ひまわりの種

毎日の診療や暮しの中で感じたことを、思いつくまま書いていきます。
不定期更新、ご容赦下さい。

ありがとう、なでしこJapan !!!

2011年07月19日 | 日々のつぶやき
祝・優勝

ほんとうに、嬉しい。

3・11から4ヶ月余り。
国難ともいえるこの時期に、彼女たちから大きなエールをいただいたような気持ちだ。

あの日からずっと、毎日、楽しんだり、喜んだり、笑ったりすることに、
心のどこかでいつも、小さな罪悪感を抱えながら生活してきた。

 よかった! 嬉しい! おめでとう!

これらの言葉を、誰に遠慮することもなく、うしろめたさを感じることもなく、
口にしてもいいという事実。このことが、わたしには尚一層、嬉しい。

「彼女たちにはいつも笑顔がある」
なでしこのチームを紹介する映像で、かならず流れるコメントだ。

そうなんだよ。
物事を、真正面から、歯を食いしばってでも、笑顔で受け止める。
これって、大事なことだ。

わたしたちも、負けないぞ。







セシウムは本当に甲状腺に「多く」蓄積するのか?

2011年07月16日 | 東日本大震災
この情報についていろいろ調べてみたが、論文として検索できたものは、ひとつだけでした。

 すでにロッカーさんが「福島で暮らすということ~」のエントリでコメントして下さっています。
 ロッカーさん、ありがとうございます。

さて、その論文に掲載されているグラフを解説している動画があります。
本当はわたしの記事には載せたくないのですが、必要上、出します。

http://www.ustream.tv/recorded/15540825

この解説をなさっておられるのは、元放射線医学総合研究所におられた方です。
原発・放射線被害に関心のある方でこの方をご存知ない方はいないでしょう。

このおおもとの論文を書いた方は、ゴメリ医科大学の学長をしていたバンダジェフスキーという方で、
この論文が原因で?(別の収賄容疑で)政府から逮捕収監されたとのこと。
こう書くと、まるでバンダジェフスキー氏は正義の味方で、この論文は政府に都合が悪かったからだという印象です。
(それについての見解は、下にあげるbuveryさんが、記事の最後の方に書かれています。わたしも同意見です。)

けれども。
上記の動画を拝見していて(18分過ぎから出てくるグラフ)、この論文についてかなりの疑問を感じました。
それは、このようなデータを論文として掲載する場合、統計処理は単なる棒グラフでは表さないのが常識だからです。
崎山氏ほどの方が、なぜこの点を疑問に思わず、このデータを信憑性のあるもののように取り上げたのか、
わかりません。

先にロッカーさんもコメントに提示して下さいましたが、そのことを解説しているブログがありました。
buveryさんという方の日記です。
わたしはこの方がどのような方かは存知あげないのですが、内容は十分に的を得ていて、説得力があります。

「セシウムは甲状腺に蓄積して、甲状腺癌を引き起こすのか?」
http://d.hatena.ne.jp/buvery/20110701

記事の最初に結論を書いておられます。(赤字はわたしが強調)

 結論から申し上げると、ある程度は集積するかもしれないが、極端に集積する訳ではない。
  ただし、小児甲状腺癌は引き起こさない」


わたしも、この記事を読んで、同意見です。

 補足:このサイトを開いて、崎山氏の動画で出てきたグラフの説明をお読みいただけると、わかりやすいかと思います


前後しますが、先の動画の崎山氏の解説について、疑問に思う点がもうひとつあります。

動画の約3分過ぎのグラフ、「セシウム137のよる環境汚染と人体汚染の関係」について。
これは、山下教授達がチェルノブイリで1991年から1996年にかけて調査したものです。
縦軸は、ホールボディカウンターで調べた体内のセシウムの平均値、
横軸は、各地域の環境放射線レベルです。
この方はこの横軸に、いわき、福島、飯舘村など、同等の環境放射線レベルの地域を書き加え、解説しています。
これを聞いていると、
飯舘、さらにグラフの圏外の高濃度の浪江町などはセシウムの内部被ばくは高度だ、という印象を受けますが、
これはかなり乱暴な意見だな、と思いました。

この山下教授のデータは1991年から5年間のものです。
それ以前、原発事故当時の1986年から1991年までのデータは、ロシア政府は公表していません。
従って、山下教授のデータのセシウム137の人体蓄積量平均値は、
調査以前の5年間の影響も含まれているのではないでしょうか。
ほとんどの方がご存知のように、チェルノブイリでの内部被ばくは、初期の対応のまずさのためです。
医学的には、チェルノブイリでの内部被ばくに比べ、福島原発事故後は、その程度はかなり低いはすです。
(今、福島県産の肉牛が問題になっていますが、これは「行政の杜撰さの問題」とすべきと考えます。)
しかも、現在ではまだ、福島県内各地域住民の内部被ばく調査は、ようやく行われ始めたところですから、
まだ各地域での内部被ばくの程度がどのぐらいかは、わかっていません。
ですから、ロシアの汚染地域に住む住民の内部ひばく量と、
福島での同じレベルの汚染地域の内部ひばく量が同等になるのではないか、
と印象付けるような解説をなさるのは、誤っていると思います。
この方の立派な経歴から考えると、このようなご意見になるのが、不思議です。

 補足:読み返して一部わかりにくい文章だったので、訂正しました。


また、このエントリから少しはずれますが、この方がいわき市で行った講演のYouTubeも拝見しました。
出されているスライドは、わたしどもが他の放射線専門医の方々の講演でお聴きした内容と、ほぼ同じです。
チェルノブイリのデータのほとんどは、山下教授の講演会でも拝見したものと同じです。
わたしのブックマークにある「放射線学入門」なども、放射線の基本的な解説は同じでした。
それなのに、なぜこうも、受ける印象が違うのだろう? という感想を持ちました。

そこで気付いたのが、人のからだへの影響を「どのように表現するか」ということでした。
科学者として(やや政治的な見解も含めて)伝えるか、
人を相手にする臨床医として伝えるか、の違いかな、という印象を持ちました。

ここでも気になったスライドがありました。

 「放射性ヨウ素の被ばくによる甲状腺がん発症予測」
    1Sv当たり:1万人に7.5人
    子どものリスクはこれの倍
    甲状腺がんの致死率は1/10

ここでわたしが ????? と思ったのは、
「甲状腺がんの致死率は1/10」とスライドに記載されていたことです。

甲状腺がんは小児には非常に少なく、だからこそ、チェルノブイリでは小児甲状腺がんが問題になりました。
くどいですが、この原因のほとんどは、放射線による汚染された食物を摂取したことによるものです。
そして、その摂取した食物の汚染レベルは、福島の比ではありません。
しかし、小児甲状腺がんは、がんの中では比較的性質がいい、つまり、生命予後が良いと言われています。

「致死率1/10」ということをそのまま受け取ると、
まるで、甲状腺がんになった方の10人に1人は死亡する、という印象を受けます。

ですが、そもそも、「がん」の重症度の評価で「致死率」という表現はあまりしません。
5年、又は10年生存率、とか、生存率○%、という表現をとるのが一般的です。

「チェルノブイリ後20年 放射線防護の立場から」
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/Chernobyl.pdf
のまとめによれば、

   3.3 甲状腺がんの治療
  甲状腺がんの経過は他のがんに比較して非常に良好である。特に分化型甲状腺がん(乳頭がん、ろほうがん)
  では経過がよい。その他には診断時の年齢が経過に影響し、青少年では成人に比較して明らかに良い経過をとる。
  チェルノブイリ事故後の白ロシアの1152 例の小児甲状腺がんのデータでは、1992 年から2002 年では生存率
  99%であった。
これらの白ロシアの甲状腺がんのかなりの症例(20%程度)は進行した段階で診断されたため、
  これらの症例ではさらに十年以上経過を見なければ正確なことは言えない。

という記載があります。(赤字はわたしが強調したものです。)

また、講演の後の質疑応答では、このようなこともおっしゃっていました。
マスクについての質問で、

 (苦笑しながら)「マスクは、わたくしはあまり意味がないと思っています。」

会場からは笑いがもれました。
これは山下教授もおっしゃっていたことですが、崎山氏は非難されませんね。
松本市長の菅谷氏や武田邦彦氏は、マスクをして、とおっしゃってます。
マスクについては、したい方はすればいいし、面倒な方はしなくてもいい、と個人的には思っています。

ここに住んでいても大丈夫か、との質問には、

 「がんになるのが嫌な方は、避難なさった方がいいと思います。」

と答えておられました。

わたしなら、
 「がんになるかもしれない確率はかなり低いですが、それでも不安な方は・・・」とお答えします。


何が言いたいのかというと、同じ情報を伝えるのにも、その情報を伝え手がどよのように解釈して、
それをどのような表現を用いるか、ということで、伝わり方がかなり異なってしまう、ということです。

「セシウムは甲状腺に蓄積する」という情報も、そのたぐいだと思います。

(わたしのような一介の開業医が、立派な経歴をお持ちのかたの言葉についてコメントするのは、
 かなり気がひけたのですが・・・・・。)

コメントの承認について

2011年07月14日 | 東日本大震災

これまで、個人が特定されるもの以外、コメントはできるだけ承認しておりました。
また、コメントで寄せられた情報サイトは、できるだけ確認してから承認しております。
なので、かなり遅れることもご了承下さいますよう、お願いいたします。
それから、できれば投稿者名はUnknownではなくハンドルネームでお願いいたします。
もちろん、今後も、反対意見であっても原則として承認はいたします。

ただ、今後、わたしのブログはできるだけ「医学的に正確と思われる情報提示」を目指したいと思います。
わたしから拝見して不適切と思われる情報(恐怖心を煽る映像など)のコメントは、
大変申し訳ございませんが、今後は承認しないようにしたいと思います。

ミスリードするのか!? というご意見は必ずあると思いますが、
現実に、今、ネットや週刊誌等で流されている情報の多くが、バイアスのかかったものが多いと感じています。
しかもやっかいなことに、
それらの情報の大筋はまともなことなのに、正しい情報の中に、誤った解釈が含まれている、
これがさらに情報が混乱する状況に拍車をかけていると思っています。
ひとつひとつの、ここは本当なんだけど、それをこのように表現するのはどうかなぁ、というものもあり、
わたしがそれらを全て検証して、ご説明するのは困難です。
もとより、そのような能力もありません。
(なら、書くな、とまた突っ込まれそうですが・・・)

チェルノブイリの事故と福島原発事故との、どこが似ていて、どこが異なるのか、
多くの「専門家」の方々のご意見が分かれます。
また、同じ内容でも、「伝え方」によって、受けての「感じ方」も異なってきます。

今後の福島県がどのように復興していくのか、それは可能なのか、
福島県及び近隣の子ども達が、心もからだも健康に成長していくためには、
今、わたしたちここに住む大人はどのような態度で臨むべきなのか、
しっかりと考えて日々を送りたい、わたしはそう考えております。

健康被害や遺伝に関しては、今後、もしかしたら起きるかもしれない、でも起きないかもしれない、
(放射線医学の専門医の方々の御講演などを拝聴し、それらを総合すると、その可能性はかなり低いと思っていますが)
そのことについて、恐怖心を与えるような方法で、放射線の影響を語りたくはない、と思っています。

今、必死に暮らしている人たちに向かって「恐怖」を与えることはしたくないし、すべきではない。
それはわたしの医師としての信念です。

冷静に、現在わかっている状況を伝えたいと思っています。

申し訳ありませんが、このような理由から、一度は承認したコメントをひとつ、削除いたしました。
(ちゃんとサイトを確認しなかったわたしのミスです)

  具体的に書けず、歯切れが悪くてすみません・・・。


「ひまわりの種」

2011年07月12日 | 東日本大震災
ブログ名の「ひまわりの種」の由来は以前にも書いたが、
http://blog.goo.ne.jp/yi78042/e/a16f8bae25490ad263983e4bcd876f3f
そのヒマワリは、土壌の放射性物質を吸収する効率が良いのだとか。
もっとも、育ったヒマワリの処理だとか、実際の効果などはまだ研究段階だ。
「ひまわりの種」で、学生の頃は苦手な科目だった「放射線」のことを話題にすることになるとは、
本当に、不思議なことだ・・・。
「ひまわり幼稚園」の園長先生は、あちらの世界でこの出来事をどう思ってらっしゃるだろう。

もともとわたしのブログは、日々のつぶやきのつもりで始めたものだった。
毎日出会うお子さんやお母さんを通して、わたし自身も心が温かくなる、
そんなエピソードを載せたり、
季節毎に流行する疾患のことを書いたり(これはあんまりなかったけど・・・(^^ゞ)、
今の医療に関する憤りをぶつけたり、
家族のできごとを書いたり・・・。

毎日の、ささやかな、くだらない、泣いたり、笑ったり、怒ったり、
後になってしまえば、どれもこれもみ~んな、あはは・・、と笑い飛ばせてしまえるような、
そんなことばかりを、ちまちまと、ほそぼそと、書いていくつもりだった。

・・・・・それも、3月10日までだった。
震災以降、そんな日常は失われてしまったように思う。

もちろん、今の「非日常」のような日々のなかにも、ほのぼのとした出来事はある。
予防注射ではお子さんを泣かせてしまうけど、
おなかを抱えて笑っちゃうような、お子さんとの楽しい会話もある。

でも、そうやって笑いながらも、
そのお子さんひとりひとりの後ろにいる親御さんたちの、言葉にできない苦悩を感じる。

みんな、必死な思いで、今、暮らしている。
避難した方も。ここにとどまっておられる方も。

「福島で暮らすということ~」は、そんな状況に対するわたしの思いを綴ったものだった。
思いもかけず多くの方々の目に触れることになってしまったが、
これも何かのご縁なのだと思う。

あぁ、なんということだ・・・

2011年07月12日 | 東日本大震災
一昨日から、あまりのことに言葉も出ない・・・。

南相馬市から出荷された肉牛から、基準値をはるかに超えるセシウムが検出された。
原因は、こともあろうに、
原発事故以降、田んぼに放置していた稲わらを飼料に混ぜたためだった・・・!!!

酪農家を責めてはいけない、という意見もある。
わたしも、責めたくは、ない・・・。

でも、でも、これはあまりにも杜撰ではないか。
国の指示に従わず、与えてはいけない飼料を与えざるを得なかったことは、
東電や原発事故のせいではない。(おおもとの原因ではあるにしても)
すでに起きてしまった事故後の対策をするのは、国と、地方行政と、生産者だ。
今後の福島県のことを思うのであれば、良心に基づいて対応しなければならなかったのではないか。

爆発以降、なぜ、県内全域で農産物が出荷停止になったのか。
当時、まだ放射線の影響が及んでいない会津地方のものも含めて、全て。
なぜそのような措置をとるのか、県は農家に説明したはずではないか。

配合飼料が足りなくて、買えない農家があるのなら、行政は支援すべきではなかったか?
県の畜産課は、飼料が行き渡っているか、正しく使われているか、チェックしていたのか?
原発事故の対応で忙殺されていたことは、理由にはならない。
農家の支援とチェック体制も、原発事故の対策のひとつではないのか?。

事故直後、まだ規制がかかる前ものを食べてしまった、
これについては、医学的に心配はないであろう、という説明はできる。

けれども、今回の出来事は、医学的に健康上問題なかろうが、許されることではない。

出荷停止の時期を耐え、良心的に農業を続けていこうとしている方々は、今どんな思いでいるだろう。

厚労省は県内肉牛全頭を検査対象と「検討」しているそうだが、
「検討」の前に、県は、ただちに県内の肉牛すべての出荷を停止すべきだ。

福島県の信用は失墜した。
情けなくて言葉も出ない。


「いつか君がこの町で暮らしたいと 言ってくれたら幸せだろう」

2011年07月12日 | 東日本大震災
表題は、福島市出身のave(エイブ)さんという方の歌の冒頭の歌詞だ。

「福の歌」~頑ばっぺver」
http://www.youtube.com/watch?v=M_U1WB7fq7o

 福島だけではなく、宮城・岩手・ほかの被災した地域で、
 今、復興に向けてがんばっていらっしゃる方々へのエールもこめて・・・。
 


避難することを決めた方は、その選択に自信を持って欲しい。
そして、いつか戻って来ることが出来る日が来たら、堂々と戻って来て欲しい。

残ることを決めた方々は、ここで出来る限りの工夫をして、堂々と暮らして欲しい。
そして、戻って来た方々のことも、さりげなく、何事もなかったように出迎えよう。

(歌手の方の表記に誤りがあったことを指摘いただきましたので、訂正いたしました)




コメントをお寄せ下さった方へ

2011年07月10日 | 東日本大震災
たくさんのコメントをいただき、本当に感謝しております。
ただ、どこの誰かがわかってしまうコメントもありまして、
大変申し訳ございませんが、アップしませんでした。

 ・・・って、わたしがどこの誰かはもうすでにわかる方にはわかってると思いますが・・・(^_^;)

それで、一部を抜粋し、この場を借りて御礼申し上げます。

 flyingtenorさん:
  「地味だけれど,こんな風に「闘って」いる人もいる。いい加減な情報を鵜呑みにしたり,
  さらにはそれを流したりしないようにしたいと思った。
  ~福島で暮らすということ~小児科医として思うこと - ひまわりの種 http://t.co/UeqKE1x(07月05日) Twitterから 」

  ありがとうございます。

 Unknownさん:
  「引き続き福島の子供達をよろしくお願いいたします。」

  はい。がんばります。(ウチは夫婦仲はいいですよ・・(^_^)b )

 自主避難しているお母さま:
  「結局は自分たちの「残る」という選択を正当化したいがため、尊いものと説きたいがために、
   逃げる者の足を踏んづけているのです。

   じゃあ、あなたは、こどもがもし病気になったとして、因果関係を国が認めてくれると本当に思えますか?
   水俣、原爆症、B型肝炎、薬害エイズ…
   これらの悲劇の歴史をみて、誰がそんなことを信じられますか?

   わたしは今回の国の対応を見て、自分の身は自分で守らなければならないんだと痛感しました。
   こどもにもそれを伝えていくつもりです。

   あなたの発言で、「地元の小児科の『先生』が避難させるのはおかしいと言ってる。おおげさだ。ヒステリーだ。」
   と自主避難者を非難する声が高まっています。
   避難するのに家族を説得するのにとても大変な思いをした人もいます。
   夫や両親に「帰ってこい」と言われ続けて、それでも帰らない決意をした母子もいます。
   どうか、避難するものの邪魔をしないでください。

   わたしは避難しない(できない、ではなく)人の選択を尊重します。
   どうぞこれからもお達者で。」

  わたしの真意が伝わらないことは残念ですが、
  ”逃げる者の足を踏んづけている”つもりでも、”邪魔をする”つもりでもありません。

  避難するにせよ、ここで生活するにせよ、そのことで家族や友人関係に軋轢を生じている、
  その原因のひとつは、放射線への正しい理解がないこと、なのだと思うのです。
  さらに、この原因を作っているのが、かめ吉さんがコメントなさっている状況だと思います。
  わたしはそのことをとても残念に思うのです。
  「反原発」の活動と「福島の子どもを放射線から守る」こととは、区別すべきだと思っています。
 
  もちろん、自主避難なさったお母さま方が、理解がない、という意味ではありません。
  何を、どう怖がるかは、個人個人で受け止め方が違います。
  自主避難という方法を決断した、その時の親としての思い、そのことには自信を持っていいと思います。

  ただ、これから先、わたしのブログが、
  自主避難をなさった方々にも、今後の福島県を考える上での参考のひとつになれば、と思っています。
  その意味で、ロッカーさんのコメントは、とても詳しく丁寧に解説されていると思いますので、
  これも参考のひとつになさっていただけますか。
  
  自主避難なさったお母さまとお子さまが心穏やかに暮らせますよう、心から祈っております。

  


メディアの功罪

2011年07月10日 | 東日本大震災
 「ペンは剣よりも強し」

このことを、常に心にとめて記事を書いて下さるジャーナリストの方々は、
いったいどれだけいらっしゃるのだろう?

・・・と書くと、まるで報道関係者はみんないいかげん、
とわたしが思っているように捉える方もいらっしゃると思うのが、そういう意味ではない。

わたしたち医師はふだん、患者さんたちにご説明する時に、
「絶対」という表現はできるだけ使わないようにしている。

「それはほとんどの場合、大丈夫です。心配はありません。」

という表現でも、「絶対大丈夫です。」という意味では、実はないのだ。
わたしのブログのずっと以前の記事にも書いているけれど、
医療にかかわることで、いや、世の中のほとんどのことで、
「絶対に~」と言い切れることなんて、ないんじゃないか?

 その最たるものが、今回の原発事故だけどさ。

説明するわたしたちの口調や表情と、説明を受ける患者さん側との、
その場における「人と人」とのやりとりの中で、言葉の表現は微妙に異なってくる。

それを、文字にしてしまうと、第三者として読む人がどのように解釈するかで、
また微妙に意味合いがズレてきてしまうことがある。

取材を受けるときにも、医師は「絶対に~だ」とは言わない。
それを「絶対に」という端折った表現には置き換えないで欲しい。

文字を用いることを生業にする方々は、自分の用いた言葉がどのように読み手に伝わるか、
そのことをしっかり考えて書いて欲しいと思う。
「まずはシナリオありき」では書かない。
それは最低条件ではないかな。

「まずはシナリオありき」・・・医療界でこれをやったら「ねつ造」ですよ・・・。

福島県小児科医会から県への要望書・地元紙のこと

2011年07月10日 | 東日本大震災
6月の始めに県小児科医会の理事会があった。
7月3日に開催される総会及び講演会の打ち合わせだ。
その席で、県小児科医会としても具体的な要望書を県宛てに出そうということになった。
理事会で話し合い、6月下旬に提出した。
以下ははその全文。

__________________________________________


福島県知事 佐藤雄平殿
平成23年6月15日

                           福島県小児科医会
                            会長 太神和廣

              要 望 書

  放射線被曝から小児の健康をまもり、未来ある子どもたちを育むために

 この度の東日本大震災による震災、津波の被害に加え、本県では東京電力福島第一
原子力発電所の事故による放射線汚染という未曾有の災害にみまわれました。今現在
もこれらの災害に懸命に対応されている県知事以下県職員ならびに関係者の皆様方に
は、心より敬意を表します。
 さて今回の原発事故に伴い福島県を中心とした広範囲な地域において放射性物質の
飛散・降下により多くの一般市民が放射線を被曝する事態となっております。とりわ
け子どもたちにとってはその影響は心身両面において特に憂慮されるべきものであり
ます。また子どもたちの保護者においても子どもの健康に対する不安は高まっており
ます。
 私たち小児科医は小児の健康と命を預かる立場より、今後および将来にわたって放
射線被曝の直接的影響および風評被害を含む間接的影響から福島県の子どもたちを守
るために以下の事項を要望いたします。

1. 福島県内のすべての地域において子どもたちの放射線外部被曝線量を調査し、ま
 た内部被曝の可能性がある地域については個人レベルでの内部被曝も測定し、また
 その結果を速やかに公表することを要望する

2. 県内すべての地域の子どもたち(および事故当時妊娠中の母親より出生した子ど
 もたちも含む)に対し放射線被曝による健康影響について包括的かつ長期的な健康
 管理を行なうことを要望する

3. 県内すべての子どもたちおよびその保護者に対し、放射線被曝や避難に伴う不安
 の有無、風評被害に伴う精神的ストレスなどの有無について調査し、必要な場合に
 はカウンセリングなどのこころのケアおよび避難(自主避難も含む)に伴う具体的サポ
 ートを受けられる体制を整備することを要望する

4. 現在の被曝線量を出来る限り速やかに低減するために、表土除去をはじめとする
 放射性物質除染を子どもたちの行動範囲すべてにわたり、可及的速やかに行うことを
 要望する

5. 福島県の子どもたちの心身両面での健康かつ安心な生活を将来にわたり保証し、
 また子どもたちの受ける将来的な風評被害を避けるために、福島県は県内の原子炉を
 すべて廃炉とする方針を明確にすることを要望する

 将来をになう今の子ども達が心身共に健やかに成長することなしに、福島県の復興
はありえないと私どもは考えております。そのためには、福島県小児科医会総員をあ
げて地域医療を守り協力する所存であります。これらのことを鑑み、何卒最大限のご
配慮をいただきたく、ここに要望書を提出いたします。
________________________________________

この要望書は、7月3日の総会でも事後承諾ではあったが、承認された。
当日、地元紙2社の記者さんも取材にいらしていた。
会長が対応し、その後は忙しい会長に代わってわたしが補足した。
補足の内容は、今日(7月3日)のメインは、
この報告その他事務的な報告だけではなく、講演会2題なんです、と。
お時間があれば、ぜひ聴いていって下さい、と。
プログラムと、この要望書のコピーもお渡しした。

講演1が、国立成育医療センター感染症科の先生の、
  「新しい予防接種とそのすすめかた」
    
講演2が、産業医科大学放射線衛生学講座の先生の、
  「小児科医が心得ておくべき放射線被ばくの基礎知識~原発事故を中心に~」

特に講演2は、メディアの方々にもぜひ聴いて欲しかった。

その翌日。
地元紙の一面を飾ったのは、福島大学で行われた広瀬隆氏の講演会と、
それを聴きに来る市民の方々の様子を取材したもので、
「後悔したくない わが子と「県外脱出」探る母」
と大きな見出し付きだった。

県小児科医会の総会の記事は、県内版に小さく載った。
新しい会長就任と、こんな講演がありましたよ、という数行だけだった。
もちろんこの要望書の内容にも触れていないし、講演の内容も、出席者の感想もなしだ。

わたしは、小児科医会の活動が一面記事にならないことを不快に思ってるのではない。

広瀬隆氏は、もともと反原発の立場でのさまざまな著書がある。
早稲田大学理工学部を卒業しているが、原子力の専門家ではない。もちろん、放射線医学の専門家でもない。
いわゆるノン・フィクションライターだ。
書くことは個人の思想の自由だから、そのことを非難するつもりはない。

ただ、同じ日に偶然にも、原発事故による放射線リスクのとらえ方に関する講演会が県内で行われたのに、
「危険だ」を声高に主張する方の記事のみを大きく取り上げる地元紙の姿勢は、残念だと思う。

こうやって、「今、本当に伝えなければならない’まっとうな’情報」は、埋もれてしまう。

メディアなら、双方の情報をバイアスなく伝えるのが仕事ではないのかな・・・。
しかも、地元紙なら、なおさら。


わたしのブログをお読みになって下さる方々へ

2011年07月07日 | 東日本大震災
6月11日の「福島で暮らすということ~小児科医として思うこと」に対し、
たくさんのコメントをお寄せいただき、ありがとうございます。
急にアクセス数が伸びたことに最初はびっくりいたしました。

はじめはおひとりおひとりに返信をしようと試みておりましたが、
もともとブログを書く時間は夜中になってからしかとれないので、
すでに個々のコメントにお返事することには限界があります。
いただいたご意見は、ちゃんと拝読いたしておりますので、申し訳ございません。

 なら、コメント受付するな、とか、そもそもブログなんて書くな、
 というご意見もいただきそうですが・・・(^_^;)

それから、わたしの意見は県内小児科医の総意ではないことは、もちろんです。
少数派ではないとも思っています。
当然ですが、反対の見解をお持ちの方々もいらっしゃるでしょう。

わたしはツイッターはしていないのですが、
今回、「福島で暮らすということ~」で検索して、読ませていただきました。
賛同意見もあり、反対意見もあります。当然のことと受け止めています。

ただ、ツイッターにもブログ内のコメントにもありましたが、
「こんな意見を流布し、子ども達の避難を阻止しようとして、それでも小児科医か?」
というご意見ですが、それは違います。

避難・転居したいと考え、それが可能な方はそうなさっていい、と思っています。

それができない方々や、しないと決めた方々も、現実には多くいらっしゃる、
ところが、さまざまな週刊誌やネット上では、
まるで避難・転居しないでいれば「確実に」子どもは将来がんになる可能性が高くなる、
そういった情報があまりに多く、実はそうではないのですよ、
ということを、お伝えしたい、それが主旨です。

このように表現すると、「ここが危険だ」と信じ込んでいらっしゃる方々には、
何をどのようにご説明しても、「それでも小児科医か?」という批判にしかならないと思うのですが、
何度でも、申し上げます。

「福島市は、いますぐ子ども達を避難・転居させなければ、将来高い確率でがんになる」
状況ではありません。

もちろん、リスクはゼロではありません。現実に低線量の放射線レベルが続いていますから。

では、ここに住まざるを得ない方々は、どうやって暮らしていったらいいか。
わたしは、その方々(お子さん)が不安を抱えたまま福島で暮らすことがないよう、
励まし、見守っていきたいと思っております。

週末の県外脱出でもいいですし、夏休みどこかに短期滞在でもいいし、
市内でも線量の低いところで思い切り走り回って遊んでくるだけでもいいし、
県産のものはなるだけ食べないようにすることでもいいし、
現実にここで生活していくことになる方々が、できる工夫をしながら暮らす、
それでも十分な対策だと思っています。

大切なことは、福島で生活するにせよ、転居するにせよ、それは、そのご家族の問題であり、
第三者がそれを決めることではないということです。
わたしの役割は「医学的にきちんとした情報」を提示することだと思っています。

 この「医学的にきちんとした情報」がすでにウソだと信じている方々には、
 これまた、何を言ってる!! と批判の対象にしかならないのだな、と思いますが・・・。

いただいたコメントへのわたしの考えは、ブログで書いていきたいと考えておりますが、
まずはこれだけ、ここに書きます。

「県外脱出者が (ゆん)」のコメントをよせられた、ゆん さんへ。
(7月4日付けの民報新聞の第一面記事および広瀬隆氏については、別エントリでいずれ書きますね。)
ゆんさんのコメントで、わたしの「今すぐ避難するほどではない」という意見は、
福島から子どもが消えたら「営業に差し障りがでるから」ではないか、というお考えですが、
これは大きな誤解であるということを、強く申し上げます。

言われて初めて気付きましたが、おっしゃるように、そのような側面はあるでしょう。
ですが、わたしたちには今、そんなことを考えている余裕はありません。

3月12日に福島原発事故がおきて、まだ終息の見通しも立たず、今後どうなるのかも解らなかった頃、
夫とふたり、話し合って心に決めたことがあります。
それは、今後、もし万が一、福島県全体に避難命令が出ることになっても、
わたしたちは、最後まで残ろう、ということです。
http://blog.goo.ne.jp/yi78042/e/922bc94c995490c0336c125fd6c1cb8a

この考えは今も変わってはいません。