今注目を集めている北欧ミステリーの1冊。アイスランドのレイキャビックのアパートの一室で1人の老人が殺される。人口30万人という小国アイスランドでは、国民全員がご近所さんという感じで、複雑な事件などはほとんど起きないらしい。そのため、この事件も当初は、老人が知り合いと喧嘩になってかっとなったその知人に殴られてしまったとか、物盗りに入って思いがけず住人と出来わした泥棒の仕業といった単純な事件と思われたが、主人公の捜査官は、小さな疑問を抱いて捜査を開始する。当初の単純と思われた事件の表層と、捜査の末に行きつく真相の重たさのギャップには唖然とするばかりだ。前半は、どこに向かっているのか判らないまま、テンポのよい描写が続くが、物語のちょうど半分くらいのところで、驚くべき事実が明らかになる。その事実によって、さらに方向が見えなくなるものの、当初思われていたような単純な事件ではないことがはっきりしてくる。世界一の福祉国家、厳しい自然、人口30万人の小国、こうしたアイスランドという国の特徴、アイスランド人の気質が全てミステリーの謎と事件の真相に繋がっていく物語は見事というしかない。本書はシリーズの4作目で、日本語初訳。5作目が近日発売でその5作目は本書よりも傑作との評判が高いらしい。本書よりも出来のよい作品とは一体どんなにすごい作品なのだろうかと思ってしまう。しかもこのシリーズはアイスランド語ではすでに15作まででているとのこと。このテンションの高さがどこまで続いているのかとても興味深い。(「湿地」アーナルデュル・インドリダソン、東京創元社)