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未知なるミャンマー 春日孝之

ちょうどミャンマー出張を終えて、久し振りの本屋さん巡りをしていて見つけた本書。ジャーナリストであることを知られると入国出来ない恐れがあるので、「紙幣研究家」として入国、身元がばれないように、不審に思われないように注意しながらぎりぎりの取材を続ける姿が興味深い。内容は、さすがに紛争地域の取材になれたジャーナリストという感じのしぶとい取材姿勢、軍事政権への一方的な批判に終わっていない点などが良いし、象徴としての象・獅子・クジャクという動物のデザインの意味などなるほどという感じだ。たまたま今回の出張では、2時間ほど時間があまり、親しくなった現地の人に「白い象」のいるところに連れて行ってもらったのだが、本書を読んでその「白い象」が政治的に大きな役割を果たしていると知ってびっくりした。ついでのように書かれている「紙幣のデザイン」の話も面白い。町や空港で昔のミャンマーの紙幣を売っているのを良く見かけたが、何度も「廃貨」政策が実施され突然紙幣が紙くずになってしまったその紙幣をお土産として売るというのは良く分かる気がする。その時、お土産に買おうとは思わなかったが、本書を読んで、少し買ってくればよかったかもと少し後悔した。(「未知なるミャンマー」 春日孝之、毎日新聞社)

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虚像の道化師 東野圭吾

ガリレオ探偵シリーズの最新作で、いつもの湯川・草薙コンビの登場する短編が4つ収録されている。だんだん探偵が「物理学者」であるという要素が薄くなってきているようで、4編のうち少なくとも2編はほとんど普通の探偵と変わらない感じだし、関係のある2編もどちらかと言えば物理学者というよりも理科系技術者の範疇である気がする。それから湯川探偵の人物像も、何だか随分普通の人になってきたような印象がある。色々な事件に関与して社会の色々な表と裏を見ているうちに角が取れてきてしまったのだろうか。そんな感じで全体としてやや薄味な作品だが、さすがに事件の謎と真相にはいずれも一工夫があって楽しめた。(「虚像の道化師」 東野圭吾、文芸春秋)

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湿地 アーナルデュル・インドリダソン

今注目を集めている北欧ミステリーの1冊。アイスランドのレイキャビックのアパートの一室で1人の老人が殺される。人口30万人という小国アイスランドでは、国民全員がご近所さんという感じで、複雑な事件などはほとんど起きないらしい。そのため、この事件も当初は、老人が知り合いと喧嘩になってかっとなったその知人に殴られてしまったとか、物盗りに入って思いがけず住人と出来わした泥棒の仕業といった単純な事件と思われたが、主人公の捜査官は、小さな疑問を抱いて捜査を開始する。当初の単純と思われた事件の表層と、捜査の末に行きつく真相の重たさのギャップには唖然とするばかりだ。前半は、どこに向かっているのか判らないまま、テンポのよい描写が続くが、物語のちょうど半分くらいのところで、驚くべき事実が明らかになる。その事実によって、さらに方向が見えなくなるものの、当初思われていたような単純な事件ではないことがはっきりしてくる。世界一の福祉国家、厳しい自然、人口30万人の小国、こうしたアイスランドという国の特徴、アイスランド人の気質が全てミステリーの謎と事件の真相に繋がっていく物語は見事というしかない。本書はシリーズの4作目で、日本語初訳。5作目が近日発売でその5作目は本書よりも傑作との評判が高いらしい。本書よりも出来のよい作品とは一体どんなにすごい作品なのだろうかと思ってしまう。しかもこのシリーズはアイスランド語ではすでに15作まででているとのこと。このテンションの高さがどこまで続いているのかとても興味深い。(「湿地」アーナルデュル・インドリダソン、東京創元社)

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ホトガラ彦馬 井川香四郎 

副題は「写真探偵開化帳」。知らない著者の本だったが、本屋さんの新刊コーナーで見かけ、物語の設定と副題が面白そうだったので読んでみた。時代は江戸から明治に変わり、日本が西洋をお手本にして急速に変化を遂げた時代、ミステリー的にいえば、ようやく法律、法医学、警察組織が整備され始めた頃の物語だ。日本最初と言ってもよいくらいの写真家で、医学や化学にも通じた主人公が、それらの知識を使って、幕末に起きたある事件の真相にせまっていく。明治の元勲が数多く出演していて賑やかだ。物語は、「西郷隆盛だと確実に判っている写真はない」という良く知られた事実をうまく取り込んで、それを巡る謎と事件がスリリングに展開されていく。明治初期の混乱、特に新しい時代をそれぞれ目指しながらも策略に明け暮れる明治政府の政治家達の描写が面白い。また、全ての謎が主人公によってきれいに解明されるという感じではなく、終わりのないドタバタ劇を見ているような不思議な感じのままで終わるので、どうしても続編を期待してしまう。描かれた時代そのものの魅力だけで次が読みたくなるような1冊だ。(「ホトガラ彦馬」 井川香四郎、講談社文庫) 

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特等添乗員αの難事件Ⅱ 松岡圭祐

新しいシリーズの2作目。第1作目は、別シリーズの主人公が準主役のような形で登場する少し特殊な内容だったので、本シリーズがどのような内容なのかは、本書を読んでから判断すべきと考え、とりあえず読んでみた。主人公はストーリーのなかでその能力のすごさを随所に見せるのだが、まだ主人公自身は、自信を持ってその能力が自身の優れた点であることを100%納得できないでいる。色々な脇役がそうした主人公と関わっていくうちに、主人公は自分の能力に対して肯定的になっていく。本書はそうした成長物語だ。次回作あたりから主人公の本格的な活躍が始りそうな感じだ。(「特等添乗員αの難事件Ⅱ」 松岡圭祐、角川文庫)

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