん、患者さんの相談事以外で、です)
結婚退職ならめでたいことですが、ほとんどはそうではなく、「家庭の事情」とやらです。

「辞めたいのですが・・・」と相談を受けた時に真っ先にアタマに浮かぶのは、

  うちでの待遇が不満だったのかな・・・、
  スタッフ同士の人間関係かな・・・、
  わたし達に何か問題があったのかな・・・、

こんなことが、次々と浮かび、悶々とした日々を過ごします。

数年前に、わたしの外来に欠員が出て(この時は転居によるものでした)、
かわりに勤務するようになった看護師さんがいます。
彼女は若いながらも根性があって、愛嬌も良く、ずっと長くいてもらえたら、と思っていました。
が、夏に相次いで産科病棟の二人の看護師が辞めたあとしばらくして、
小児科外来の彼女も辞めたいと言ってきました。
理由はやはり家庭の事情と、別な分野の看護の勉強をしたいから、とのことでした。
それはそれで、彼女の将来を考えれば応援すべきことです。

小児科外来(母もいるので、正確には内科小児科外来ですが)には、看護師が4人います。
医師ふたりなので、忙しい時期は、この人数でもてんてこ舞いのこともあります。
できれば12月いっぱいで辞めたいというところを、
一番忙しい時期だからせめて3月頃まで、と無理にお願いして、急遽募集を出しました。
10月になって、ひとり看護師さんが決まりました。
とても気配りのできる、優しそうな方です。もちろん仕事もできます。
でも、その方も、家庭の事情で、12月で辞めてしまいました。

また募集をしました。
今度は二人の応募がありました。
一人だけでも良かったのですが、今後のことなどいろいろ考えて、二人に来てもらうことにしました。
2月1日から早速勤務していただけるとのこと。
3月まで無理にお願いしてた看護師さんは、1月いっぱいで辞めることになりました。

今年度、当院で相次いだスタッフの出入りに関して言えば、
「辞めたい」と告げられた時は、とても残念でした。
でも、わたしの外来の彼女が辞めたいと言わなければ、新しい看護師さんは来ませんでした。
3ヶ月という短期間ではあったけれど、その方が加わって5人になったたからこそ、
10月~12月の患者さんとワクチン接種で混雑する外来を、どうにかこなすことができたのです。
今までの4人だけであれば、とてもとても、無理だったように思います。
そして、その新しい方が短期間で辞めたいと言わなければ、
さらに新しく二人の看護師さんは来ませんでした。
新しい二人も、とてもいい方々です。
うまくやっていけそうです。

3月になると、産科病棟の看護師さんと助産師さんの二人が、出産のために育児休暇に入ります。
昨年9月に出産していま育児休暇中の助産師さんが5月の連休明けに復帰してくれるまで、
病棟はかなり、大変になります。
この時期を、どう乗り越えるか・・・。
仲間を思いやる心というものが、こういう時に見え隠れします。
スタッフも含め、わたしたち全員の正念場だとも思います。
患者さんや妊婦さん達に迷惑をかける訳にはいきません。

振り返れば、夫もわたしも、「家庭の事情」で母校の大学病院を辞め、わたしの地元に帰ってきました。
その後やはり「家庭の事情」で開業することになり、勤務医をやめました。

人はそれぞれ、さまざまな事情をかかえて生きています。

いろんな出来事に直面した時に、それをどのようにとらえ、どのようにな対応をするかで、
その人柄が出てしまうように思います。

人生の選択をする時も、同じなのだと思います。

新型インフルエンザワクチンの悩み(4)

2010年01月23日 | 医療
昨年末のワクチン接種と患者さんでごったがえする外来から一転、
新しい年が明けてから約二週間は、えっ!? こんなんでいいの!? っていうぐらい暇だったのですが、
成人式の連休を過ぎて少ししたあたりから、またちょっと混んできました。
新型インフルエンザも一時終息に向かいつつあるかな~・・・、と思いきや、
ここにきてまた、小さな流行があるようです。
中には、学級閉鎖になってる小学校もあります。
インフルエンザの患者さんの殆どが、新型と思われるA型。
それも、ワクチンが間に合わなかったねぇ・・・という年齢のお子さん&大人の方。

それにしても・・・。

新型インフルエンザワクチン、余ってるんですよ!!!

1月8日から開始される中高生へのワクチン接種に向けて、年末に県教育委員会経由で、
中学3年生の希望者を対象に、学校医及び学区内の医療機関で「集団接種」を行うことにしたので、
可能かどうか、の問い合わせ(というか通達)がありました。
その分のワクチンが、余分に配布されたのです。
しかも、その通達は、県にワクチンの希望量を提出してからでした。
それも、12月25日(金)ですよ。
学校現場の先生方も、かなり大慌てだったようでした。
もちろん、わたしを含め、当市の多くの医療機関も慌てたのではないかしらん。
26・27日は土日だし、28日は役所はご用おさめです。
問い合わせするにも、日にちが少なすぎました。

で、・・・余ってます。ワクチン。

なぜ??・・って・・・。

だって、今まで、注文した量の半分ぐらいしかこなくて、
何人予約を受ければいいのか分からない状態での注文だったから、
予約だって、ホイホイと受ける訳にはいかなかった状態でした。
だから、あらかじめ当院の患者さんの年齢と人数から予想を立てて「このぐらいかな?」という量で、
年末は多めに注文したんです。(その半分で間に合うぐらいの量で)
ところが!
年末に注文量よりちょっと多めに配布され、しかも、別枠で「中学3年生の分」まで配布されました。
その上、年末から年始にかけて、予約していたのに罹ってしまったお子さんが結構いて、
キャンセルが相次ぎました。

だ~か~らぁ~!!!

さっさと年度内に、小学生・中高生まで、接種できるようにしちゃえばよかったんだよぅ!!

足りない、足りない、って、大騒ぎしてたのは、いったい何だったんだよぅ!

子どもが一人罹って、兄弟姉妹まで学校や保育園を休んで、その親まで仕事休んで、
しかも、ワクチンは余ってて。
そのためにこうむった社会的・経済的・精神的ロスは、いったいどんだけになると思う?

この国のワクチン行政、もう、訳が分からん。

今日は、義父の命日です。
外科医から産婦人科に転向した義父は勉強家で、夫の家にいくといつも、
茶の間の義父の定位置まわりには医学雑誌が必ず数冊、無造作に置いてありました。
晩年倒れる頃まで、義父は当時勤務医だった夫よりも医療情報に長けていたそうです。
義父が生きていたら、この状況をどう感じたでしょうか・・・。