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春から夏、やがて冬 歌野晶午

著者の本は、既に何冊か読んでいるが、いずれもどこに着地するのか最後の最後まで判らないというものが多かった。本書も、それほどトリッキィという訳でもないのだが、よくある泣ける小説とか予定調和的な話に慣れた自分のような読者には、ある意味意外すぎる結末だ。実際に起きた「現実」と登場人物たちにとっての「真実」の違いというものを、ここまで感じさせる話も珍しい気がする。それこそがこの小説の真骨頂なのだろう。著者の本はまだまだ未読の作品が多い。これからまだまだ何冊も楽しめるというのは本当に有難いことだと思う。(「春から夏、やがて冬」 歌野晶午、文春文庫)

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アメリカ・ザ・ゲンバ 青山繁晴

最初の前書き風の文章を読みだして不思議な感覚に囚われた。その前書きによれば、本書が書かれたのは今から10年前以上とのこと、それをあえて今になって、ほとんど手を加えずに新書として売り出したという。こうした時事を扱う解説本としては、もうとっくに賞味期限が切れているはずと思い、何だか騙されたような気分で読み始めたのだが、読んでいて何だかとても変な感じがした。登場する政治家や扱われている事件は当然10年以上の前のものであり、「なんで今更?」という部分が大半なのだが、ときどき「あれっ?今の話と同じじゃん」という部分が顔をだす。別に本書が将来である現在を予言していたということでもないようだし、勝手に読者が今になぞらえて考えてしまっているということなのだろうが、それでも現在との類似点がやけに目につく。特に、トランプ氏の大統領選挙の勝利とゴア・ブッシュの対決の類似点はただ事ではないぞという気分にさせられる。著者自身か出版社の人かは知らないが、おそらく誰かがこの不思議な既視感に気づいたのだろう。記述は著者の自慢話のようなものが目につくし、理路整然と語られているわけでもないのだが、とにかく最初から最後まで不思議な感じがしたまま読み終えた。冷静に考えると、おそらくそうした不思議な感覚の大部分は、後から書き加えられたか修正された部分なのだと思うが、それでも、この本を今になって新書で復刊させるというアイデアには脱帽だ。(「アメリカ・ザ・ゲンバ」 青山繁晴、PLUS新書)

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凶器は壊れた黒の叫び 河野裕

シリーズ第4作目。第一作目から巻が進むにつれて、本シリーズの特異な状況設定について、現実と空想の中間のような世界を舞台にしたある種の「思考実験」のようなものではないかと感じていたが、本書を読み進めていてますますそうだと思うようになった。前作からその延々と続くその「思考実験」は、若者の迷いのように終わりのないもので、若者特有の理屈っぽさとか、理想との妥協を余儀なくされる現実社会への反抗といったものに裏打ちされている。こういう言い方は悪いかもしれないが、こうした青臭さが本シリーズの最大の魅力なのだろう。前作を読んだのが約半年前。前作ではその題名の甘ったるさに苦言を呈してしまったが、なんだか自分が他人の家に上がり込んで文句を言っている老人のようだったなぁと反省した。(「凶器は壊れた黒の叫び」 河野裕、新潮文庫)

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テンペスタ 深水黎一郎

著者の本は既に読み尽くしたと思っていたのだが、まだまだ色々あるのだろうか、本屋さんで本書を発見して入手した。内容は、著者の主要ジャンルの一つでもあるユーモア・ミステリーに分類されるのだろうが、さすがにこの著者の作品だけに、一筋縄ではいかない展開と結末が待っていた。題名からして、西洋絵画の古典的名作とされる「テンペスタ」から着想を得たのだと思われるが、その発想と着眼には、心底驚かされる。主人公2人のそれからが大変気になる。過去のことは過去のこととして、主人公の少女の毒舌と活躍をもっと読んでみたいが、それは無理な注文だろうか?(「テンペスタ」 深水黎一郎、幻冬舎文庫

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